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出会い

サンディに振り回されるパックたち。パックはサンディと共にボーラン市で意外な人物と出会うことに。

 結局サンディはパックにくっついて、ホルンたちが部屋をとったホテルまでついて来てしまった。

「はじめまして。あたしサンディっていいます。パックさんの話を聞いて、とても興味がわきました。お願いです! あたしもミリィの行方を探すお手伝いをさせてください!」

 一気にまくしたてるサンディに、ホルンは目をぱちくりさせた。

 こんな父さんは初めて見る……パックはなんだか可笑しかった。

「ええ、つまり、その……われわれと行動を共にする、と思って良いのかな?」

 ようやくそれだけ言うのがやっとらしい。

 サンディはうなずいた。

「ええ、その通りです。ご迷惑はおかけしませんから。あ、さっそくですがこのホテルにあたしも部屋をとりたいのですが、よろしかったら……これを」

 そう言うと、サンディは腰の物入れから革袋を取り出し、ホルンに手渡した。

「なんですかな? これは」

「現金の持ち合わせがないので、これを差し上げます」

 ホルンは革袋を開いて、中をのぞいた。

 たちまち顔が真赤に染まる。

 ため息をついて革袋をサンディに返した。

「いえ、これはあなたが持っていたほうが良い。部屋代のことなら心配なく。わたしが代わりに払っておくから……」

 サンディは革袋を受け取り、妙な顔になった。

「え、でもそれでは……」

「とにかく、それはあなたが持っていたほうが良い。それに、そうむやみやたらと人に見せるものではない。よろしいな?」

 最後にはホルンは厳しい顔になり、サンディは気おされたのか口をつぐんだ。

「さあ、それでは部屋のことはわたしが手配しますから」

 そう言ってホルンは立ち上がると、サンディの肩を押して部屋の外へ出てしまった。後に残されたパックたちは顔を見合わせた。

「どうしたのかな、父さん。なんだか慌てていたみたいだ」

「あの娘、サンディといったな。いったいどこで出会ったんじゃ?」

 ホルストがにやにやしながら問いかけた。

 パックはサンディの出会いの顛末を語った。

「妙な娘だな」

 話を聞き終わったニコラ博士はぽつりとつぶやいた。

 足音が近づき、ドアが開いてホルンが姿を現した。

 全員が注目すると、ホルンは額の汗をぬぐってしょっぱい笑顔を見せた。

「いや、まいった。冷や汗をかいたよ」

 やれやれとつぶやいて、ホルンは椅子に座り込んだ。

「ホルンさん。あの娘に部屋をとってやったのか?」

 ホルストが問いかけると、ホルンはうんとうなずいた。

「ああ、ここでへたに追い払うと、どこでどんな目にあうか、わかったもんじゃないからな」

 ニコラが口を開いた。

「またなんで、そんな親切をしてやる気になったのかね?」

 ホルンはため息をついた。

「あの娘はかなりの家柄の娘だ。おそらく貴族の出だろう」

 みな、疑問を顔に出したのだろう。ホルンは説明し始めた。

「あの娘がわたしに差し出した革袋の中身は、宝石だった。それも、きわめて高価なものであることは一目でわかった。あんなものを持つのは貴族しかいない。そしてそれを持ち出せるとういことは、彼女がそういった家柄の出であることは間違いない、と思う。そこでひとつ疑問がわく」

 ホルンは眉をひそめた。

「なぜそんな高価な宝石を持ち歩いているのか。そんなものを持ち歩いているより、現金を持っていたほうが便利じゃないか。あの娘の服装を見ると、そうとう裕福な暮らしをしていることがよくわかる。裕福であるが現金を持ち歩く習慣がない……しかし高価な宝石を持ち出せることのできる家柄となると、貴族しか思い当たらない。それもそうとう高位の貴族だ。すくなくとも伯爵以上の家柄だろう」

 ニコラが皮肉な口調で言った。

「それで親切にしてやる気になったのかね? 彼女の家がお礼をすることを期待して」

 それを聞いたホルンは肩をすくめた。

「馬鹿な! おれはあの娘がもしかしたら家出をしたのではないかと思っているのだよ。あの世間知らずの様子から、おそらくボーラン市をひとりで歩くのは今回が初めてなのかもしれない。あのまま目を離したら、どんな連中に捕まるか判ったものじゃない。だから、おれの目の届くところにおいておこうと思ったのだ。おそらく、家のものは彼女を必死で探しているだろう。その間、家族が見つかるまで、部屋をとってやったのだ」

 ニコラはうなずいた。

「判ったよ。あんたの考えが。おそらくあの娘はあんたの言うとおり、かなりの貴族の家柄の娘なんだろうな。しかし面倒なことになるぞ。そういう貴族の家というものは奇妙な論理をもつことがあるからな」

「まあな。しかし勝手な行動をさせておくより、ましだ。とにかくあの娘の正体を知らんことにはどうしようもない。そこでパック!」

 いきなり自分に話題をふられ、パックはびっくりした。

「な、なんだよ」

「お前、あの娘と行動をともにして、なんとか彼女の家を聞き出すんだ。もしおれの思ったとおり、家出をしたのならなかなか話さないとは思うが、とにかくどこの家の出か判らんとどうしようもない」

 おれに? と、パックは自分の鼻を指さした。ホルンが重々しく頷くのを見て、パックは天を仰いだ。

 

 新聞社にミリィを攫った空飛ぶ白球のことについて広告を頼んで数日たった。

 新聞に記事が掲載されるのはまださきのことというので、その間、パックはせっせと街へムカデでくりだし、人々に聞いて回ることにした。ロボットのマリアを乗せたパックのムカデは、いつでも街の注目を浴びていた。

 サンディもくっついてくる。

 彼女は街のあれこれが珍しく、なにか目にとまるとパックに尋ねる。

「ね、あれはなに?」

「あれって、なんだい」

「ほら、鉄の柱にくっついているガラスの……」

「街灯だよ」

「街灯ってなあに?」

「だから、夜になるとあれが光るんだ」

 そう説明してやると、サンディはああ、とうなずいた。

「あれがそうなの。夜になると街のなかでともって、とても綺麗だと思っていたの。そうか、街灯っていうのね」

「夜になるとって……家から見えたのかい」

「そうよ、窓から街が見渡せて……」

 サンディははっ、と口をつぐんだ。喋りすぎた、といった様子だ。

「ねえ、きみの家はどこにあるんだい?」

 そう尋ねたパックに、サンディは顔を真っ赤にさせそっぽを向いた。

 家のことについて話題を向けると、かならず彼女は話したくないという素振りを見せることにパックは気づいていた。

 まあいい、とパックはここは引くことにした。無理押しはよくない。

 こうして街に繰り出し、人々に聞いて回る日々が続くが、はかばかしい成果はあがってこなかった。

 人々はパックの運転するムカデに興味をしめすが、パックの質問にはみな一様に首をふった。

 だんだん、パックはこのボーラン市にいても、ミリィの行方について手がかりを得ることは無理なんじゃないかと思い始めてきた。

 やっぱり黙ってでも、ひとりで北の方向へ進んだほうが良いのかも。

 と、いきなりサンディが大声をあげた。

「ねえ、パック! あれ、あれを見て!」

 なんだと目をやると、壁になにかポスターが貼られている。それをサンディは夢中になって指さしている。

 ムカデを止め、よく見るとサーカス団の宣伝だ。

 

 ”近日中、キオのサーカス団来演”

 

 とある。

 サーカス団の名前なのか、おおきく「キオ」とあり、空中ブランコや、ライオンの火の輪くぐり、ピエロのおどけた仕草などの絵が、極彩色で描かれている。見ているだけで、わくわくしそうな絵柄である。

「ねっ、サーカス団よ! 見て見て!」

「わかってるよ、それが何か?」

 気のないパックの返事に、サンディは信じられないというように首をふった。

「あたし、一度で良いからサーカスを見たいと思っていたの。ね、サーカスが来たら一緒に見に行かない?」

 パックはあきれた。

 まったくこのサンディという女の子は天真爛漫というか、能天気というか……。

「そんな暇ないよ。おれはとにかくミリィの行方を知る方法がないか、それしか考えられないんだ」

「あら、サーカスにはいろんなお客がくるのよ。その人たちになにか知っているか聞いてみるのは無駄じゃないと思うんだけど」

 彼女の提案に、パックはあ! と思った。

 そうか……。

 パックはポスターを真剣に見つめていた。

 

 さてホテルに帰ろうとしたパックだったが、いきなり道路のまんなかに現れた蒸気車に行く手をふさがれ、あわててブレーキを踏んだ。

「なっ、なんだ?」

 行く手をふさぐのは、軍の蒸気車である。全体にグレーに塗られ、帝国の紋章が車体には描かれていた。

 形から見ると装甲車らしい。ごつごつとしたデザインで、いくつか車体から突き出している砲座が剣呑である。

 装甲車の天井の蓋がぱくりと開き、ひとりの士官が姿を現した。

「停まれ!」

「だからもう停まってるって。いったい何のようだ?」

 むかっ腹がたっているパックは怒鳴り返した。

 士官の顔に「おや?」という表情が浮かぶ。このように反論されるとは思っていなかった様子である。年令は二十代半ばの、若い兵士だ。階級は中尉であった。髭剃りあとがくっきりと残っている。やや細面の、両目がひどく狭まっている顔をしている。

 中尉はじろりとパックのムカデを睨んだ。

「最近、そのムカデのような乗り物に乗っている子供がいるという噂だったが、お前のことか? 名前は? 年は? そしてどこから来た?」

 矢継ぎ早の質問にパックはますます腹を立てた。

「なんでえ、いきなり。そんな尋ね方じゃ話したくないね!」

「なに……」

 中尉の顔が怒りで赤く染まった。

 と、隣に座っていたマリアが身動きをした。

 いけねえ、とパックは反射的にマリアの腕を押さえた。

「おい、やめろ! いいから、ここはおれに任せろ」

「でも、あの人間はあなたに危害を加えようとしています」

 マリアは中尉が腰にぶらさげている拳銃のバックルに手をかけているのを見逃さなかった。

 パックは息を吸い込み、中尉に話しかけた。

「いったい、どうしておれにそんなこと聞きたいんだ。中尉さん」

 中尉は答えた。

「帝国の首都で、そんな奇妙な乗り物を乗り回しているのだ。われわれが興味を持つのも当たり前のことだろう。いったい、お前の目的はなんだ。答えないと、反逆者として逮捕するぞ」

 反逆者! パックは驚いた。

「冗談じゃない。おれはただ、町の人に北の空に飛んで行った白球のことについて何か知らないか、聞いて回っているだけだよ」

「なんのために?」

 パックはふたたびロロ村で起きたことを説明するはめになった。

 なんども説明しているので、すらすらと述べることが出来る。

 説明を聞く中尉の眉間に怒りの皺がきざまれた。

「魔法? そして魔王だと? 法螺話もいい加減にしないか。そんな作り話で、われわれをごまかせると思ったら間違いだぞ!」

「本当のことだって! このマリアを見ろ! ロボットだぞ。マリアは、魔法のちからで人間のように考え、動くことが出来るんだ!」

 中尉は目を細め、マリアを見た。

「ロボットだと? ふん、おおかたその中に人間が入っているんだろう。われらの目はごまかせんぞ!」

「違う! マリアはニコラ博士の発明なんだ!」

 その言葉が終わらないうち、装甲車のなかから声がした。

「ニコラ博士だと?」

 そして中尉の後ろから、もうひとりの人間が姿を現した。

 その人間を見て、パックは叫んだ。

「ニコラ博士!」

「違う。わたしはニコラ博士の弟、テスラ博士だ!」

 ニコラ博士そっくりの老人はこたえた。

ニコラ博士の弟テスラ博士の登場です!次回、テスラ博士がどうかかわるか、お楽しみに!

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