78話「説得」
三日ほどレンシアの街に滞在したエルク達は、お土産を沢山馬車に積んで村へと帰って行った。
移動時間もあるため、あまり長くは居られないのだ。
それでもフィーとニーナが喜ぶ姿が見れたので価値はあっただろう。
ちなみにデックはエルクと再会した後すぐにセイランの街へと発ったらしい。
流石に家を壊されると聞いて悠長な事は言ってられなかったようだ。
俺はというと、エルク達を見送った後、当初の予定通り猫耳自警団の本部へと足を運んできている。
「中ボス、この一年間はどんな感じ?」
「そうですね・・・・・・大きな問題は無かったものの、少々の赤字が出ています。やはり冬に稼ぎが減ったのが一番の原因かと。」
冬は冒険者組の稼ぎも見込めないからな・・・・・・その辺りは仕方ないか。
ざっと収支報告書を眺めると、ある項目が目に留まった。
「治療費が随分かかってる気がするけど・・・・・・冒険者組がそんなに怪我してるの?」
稼ぐ以上に治療費で使っているなら大問題だ。
鍛え直してやる必要がある。
「そちらはさほど問題ではないのですが、見回り組の方が・・・・・・。」
「余所との小競り合いが原因って訳ね。」
要は他の組との喧嘩である。
抗争というほどの規模ではないが、地味に家計に響いているようだ。
「はい、特にラムス組との問題が絶えません。」
「確か・・・・・・お隣さんだっけ?」
「そうです。隙を見てはこちらに仕掛けてきていますね。」
猫耳自警団と縄張りが隣接しているラムス組。
こちらよりも規模は少し大きい。
全面抗争ということになれば負けるだろうが、相手側もかなりの痛手を負う位の力関係である。
もちろん俺抜きでの話だ。
新しく組織が変わった事は既に知れているだろうから、戦力を削りつつ様子見と言ったあたりか。
「仕方ないな・・・・・・説得しに行こうか。」
「説得・・・・・・ですか?」
「うん、そうだな・・・・・・中ボスだけ付いて来て。」
「し、しかし私だけでは護衛としては・・・・・・。」
「いや、そもそも束になっても私に敵わないのに護衛なんて意味ないでしょ。ゾロゾロ連れて行っても面倒見切れないし、相手に警戒されるしね。」
「それはそうなのですが・・・・・・。」
「大丈夫だよ。今日は”説得”しに行くだけなんだから。」
*****
猫耳自警団の領域を越えてラムス組への縄張りへ足を踏み入れると、いくらもしない内に取り囲まれた。
なかなか世紀末ファッションの似合う方々だ。
ファンキーな髪の色にトゲトゲ肩パッドの似合う男が中ボスに近寄って話しかける。
「よぉ、ゲイルさん。ここはウチの縄張りだって分かってんだよな?」
元頭だけあって顔と名前は知られているようだ。
つーか、そんな名前だったのか・・・・・・。
「その名は捨て、今は中ボスと名乗っております。ラムス殿にお目通り願えますか?」
あれ・・・・・・捨てた?いつの間にそんなことになってたの?
俺は役職名を付けただけなんですけど。
まぁ、今更だし・・・・・・あまり気にしないようにしよう。
「ハァ!?会うワケねぇだろうが!構わねぇ、やっちまうぞ!」
周囲の男達がそれぞれ得物を取り出して構える。
「良いのですか?」
「アァ!?何がだコラ!!」
「ラムス殿が”丸腰で会いに来た客人にも会えない臆病者”という事になってしまいますが?」
そう、俺と中ボスは丸腰なのである。
あまり相手を刺激しないようにと、武器は置いてきたのだ。
そもそも必要になれば地面から作れば良いだけだし、土の無い場所でも、お腰に付けた泥団子があるので問題ない。
こんななりをしているし、目を付けられた所で何とでも誤魔化しが効くのだ。
男は中ボスが武器を持っていないのを目で確認すると、舌打ちして武器を納めた。
「チッ・・・・・・誰か親分のところまで走って来い。他の奴らは手出すんじゃねえぞ。」
*****
世紀末ファッション達に囲まれながら連行された先は中々大きなお屋敷だった。
あちこちにガタは来ているが、造りはしっかりとしている。
元は貴族が使っていた物なのかもしれない。
通された一室に入ると、成金全開のおじさんが出迎えてくれた。
豪華なガウンを羽織っているが、この時期にそれは暑いだろう。
だが、その下にある身体は鍛えられているようで、ガッシリとしている。
年齢は中ボスよりも二周りほど離れていそうだ。
「ラムス殿、お久しぶりです。」
「おやおや、ゲイル坊やじゃないか。いや・・・・・・今は猫耳自警団の中ボス君だったかな?折角親父さんに付けて貰った名前を捨てるなんて、随分親不孝者になったねぇ・・・・・・ククク。」
「組を潰してしまった私に、その名を名乗る資格はありませんので。」
コイツ、そんな悲壮な決意を・・・・・・別にそんなの気にしなくていいと思うんだけど。
まぁ、好きにさせとこう。
「それで、忙しい私に時間を割かせて、一体何の用だね?」
「それは――」
中ボスがこちらに目線を送る。
そろそろ俺の出番か。
「何だ、その子供は?私への貢物のつもりか?」
「いえ、こちらが猫耳自警団の団長、アリューシャ様です。」
「・・・・・・ブワハハハハハ!!随分と冗談が上手くなったじゃないか、ゲイル坊や!!」
ラムスが腹を抱えながらバンバンと机を叩く。
「クックック・・・・・・芸人としてならその子供と一緒にウチで雇ってやらん事もないぞ?」
「いえ、遠慮しておきます。私は冗談が苦手ですので。・・・・・・お乗りください、団長。」
中ボスが膝を付けて床に伏す。
事あるごとに俺の台になろうとするのは勘弁して欲しいところだが、この場では手っ取り早いか。
中ボスの背に立ち、それでも届かないラムスの目を見上げる。
「さて、それじゃあ頭同士のお話といきましょうか、おじさん。」
「・・・・・・お前のようなお嬢ちゃんが何の用だ?団長さんよぉ。」
「ウチにちょっかい掛けるの止めて欲しいんですけど。」
「あぁ・・・・・・?俺のとこに降りてぇって事か?」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・・組をブッ潰して欲しくなかったらブンブン集るな蝿共、って意味です。」
「中々口が達者じゃねぇか、さっさと閉じねぇと痛い目見るぞ?」
「丁度広い庭もありますし、そこで見せて下さい、痛い目。」
「テメェら!!片っ端から召集かけてこい!!!」
扉の外から慌てた返事が聞こえ、ドタドタと駆けて行ったのを確認し、足元に声をかける。
「じゃ、私達も外に出ようか。」
*****
60人くらいは集まったか。
それでもまだ後から息を切らしつつ到着し、俺達を囲む人数が増えていく。
「おじさーん、まだかかりそう?」
イライラと痺れを切らしたラムスが叫ぶ。
「テメェら!ガキには傷を付けるな!大事な商品だからなぁ!!」
やっと始まるらしい。
地面からトンファーを作り出し、中ボスに手渡す。
「邪魔にならないところでコレの素振りでもしてて。」
「はい、お言葉に甘えさせていただきます。」
「かかれぇ!!!!」
男達が叫び、得物を振り回しながら突撃してくる。
だが所詮は雑魚の集まり。
触手で薙ぎ払うだけで次々と吹き飛んで行く。
もしKOカウンタがあれば、気持ち良いくらいに回っていたことだろう。
あっという間にラムス以外に動ける者が居なくなった。
「おじさんのとこ、こんなもんなの?」
「な、な・・・・・・何なんだ貴様は!?何者なんだ!?」
「おーい、中ボスー。」
俺の声に中ボスが素振りをしながら答える。
「はっ!我らが猫耳自警団長にして超絶可愛い美少女のアリューシャ様であります!」
「・・・・・・ということだから。それじゃあ、そろそろおじさんにも痛い目見せて欲しいな。」
「ち、近寄るな!!」
「近寄らないよ。」
ラムスを触手で縛り上げ、顔面に一発入れる。
「ガフ・・・・・・ッ!!」
ついでに治癒魔法の練習もしとくか。




