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71話「釣りキチ」

 リゾー島北方面。

 魚料理屋に釣具屋が多く立ち並び、南側よりも海の匂いが濃い。

 大きな温泉宿は少ないが、釣人のための民宿は点在しているようだ。

 土産物屋には魚の干物などの海産物が多く並べられている。


「南の方とは随分雰囲気が違うわね。」

「漁師の町って感じだね。これからどうしようか?早速釣りに行ってみる?」


「そうだな、折角ここまで来たのだ、それでいいんじゃないか。」


 他の皆からも反対意見は無い。


「じゃあ、まずは海の近くで釣竿を貸し出してる店を探そうか。」

「この辺にもあるけど、ダメなの?」


「海に近い方が持ち運び楽だしね。」

「おお!それもそっか!」


 磯の香りが漂う町を海へ向かって降りていく。

 南側では多かった貴族や学生の数は少ない。

 観光地と言うには華やかさが少々足りないので仕方が無いだろう。


 波の音が耳に届くまで降りて来た辺りで、店を探し始める。

 何軒かの店を回っている内に、フィーよりも少し背が低い少女が店番をしている店にぶち当たった。


「いらっしゃいませ、お姉さん達。」

「えっと・・・・・・ここには貴女しか居ないのかしら?」


「はい、お父さんは海の方に出ているので。」

「そう、あの・・・・・・釣竿の貸し出しをしているお店を見て回っているのだけれど。」


「ありますよー。入り口に立て掛けている物ならどれでも結構です。」


 入り口の近くには黒い釣竿がズラリと並んでいる。

 他の店で見掛けた竹や木に糸を括りつけただけの物ではなく、伸縮式や組立式の所謂ロッドと呼ばれるような代物だ。


「根元に何か付いているようだが・・・・・・何だ?」

「それを回すと糸を巻き取れるようになっているんですよ。」


「ほう、随分変わった釣竿なのだな。」

「どうですか、使ってみませんか?」


「ふむ、どうする?」


 こちらを向いたヒノカの瞳は見た事無い釣竿に興味津々といった感じだ。

 ヒノカの意を汲んでか、小さく笑うリーフ。


「ふふ、そうね・・・・・・普通の竿を使うよりは楽しいかもしれないわね。」


 それに今回は海釣り。遠くまでキャスト出来た方が良いだろう。


「分かったよ、それじゃあ・・・・・・五本でいいかな。」

「七本じゃないのか?」


「私はフラムとサーニャで交代で使うよ。お姉ちゃんは・・・・・・ニーナをお願い。」

「うん、わかった。」


「まいどー。それじゃあ好きなのを選んで持って来てくださいね。仕掛け付けちゃうんで。」


 餌付きでレンタル料が銅貨10枚。他の店でも大体8~10枚ほどだった。

 そこまで高くは無いが、五人分だと流石に大きい出費となる。


「しばらくしたら知り合いの船が出せるんですけど、そちらもどうですか?沖釣りも楽しめますよ。」


 値段はレンタルとの併用で割り引かれて銅貨5枚。

 漁船ではなく、観光客や釣人を乗せるための船のようだ。

 ヒノカ達と顔を見合わせ、頷き合う。


「それじゃあ、全員分お願いします。」

「まいどー。貸し切りにするようお願いしときますね。時間になったらまたここに来て下さいな。」


 店を出た俺達は早速借りた竿を担ぎ、釣り場となっている桟橋へ足を運んだ。

 人の少ない一画に荷を広げ、各々準備に取り掛かる。


 俺は魔手を使い、針にウネウネと蠢く虫を取り付けた。

 こういう手先が汚れたりするような作業は魔手を使うのが便利なのだ。

 自分の手が汚れる事は無いし、魔手なら破棄して作り直せばすぐに綺麗な状態で作業を再開出来る。

 まぁ、細かい作業をさせるために随分練習が必要だったが。

 だが今ではコントローラーから手を離す事無くポテチを食べる事も可能だ、多分。


「よ・・・・・・っと。」


 ポチャン、と音を立てて仕掛けが着水する。

 あとは掛かるのを待つだけだ。


「あれ、皆釣らないの?」

「いや、この竿・・・・・・どう使えば良いんだ?」


*****


 ピクリ、と浮きが反応し、沈み込んだ瞬間竿を一気に引いた。

 グイと竿がしなり、針が掛かった事を手応えで報せてくれる。

 リールで糸を巻き取っていくと、水面に徐々にその姿を現してくる。

 十分引きつけた所を魔手で掴まえ、引き上げた。

 本日一匹目の成果である。


 バケツの中でゆらゆらと漂う一匹を眺めるサーニャに竿を差し出す。


「次、サーニャやってみなよ。使い方はさっき教えた通りだから。」

「任せろにゃー!」


 竿を受け取ったサーニャは意気揚々と針を投げ、遠くから水音が響いた。


「あー・・・・・・、まだ餌付けてないから巻いて。」

「にゃ?」


 ともあれ、無事に獲物を引き上げたサーニャに代わり、今度はフラムの番だ。

 竿を手渡し、針先に餌を取り付ける。


「準備出来たよ、投げてみて。」

「っ・・・・・・えぃ!」


 タイミングが遅れたため、ボチャンと音を立てて針が真下へと落ちた。


「ぁぅ・・・・・・ご、ごめん、なさい。」

「大丈夫、一度巻き上げてやり直せばいいから。今度はもうちょっと早く糸を放そうか。」


「ぅ、うん・・・・・・。」


 何度か針を投げ直し、餌を持って行かれたりもしたが、漸くフラムも一匹釣り上げた。

 頑張ったおかげか、中々のサイズである。


「う~、あちしのが小さいにゃ。もう一回やるにゃ!」

「分かったよ、次はサーニャね。私は皆の様子を見てくるから、サーニャをお願いね、フラム。」


「ぅ、うん。が、頑張ろうね、サーニャ。」


*****


「ヒノカ、リーフ。そっちはどう?」

「私の方はまぁまぁだけれど・・・・・・ヒノカの方は凄い事になってるわ。」


 言われて二人のバケツを覗き込んでみる。

 リーフが三匹、ヒノカが・・・・・・。


「八匹!?凄いね・・・・・・。」

「そうか?大体いつもこんな感じだったぞ。」


「いつもって・・・・・・どんな釣り方してるの?」

「普通に釣っているだけだが・・・・・・、見ていろ。」


 ヒノカが竿を振ると、風切り音と共に仕掛けが飛んでいき、着水した。

 やがて、ゆらゆらと揺れていた浮きがピクリと反応し、その瞬間ヒノカが一気に竿を引く。

 竿がしなり、魚が暴れ出す。

 それを物ともせずリールを巻いていき、掛かった魚を引き上げた。

 ヒノカは慣れた手で魚の針を外し、桶の中に放り込む。


「今・・・・・・魚はまだ食い付いてなかったよね?」


 そう、先程の魚に針が掛かっていた場所は背だった。


「あぁ、その方が早いからな。」


 ヒノカの釣り方は簡単だ。

 餌に群がって来た魚に針を引っ掛ける、要は夜店なんかで見掛けるひっかけ釣りの要領である。

 まぁ、出来るかどうかは別として。


「早いのはそうだけど・・・・・・何で分かるの?」

「何故と言われてもな・・・・・・、釣るのが遅いと師匠が五月蠅かったからな。早く釣る為に自然とこうなった。」


 兎も角、これで気負って釣る必要も無さそうだ。

 このペースで釣ってくれれば、食いしん坊達も満足出来る事だろう。

 更に釣果を上げたヒノカ達の元を離れ、フィーとニーナの所へ足を向ける。


「お姉ちゃん、ニーナ、調子は・・・・・・聞くまでも無さそうだね。」


 フィーが一匹、ニーナがゼロである。

 ニーナの傍で一匹でも釣れるとは大したものだ。


「もーっ、つまんないよー。餌取られてばっかだしさー。」


 手持無沙汰のニーナが竿を動かし、浮きがチャプチャプと音を立てる。

 集まっていた魚の影が散って行くのが遠目に見えた。


「アリスはどう?」

「私の所は皆一匹ずつ、ヒノカとリーフの所は大漁だったから、ご飯の方は任せておけば大丈夫だよ。」


「ほっ、よかった。」


 胸を撫で下ろすフィー。

 フィーの目的は釣りを楽しむ事ではなく、食べる事である。

 大漁と聞いたので安心したのだろう。

 船の時間まで、もう少しだけニーナの相手を頑張って貰うとしよう。


*****


 船の時間が近づいていたため、俺達は竿を借りた釣具店へと戻って来ていた。

 釣果は三十と少し。種類も大小も様々。

 半分以上がヒノカによるものだが。


「わぁ、あの時間で随分釣れましたね。こちらはうちで預かっておきますから、お姉さん達は船の方に急いで下さい。」


 すぐさま代わりのバケツを渡され、港に着けられた船の元へと案内された。

 船は真っ白に輝くクルーザー。金持ちが持っていそうな奴だ。

 お世辞でも綺麗とは呼べない漁船が並ぶ中で異彩を放っている。

 先頭を歩いていた釣具屋の少女がクルーザーに向かって叫んだ。


「船長ちゃん、お客さん連れて来たよ!」


 その声に応じて操舵室から現れたのは、釣具屋の子より少し背が低いセイラー服を纏った少女だ。

 クルーザーからぴょんと飛び降りて俺達の前に立ち、ペコリと頭を下げた。


「どうも、お客さん方。アタイの船はいつでも出せるよ、ぐやちゃん。」


 ”つりぐや”だから”ぐやちゃん”か。

 リーフが不安そうな声で船長ちゃんに話しかける。


「あの・・・・・・貴女が船を動かすのかしら?」

「父ちゃんが海でおっ死んじまってね。今はアタイがやってるんだ。」


「そ、そうなの・・・・・・ご、ごめんなさい。」

「まぁ自分で言うのもアレだけど、船を動かすのは慣れてっからさ。そこは安心して任せてよ。さぁ、乗った乗った!」


 船長ちゃんに急かされるように船に乗り込んでいく。

 最後に俺が乗り込もうと足を掛けた時に、ぐやちゃんが話しかけてきた。


「料理屋の方も手配しておきましょうか?今預かっている分も戻った時にすぐ食べられるように出来ますよ。」


 戻ってその足で料理屋を探すのも面倒だ。

 それに、すぐ食べられるなら雛鳥達のさえずりを聞かなくても済む。


「それじゃあ、そっちもお願いします。」

「承りました。腕の方も確かなので期待してて下さいね。」


 今度こそ船に乗り込むと、港からスーッと船が離れていく。

 ぐやちゃんが小さく手を振りながら船を見送ってくれていた。

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