65話「魔神」
闘技場に悠然と降り立った鋼のゴーレム。
満員の観客席から魔物達の声援を受け誇らしげに輝く鋼鉄の剛腕は、まるで全てを粉砕する象徴。
ヤツこそが20階層のボスという訳だ。
実況のインプがパタパタと浮きながらマイクに向かって叫ぶ。
<さぁ、遂に現れました我らが魔神ゴーレム・マジンゴー!聳える鉄の城に、少女達は為す術があるのか!?>
ゴーレムの胸部にはぽっかりと穴が空いており、剥き出しのコックピットとなっているようだ。
そこには赤いマフラーを巻いたゴブリンが納まり、操縦桿を握っている。狙ってくれと言わんばかりに。
的はそこそこ大きいので、針に糸を通す様な狙撃でなくとも射抜く事は可能だろう。
昔のアニメに出てくるロボットの様な外装のゴーレムを見上げる俺に、ラビが慌てた様子で耳打ちしてくる。
「ど、どうするの!?この間のオーガよりおっきいよ!?」
確かにデカイ。全長10メートルはありそうだ。
他の仲間達の視線も「何か策はあるのか?」と言いたげである。
「んー、とりあえずリーフは魔法でゴブリンを狙って。あとは―――」
順番に作戦を伝えていく。
とは言っても、「近接の前衛を魔法でサポート」という大体いつもと変わらない作戦だ。
「本当に大丈夫なのか?」
「始めて戦う相手だから絶対とは言えないけど・・・・・・多分。」
「なら、十分だ。」
話が纏まった俺達に、マジンゴーのコックピットからゴブリンが吼える。
「オイ、嬢チャン達!降参スルナラ今ノ内ダゼ!」
「そっちこそ、大事な玩具が壊される前に降参しなよ!」
それを合図に各々が武器を抜き、構える。
「それじゃ、キシドーとメイはラビの事をお願いね。」
「が、がんばってね!」
後ろに下がったラビ達を見届け、鋼鉄のゴーレムに視線を戻す。
<両者の気合いは十分!勝利を手にするのはどちらか!?レディー・・・・・・ファイト!!>
ゴングと同時にリーフが魔法を唱え、コックピットのゴブリンを狙って氷の矢を飛ばした。
狙いはバッチリ、吸い込まれる様に複数の氷の矢がゴブリンへ向かって行く―――だが。
闘技場内に氷の矢が砕かれた音が響く。
ゴブリンへと到達する前にマジンゴーの手によって悉く握り潰されてしまったのだ。
俊敏な動きも可能らしい。
「ヘヘッ!オ見通シナンダヨ!!」
どうやら、簡単には弱点に攻撃させて貰えないようだ。
上手く相手の攻撃を掻い潜り、パイロットを仕留める必要があるのだろう。
―――通常なら。
しかし、俺達の狙いは逆である。
いくらもしない内にグラリ、とマジンゴーが傾き始めた。
「ナ、何ダ!?」
ゴブリンが慌てて操縦桿を操作し立て直そうとするが、その勢いは止まらない。
盛大な音と砂埃を上げ、マジンゴーは肘を着くように地に伏した。
「ク、クソッ!何ガ起コッタ!?立テッ!立テッ!!」
もがきながらも懸命に立ち上がろうとするが、上手く立つ事が出来ない。
それもその筈、マジンゴーの左足が脛の辺りから下がすっかり無くなってしまっているのだから。
左足だったモノは鉱石アイテムとなって地面に散乱している。
「にゃははは!凄いにゃ!ホントに掘れるにゃ!」
サーニャが合成屋で作ったナイフをカツンと突き立てると、ゴトリとその部分が削れ落ちた。
ヒノカ、フィー、ニーナの三人もナイフを振るって倒れたマジンゴーの身体を削り取っていく。
要はコックピットを狙った魔法は全て囮で、こちらが本命。
パイロットが攻撃に気を取られている間に足元へ移動し、鶴嘴の能力を受け継いだナイフで削り取ったのだ。
まぁ、魔法でそのまま倒せるのならそれでも良かったのだが。
「ヤメロォ!捻リ潰シテヤル!!」
マジンゴーの腕がサーニャを掴みに掛かろうと動き―――その腕は地響きを鳴らして地面に転がった。
フィーがマジンゴーの二の腕を削って切断したのだ。
解体されていくマジンゴーの哀れな姿に、観客席の歓声は悲鳴へと塗り変わっていく。
随分と人気があるようだが、これじゃあ俺達が悪役のようだ。
<なんと・・・・・・なんということでしょう!我らがマジンゴーが・・・・・・無残にも手足をもがれた姿へと変わり果ててしまいました!!>
こうなっては文字通り手も足も出せない。
観客席が阿鼻叫喚で混乱したまま、マジンゴーは跡形も無く掘り尽くされた。
残ったのはかつて英雄だったモノの欠片と、赤いマフラーを巻いたゴブリンのみ。
「オ、オレノ・・・・・・マジンゴーガ・・・・・・!!」
ゴブリンは地面に転がる欠片をかき集め、ボロボロと咽び泣いた。
観客席も静まりかえり、嗚咽と涙を啜る音が響く。
ヒノカがゴブリンへと近づき、その背に声を掛けた。
「それで、まだ続けるのか?」
「ウ・・・・・・ウワァァァァッ!!!」
ゴブリンがかき集めていた欠片の一つを拾い上げ、ヒノカに向かって投擲する。
ヒノカはそれをひょいと躱しつつ間合いを詰め、刀を一閃。
ゴブリンの頭はコロリと地に落ち、転がっていた欠片と混ざった。
パイロットは普通のゴブリンだったようだ。
間もなく命を失ったゴブリンの身体は崩れて消え去り、帰還の鍵と小さな宝石のついたペンダント、賞状の入った筒をドロップした。
「おい、終わったぞ。」
ヒノカに声を掛けられ、ハッと我を取り戻したインプが終了のゴングを鳴らす。
<バトル終了―――!!勝利の笑みを手にしたのは少女達です!我らがマジンゴーとゴブリンジョーは還らぬ英雄となってしまいました!!一体、誰が、こんな事を予想できたでしょうか!?少女達の勝利と英雄達への追悼の拍手を皆さんお願いします!>
インプの声が虚しく闘技場に響き、パラパラと拍手が起こる中、閉じられていた闘技場の柵が上がる。
<それでは勝者の方々、奥へとお進み下さい。>
「いえ、お構いなく。」
奥へと案内しようとしたインプに断りを入れ、キシドーに荷車を持ってきてもらう。
「どうしたのだ?」
「折角掘ったんだし、ね?」
ゴロゴロと転がるマジンゴーの欠片を指差す。
これらも一応戦利品というわけだ。
「ふむ・・・・・・かなりの量があるが、持って帰ってどうするんだ?」
「いや、持って帰るんじゃなくて―――」
闘技場の入り口―――俺達が入場した側に視線を向けた。
出口側が開いたのと同時に、こちらも開いている。
「全部鍛冶屋でナイフにしてから合成するんだよ。」
*****
それからが大変だった。
闘技場で荷車一杯に欠片を積み、鍛冶屋の前に下ろす。
そこから鍛冶屋に持って入って依頼。
二班に分けて行ったが、気の遠くなる様な作業だった。
鍛冶が終われば出来上がったナイフを全て荷車に積み、合成屋へ移動。
そこから合成作業開始である。
「あと一本入りそう・・・・・・よし!」
材料側の筒にナイフをぎゅうぎゅうに詰め、合成。
それを何度か繰り返した。
セイントナイフ+238。攻撃20(+238)。【聖属性】【掘削】。
最高で+99だと勝手に思っていたのだが、この分だとまだまだ伸びそうだ。
ここまでくると元の攻撃力が3だろうが20だろうが大差なく思えてくる。
相変わらず強化値に意味があるのかは不明だが、何かあるのならここまで上げれば違いを感じられるだろう。
まぁ、それを確認出来るのは次回以降になるが。
ちなみに、見た目には何も変化はない。
何か凄そうなオーラを纏ったりしなかったのが少し残念だ。
作業を終えた俺達は、折角こちらに戻ったのだからと食事を取り、もう一泊だけしてから街へと帰還したのだった。




