47話「鬼教官」
翌朝、本部近くの広場へ皆を連れて赴く。
本部というのは元アジトの事だ。
自警団なのに、いつまでもアジトと呼ぶのはあれだしな。
【猫耳自警団本部】が正式名称である。
複数個所にある小さいアジトは詰所と呼び名を変えた。
巡回に出た団員達が休憩を取ったりする場所だ。
到着した広場では、まだ朝の食事を配っている。
団員達に挨拶を返しながら広場を進み、中ボスの姿を見つけた。
中ボスもこちらに気付き、駆け寄ってくる。
「団長、おはようございます。・・・・・・そちらのお嬢様方は?」
「あぁ、紹介する。俺のパーティの―――」
一人ずつ紹介を行う。
「ヒノカ様、リーフ様、フラムベーゼ様、フィーティア様、ニーノリア様、サーニャ様ですね。私は猫耳自警団の主に事務方を担当させて頂く事になりました。中ボスと申します。以後、お見知り置きを、お嬢様方。」
一発で覚えるとは流石だな、中ボス。
中ボスにしておくのが勿体無い気がしてきた。
四天王くらいに格上げしても良いかもしれない。
対してハゲは―――
「こんなお嬢さんがアイツらの稽古なんて―――イデデデデデデッ!!!!」
触手でハゲの腕を捻り上げる。
「まだ見た目で判断してるのか?ハゲは。」
「す、すいやせんでした、姐さん!イデデデデッ!!!」
中ボスが、やれやれとハゲを挑発するように嗤う。
「学習能力が足りませんね、【ハゲ魔人隊長殿】?」
「お、お前がその名で呼ぶんじゃねえ!」
【ハゲ魔人隊長殿】は下っ端団員達が呼ぶ時の役職名である。
流石に部下達にハゲ呼ばわりだと締まらないからな。
【ハゲ魔人様】か【ハゲ隊長】どちらが良いか部下達に尋ねたところ、
激論が交わされた末に何故か融合され、【ハゲ魔人隊長殿】案が浮上したので、それで決定とした。
本人が気に入っているようでなによりだ。
まぁ、長いからその内元に戻るだろうけど。
ちなみに中ボスは普通に中ボス様と呼ばれている。
*****
朝の食事が終わり、片付いた広場にハゲの声が響く。
「よし、てめぇら!並べ!」
その号令で選抜者10人がズラリと並んだ。
「こちらのお三方がテメェらを鍛え上げて下さる先生方だ!失礼の無いようにな!」
「「「へい!!」」」
ふんぞり返っているハゲを、後ろから部下達の方へ蹴飛ばす。
「いでぇ!!な、何するんですか、姐さん!!」
「お前も一緒に鍛えて貰え。」
「アッシも・・・・・・、ですかい?」
「部下だけ冒険者になったところを想像してみろ。」
「・・・・・・が、頑張りやす。」
体力仕事の方面はハゲに任せるつもりなので、少しは実力を付けて貰わないと。
事務やらのややこしい方面は言わずもがな。
ハゲが部下達に混じって並んだのを確認し、檄を飛ばす。
「よし、お前ら!五日後に冒険者になれたら俺から銀貨1枚くれてやる!死ぬ気でやれ!」
部下達のテンションが一気に沸き立った。
これで少しでもやる気が出たなら安いものだ。
講師のお三方へ向き直る。
「じゃあ三人とも、お願いするよ。」
ヒノカとフィーの二人には既に殺る気オーラが満ち溢れていた。
「あぁ、任せておけ。死なない程度に戦ってやれば良いのだろう?」
「うん、だいじょうぶ・・・・・・死なせない。」
控えメンバーの選出を急いだ方が良いかもしれない。
残る一人の講師・・・・・・いつも元気なニーナだが、二人の気迫に気圧されているようだ。
「ボ・・・・・・、ボクは普通にやろうかな。」
「うん、ニーナの思う通りにやってよ。私達に教えてくれたみたいに。」
「りょーかい!」
まぁ、こちらはニーナに任せておけば大丈夫だろう。
確かに、三人の中での実戦能力は一番下だ。
ヒノカには体格の差で、フィーには魔力の差で負けてしまう。
だが、剣に触れていた時間は俺やフィーよりもずっと長いのだ。
ひょっとすると、ヒノカよりも。
体格差や魔力差を克服する術を身に付ける事ができれば、今後どうなるかは分からない。
それに、途中からルーナさんに代わってしまったが、ニーナは一番最初の師匠なのだ。
教え方が上手いのは身を持って体験している。
ニーナが基礎を鍛え、ヒノカとフィーに叩き上げて貰う形が理想だろう。
ふと見ると、フラムが怯えている様子。目の端には薄らと雫が溜まっている。
「どうしたの、フラム?」
「ぁ、アリスが・・・・・・怖いよ。」
どうやら、スラングを使っていた事で怖がらせてしまったようだ。
貴族であるフラムには少し刺激が強かったのかもしれない。
「あー・・・・・・そっか、怖がらせてごめんね、フラム。彼らはああいう言葉しか通じないんだよ。」
フラムの頭を撫でていると中ボスが口を開く。
「団長、伝え忘れておりましたが・・・・・・。彼らは通常の言葉も理解する事ができます。」
「あ、そうなの?」
「はい、ですので普通に会話して頂いて問題ありません。」
俺達の会話を聞いていた団員達がボソボソと囁く。
(ひでぇ・・・・・・。)
(俺ら、もはやヒトとして扱われてねえぞ・・・・・・。)
(中ボスの野郎ぉ・・・・・・!)
・・・・・・聴こえてるぞ。
「悔しいなら、まずは妹の方のリコに読み書きを教わる事をお勧めしますよ。ハゲ魔人隊長殿。」
昨日松葉杖をあげた少女の妹の事だ。
姉の方はリタ。
「な、何だとてめぇーーー!!」
顔を真赤にして怒り出すハゲに対し、中ボスは冷静に挑発を続ける。
「ちなみに貴方に生えていた髪の毛は5本ではなく、4本です。計算・・・・・・いえ、まずは数字から覚えた方が良いでしょうね。」
「うがぁぁぁぁーーーっ!!」
暴れ出しそうになったハゲを押さえる部下たち。
「ハゲ魔人隊長殿、落ち着いてください!」
「ハゲ魔人隊長殿、抑えて!」
収まりそうもないのでハゲの首を触手でキュッと締め、スラングを使わずに優しく諭してやる。
「ぐぉぇっ!!」
「すぐ挑発に乗っちゃダメだよ。」
だが、ハゲは怯えた様子。
「ひぃっ・・・・・・!す、すいやせん・・・・・・姐さん!」
(な、なんだ・・・・・・団長、いつもより怖ぇぞ。)(あ、あぁ・・・・・・すげぇ迫力だ。)(ひっ!こっち見たぞ!)
・・・・・・普通に喋っただけなんだが。とりあえずしばいておいた。
中ボスが深々と頭を下げる。
「申し訳ありませんでした、団長。彼らにはまだ人語は早かったようです。」
後の事は三人に任せて残りのメンバーと中ボスを連れ、リタに教鞭を取らせている教室へ足を向けた。




