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35話「銀毛の魔物」

 朝食や野営の後片付けを終えて出発の直前。


「分かっていると思うけど、今日いっぱいは北へ行く手筈よ。」


 リーフの言葉に皆が頷く。


「明日で折り返しだったな。」

「えぇ、出来れば明日一日で広場に戻るつもりだから、今日は少しゆっくり進みましょう。」


「課外授業って明後日までじゃなかった?ボク、まちがえて覚えてたのかな?」

「間違ってないわ、明後日の正午に広場に集合よ。でも余裕があった方が良いでしょう?私も最終日くらいはゆっくりしたいわ。」


「あははっ、そうかも。それじゃあ今日はゆっくり行って明日はがんばろう!」


 変わり映えのしない森の中を一歩一歩踏み進める。

 戦利品を載せた土の荷車の音がガラガラと響き、森の中へと吸い込まれていく。

 時折、石や木の根を踏み、ガタンと荷車が跳ねるがそう簡単に壊れたりはしない。


「今日も魔物の気配が全く感じられんな。」

「よっぽど先輩方が頑張ったようね。」


「ボクは楽で良いと思うけど・・・・・・、確かに少し退屈かも。」

「来年、再来年になれば私達がそれをする事になるんだろうけどね。」


 和気藹々と会話を楽しみながら歩いて行く。

 ゆっくりとしたペースのつもりだが、思っていた以上にスムーズな道のりだ。

 更に北へ北へと足を動かすと、少しだけ開けた場所に出た。

 古いものだが、野営を行った痕跡がある。

 いつかの先輩が、ここでキャンプを行ったのだろう。

 陽はまだ頂点へと届いていないが、俺達はここで休憩と昼食をとる事にした。

 皆で思い思いに腰を落ち着ける。

 7人もいると少し手狭な感じだ。


 携帯食を齧りながらヒノカがリーフに問いかける。


「この後はどうする?」

「そうね・・・・・・、次に野営が出来そうな場所があれば、そこを折り返しにしましょう。」


「見つからなければどうする?」

「ある程度進んで何もなければここに戻ってきましょう。それで良いかしら?」


「ふむ・・・・・・そうだな、下手にうろつくよりは良いだろう。」


 小休憩を挟み、再び進路を北へと向けた。

 日が赤く染まり始めた頃、ソワソワと落ち着きをなくしたサーニャ。


「・・・・・・ヒトの血の匂いがするにゃ。」


 緊張の糸がピンと張られる。


「ふむ、どこからだ?」

「ずっとあっちの方からにゃ。」


 サーニャが北西の方角を指差す。


「・・・・・・どうする?」

「少し予定が変わってしまうけれど、行ってみましょう。もしかしたら・・・・・・助けられるかもしれないものね。」


 サーニャを先頭にし、その後ろを皆でついて行く。

 しばらく進むとサーニャの足がピタリと止まった。


「魔物が一杯いるみたいにゃ。」

「ふむ、私には感じられないな。」


 魔力視を発動させてみるが、流石に視えない。


「私の方もダメ。」

「ねぇ、サーニャ。何が居るのか分かるかしら?」


 サーニャがフルフルと首を横に振る。


「分からないにゃ。」

「ふむ、どうする?」


「気にはなるけど・・・・・・引き返しましょう。私達の安全が第一よ。」

「そうだな。このまま、さっきの場所まで戻ろう。」


 俺達は踵を返し、先程休憩を取った場所へと進路を定めた。

 夕日が森を赤く照らす中、無言で歩を進める。

 その沈黙をサーニャの蚊が鳴くような声が破った。


「あるー、さっきの魔物が追ってきてるみたいにゃ。」

「夜の闇に紛れて襲ってくるつもり・・・・・・かな?」


「さっきの野営場所まではまだ掛かるわね。・・・・・・夜になる前に迎え撃った方が良いかもしれないわ。」


 リーフの言葉をヒノカが否定する。


「いや、このまま広場の方へ向かおう。」

「辿り着くまでに夜になってしまうわよ?」


「皆で行けばな。フィーに先行して戻ってもらおう。」

「・・・・・・わたし?」


「あぁ、ジロー先生に応援を頼んで来てくれ。」

「なるほどね。フィーなら足も速いし、先生にも面識があるから適任だと思うわ。」


「上手く行けば増援と合流して対処出来るだろう。」

「うん、わかった。」


「嵩張る荷物はここに置いて行っちゃおうか。」

「え・・・・・・ちょっともったいなくない?」


「いや、安全を考えればその方が良いな。荷車が無ければその分距離も稼げるだろう。」

「確かにそうね。必要最低限だけ持って残りはここに置いて行きましょう。」


 急いで荷物を仕分けに入る。


「荷車とテントと・・・・・・寝袋も必要ないわね。」

「どうせ戻るまでは眠れんだろうしな。」


 どさどさと荷車の周りに必要ない荷物を置いていく。

 携帯食も邪魔にならない程度だけ持った。

 随分と身軽になったので、今まで以上に歩みを進められるだろう。


「フィー、道は分かるわね?」

「だいじょうぶ。」


「それじゃあ、お願いね。」

「うん。」


 フィーが広場の方向へ駆け出すと、あっという間に見えなくなってしまった。


「あるー・・・・・・。」


 サーニャがくいくいと俺の袖を引く。


「どうしたの?」

「何匹かふぃーの方に行ったにゃ。」


「お姉ちゃんより速い?」

「速いにゃ。」


「追いつかれるかもしれない、と言う訳ね・・・・・・。」

「ボクも行く!」


「ニーナ、貴女じゃ追いつけないでしょう?」

「ぅぐ・・・・・・そうだけど。」


「行けるとすればアリスかサーニャだけど・・・・・・。」

「サーニャ、フィーの方へ向かった敵は多いのか?」


「いっぱいじゃないにゃ。」

「それなら、フィーを信じよう。」


「でも・・・・・・どんな魔物なのかも分からないのよ?」

「大丈夫だ。同じ戦術科の私が言うのだから信じろ。それに・・・・・・どちらにしろアリスもサーニャも外せないだろう?」


「そうだけど・・・・・・。」

「ヒノカの言う通り、お姉ちゃんを信じよう。私達は私達の事をやらないと。」


「貴女がそう言うのなら・・・・・・分かったわ。私達も急ぎましょう。フラムは疲れていない?大丈夫?」

「ぅ、うん・・・・・・だ、大丈、夫。」


「リーフこそ疲れてないのか?」

「山や森を歩くのは慣れているから、平気よ。」


 身軽になった俺達は再び広場の方角へ歩き始めた。

 所々の木に真新しい深い切り傷が刻まれている。


「フィーが印を付けながら通っているみたいだな。」


 フィーが付けたと思われる印は点々と先の方まで伸びているようだ。

 俺達はその印に沿って移動していく。


「あいつら・・・・・・止まったみたいにゃ。」

「どうしたのかしら?」


「私達の荷物を見つけたのかも。」

「何にせよ、今のうちだな。」


 好機とばかりに歩を速める。

 しばらくそのまま進むと北の方から炸裂音が響いてきた。


「今の音は何!?」

「分からん、北の方からのようだが。」


「多分仕掛けが上手くいったのかも。」

「仕掛け?何かしたのか、アリス?」


「うん、荷物を動かしたらスタングレネードが爆発する仕掛けをね。」

「すたん・・・・・・?何だそれは?」


「目眩ましの魔道具だよ。光と音で視覚と聴覚を麻痺させるんだ。効いていれば少しは時間が稼げると思うよ。」

「そう願いたいわね。」


*****


 日は既に隠れ、辺りの闇の濃度が上がり、見通しが悪くなっいる。

 月明かりは木々に遮られてほとんど届かないが、フィーによって木に付けらた白い傷を浮かび上がらせるには十分だった。

 その目印を頼りに速度を僅かに落としながらも暗い森を進む。


「ぁう・・・・・・っ!」


 木の根に足を取られて転んだフラムに手を差し出す。


「大丈夫?」

「ぅ、うん・・・・・・ありがとう。」


 服についた泥をを払ってやるが、殆ど意味を為さない。

 フラムだけでなく皆の制服は既に泥だらけになってしまっているのだ。


「こう暗くては厄介ね・・・・・・。アリス、明かりをお願いしても大丈夫?」


 リーフが額に滴る汗を拭いながらこちらに尋ねてくる。


「良いけど・・・・・・こっちの場所を報せる事になっちゃうよ?」

「こちらの位置は既に知られているし、それに助けが来るなら明かりがあった方が合流しやすいだろう。」


「分かった、それじゃあ明かりを出すね。」


 魔法で光の球を出すと周囲の様子がはっきりと照らしだされる。

 しかし、光の届かない先は一寸先も見えなくなってしまった。


「これなら転ぶ心配もないわね。」

「あぁ、もう少し足を速めても良さそうだ。」


 更に夜が深まり、いつもならフィーやニーナが眠っているような時間。

 ここに来て、膠着していた事態が動き始めた。


「少しずつ近づいて来てるにゃ。」

「応援は間に合わなかったみたいね。」


「フィー・・・・・・、大丈夫かな?」

「今頃助けを連れてこちらへ急いでくれているさ。」


「それで、どうする?」

「こうなっては迎え撃つしかないだろうな。」


 ヒノカに釣られて今まで進んで来た方向へ振り返る。

 フィーの付けた印が森の奥へ奥へと飲み込まれているように見えた。


*****


 10・・・・・・20・・・・・・。

 漸く探知できる距離へと魔物が近付いてきた。

 その数はまだまだ増えている。


「これは・・・・・・かなりの数だな。」


 ヒノカの言葉通り、ざっと数えても50・・・・・・いや、60は超えているだろう。

 甲高い魔物の声とガサガサと葉の擦れる音が大きくなってくる。

 木から木へと飛び移り移動しているようだ。


 驚くべきはその速さ。


 あっと言う間に俺達の場所へと到達し、ぐるりと取り囲まれた。

 ちらりと葉影から覗く魔物の姿は銀色の体毛に覆われ、露出した皮膚は赤黒い。

 鋭い爪は光を反射し、ギラリと鈍く煌めいている。

 長い腕を器用に使い、木々を渡っているようだ。


「何あれ・・・・・・猿?」

「私も初めて見るが、確かに猿・・・・・・のようだな。少々大きいが。」


 体長は平均して140cmほど。

 中でも一際大きな個体は2mを超えている、アイツがこの群れのボスだろう。

 そのボスが手に持ったナニカに齧りついた。

 フラムが両手で目を覆い、悲鳴を上げる。


「ぃ・・・・・・ぃや・・・・・・いやあああぁぁぁぁ!!」


 そのナニカは空虚な双眸でこちらをギロリと睨んだ。

 ・・・・・・ような気がした。

 そうだ、そんなことができるはずがないのだ。

 あれはかけている。だいじなものが。


「おい、しっかりしろ、アリス!」

「・・・・・・っ!」


 ヒノカにバチンと背を叩かれ、息が漏れる。


「ご、ごめん・・・・・・!」


 深呼吸を一つ。

 ・・・・・・高々生首一つでパニクるほどグロ耐性低く無かっただろ、俺は。


 気を取り直し、改めて観察する。

 あの額に付いた特徴的な傷、よく覚えている。

 名前は知らないが、教室で二言三言声を交わした事があった。

 俺と同じく、冒険者稼業でお金を貯めて学院に入った人間だ。

 まぁ、俺のは少しズルい気がするが。


 ともかく、ヤツはご丁寧にも俺の眼前で同級生の頭をかっ喰らってくれているわけだ。

 先刻、サーニャが感じた血の匂いは彼らのパーティのものだろう。

 確か冒険者4~5人のパーティだった筈だ。

 入学金を貯める事ができる実力はあるのだから、決して弱くはない。

 その彼らを、おそらく全滅させたであろうこの猿達。


 油断は出来ない。


 俺は地面に手を着いてドーベルマンのようなシルエットのゴーレムを造り出し、迎撃命令を出して待機させる。

 魔力を出来る限り充填したので、しばらくは頑張ってくれるだろう。


「来るぞ!」


 耳をつんざく様な声を上げながら、左右の葉影から猿が一匹ずつ飛び掛かってくる。


「はっ!」

「えいっ!」


 襲い掛かってきた二匹の猿はヒノカとニーナによって一刀された。


「あれ・・・・・・弱い?」

「ヴォルフの方がまだ手応えはあるが・・・・・・、不気味だな。」


 切り捨てられた二匹を見て他の猿達は枝をガサガサと揺らし、不快な鳴き声を立てる。

 怒っている・・・・・・いや、笑っているような。

 更に新たな猿達が襲い掛かってくる。


「にゃにゃ!?今度はいっぱいにゃ!?」


 10近い数が一斉に飛び出してきた。

 リーフとフラムを中心に、互いに背を向けて迎撃の態勢をとる。

 俺の視界には猿の姿が三匹。

 刀を抜き、触手と共に構え―――突進してきた猿に狙いを定めて刀を走らせる。

 だが、刀の軌跡は猿を捉える事無く空を切った。


「な・・・・・・っ!?」


 こちらへ向かってきていた猿達が急に方向を変え、別の木へ戻っていったのである。

 だが咄嗟に触手を伸ばしてなんとか三匹のうち一匹を絡め取る事に成功し、そいつの首を刎ねた。


「くっ・・・・・・こいつら、戦う気があるのか?」

「あちしよりすばしっこいにゃ!」


「こっちもダメ、逃げられたよ!」


 新たに積み上がった死体は俺が倒した分のみのようだ。


「”氷矢(リズロウ)”!」


 リーフの放った魔法はひらりとかわされ、木の幹に突き刺さった。


「この距離だと難しいわね、いっそ辺り一帯を燃やしてしまいたいわ。」


 フラムなら可能だろうが俺達も黒こげになってしまうので、それは遠慮したい。


「また来るぞ!」


 再び10匹ほどの数が木々の間から飛び掛かってくる。


「”氷矢(リズロウ)”!」


 今度は向かってくる猿達に対して複数の氷の矢を放つ。

 魔力を分散させているため威力は弱いが、一瞬の隙を作るには十分だ。

 注意を逸らした猿をヒノカの刀が両断し、ニーナの剣が貫く。


 だが、その頃には撃ち漏らした敵達は既に葉影に隠れてしまっている。

 間髪を入れずに別の方向から猿達が姿を現す。


「くっ・・・・・・”氷矢(リズロウ)”!」


 氷の矢が放たれるが、猿達は大きく後ろに跳び、そのまま木々の中へ姿を隠した。


「待つにゃ!」


 猿達を追いかけて飛び出したサーニャを咄嗟に触手で掴まえて止める。


「ダメ!」

「う゛にゃっ!」


 その勢いで地面に頭をぶつける。


「な、何するにゃ!」

「深追いしたらダメだよ。」


 まだ数十匹の猿達が隠れているのだ。

 森の陰から無数の金色の瞳がこちらを見据えている。


「・・・・・・うぅ、分かったにゃ。」

「また来たよ!」


 休む間もなく猿達がこちらへ向かってくる。


「”氷矢(リズロウ)”!」


 惹きつけてから放たれた氷の矢は真っすぐ猿達の進路を阻害するルートだ。

 猿達は先程のように後ろへと戻らず、矢を無視して突進してきた。

 一匹に直撃するが、それ以外は上手くかわし、接近してくる。

 もうすぐこちらの間合いというところであらぬ方向へ跳躍し、木々の中へ隠れた。


「ま、またぁ!?」


 また新たに襲い掛かって来た猿達に対応する。

 そんな攻防を延々と繰り返す。

 ペースは遅いながらも1体、また1体と死体を増やしていき、十数体を数える頃。


「はぁっ・・・・・・はぁ、っ・・・・・・くっ・・・・・・”氷矢(リズロウ)”!」


 リーフの放つ氷の矢は数が減り、威力が弱まってきていた。


「リーフ、少し休め。」

「で、でも・・・・・・。」


「そうだよ、ボクだって少しは魔法使えるんだからさ。」

「まだまだ敵もいっぱい残ってるしね。」


 一向に減っている気はしないが・・・・・・、それでも着実に減らせてはいるのだ。


「そう、ね・・・・・・。ごめんなさい、お言葉に甘えさせてもらうわ。」


 リーフを休ませ、更に数度の襲撃を撥ね退ける。

 先程までうるさかった葉音と鳴き声がピタリと止んだ。


「・・・・・・なんだ?襲ってこなくなったぞ?」

「諦めたのかな?」


「・・・・・・そうだと良いのだけれど。」

「でもまだ周りを囲まれてるにゃ。」


 シーンと静まり返った中でヒソヒソと会話する。

 ゴーレムをちらりと確認すると充填した魔力が減り、大きな罅が入ってしまっていた。

 もう余り持たないだろう。


 ガサッと一本の枝が揺れた。

 直後、猿達の鳴き声が一斉に木霊し、次々と飛び出してくる。

 今までの3倍近い数だ。


 猿達は倒されても怯む事無く襲い掛かってくる。

 俺は触手をフル稼働させ、猿達の攻撃をいなし、弾き、かわして、斬り捨てる。


「きゃっ!」


 悲鳴のした方へ顔を向けると、1匹の猿がリーフを襲っていた。


「くっ、一体どこから・・・・・・!?」

「上にゃ!」


 俺達の直上にある枝、そこからもう1匹の猿がリーフに向かって飛び降りる。

 一斉攻撃に乗じて俺達の上まで移動してきていたのだ。

 今までそこを使わなかったのはこの時のためか。


 リーフがナイフを抜き、フラムを背に庇いながら応戦する。

 だが魔力を消費してしまっているリーフには辛いだろう。

 ヒノカ、ニーナ、サーニャも猿達の対処に手が一杯でフォローに回れそうにない。


 他の触手が動かせなくなるけど仕方ないか・・・・・・!


 俺は新たに触手を作り、リーフを襲っている猿に目がけて一気に伸ばした。

 魔力を集中させ、先を鋭く尖らせた触手はその勢いで猿の頭を貫通する。

 勢いを殺さずに木に引っかけて方向転換させ、もう一匹の猿の頭も撃ち抜いた。


 同時に背中に一筋の熱が走る。

 リーフの援護に集中しているところを背後に回られ攻撃されたのだ。

 背中を任せていたゴーレムはどうやら崩れてしまったらしい。


『ぃっ・・・・・・てーな!クソ!』


 悪態を吐きながら振り向きざまに刀を走らせるが、既にそこに敵はいない。

 空振りした所へ他の猿達が殺到してくる。


『おわ・・・・・・っと!』


 刀と体捌きで猿達の攻撃に対処するが、

 防ぎきれなかった攻撃が身体を掠めていく。

 触手の再起動を終えた頃には腕や頬に赤い筋が点在していたが、どれも深刻な傷ではない。


 攻勢に転じ、近くの猿から触手で捕え、斬り捨てる。

 死体を3つほど積み上げた所でボス猿が一鳴きし、猿達がさっと退いていく。

 見ればヒノカもニーナもサーニャも細かい傷だらけだが、俺と同様に深い傷は無さそうだ。


 問題はリーフ。

 腕に付けられた傷から赤い筋が伝い、指先からはポタリ、ポタリと雫が滴り落ちている

 すぐさま命に関わるような怪我ではないが、放っておけるような傷ではない。


「リーフ、治癒魔法使えたよね。その傷を治すのに専念しておいて。」

「だ、大丈夫、よ。それに魔力を使ってしまったら・・・・・・。」


魔物(あっち)の方なら問題ないよ、今のでかなり減らせたからね。」


 猿達の数は当初の半分以下にまでなっている。

 あの数での総攻撃は厄介だったが、同時にこちらにとっても攻撃を仕掛けるチャンスだったのだ。


「分かった、そうさせて貰うわ。・・・・・・”治癒(リカーヴ)”。」


 治癒を開始したリーフを背に、木々の陰に隠れた猿達を睨みつける。

 先程ああは言ったものの、まだ半分近く残っているのだ。

 これまでの過程を思い返しただけでもうんざりする。


 確かに見た目ほど強くはない・・・・・・ぶっちゃけ弱いのだが、果てしなく厄介なのだ。

 まぁ時間は掛かるが問題無く処理出来るだろう。

 気合いを入れ直し、刀を握る。


「それじゃあ第二回戦といこうか。」

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