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277話「魔撃」

 六本脚が前脚を振りかぶり、鋭い爪の一撃を繰り出した。

 飛び出していった三人が紙一重で散開するように躱し、すがさずカウンターをお見舞いする。

 反撃を受けた六本脚は大きく吹き飛ばされたかに見えたが、空中でくるりと身を翻し鮮やかに着地して見せた。

 ココリラたちの攻撃はクリーンヒットしていたのだが、殆ど効果は無かったようだ。

 だが彼女たちの攻撃が弱かった訳ではない。今の攻撃の威力なら、道中に遭遇した大抵の魔物ならば一撃粉砕できるだろう。

 それほどの攻撃をまともに喰らってピンピンしている様子の六本脚を見て、ココリラが舌打ちする。


「チッ・・・・・・やっぱ効かへんか。」

「姉ちゃん、今度はあっちから来よるで!」


「分かっとる!」


 咆哮とともに地面を蹴り上げる六本脚。

 地面が抉れ、六本脚がロケットのように突進してくる。


 狙いは・・・・・・俺か!


 咄嗟に触手を作り、頭上の枝に引っかけるようにして飛び上がって突進を回避した。

 六本脚が勢いを殺さぬまま俺の飛び乗った樹にぶつかり、ドンと振動が伝わってくる。細い木だったらそのまま折られていたかもしれない。

 ガリガリと爪を立て、幹を引き裂くように抉りはじめる六本脚。

 ココリラたちはその隙を逃さない。


「もういっちょ行くで!」


 合図とともにココリラたちの攻撃が殺到する。

 ・・・・・・が、当の六本脚は意にも介していない。

 六本脚がその場でぐるりと身体を一回転させ、尻尾でハエでも追い払うかのようにココリラたちをあしらう。

 ココリラたちは尻尾に巻き込まれないよう飛び退った。


「全然効いてへんで姉ちゃん!」


 だが、一瞬だけ六本脚の気がこちらから逸れた。

 頭上は隙だらけ。この機を逃す手は無い。

 枝を蹴り、六本脚の頭上へ急降下する。

 刀を上段に構え、気合一閃。その勢いのまま六本脚の首元へ刀を振り下ろした。


 もふっ。


 返ってきたのはそんな感触だった。

 振り下ろした刃は毛皮に阻まれ、受け止められている。

 渾身の一刀は六本脚にかすり傷一つ負わせることも敵わなかった。


「う、嘘ぉ!?」

「アカン、危ないでアリスちゃん!」


 俺に気付いた六本脚がこちらへ剛腕を伸ばしてくる。

 鋭い爪が俺を捉えんとした瞬間、後ろへ突き飛ばされた。


「ぐあっ・・・・・・!!」


 俺を庇い、その身体で六本脚の攻撃を受けたボボンゴが吹き飛ぶ。

 木に激しく打ち付けられながらも、ヨロヨロと彼は立ち上がった。


「大丈夫ですか、ボボンゴさん!」

「こ、こないなもん・・・・・・かすり傷ですわ。」


 とは言いつつも足取りは覚束なく、六本脚の爪を受けた背中はザックリと裂かれ、血が溢れている。


「とにかく治療しますから、動かないでください! ココリラさん、ノノカナさん、六本脚を引き付けて下さい!」

「えらい無茶言うね、アリスちゃんは・・・・・・まぁ、おねーさんに任せとき!」


「あー、もう! ほらこっちや、六本脚!!」


 六本脚はココリラたちに任せ、すぐさまボボンゴの治療に入る。

 俺が治癒魔法をかけると、みるみると傷が塞がっていった。

 闇の民は魔力の通りが良いのか、普通の人に掛けるよりも回復が早い。

 これならすぐにでも戦線復帰できそうだ。


「えらいすんまへんな・・・・・・せやけど、このままやったらジリ貧でんな。」


 こちらの攻撃は殆どあの毛皮に阻まれてしまっているようだ。

 決定打が無い以上、勝ち筋は見えない。


「でも、皆さんはあの魔物と戦ったことがあるんですよね?」

「えぇ、いつも通りなら勝てる相手ですわ。せやけど・・・・・・”弱化”してる状態では何ともなりまへんな。」


 つまり、本気モードでなければ勝てない相手というわけか。

 しかしふと疑問が浮かぶ。


「あの、いつも通りというのはどういう事ですか? いくら”弱化”を解除したとしても、打撃が効くような相手とは思えないんですが・・・・・・。」


 どれだけパワーアップしたとしても、あの毛皮がある限り拳じゃどうにもならなさそうだ。

 それとも、闇の民にはそれすらもねじ伏せる力が秘められているのだろうか。


「あぁ、そないな事ですか。確かに六本脚には打撃が効きまへんけど、魔撃なら効くんですわ。」

「ま、魔撃・・・・・・?」


 聞いたことの無い言葉についオウム返ししてしまう。


「えーと、何て言うたらええんかな・・・・・・魔力を拳に練って、ヤツに打ち込んで爆発させたるんですわ。流石に中身はあの毛皮でも守れまへんからな。」


 それって・・・・・・俺が最初にノノカナに受けた技のことか。

 ボボンゴの言葉通りにその魔撃とやらで内部に攻撃することが出来れば、あの六本脚を倒せるかもしれない。

 だが彼曰く、魔力の消費が激しいため、今のように”弱化”で魔力消費を抑えながら戦っている状況では使えないのだそうだ。

 ノノカナが俺に魔撃を加えてすぐに石になってしまったのも、その一撃で魔力を使い切ってしまった所為だろう。


「せやけど、このままやったら皆アイツのエサになってしまいますな・・・・・・。よっしゃ、ほなここはワイが一発かましたりますわ!! 魔撃を使うても石になるだけやさかいな。」


 飛び出そうとしたボボンガを慌てて引き留める。


「ちょ、ちょっと待ってください、ボボンガさん! 万が一にも石になったボボンガさんを取り込まれたら、それこそ取り返しがつかないことになりますよ!」

「う・・・・・・そない言われたらやりにくくなるやないか。けど他に手はあらへんやろ?」


「いや・・・・・・ありますよ。」

「ホンマか!? どないな手品を使うんや?」


「手品なんてありませんよ。」

「せやったら・・・・・・何をするつもりなんや?」


 ノノカナから受けた魔撃の感覚はまだ覚えている。

 なら・・・・・・出来るはずだ。


「私が使います――魔撃を。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者さん、最近の更新はお疲れ様です! アリスさんの珍しいミスですね。でも学習するとは凄いです!
[一言] 幼女ぱーんち!(相手は死ぬ)
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