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25話「ローグライク」

 ―――迷宮都市ローグライク。

 俺達が通う魔術学院のある街レンシアよりもずっと大きく、人で賑わっており、行き交う人の中にはチラホラと制服姿の者を見かける。

 観光、迷宮探索、目的はそれぞれだろうが、荷物を見る限り後者の方が多いようだ。

 これから探索へ赴くだろう者達は、「目指せ一攫千金!」とばかりに目が血走っていた。


 人の多さに辟易しながらヒノカが呟く。


「凄い賑わいようだな、ここまでとは・・・・・・。」


 転送先の広場から街へと出た感想はその一言に尽きた。

 これではいかん、とヒノカが頭を振って気合いを入れ直す。


「まず宿を探すか。」

「そうね、でも部屋が空いているところなんてあるのかしら・・・・・・?」


 リーフの不安が的中したが、十数軒目にしてようやく一室確保することが出来た。

 路地裏にある、お婆さん一人が経営している宿だ。


 ベッドすら置いていない何もない部屋の隅に、申し訳程度に毛布が積まれている。

 食事も付いていない。無い無い尽くしだ。

 頑丈な扉には魔道具の鍵が付いており、セキュリティ面は無駄に凝っているが。

 これで二ヵ月分先払いで銀貨10枚。結構高い。


 宿と言うよりは倉庫とか金庫と言った方が正しいだろう。

 ただまぁ、その分広いのが救いか。

 七人で寝転がっても十分なスペースがある。


「酷いわね・・・・・・ベッドすら無いわよ?」

「まぁ、放っておいても人は来るだろうしね。別の場所も探してみる?」


 リーフが疲れた顔で首を横に振った。


「・・・・・・いえ、止めておきましょう。他が見つかる保証なんて無いのだし。」

「そうだな、それに本命は【千の迷宮】だ。早速皆で行ってみようじゃないか。」


 逸るヒノカを止める。


「今日は迷宮に入っちゃダメだよ、ヒノカ。」


 出鼻を挫かれたヒノカが少し不機嫌に聞き返してくる。


「む、何故だ?」

「こういうのは事前調査が大事だからね。ちょっと調べてくるよ。」


「調べるのなら皆で行けば良いのではないか?」

「一人の方が動きやすいからね。はぐれたりすると大変だし。」


 それに、これだけの人数で動くと、どうしても時間が掛かってしまう。

 リーフがパンと手を鳴らし、話を纏める。


「それなら一度、自由行動にしましょう?陽が落ちるまでにこの宿へ戻ってくる事。私は疲れたし・・・・・・少しこの部屋で休ませてもらうわ。」


 フラムが小さく手を挙げた。


「ゎ、私・・・・・・も。」


 サーニャは部屋の隅に積まれた毛布へダイブする。


「う~、あちしも人いっぱいの所は行きたくないにゃ~。」


 フィーの手を取ったニーナは元気な声を上げた。


「ボクは何かおやつと飲み物買ってくるよ。フィーも一緒に行こう!」

「うん、わかった。」


 ヒノカがニーナ達の傍に付く。


「よし、それなら私も付き合おう。夕食の準備が必要なようだからな。」

「それじゃあ、決まりだね。」


*****


 人ごみの隙間を縫うようにして街中を進む。

 向かう先は露店広場。


 使用料を払えば一画を一日借りる事ができ、誰でも店を開ける。

 いわゆるバザーというやつだ。

 使用者は殆どが探索者で、迷宮での戦利品を並べている。


 ここも賑わっているが、比較的人の少ない場所を選び、じっくりと見て回る事にした。

 人の多い場所と比べると華がなく、若干落ち着いた雰囲気だ。


 ある店の商品を眺めているとそこの店主に声を掛けられた。

 身なりから探索者と窺える。


「お嬢ちゃん、こんな所に一人で観光かい?」

「こんにちは。少し情報を集めている所です。」


「へぇ、何の情報だい?」

「【千の迷宮】の情報を。」


「なるほど、それならこの場所は正解だ。此処にいるのは大体探索者だしな。」

「このお店の商品は全部迷宮の物ですか?」


 広げられたシートの上には武具や薬等が置かれている。


「あぁ、そうだぜ。賭けで負けた俺が店番って訳だ。」

「この鍵・・・・・・みたいな物は何ですか?」


 一番目立つ所に置かれた鍵のような物体を手に取る。


「それは【帰還の鍵】って言ってな。迷宮の中にある【帰還の扉】ってのを開くための物だ。」

「扉、ですか。」


「ああ、そいつを通るとどういう理屈かは知らんが迷宮から出られるんだ。ま、探索の必需品ってやつだな。」

「そんな物売っちゃって良いんですか?」


「そこらの武具よりよっぽど金になるからな。一回使うと無くなっちまうから売れ筋なんだぜ。流石に自分たちの分は残してあるけどな。」


 装飾の施された唯の鍵だが、装飾部分によく見ると『帰』と日本語が彫られている。


「これはおいくらなんですか?」

「一つ銀貨10枚だ。」


「では一つ下さい。」


 財布から銀貨を取り出す。


「おいおい、本当に買うのか?迷宮の中でしか使えないから外じゃガラクタだぞ?お土産にしても高すぎんぜ?」

「でも迷宮の中では必需品なんですよね。」


「確かにそうだが・・・・・・。」

「明日以降に潜ってみるつもりなので。」


「潜る?」

「ああ、いえ・・・・・・迷宮探索に行ってみようかと思ってまして。」


「行くって言うんなら止めねえけどよ。ここいらの子供にとっちゃ遊び場みたいなもんだしな。」

「遊び場?」


「度胸試しってやつだ。迷宮から脱出する方法はその鍵だけじゃねえからな。」

「そうなんですか?」


「”緊急脱出(エスケープ)”っていう起動語でな。ただまぁ・・・・・・後で見学にでも行ってみれば分かるぜ。その後は服屋でも見るといいさ。」

「服屋・・・・・・?」


「へへっ、それは見てのお楽しみだ。」

「分かりました、これから行ってみます。」


 勘定を済ませ、鍵を受け取る。


「後は助言もおまけしてやろう。帰還の扉は次の階に進んだ先の部屋に必ずある。基本はその部屋を確保しながら探索するんだ。それと、帰還の扉が開くまで時間が掛かる場合があるから、警戒を怠らないようにな。」

「そんなに時間が掛かるんですか?」


「他のパーティが開いている間は開かないって話だ。それで命を落としたやつもいる。・・・・・・とまぁ、こんな所か。」

「貴重な助言、ありがとうございました。」


「ああ、死ぬんじゃねえぞ。」


 一通り回ってから露店広場を後にし、街の中心にある遺跡へと向かう。

 この遺跡の中に魔道具【千の迷宮】が設置されているらしい。

 遺跡の入り口付近で「見学者はこちら」と書かれた看板を見つけた。

 どうやら見学者は受付をする必要があるようだ。


「こんにちは、お嬢さん。一人で見学かな?」

「はい、そうです。」


「それじゃ、この札を見える箇所に身につけておいてね。でないと間違えて迷宮に案内しちゃうから。」

「分かりました。」


 受け取った見学者用の札を首からぶら下げ、遺跡の中に足を踏み入れた。

 中は探索者達が殆どで、戦利品を広げて分配する人達や準備中の人達でごった返している。

 入り口付近には案内板が設置されており、さっと目を通した。


 千の迷宮の入り口は複数あり、人が少ない所へ並んで順番待ちするらしい。

 どの入り口からでも同じ、というかランダム生成なのでどこから入っても一緒だそうだ。

 パーティを組んで入る場合は一定時間内に同じ入り口から入れば良いとのこと。

 他にも重要な事がつらつらと書かれている。

 それらを頭の中に留め、遺跡の中を見て回っていると、男の叫び声が聞こえた。


「み、見るんじゃねぇー!!」


 声のした方へ振り返ると全裸のおじさん達が手で大事な所を隠しながら口々に悲鳴を上げている。

 何だありゃ。


 慌てて一人の男性が駆けよって服を手渡す。

 案内役の人を捕まえて訳を聞いてみる。


「あの、あれは?」

「あぁ、起動語で脱出された方々ですね。起動語を唱えると即座に迷宮から脱出出来るのですが、持ち物は全て失ってしまいます。服を持ってこられたのは保険の方ですね。」


 殺される前に脱出すれば命だけは助かる訳か。

 しかし、全裸とは・・・・・・。


「なるほど。それで保険とは何でしょう?」

「迷宮に入る前にいくらかお金を渡しておくと、ああして服を持ってきてくれるんですよ。何しろ手持ちは無くなってしまってますからね。」


 保険を掛けてなければ宿まで全裸ということか・・・・・・、何その露出プレイ。

 案内役にお礼を言って遺跡内の散策に戻る。

 迷宮の入り口がある部屋を見てみると、兄弟らしい子供が二人、入り口の前に立っていた。

 先程聞いた度胸試しというやつだろうか。


「兄ちゃん、がんばれ!」

「まかせろ、スッゲーのとってきてやるぜ!」


 兄の少年はその場で服を脱いで弟に手渡し、全裸になった少年はそのまま光の門のような入り口に突撃して行く。

 それを見届けた弟は兄の服をしっかりと握りしめたまま、先程全裸のおじさん達が居た場所へと駆けて行った。

 周りの探索者たちは気にも留めていない。


 確かに、全裸で行けば失う物は無い。

 運が良ければ迷宮のお宝をゲット、悪ければ魔物の不意打ちで死亡、と言ったところか。

 度胸試しには少し危険な気もするが、近所の悪ガキくらいなら喜んでやりそうではある。


 俺だってガキの頃にこんな遊び場があれば・・・・・・いや、やらねえだろうな多分。

 無理矢理放り込まれる事はあるだろうが。


 俺はその場を後にし、他の部屋を見る事にした。


*****


 碑文。

 その部屋の案内板にはそう書かれている。

 中にある碑文には【千の迷宮】を作った神の言葉が刻まれており、今でも時々刻まれている言葉が変化しているという。

 内容は解読出来ていないから分からないようだ。

 それでも事実、刻まれている模様は変化していると記されている。


 辺りに人は少なく、俺と同じ見学で来たであろう人達が興味無さげにチラリと部屋を覗いては去って行く。

 部屋の中に入り、件の碑文を見上げた。


 そこには日本語で新しいモンスターを追加しただの、パラメータの調整を行っただの、不具合を修正しただのと書かれている。


 ただのアップデート情報じゃねーか!


 最新の日付は十数年前。

 間隔はまちまちではあるが、今でも続いているのだろう。

 アップデート情報の隣には迷宮に挑む際の注意点が書かれている。


 入場無料だの、ランダム生成だのと、まぁ・・・・・・色々だ。

 こちらも日本語なので、この世界の住人には読めないだろう。


 それ以外に見る物は無さそうなので碑文の部屋を後にした。

 他にも部屋はあるが、残りは迷宮への入り口がある部屋ばかりのようだ。


 時間もそろそろ良い頃合いだし宿に戻ろうかと思い、遺跡を出ようと出口へ向かって歩いていると、先の角から声が聞こえた。

 青年の男性の声と女の子の声。


「悪ぃな、ウチもそんな余裕のあるパーティじゃねえんだ。」

「そう・・・・・・ですか。」


 探索者志願の子だろうか、トボトボと大きな本を抱えた少女がこちらへと歩いてくる。

 俺は避けようと道を開けるが・・・・・・。


 ガッ。


「へぶっ!」


 何も無い所で躓いて転ぶ女の子。

 抱えていた本を落とし、薄い紫色の三つ編みもペタンと地面に張り付く。


「だ、大丈夫・・・・・・ですか?」


 転んだ女の子を助け起こそうとすると、颯爽とビキニアーマーのお姉さんが角から現れた。ビバ・ビキニ。


「あーもー何やってんだい、この子は。」


 お姉さんがこけた女の子を起こしてパンパンと埃を払ってやる。


「アンタみたいなトロくさい子はどうせすぐ死んじまうんだから、真っ当に稼いで生きていきゃ良いんだよ。探索者なんかやらずにさ。」

「ぁ・・・・・・ありがとうございます。」


 俺は女の子が落とした電話帳サイズの本を拾って渡してやる。


「どうぞ。」


 タイトルは「迷宮探索記」。

 内容は分からないが、少々値が張りそうだ。


「あー、ちょうど良いや。後は頼んだよ、お嬢ちゃん。アタシらにゃ面倒見きれねーし。」

「え、あ・・・・・・。」


 俺の肩をポンポンと叩き、来た時と同様に颯爽と去っていくビキニアーマー。

 どう見ても俺より年上なんですけどこの子。中身は逆だろうけど。

 本を受け取る女の子。

 髪と同じ色の瞳は少し潤んでいる。


「あ、あの・・・・・・ありがとう。」

「い、いえ、どういたしまして。」


 何となく気まずい沈黙。


「え、えーと、今から帰ろうと思ってたんですけど一緒にどうですか?」

「えっ?あ、そ、そうだね。」


 何だか良く分からない事になってしまった。

 それから沈黙を保ったまま遺跡の外へ出る。


「えーと、家はどちらですか。」

「あ、その・・・・・・この通りの服屋。」


 女の子が指差した通りには服屋がズラリと並んでいる。


 ほぼ服屋じゃねーか!


 心の中でツっこむ俺の横を全裸の一団が悲鳴を上げながら走り抜けて行く。

 かと思えば小間使いのような男の子が服を5~6着抱えて遺跡の中へと走っていった。

 女の子は全裸の集団を見ても平然としており、この辺りの日常であることが窺える。


「あ、あの・・・・・・こっち。」


 女の子に連れられて一軒の店に辿り着いた。

 大きくない店の中には所狭しと服が並べられている。


「ここが私の家・・・・・・なの。」


 店の前に立った女の子を見つけ、恰幅の良い肝っ玉母ちゃんみたいな人が店の奥から出て来た。


「どこほっつき歩いてたんだい、ラビ!店の手伝いもしないで!」

「お、お母さん・・・・・・ご、ごめんなさい。」


「それで、そのお嬢ちゃんは何だい?」

「え、えーと・・・・・・?」


 ラビと呼ばれた女の子が縋るような目線をこちらに向ける。

 確かに・・・・・・俺はこの子の何なんだろう。

 ものすごく説明しづらい。


「えーと、服を見たいんですけど・・・・・・。」


 まぁ、嘘ではない。

 服屋に行ってみろと言われたしな。


「服ねぇ・・・・・・、ここは探索者用の安物ばっかりでお嬢ちゃんが喜びそうな物なんてないよ。」

「探索者用?そんなのあるんですか?」


「妙なモンに食いつくね、そこの一式の安いのが一番の売れ行きだよ。」


 布の服に布のズボンと布で作られた靴のセットで銅貨5枚。

 プラス銅貨2枚で戦利品等を入れる鞄も付けられる。

 どれも継ぎ接ぎだらけで、とても質が良いとは言えない物ばかりだ。

 要するに全部ボロい。

 流石に靴だけはそこそこ丈夫に作られているようだが。


 奴隷スタイル、といった感じだ。


「ま、命と秤に掛けるなら安い方が良いだろうからね。」


 つまり、全裸戻り前提の捨て装備である。

 大の大人が子供みたいに全裸で突っ込んで行くなんて流石に出来ないだろうしな。


「確かに・・・・・・これなら迷わず戻れそうですね。」

「良く分かってるじゃないか、お嬢ちゃん。ウチの常連なんかは「裸より恥ずかしい」とか「裸で戻った方がマシ」なんて文句言って買って行くよ。アッハッハ!」


 常連が居るのであれば、それだけ生還率も高いのだろう。


「それじゃあ、この一式を七つ頂けますか。鞄も全部付けてください。」

「え・・・・・・、本当に買うのかい?」


 おばさんが意外そうな顔を見せる。


「はい、明日迷宮に入ってみるつもりなので。仲間の分も含めてお願いします。」

「ハァ・・・・・・近所の悪ガキ共も行ってるから止めやしないけどさ、気を付けるんだよ。あの子らだってたまに戻って来ないのがいるんだから。まぁ、あの学院の生徒さんなら余計な心配かも知れないけどね。」


「いえ、ありがとうございます。肝に銘じておきます。」

「素直な子は好きだよ。とびきり恥ずかしいのを見繕ってやろうかね。」


「あはは・・・・・・、お願いします。」


 さすがに七着も買うとかなり嵩張る。

 詰めて貰った袋もパンパンだ。


「凄い量になっちまったねぇ。ラビ、宿に運ぶのを手伝っておやり。」

「いえ、でも悪いですし・・・・・・。」


「良いんだよ、普段碌に手伝いもしないんだからさ。分かったね、ラビ。」

「う、うん・・・・・・分かったよ、お母さん。」


「それで、どこに泊まってるんだい?」


 自分の泊まっている路地裏の宿の場所を教える。


「あの婆さんのとこかい!?まだやってんのかい、ありゃ宿なんてモンじゃないだろうに。アンタもよくあんな所選んだね。」

「他に空いている宿が見つからなかったもので・・・・・・。」


「確かに今の時期じゃあねぇ。」

「でもまぁ、部屋は広いので戦利品は沢山置けそうですよ。」


「アッハッハ!そうだねぇ、部屋だけは広いからね!」

「それでは失礼します。」


「あぁ、気を付けるんだよ。ほら、ラビもさっさとしな!」

「う、うん。」


 ドサリと服を詰めた袋を持たされる少女。

 残りの袋を持って先導する少女に着いて歩く。

 さすが地元住民なだけあって人の少ない道入り組んだ路地を選んで進んでいる。


 前を歩く少女がこちらを振り返る。


「ねぇ、キミ・・・・・・本当に迷宮へ行くの?」

「はい、そのつもりですよ。その為に今日は情報を集めてましたし。」


「じゃ、じゃあさ、私も一緒に行って良い?」

「いや、流石にそれは・・・・・・。」


「どうして?キミも行くんだから良いでしょ?」


 どういう理屈だ。

 ・・・・・・まぁ確かに見てくれは子供だが。


「私もある程度は戦えますし、それにお母様の許可を取って無いですよね?」

「ぅ・・・・・・それは・・・・・・そうだけど。」


 お互い沈黙したまま宿の前に到着する。


「ありがとうございました。」

「・・・・・・ねぇ、本当にだめ?」


「私達のパーティは明日が初めてなので、安全の保証が出来ないんです。すみません。」


 そのまま無言で駆けていく少女。

 まぁ、仕方ないよな。


*****


 早速買った服を着てみた結果。


「ちょっと、この服ものすごく恥ずかしいのだけれど!」

「そう?ボクは平気だけど・・・・・・ちょっとボロいね。」


「師匠の着ていた服でもここまで酷くはなかったぞ。」

「めいど服ほどじゃないけど動きやすいにゃ!でもスースーするにゃ。」


「これは・・・・・・ちょっと。」

「ぅ・・・・・・は、恥ずか、しぃ。」


 着衣に無頓着な俺でも酷いと思うくらいだ。

 年頃の女の子なら死にたくもなるだろう。


 逆に奴隷のコスプレだと思えば非常に出来が良いのではないだろうか。

 それに加え、俺が土で作った武器を持つ事でより一層貧相さが際立つ。


 これらも失くしたところで元はただの土だ。懐は痛まない。

 視界を妨げる兜や、動きが制限される鎧は基本的に着けないようにしている。


 いくら堅めても所詮は子供の体格であるため、腕力のある魔物相手だと吹き飛ばされるのがオチだからだ。

 基本は回避。そういう意味では壁役の居ないパーティなので少し不安が残る。


 それでも気休め程度に籠手や胸当て、盾くらいは必要か。

 まぁ、それは後で一人ずつ必要な物を聞けば良いだろう。


「さっき言った通り、起動語で戻ると持ち物が全部無くなっちゃうからさ。」

「理屈は分かる、分かるわ、理屈は。けれど、これは・・・・・・。」


 確かに言いたい事は分かる。

 俺くらいの子供が着ていればただの貧乏な子供にしか見えないのだが、リーフやヒノカのように少し育ってきている女の子が着ていると生地の薄さも相まって・・・・・・ぶっちゃけエロい。


「うむ、少し露出が・・・・・・な。」

「涼しくて良いけどにゃー。」


「そういう事では無いのよ、サーニャ。そうね・・・・・・何か安い生地を探してきてくれるかしら。今は暑いし、薄手のものが良いわ。それで外套を作って羽織りましょう。」

「うむ・・・・・・そうだな。」


 こうして、迷宮都市での初日は準備に奔走して終わったのだった。

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