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22話「使い魔」

 瞼に射す光に目が覚めた。

 寝ぼけ眼のまま起き上がり、窓から空を確認する。

 まだそんなに日は高くないようだ。


「・・・んぅ、おはようにゃ~。」


 彼女も目覚めたようで、くーっと身体を伸ばしている。


「おはよう、良く眠れた?」

「うん!このベッドは凄いにゃ!フカフカにゃ!」


 昨日も言ってたな、それ。


「それで、キミはこれからどうするの?」

「んー、狩りにゃ!」


「あー・・・そうじゃなくて、これから先の事。」

「ん~・・・・・・、狩りにゃ?」


 ダメだ、話が進まんぞ。


「えーっと・・・・・・前に住んでた場所を追い出されたんだよね?」

「うぅ・・・・・・そうだったにゃ・・・・・・。」


「それで、新しい住処とか行く当てはあるのか?って事。」

「新しいお家・・・欲しいにゃ・・・。」


「何も予定が無ければ私の所に来る?」

「お、お家行っていいにゃ・・・?」


「うん。だけどちょっとやって貰わないといけない事があるけど。」

「頑張るにゃ!何でもするにゃ!」


「それじゃあこれで耳と尻尾を隠して私に着いて来て。」


 昨日準備しておいたフードマントを渡す。


「・・・・・・暑いにゃよ?」

「その耳と尻尾は目立っちゃうから、少しだけ我慢してね。」


 この時期にフードを被っているのもどうかと思うが、亜人だとバレるよりはマシだろう。


「ちゃんと決まればそれはいらなくなるから、今だけ、ね。」

「うー、分かったにゃ。」


「よしよし、偉いぞ、タマ。」


 頭を撫でてやる。


「・・・たま?」

「名前が無いと不便だからね。猫ならやっぱり【タマ】が定番かと思って。【ミケ】の方がいいかな?」


 毛並みは三毛ではないが。

 毛の色で名付けるなら【シロ】だが・・・それは犬っぽい。


「あ、あちしは【タマ】でも【ミケ】でも猫でもないにゃ!立派な獣人のサーニャだにゃ!」

「そっか。私はアリューシャだよ、よろしくね。」


「あ、あるー・・・さ?」

「アリスで構わないよ。」


「わかったにゃ!あるー!」

「・・・まぁ、それでいいや。じゃあちゃんと付いてきてね。」


「はいにゃ!」


*****


 宿を出て学院へと向かう。

 サーニャは暑さでフラフラとしているが、もう少し我慢してもらおう。

 人々の視線を浴びながら通りを進み、何とか学院の正門まで到着した。


 まずはここの突破だな。

 門番に挨拶して学院証を見せる。


「あちらの方が学院に用があるというので案内してきました。通してもらっても構いませんか?」


 サーニャは薄く微笑み、しずしずと頭を下げる。

 フードからちらりと見える口元は妖艶な雰囲気を醸し出しており、門番も思わずゴクリと生唾を飲み込むほどだ。


 よしよし、ちゃんと言ったとおりにやってるな。


「し、失礼ですがお顔を拝見させて頂いても?」

「あ、門番さん。あの方の国では結婚した男性以外に素顔を見せてはいけない、という風習がありまして・・・。」


「そ、そうなのか!?あ、いえ、し、失礼しました!どうぞお通り下さい!」

「ありがとうございます。どうぞこちらへ。」


 門番に礼を行ってサーニャの手を引いて敷地内へ入る。


「も、もう限界にゃー・・・。」

「あそこの建物の中は涼しいから、もう少しだけ頑張って。」


「わ、分かったにゃー・・・。」


 ヨロヨロと歩くサーニャを引きずり、やっとの思いで管理部のある建物に辿り着いた。

 建物内は空調が効いており、少し寒いくらいだ。

 今日は休日ということもあって生徒の姿は見られず、窓口も半分以上が閉められている。

 騒ぐサーニャを捨て置いて開いている窓口へ行き、声を掛ける。


「すみません、使い魔の登録をしたいのですが。」


 この学院には使い魔制度という制度がある。

 生徒は使い魔を持っても構わないという制度だ。

 一体目は無料で、二体目以降は登録料に金貨一枚。ただし、魔物は不可。


 なら何が可能なのかというと、登録率の高いものが”人間”である。

 貴族が連れてきた従者や買った奴隷なんかを登録して、身の回りの世話をさせたりしているのだ。

 あとは猟犬や伝書鳩などの動物。こちらの方が”使い魔”っぽい。


 要するに、”使役動物を学内に持ち込む制度”である。


「はい、こちらの用紙に記入をお願いしますね。」


 渡された登録用紙に必要事項を記入し、提出する。


「はい・・・はい・・・、それでこのサーニャちゃんという猫ちゃんはどちらに?」

「あちしは猫じゃないにゃ!」


「あー、もうそのマント脱いでいいよ。」

「ホントかにゃ!やったにゃ!涼しいにゃ~~!!」


 ババっとマントを脱ぎ捨てると現れるピンと立った耳に嬉しそうに跳ねる尻尾はどう見ても猫である。


「あの子です。あーもう、ほら暴れないで。マントもちゃんと拾って。」

「ひっ・・・!じゅ、獣人・・・!?」


 思いがけない事態に固まってしまう受け付けのお姉さん。


「何か問題ありますか?魔物ではありませんが。本人の了承もちゃんと取ってありますよ。そうだよね、サーニャ?」

「あちしはあるーと暮らすにゃ!」


「し、しかし獣人の使い魔など私の判断では・・・・・・。」


 人間も猫もOKなのになぁ。


「それなら学院長に確認を取ってもらって良いですか?」

「そ、そうですね!そうしましょう!少々お待ちくださいね。」


 俺の提案にホッとした様子で奥に駆けて行く。

 時間が掛かるかと思ったが、五分もしない内に戻ってきた。


「その子を連れて学長室まで来るように、との事です。」

「学長室ですか・・・、分かりました。行こう、サーニャ。」


「分かったにゃ!」


*****


 学長室にある隠し扉の奥。

 そこにはこの学院の創始者で、俺と同じ転生者でもあるレンシアがゴロゴロとしていた。

 彼女は不老の身体を持っており、見た目は10歳くらいの女の子だが、立派なロリBBAだ。


『おぅ、来たか。久しぶりだな。』


 むくりと起き上がったレンシアの向かい側にちゃぶ台を挟んで座った。


「サーニャもここに座って。」

「はいにゃ。」


 隣にサーニャを座らせる。

 挨拶も早々に早速切り出す。


『一ヶ月ぶりくらいか。それで、使い魔の許可は貰えるのか?』

『それは許可出してるよ。もう書類も出来てると思うぜ。』


『じゃあ何で呼んだんだ?』

『どんな獣人を連れてきたのかと思ってな。』


 随分と暇なようだ。仕事してるのか?


『見ての通り。獣人と言うよりは亜人だけど。』

『確かにそうだな。モフモフ度が足りん。残念だ。』


『ケモナーの方でしたか。』

『うむ。それで、一体何処で拾ってきたんだ?』


『昨夜街の裏通りで。まぁ何というか・・・餌をやったら懐かれた、みたいな?』

『街中に居たのかよ。よく騒ぎにならなかったな。てか、よく入り込めたな。』


『壁を越えて出入りしてたらしいぞ。』

『マジかよ、結構高いぞあれ。』


『早朝から森で狩りして夜は街に入って野宿してたっぽい。』

『なるほどな。でも何で獣人が人里に・・・?』


『追い出されたんだとさ。』

『追い出された?』


『両目の色が違うと不幸を呼ぶんだと。』

『あぁ~、そう言うパターンね。それでこの辺りに流れ着いたって所か。』


『概ねそんなところだと思う。』

『つまりオッドアイのモフモフを探せばオレも猫耳ちゃんゲットだぜ?』


『中々見つからんと思うけど。』

『ですよねー。まずは獣人の集落から探さないとな。』


『誘拐でもするつもりか。』

『流石にそれはな・・・。オッドアイの子が産まれたら学院で引き取るって通達すればいずれ・・・。』


『気の長い話だ。』

『まぁ、時間はたっぷりあるさ。』


 異なる言語で話す俺達をハテナ顔で見つめるサーニャ。


「・・・何の話してるにゃ?」


 いつもの調子でレンシアと日本語で会話してしまったが、普段は人前でそのような事はしない。

 何というか、頭の悪・・・・・・無邪気なサーニャに二人共油断してしまっていたのだ。


 まぁいいかとレンシア共々アイコンタクトで開き直った。

 レンシアが共通語でサーニャに語りかける。


「こんにちは、私はレンシア。キミの名前は?」

「あちしはサーニャだにゃ!」


「アリスにサーニャがどんな子なのかを聞いていたんだよ。」

「そうなのにゃ?」


「うん、両目の色が違うから追い出されたって聞いたよ。」

「そうにゃ・・・。あちしの目には悪魔が棲んでたから追い出されちゃったにゃ・・・。」


「へぇ、悪魔が?」

「でも今は居ないから安心するにゃ!あるーが退治してくれたにゃ!」


 どういう事だとレンシアがこちらに視線を向ける。


『・・・退治したのか?』

『まぁちょっと霊能力商法みたいなのをな。そうでもしないと顔見せてくれなかったしさ。俺が視た限りではただの遺伝的なもんだと思うよ。変な魔力の流れもないし。』


 納得したのか、サーニャに視線を戻した。


「それでアリスの使い魔になるって決めたの?」

「・・・つかいまって何にゃ?」


 再度こちらに視線が向く。

 忙しい奴だ。


『・・・おい。』

『行く所が無いなら俺の所に来るか聞いただけだからな。使い魔制度が使えそうだったからそうしただけだよ。侍女なんかを使い魔登録してる貴族だっているし、問題無いだろ?』


『それはそうなんだが・・・。教えないのか?』

『使い魔として使う気も無いし、説明するのは面倒そうだから・・・。』


『諦めんなよ!』

『じゃあ代わりに説明してやってくれ。』


『まぁ・・・それは良しとしとこう。』


 コイツも諦めやがった。


「簡単に言えば・・・そこのアリスと一緒に暮らすのかって事かな。」

「そうにゃ!あるーのお家に住むにゃ!・・・・・・ダメにゃ?」


「いや、大丈夫。もう許可はしてあるから今日から一緒に住めるよ。」

「そうにゃ?ありがとにゃ!」


『それで、パーティーメンバーには言ってあるのか?』

『いや・・・、これからだな。』


『・・・・・・ま、頑張れよ。そのモフモフに免じて餞別くらいは送ってやるよ。』

『そいつはどうも。』


 そう、寮の皆には何も言っていないのだ。

 しかも朝帰り。

 ・・・・・・怒られるだろうな。


 小さな溜息を一つ吐いてレンシアの部屋を後にした。

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