表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/302

145話「和平交渉」

「さて、サラは何処だろう? やっぱり展開的には上の階かな?」

「・・・・・・きっと、”あの人”が使っていた書斎じゃないでしょうか。」


 ソフィが”あの人”と呼ぶのは故ラムス氏の事だ。

 組を乗っ取ったんだし、当然と言えば当然か。


「場所は分かる、ソフィ?」

「はい、ご案内します。」


 ちなみにソフィは裸ではなく、あの部屋にあった娼婦用の衣装を着ている。

 なんか色々透けている様な気もするが、裸よりはマシ・・・・・・と言いたい。


 屋敷の中を探せばまともな服はあるだろうけど、それはサラを助けてから探すことにしよう。

 流石に街中は歩けないからな・・・・・・。

 ソフィの姿に視線を引き摺られながらも早足に廊下を進み、階段に足を掛ける。


「あ、ご主人様! あそこです!」


 ソフィの案内で、辿り着いたのは屋敷の最上階。

 まぁ、最上階といっても三階しかないので割とあっさり着いたが。

 途中に配置されていた組員達にもあっさりと眠ってもらった。

 そして彼女が指した先には、他の部屋よりも少し大きくて装飾が施された扉。


「うーん・・・・・・。」

「どうしました、ご主人様?」


「いや、随分拍子抜けだなぁと思って。」


 そう、あっさり過ぎるのだ。

 途中で会った組員が大声をあげても、他の場所に配置されている組員がやって来ないのである。

 というか見えてる位置にいた奴すらそっぽを向いて、我関せずと言った感じだった。


 指定された場所”だけ”は守るが、後は新しい頭目のお手並み拝見ってところだろう。

 おそらく旧体制派の組員か。


 だが、相手だって何も考えずにサラを誘拐したりはしない筈だ。

 俺が来ると分かっているのだから、何らかの策を弄しているに違いない。

 そして俺をどうにかして倒して求心力を得、組に対する支配を強めたいのだ。


「・・・・・・。」

「あの・・・・・・行かれないのですか? ・・・・・・天井に何か?」


 ジッと天井を見つめる俺と同じ様に視線を上げるソフィ。


「ちょっと・・・・・・妙な気配がね。」

「・・・・・・気配?」


「うん・・・・・・・・・・・・ねぇ、屋根裏ってどこから行ける?」


*****


「あの男と外套を被ってる奴の事わかる、ソフィ?」


 声を押し殺し、同じ様に屋根裏の隙間から窺うソフィに話し掛ける。

 眼下の書斎部屋に居るのは三人。


 新しい頭目らしき男とフードを目深に被った人物、そして椅子に縛られているサラ。

 フードの人物が纏った外套からローブの裾が見えており、雇われた魔法使いの可能性が高そうだ。

 見えない場所にも魔力探知を掛けてみるが、感知出来る範囲に反応は無い。


「外套の人は心当たりありませんけど、もう一人は”あの人”の右腕だったダニアンさんです。・・・・・・あの、ご主人様はダニアンさんと面識ありませんでしたか?」

「あぁー・・・・・・そう言われれば見た事あるかも・・・・・・。」


 前に来た時に色々やらせた奴だったか。

 しかし、右腕に裏切られるとはな。


「部屋の奥にある扉は?」

「寝室という話は聞いたことがあります。・・・・・・けど、”あの人”は誰も立ち入れさせなかったみたいです。」


 金庫でも置いてあるのかもしれないな。

 少し遠いが、妙な気配も感じられない。


「そ、それで・・・・・・どうするんですか、ご主人様?」

「んー・・・・・・そりゃあ、ここから奇襲・・・・・・かな。向こうは気付いて無いみたいだし。」


 隙間から数本の触手を侵入させ、二人へ向かって伸ばしていく。

 そして、取り囲んだところで一気に縛り上げた。


「――――ぐぁっ!」「――――がはっ!」


 楽勝だったな、こりゃ。

 もがく二人をしっかりと拘束し、ソフィと共に部屋の中へ降り立つ。


「ソフィ、サラをお願いね。」

「はい、ご主人様!」


 ソフィがサラに駆け寄り、縛られている縄を解く。


「大丈夫ですか、お嬢様?」

「えぇ、大丈夫・・・・・・って、な、なんて格好してるのよソフィ!」


「あ、あはは・・・・・・色々、ありまして。」


 困った様にソフィが笑う。

 何があったのかサラに悟らせないよう言葉を濁したのだろうが、彼女にはそれだけで解ったみたいだった。

 サラがソフィの腰に手を回して抱き締める。


「私の所為で、ごねんね・・・・・・ソフィ。」

「ご主人様が助けてくれましたから、大丈夫ですよ。お嬢様は何もされませんでしたか?」


「うん・・・・・・平気よ。」


 ホッと胸を撫で下ろす。

 見る限り怪我もしていない様だ。

 となれば、後はコイツらの処理だけか。

 ダニアンはギリギリと歯を噛み締めながらコチラを睨みつけ、吼える。


「お、お前っ・・・・・・どうしてっ、天井からっ・・・・・・!?」

「いやまぁ、屋根裏に潜んでた暗殺者を倒したついでに。」


「な、に・・・・・・っ!?」

「ダメですよ、お金をケチって三流を雇っちゃ。」


「ク、クソォ・・・・・・ッ!」


 とはいえ、可愛い後輩ちゃん先生達に色々教わっていなければ、看破するのは難しかっただろう。

 出来たとしても、戦って勝てていた保障もない。後輩ちゃん様様である。


 練習試合で完膚無きまでに叩きのめされた甲斐はあったわけだ。

 ま、今でも彼女らには勝てないけど。


「さて、そっちは・・・・・・っと。」


 フードの人物に目を向ける。

 表情は相変わらず見えないが、外套から魔法使いのローブが裾を覗かせている。

 コイツと戦っている隙を突いて、屋根裏の暗殺者が攻撃を仕掛ける算段だったのだろう。


「とりあえず顔を拝ませてもらおうかな。」


 触手を使ってフードを剥ぎ取ると、15~6歳くらいの顔に刺青を入れた少年が現れた。

 あまり暮らしは良くないのか、少し頬がやつれている。

 しかし、少年の瞳にはギラギラと怒りの焔が灯り、脆弱さは微塵も感じられない。


「お前の・・・・・・オマエの所為で・・・・・・っ!!」


 ダニアンよりも鋭く、憎しみの籠った視線を向けてくる。

 随分と俺に恨みがあるらしい。

 ・・・・・・ってか、誰だコイツ?


「あの、人違いじゃないです?」

「お前みたいなヤツを誰が忘れるかよ!」


「あー・・・・・・そりゃごもっともで。」


 という事は俺が忘れてるだけか。

 でも最近はギルドの冒険者も絡んできたりしないしなぁ・・・・・・。

 ん・・・・・・ギルド・・・・・・?


「えーっと・・・・・・もしかして、前にギルドで決闘した人?」


 刺青で気付かなかったが、よくよく思い返してみればあの頃の面影がある。

 変われば変わるもんだな。


「そうだよ! ふざけやがって クソッ・・・・・・くそぉっ! 死ね!! ”(フォム)――」


 後ろ手に縛っている少年の手に、彼の内に流れる全ての魔力が異常な速度で集まり、凝縮していく。

 っ・・・・・・こんな所で火の魔法とか正気か!?

 慌てて触手を伸ばし、集まっていた魔力を霧散させる。


「――(デウィード)”!」

「あっぶな・・・・・・!」


 間一髪、魔法は不発に終わった。


「お、おいっ! オレまで巻き込む気か!?」

「うるさいっ! くそっ・・・・・・どうして魔法、が・・・・・・っ!」


 ダニアンが抗議の声を上げるも、少年の狂気を帯びた眼光に黙らされる。

 魔法が発動していれば、ダニアンどころかこの部屋丸ごと・・・・・・術者本人でさえ焼き尽くしていただろう。


 魔力を使い果たした少年の身体から急速に力が抜けていく。

 そして、最後まで悪態を吐きながら彼の意識は途絶えた。

 触手の拘束を解き少年を床に横たえると、か細い呼吸を繰り返しながら小さく痙攣するようにのたうつ。


「ご主人様・・・・・・その人、どうしたんですか?」

「魔力を全部使って自爆しようとしたんだよ。ここに居る皆を道連れにしてね。」


「じ、自爆!? ・・・・・・もう平気なんですか?」

「うん、大丈夫。」


 青い顔をしながらダニアンが俺に向かって叫ぶ。


「さ、さっさとソイツを殺せ!」

「殺せって・・・・・・一応仲間なんじゃないの?」


「し、知るかっ! 金で雇っただけの貴族崩れの魔法使いだ!」


 貴族崩れ・・・・・・か。

 勘当でもされたのだろう。


「どうなさるんですか、ご主人様?」

「まぁ・・・・・・そのまま放っておくよ。助ける義理も無いしね。」


 仮に助けたところで、また命の危険に晒されないとも限らない。


「それより、残ってるのはアナタだけですよ、ダニアンさん?」

「オ、オレも殺す気か・・・・・・っ!」


「いえ、とりあえずこの組を纏めておいて貰いたいので殺しはしません。」


 強張っていたダニアンの表情が若干緩む。


「・・・・・・でも、”話し合い”は必要ですよね?」

「ヒィィッ・・・・・・!」


「サラとソフィは少しここで待ってて。何かあったらすぐに呼んでね。」


 そう言い残し、俺は抵抗するダニアンを引きずって奥の扉に手をかけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ