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136話「しろめし」

「ひっく・・・・・・ごめんね、アリスちゃん。」


 うぅ・・・・・・今度はロールか、忙しい。

 俺の方が泣きそう。


「いや、知らないものは仕方ないんだし、誰も悪くなんてないから泣かないで、ロール。」

「でも・・・・・・アリスちゃんには好きな物、食べて欲しくて・・・・・・。」


「わ、分かったよ・・・・・・。お米はあるって言ってたよね? ヒノカ、お願い出来る?」

「む、作るのか? 私は構わんが。」


「そんな事、アリスちゃん達にさせるなんて・・・・・・。」

「誰も作り方分からないんだし、仕方ないでしょ。・・・・・・そうだ、ロールにも手伝って貰おうかな。」


「ええっ!? 私、料理なんて出来ないよ!?」

「大丈夫だよ。簡単な所だけ手伝って貰うからさ。一緒に作って一緒に食べよう? 私はその方が楽しいと思うけどな。」


「・・・・・・良いの?」

「今日の主役はロールなんだし、ロールのしたいようにすれば良いよ。誰かが文句を言ってきたら、”王族”の私が直々にお仕置きしちゃうからさ。」


「あははっ・・・・・・うん!」


 ようやく笑顔が戻ったロールと一緒に、マルジーヌの案内で厨房へと向かう。

 俺とヒノカを合わせて計四人。

 ホールに残った子達はリーフに任せておけば安心だろう。


 厨房に足を踏み入れると料理人たちが一斉に手を止めるが、マルジーヌが気を利かせ「すぐ作業に戻るように」と指示を出した。

 先程の料理人に断り、厨房の一角を使わせて貰う事にする。


「まずは米を見たいのだが・・・・・・。」

「でしたら、こちらへどうぞ。」


 厨房の奥へと通され、そこから地下へ降りると貯蔵庫になっており、隅に大きな米俵が鎮座していた。

 ヒノカは米俵に手を突っ込み、一摘みほどの米粒を取り出して掌に転がす。


「如何でしょうか、ヒノカ様。」

「ふむ・・・・・・少々古いが、特に問題は無いな。」


「でも、どうしてお米があるんですか? 普段食べていないみたいですけど。」

「お恥ずかしい話なのですが・・・・・・以前、大量の食材を買い付けた時に紛れてしまいまして。」


 米俵が紛れるとか、随分豪快な買い方である。

 「ここからここまでくれ」みたいな感じか?

 まぁ、今日みたいなパーティを開くなら、それくらいは必要なのかもしれない。

 だが今回は怪我の功名となったようだ。

 無ければ無いで、ロールはずっと気にしてしまうだろうから。


「よし、ではアリスはいつもの鍋をいくつか作ってくれ。どうせ一つでは足りないだろうからな。他の準備はこちらで進める。」

「ん、分かったよ。」


*****


 俺とヒノカとロール、そして先程の料理人の四人で米を研ぐところから始める。

 作るついでに料理人に覚えてもらっておけば、俺達が追加で作る必要もないだろうという魂胆だ。

 ちなみに名前はモック。この厨房で一番偉いらしい。

 緊張の所為で手足が小刻みに震えてしまっており、顔は真っ青。

 彼にとっては「王族に調理を教わる」事態になってしまったのだから、相当なプレッシャーだろう。

 胃に大穴が空かなければ良いが。


 マルジーヌはロールの補佐について貰っている。

 ロールの事は彼女に任せておけば問題無いだろう。


 指示通りに手を動かし、ヒノカのチェックが通れば暫く置いてから火に掛ける。

 後の炊き具合の確認なんかはヒノカにお任せして俺達の作業は終わりだ。


 その間もモックは血眼になりながらメモなんかを取っている。

 自分の命が掛かっていると思い込んでいるので必死だ。

 そんなつもりはないと説明もしているが、やはり”王族”という存在はデカイらしい。


 そして炊きあがった土鍋を三つホールへと運び、その内の一つをサーニャ達のいるテーブルに並べた。

 洒落た豪華な皿の横に土鍋とか違和感バリバリである。

 残っている鍋は料理人たちが食べる分として置いてきた。味も覚えてもらわないといけないからな。

 ヒノカが土鍋の蓋を取ると、湯気と共に炊き立てご飯の香りが周囲に広がった。


「おおっ!? 美味そうにゃ!」

「サーニャは少しだけ待ってくれるかな。一番はロールね。」


「え、私?」

「この鍋はロールが研いだのだからね。・・・・・・はい、どうぞ。」


 ご飯を盛った茶碗をロールに手渡す。


「ありがとう・・・・・・アリスちゃん。」

「あるー! あちしのはー?」


「はいはい、これがサーニャの分ね。」


 ロールより多めに盛った茶碗をサーニャに渡すと、フィーとニーナも群がってくる。


「ボクも食べるー!」「・・・・・・わたしも。」

「はいはい・・・・・・ちょっと待ってね。」


 二人にも茶碗を手渡し、リーフとフラムに声を掛ける。


「リーフとフラムはどうする?」

「そうね・・・・・・少しだけ頂こうかしら。」「ゎ、私も、少し・・・・・・だけ。」


「了解。」


 最後はヒノカと俺の分。それで綺麗に売り切れてしまった。

 空になった土鍋を持ってマルジーヌが下がる。早速追加で作らせるのだろう。

 まぁ、ウチのパーティの食いしん坊たちには全然足りないだろうしな。


「よし、それじゃあ食べようか・・・・・・ってもうサーニャたち食べてるし・・・・・・。」


 てか食べ終わってるじゃねーか!


「もう無いにゃ?」

「今次のを作ってもらってるから、それまで待とうね・・・・・・。」


「う~・・・・・・わかったにゃ~・・・・・・。」

「ロールはどう? 口に合うかな?」


「い、今から食べてみるね。」


 ロールはフォークで少しだけご飯を掬い口の中へ運ぶ。


「やわらかくて、少し甘くて・・・・・・美味しい。」

「そっか、それなら良かった。じゃあ私たちも食べようか、ヒノカ。」


「うむ、そうだな。」


 ヒノカは箸でテーブルの肉料理を掴み、ご飯の上でワンクッション置いてから頬張る。

 そして白飯をかきこむ。咀嚼する。


「ふむ・・・・・・やはり合うな、コレは。」

「じゃ、私も。」


 ソース・・・・・・いや、タレをたっぷり付けた肉をご飯の上に乗せ、少し齧ってから口の中へ白飯を放り込む。

 濃い味付けがご飯によって中和され、程良い濃さへと変わっている。

 何と言うか、やっぱご飯があると落ち着くな。

 そしてタレだけ付いたご飯もまた美味い。


「な、何してるの・・・・・・アリスちゃん?」

「こうやって食べると美味しいんだよ。」


「そ、そうなの・・・・・・?」

「折角だし、ロールもやってみたら?」


「う、うん・・・・・・じゃあ・・・・・・。」


 恐る恐るフォークを伸ばし、肉を一切れご飯の上に乗せた。

 それを少し齧ってから、そっとご飯を掬って口の中へ運ぶ。


「わ・・・・・・美味しい。」


 周囲でそれを見ていた貴族たちは、他のテーブルへ運ばれた土鍋へ群がり始める。

 あの分だと、あちらもすぐに無くなりそうだな。


 しかし――

 豪華絢爛なパーティー会場で煌びやかなドレスを着て、茶碗を片手に白飯をかっ喰らう。

 酷い絵面だな、これ。

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