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98話「学校の七不思議」

 体育館を調べてから俺達が次に向かった場所は、その近くにあったプールだ。

 入口には男女の更衣室があり、そこから青天井のプールサイドへ抜けられる造りになっている。

 両方の更衣室に何も無い事を確認してプールサイドに出ると、プールに水が張られている所為か、冷んやりとした空気が首筋を撫でた。


「ここがプール? ボクたちの学校のより小さいね。」


 いや、これが標準か少し大きいくらいだろう。

 縦25メートルにコースが六つ、小学校なので少し浅めになっているようだ。

 流石に誰も泳ごうとは言い出さない。


「な、何もないなら早く行こうよぉ~・・・・・・。」

「ラ、ラビの言う通りね。少し冷えるし、先を急ぎましょう。」


「いや、残念だけど・・・・・・あそこに何かいるみたい。」


 プールの一角を指差す。

 他の皆には見えないだろうが、水の中に魔力の塊が沈んでいるのが視える。


「も、もうやめてよぉ~・・・・・・。」


 魔力が沈んでいる辺りに近づき、そこへ魔手を伸ばしてみた。

 すると、何かが魔手に絡み付き、水の中へ引き込もうとグイグイ引っ張られる。

 こちらも負けじと引き揚げようと応戦するが、どうも何かが引っ掛かっている様子。

 どうにも埒が明かないので、何かが沈んでいる辺りの水を操作して退かした。所謂モーゼ割りである。


「キャアアアアアアッ!!!」


 現れたそれを見て悲鳴を上げるリーフたち。

 ・・・・・・実は肝試しを楽しんでるんじゃなかろうか。


 現れたのは長い、長い髪の水着を着た女の子。

 手とその長い髪で魔手に絡みついていた。

 長い髪から覗く瞳は虚ろで、青白い唇はボソボソと何かを呟いている。

 どうやら長い髪が排水口に絡まっているらしく、その所為で引き揚げられなかったようだ。

 絡まっていた髪を切り、ようやく陸揚げが叶った。

 ・・・・・・旧スクではなかったか。


 相変わらず魔手にしがみ付いている少女の声を聞き取ろうと、顔を近づける。


「たす・・・・・・けて・・・・・・たす・・・・・・けて・・・・・・。」


 か細い声でずっと同じ言葉を繰り返している少女に声をかけた。


「ええっと・・・・・・もう大丈夫だと思うんだけど、他に何かある?」

「ふぇ・・・・・・?」


 目をぱちくりとさせる少女と目が合った。

 みるみる頬が紅潮していく。


「ひ、ひぁぁ・・・・・っ!」


 魔手の拘束を解いたスク水ちゃんは変な悲鳴をあげてボテッとプールサイドに転がり落ち、プールの方へ這いずり始める。

 それを慌てて止める俺。


「ちょ、ちょっとちょっと! また溺れる気!?」

「ぁれ・・・・・・? くるしく・・・・・・ない?」


「水の中からは引き揚げたからね。他に痛い所とかは・・・・・・太腿が擦り剥いちゃってるね、さっき落ちた時かな?」


 ブルマちゃんの時と同じ要領で治癒魔法をかけると、ピクンとスク水ちゃんの身体が跳ねる。


「ひぁぅ・・・・・・っ!」

「ごめん、痛かった?」


「ううん・・・・・・なんか・・・・・・げんき、でた。」


 心なしか顔色も良くなった・・・・・・ような気がする。

 治癒魔法に使った魔力が少し多かったのかもしれない。

 魔力体である分、魔力に対して過剰に反応してしまうのだろう。

 そして治療が終わると、体育館の時と同じく天からの光が少女に降り注いだ。


「ぁ・・・・・・やだ・・・・・・やだ! わたし、ずっとこの人と一緒にいる!」


 光から這うように逃げる女の子に、光は容赦なくピッタリと貼り付いている。

 スク水ちゃんは両手足を使って俺に抱きつくと、髪を振り乱して掠れた声で嗚咽を漏らす。


「もういやぁ・・・・・・いやなのぉ・・・・・・。つめたいのも、さむいのも、くらいのも・・・・・・いやなのぉ・・・・・・。」


 こ、これが・・・・・・世に言うだいしゅきホールドというヤツなのか・・・・・・!

 ただまぁ、髪でグルグル巻きにされるのは少し違う気がするが。


 泣き腫らす少女に、天から注ぐ光。

 女の子は天に召されました、めでたしめでたし。という訳ではないのか?

 だがこの子を連れて逃げるとしても、建物ですら突き抜けてくる光を相手に一体何処へ?

 ・・・・・・ダメだ。情報が少な過ぎる。

 そもそも動けねぇ。


「やめて・・・・・・やだ! やだ! や――」


 そして、少女は俺の手元に星の一つ入った水晶玉を残し、涙を流したまま消え去ってしまった。

 いきなり解放された俺はバランスを崩してプールサイドに尻もちをついてしまう。


「いてて・・・・・・クソ、どうなってんだ?」


 起き上がろうとした俺の胸にフラムが飛び込んでくる。


「ア、アリスぅ・・・・・・アリスぅ・・・・・・ひっく・・・・・・うぁ・・・・・・うわぁぁぁん。」

「ちょ・・・・・・急に泣いてどうしたの、フラム?」


「どうしたの、じゃないでしょう!? 貴女、平気なの!?」

「へ・・・・・・何が?」


「何がって・・・・・・さっきの子に襲われていたじゃない!」


 ・・・・・・確かに、傍から見ればそう見えるかもしれないな。


「あの子は別に私に何かをしようとしていた訳じゃないよ。ただ――」

「ただ・・・・・・?」


「ずっと冷たい水の底にいたから、人恋しかったんだよ。私は大丈夫だから、フラムも泣かないで。」

「ぐすっ・・・・・・うん・・・・・・。」


 今度こそ立ち上がろうとした俺に、フィーが手を差し出す。


「・・・・・・アリス、怪我は無い?」

「うん、平気。ありがとう、お姉ちゃん。」


 俺はそっとフィーの手を握り返した。


*****


 次に訪れた場所は図書館。

 図書室でない辺りが、きっと良い所の学校なんだろうなと思わせる。


「随分と・・・・・・静かね。」


 響かないよう小さく喋るリーフの声もやけに大きく聴こえる。

 本の寝息でさえも耳に届いてしまいそうな程の静寂だ。

 外からの光も殆ど入らず、闇が濃い。

 しかし、その中にスポットライトを当てたように光る場所があった。

 受付のテーブルの上だ。


「何だろ、あの光。」


 光の場所へ足を向けようとすると、グイッとフラムに腕を引かれた。

 ギュッと俺の腕を抱え、離すまいとしている。

 きっと心配をしてくれているのだろうが、調べない訳にもいかない。


「えっと・・・・・・フラム。あの光ってる所を調べたいんだけど・・・・・・一緒に来てくれると心強いな。」

「う・・・・・・うん。」


 フラムの手を握り、大丈夫だからと声を掛けつつ光に近づいた。

 光が照らしている場所には、札の付いた鍵が一つ置かれている。

 札には「校舎」の文字。


「なるほど・・・・・・これで校舎に入れる訳ね。」

「ぁ、アリス・・・・・・あっちも・・・・・・。」


 フラムが指した二階の方へ目をやると、確かに同じ様な光が見える。


「おぉ、ありがとうフラム。あっちも行ってみよう。」


 ちゃんと調べる所を示してくれるのは親切設計だな。

 二階の光は本棚の一角を照らしていたので、その辺りの本を抜いて調べてみる。

 抜いた本をパラパラとめくったリーフが首を傾げた。


「ここの本、何も書かれていないわ。どうなっているのかしら?」


 背表紙にすら何も書いておらず、中身は白紙。

 まぁ、一冊々々中身を作るのが面倒だったからだろう。

 片っ端から本を抜いていると、本と本の間に挟まっていた紙が足下に落ちた。

 四つ折りにされていたその紙を開いてみると、「学校新聞」と書かれている。


「特集記事【学校の七不思議】について、か・・・・・・。」


 つまり、こいつがヒントと言う訳だろう。

 順番に目を通してみる。

 要訳は以下の通り。


 <一ノ怪> プールで溺死した生徒の霊に溺れさせられる。

 <二ノ怪> 西校舎階段踊り場の鏡に映る霊に、鏡の中へ連れて行かれる。

 <三ノ怪> 体育館に頭でドリブルする霊が現れ、頭を奪ってゴールしないと自分の頭を取られる。

 <四ノ怪> ここだけ黒く塗り潰されている。

 <五ノ怪> 四階にある開かずの教室の窓から飛び降りる生徒の霊が見える。それを見てしまうと同じ様に飛び降りて死んでしまう。

 <六ノ怪> 図書館に本を探す生徒の霊が現れる。本を見つけて渡してあげないと呪い殺されてしまう。

 <七ノ怪> 鋭意調査中・・・・・・と書かれている。


「七つ目が書かれていないじゃない、何が七不思議よ。四つ目も塗り潰されてしまっているし。」

「まぁ、七つ全て知ったら何かが起こるってのが定番だしね。」


「な、何よそれ・・・・・・何が起こるって言うのよ。」

「それは分からないけど・・・・・・この迷宮を抜けるには調べないとダメだろうね。多分。」


 ここまであからさまにヒントを出しているのだし、ひとまずはこれに沿って進めるのが良さそうだ。

 新聞を鞄に仕舞うと、図書館の中にすすり泣く声と同時にチリンチリンと鈴の音が響き渡った。

 サーニャの耳がピクピクと反応する。


「な、何この音!?」

「多分、六番目の本を探す生徒の霊ってやつじゃないかな。」


「ど、どうするのよ!?」

「とりあえず会ってみるよ。その子も助けてあげないとダメなんだろうし・・・・・・フラムもそれでいいかな?」


 フラムは俺の腕を抱く手に力を込めて、静かに頷いた。

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