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93話「さいきょうのぶき?」

 迷宮の入り口から一歩足を踏み入れた先は石造りの四角い部屋だった。

 四辺からは一本ずつ通路が伸びている。

 おそらく、四角い部屋を通路で繋げただけの普通のマップだろう。

 この部屋には目立った仕掛けなども無さそうだ。


「みんな揃っているわね?」


 誰も欠けていないことを確認し、リーフに答える。


「八人と二体。全員揃ってるよ。」


 流石に二桁の人数にもなると大所帯だ。

 キシドーとメイの分は食料を用意しなくても良いので準備する物は変わっていないが。


「よし、では進むぞ。」

「ボク、ヒノカ姉と一緒に先頭ね!」


 うずうずと歩き出したヒノカに、ニーナが小走りで続く。


「サーニャは前の二人に付いて行って。」

「分かったにゃ!」


 サーニャが軽快な足取りで前の二人に追いついたのを確認し、次の指示を出す。


「それから荷車かな。キシドー、メイ、お願いね。」


 キシドーが頷いて力を籠めると、土で作った荷車の車輪がゴリゴリと音を立てながらゆっくりと回り出した。

 強化魔法で替えが利くとはいえ、男手(?)があるのは安心出来るな。

 進みだした荷車の隣をしずしずとメイが歩く。


「次はフラムとラビ。疲れたら荷車に乗って良いからね。」


「ぅ、うん。」

「よーし、頑張るよ!」


 おっかなびっくり歩き出すフラム。

 それとは対照的に真新しいノートを広げて意気揚々とラビが足を踏み出した。


「お姉ちゃんとリーフは私と一緒に殿ね。」


「分かったわ。行きましょう、フィー。」

「・・・・・・うん。」


 部屋に誰も居なくなったのを確認し、皆に続いて俺も歩き出した。


*****


 先頭を歩くヒノカが、いくつ目かの部屋へ踏み入れる前に足を止める。


「先の部屋に魔物がいるな。」

「ヒノカ姉、あいつ色がヘンだよ。」


 ヒノカ達の位置まで進んで確認すると、先の部屋には紫色の肌をしたゴブリンが一体。手には刺付きのフレイルを握っている。

 あんな色のは外で見かけた事が無いが、所謂色違いモンスターというやつか。

 ラビの話によると、普通のより強いらしい。


「これ以上進むと気付かれるが・・・・・・どうする、アリス?」

「とりあえず、キシドーに行って貰おうかな。ただし、武器はラビの持ってるナイフでね。」


 ラビのナイフは前回の探索でガッツリと強化したものだ。

 幸い敵は一体なので、試し切りには丁度良い機会だろう。


「ふむ・・・・・・そうか・・・・・・。」


 一番槍を逃して少し残念そうな顔のヒノカ。


「い、一応援護は出来るように準備しておいてね。」

「うむ、分かっている。」


 ラビのナイフを持たせたキシドーの腿をポンと叩くと、ガチャガチャと鎧を鳴らしてゴブリンに突撃する。

 向こうもこちらの存在に気付き、キシドーを正面から迎え撃った。

 キシドーはゴブリンが振り下ろしたフレイルを見た目からは想像出来ない身軽さでヒラリと躱し、一瞬の隙を突いてゴブリンの胸にナイフを吸い込ませ――


 ――パァンッ!!!


「・・・・・・ぇ?」


 ナイフの切っ先がゴブリンの胸に触れたと同時に、ゴブリンの身体が弾け飛んだ。まるで風船のように。

 キシドーは気にした風もなく、魔物を倒した事を確認すると悠々と戻って来た。


「ね、ねぇアリス・・・・・・。今のは何かしら?」

「い、いや・・・・・・分かんない・・・・・・。えっと・・・・・・ラビは何か知ってる?」


 ラビがふるふると首を横に振る。


「まぁ、そうだよね・・・・・・。とりあえず調べてみるしかないかな。」


*****


「のびろ、にょいぼ~。」


 掛け声と同時に手に持った土の棒を伸ばしていく。

 棒の先端にはラビのナイフ。さらにその直線上には紫ゴブリン。

 10メートル――5メートル――3メートル――2メートル――1メートル――ツン。


 パァンッ!!


 ゴブリン爆散。


「う~~、つまんないにゃ!」

「ご、ごめんごめん。もう大体分かったし、次からは使わないよ・・・・・・。」


「それで、何が分かったのかしら?」

「えーっと、それはね――」


 十数体のゴブリンやオーク、コボルドなどを犠牲にして分かった事は、迷宮産武器の仕様である。

 迷宮産武器の攻撃判定箇所、例えばナイフで言えば刃の部分で敵モンスターに触れると、そのモンスターに攻撃力分の魔力が迷宮から流し込まれ、一定量蓄積されるとモンスターが消滅するのだ。

 斬りつけたり、突き刺したりする必要はなく、本当にタッチするだけで構わない。

 力のない女性や子供でも遊べるようにと配慮した結果なのだろう、多分。

 蓄積される魔力の許容量はモンスターごとに異なり、ヒットポイントの代わりとなっている。


 人間や味方モンスターに適用されない事は実証済みだ。

 受け渡しの時にさんざん触っていたしな。

 知らなかったとはいえ、気付いた時は背中に嫌な汗が流れた。

 訳の分からない内に爆死なんて勘弁願いたい。


 先程ゴブリンが破裂したのは、ナイフの攻撃力が高過ぎて一気に魔力が流れ込んだ所為だ。

 オーバーキルというやつである。

 かなりのチート武器を手にしてしまった感が・・・・・・。


 説明を聞いたリーフはあまり納得していない顔。


「触れただけで魔物を倒せるなんて俄かには信じられない・・・・・・けれど、実際に目の前で起こっているものね・・・・・・。」

「ふむ・・・・・・。それで、そのナイフはどうするのだ?」


「えーっと・・・・・・今までと変わらず、ラビの護身用ってことで。それで良いかな?」

「こ、こんなに凄いの持ってて良いの?」


「うん、ヒノカ達は使わないみたいだしね。」

「あぁ、私としてはその方が良い。退屈せずに済みそうだしな。」


 俺にとっては楽になるのでガンガン使いたいところだが、武闘派な子たちはあまり歓迎していないようだ。

 腕試しも兼ねて・・・・・・というかそっちがメインで来ているのに、あんな物を使ってしまうと意味が無いしな。

 まぁ、ラビの安全度が上がったと思えばそれで良いだろう。


「そう言う事みたいだから、これはラビが使って。・・・・・・言っておくけど、多分迷宮の外では同じ様に使えないと思うから注意してね。」

「そうなの?」


「戻ったら一応試してみるけど、多分無理かな。迷宮からの魔力供給が必要みたいだしね。」

「わ、分かったよ。」


 ラビが受け取ったナイフを大事そうに鞄の中へ仕舞ったのを確認し、皆に声をかける。


「さて、それじゃあ気を取り直して先に進もうか。」

「うむ、漸く暴れられるのだな。」


「ラビも地図の方お願いね。」

「うん、任せて!」


 こうして俺達の三回目の迷宮探索が始まったのだった。

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