1.就職
どうして私は目が見えないのだろう。
生まれたときから、私の目には光がなかった。
私は光を見たことがない。
1.就職
生まれたときから光を見たことのない由香里は、それを不都合だと感じたことがなかった。
親も、目の見えない娘を、特別の存在だと感じさせないよう育ててきた。
「目が見えなくても、音は聞こえるでしょ。由香里にしかできないことをすればいいのよ」
それが、両親の口癖だった。
自分にしかできないこと。
それが、由香里を前向きな女性へと成長させていった。
「仕事は何をしてるの?」
同じように盲目の友達がいる。彼女は、由香里の仕事について聞いてきた。
「事務員よ」
「だって、目が見えないから。普通にパソコンとかできないじゃない」
そう言って眉をひそめた彼女は、就職に有利なようにとマッサージ師の資格を取ったのだ。盲目であると言うだけで、就職の門が狭められている。
だからこそ、由香里が就職した話は友達の間で一大スクープになっているのだ。
「パソコンはできなくても、できることはあるよ。点字ができるから、点字をいかしながら、事務をしてる。私にしかできないことをしてるの」
「それで会社が雇ってくれるなんて、信じられない」
由香里自信、なぜ雇ってもらえたのか不思議だったのだ。
簡単に言っているように聞こえるが、実際は大変な苦労があった。
入社試験を受けるのも、健常者と同じと言うわけには行かないのだ。
入社してからも、いろいろな場面で壁にぶつかってきた。
それらを乗り越えてこられたのは、ひとえに由香里の前向きな精神と、ひたむきさだったのかもしれない。
どんな時でも明るく、笑顔で乗り越えてきた。どんなに泣きたくても、明日を見てきた。
いつの間にか、そんな由香里を受け入れてくれたのが職場の仲間だったのだ。
「できないことはできないって、はっきり言って、手伝ってもらうの。だって、私は一人ではできないから。でもね、健常者にできないことを私はできるから」
「健常者にできないこと?」
「そう」
「なに?」
「目が見えない分、音には敏感じゃない」
「そりゃそうだけど……」
そう言って、笑う由香里に彼女は呆れたようにため息をついた。




