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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者と魔王の回転劇

作者: 西脇 徳利

突発的に書きました。だが後悔はしていない。

俺は自分の生まれ育った村が好きだ。取り立てて名産だったり特徴だったりがあるわけではないどこにでもありそうな村だったけど俺はそんな村が誰よりも大好きでここで死ぬことが夢だ。


そんな大好きな村で狩人として獣を狩っていたある日、大きな街の方から来た商人が魔王の復活の情報を持ってきた。彼が言うには魔王は王国内部のかつての自分の土地の一部に封印されていたが邪神信仰の徒によって解放されたのだとか。


その程度ならあぁ物騒なことがあるもんだなと思うだけだったが彼が更につづけた言葉に俺は戦慄した。


「どうやらそれがここの村から森を挿んだすぐ向こう側らしい。宮廷魔術師が感知しなければ発覚がどれほど遅くなっていたのかわからないそうだ」


過去に魔王は魔獣を使ってこの王国を滅ぼそうとしたと言われている。そうなったらこの村は真っ先に襲われる。ちょうどその年は不作で税収を何とかおさめるのが精一杯という厄年、そこに魔獣の被害まで加わったら村は潰れる。


村を潰さないために俺達は自警団を作り狩人として魔獣の生態に多少詳しく、その中で比較できないほど圧倒的に強かった俺は自警団の隊長になった。


その時はすぐに軍が来て防衛線を張ってくれると思っていたがそれはすぐに否定された。一月経つと領主が逃げ延び、二月経つと防衛線の最前線にある俺達の村を差し置いて少し離れた村からはもう避難が完了していた。俺達の村は見捨てられたのだ。


魔獣もだんだんと大型になって来ていて俺は無傷でも自警団は大きな被害を受けるようになり始め軍の援軍も期待できないので村のみんなと相談して俺は単身魔王を殺しに行くことにした。


三日間自警団総出の結界魔法でなんとか村を守りその間に俺が魔王を殺す。魔王を殺せば魔王の作り出した魔獣は消える、俺が魔王を斃すことがその作戦の前提条件で絶対条件だった。


魔王の元に近づくと徐々に魔獣は出なくなっていった。魔獣達でも魔王はどうやら恐ろしい存在らしいなと思ったがそれ以上に好都合だと思った。これでだれにも邪魔されずに魔王を殺せる。


一日歩くと魔王のいるという遺跡はすぐに見えてきた。俺は迷わず遺跡の中へと入り魔王の姿を捜した。


そして見つけた魔王は予想していたよりも小さく、まるで普通の人のように見えた。


剣の腕はあっちが上、魔術の腕もあっちが上、でも狩人として鍛えた体術は俺の方が上だった。剣を弾き、近接戦闘に持ち込んで十分。俺の握ったナイフが魔王の首を大きく掻き切った。


魔王を倒した俺は英雄、勇者などと呼ばれるようになり、王都に召喚されるようになった。迎えに来たものに俺はたかが村の狩人だし村を守るためにやっただけだと言うとあなたが王都に来ることで村は名声を得ることができ栄えることになるだろうと言われたので大人しく召喚された。


色々と栄誉あるらしいものを得て、村に婚約者がいるのに女性にも無駄にモテるようになり、うまい食事を毎日毎日食べられる生活を数年ほど送らされた。村のことを考えて下手に逆らわずにいたのだがある日事態が急変した。


国を股にかけ天災とも揶揄される黒龍が村の近辺を通るルートを通るのだと小耳にはさんだ。このままなら何とかかするぐらいで済むだろうと言われたがそんなことを俺は許すことはできなかった。止める宮廷魔術師団や衛兵たちをなぎ倒し、捻り潰し、潜り抜けて王都を後にした。


その過程で俺はとんでもないことを色々と知った。まず俺の出身地、王城に幽閉されている間ずっと俺は王都の生まれで名誉ある貴族の出身であるということにされていた。もちろん村の名前など一つも出てこない。


そしてより俺を怒らせたのはあの村の扱いだ。魔王の軍門に下った裏切り者の村で住民達は全員奴隷として使われているのだという。俺が戦ったのは国のためなんかじゃない、俺が戦ったのはあの村のためだ。特徴も無く、核心的でもなく、穏やかで仲間がいて婚約者がいて弱い魔獣がいて薬草が至る所に生えていて時々来る行商人の旅話に子供達が目を輝かせるあの村こそが俺の守りたくて守ったもの。


俺は途中で軍から早馬を盗み考えうる最速で村に向かった。


そうしてたどりついた村で俺が見たのはやつれ果てた村人と俺を見て涙を流す婚約者だった。


「「どうしてこんなことを……」」


婚約者と俺の言葉が重なった、でもその続きは違った。俺はできるんだと国に対する怒りを訴えたのに対し婚約者は俺にしたのかと問いかけてきた。


「俺はしていない」


すぐに答える。


「じゃあなんで村を捨てたの?」


婚約者はまた問いかける。


「捨ててない。王が俺が王都に行くことでこの村が潤うと言った」


俺は自分の愚かさを憎んだ。村人たちと婚約者の腕には命の限り絶対服従を強いる隷従の魔術紋が施されていた。命の限りは施された側だけではない命の限り隷従させられるのは施した側もであるのを知っていた。


疑いの目を向ける村人と婚約者にまた以前の様に受け入れて欲しくて俺は隷従の魔術を使った領主を訪ね、その首にナイフを突き立てた。


婚約者は俺をまた昔のように受け入れてくれたが村人たちは国からの反撃を恐れて逃げていった。


俺はそれでもいいと思った。人がいなければここは俺の愛した村ではない、俺の愛した村は俺が判断を誤ったばっかりにとうに壊れてしまっていた。


絶望と後悔、そんな気持ちが頭を支配した時、頭上に黒くうねるような雲が広がるのを見た。黒龍だ。とっさに気づいた俺は風の魔術で自らを空高く浮かばせ黒龍に戦いを挑んだ。


それは自殺のつもりだったが黒龍もまた魔王と同じように言い伝えられている程の力を持ち合わせてはいなくて俺は黒龍を屈伏、隷従させることに成功した。


最初、国にいいように使われたのだと知った時には力が足りないから国に仕返しできないと歯を食いしばったが黒龍には俺と違って大多数を相手にする特殊な魔術があった。


黒龍に見守られながら雨空の元俺は半ばやけくそに婚約者と婚姻の儀式を行い結婚した。


いざ正式に婚姻を結ぶと妻と俺、ついでに黒龍だけがいれば俺はもう村が無くともいいような気がしてきた。それでも国に仕返しをしなくてはいけない。妻と俺を背に乗せて黒龍は王都に行き魔力を枯渇させる黒い雨を王都全体に降らせた。


途中あまりのことに侍従の制止を振り切ってバルコニーに出て黒龍を睨みつけた国王の眉間に俺は一本の矢文をプレゼントした。


倒れ伏す国王に王女が縋り寄って泣き出したので俺は王女にも矢をプレゼントした。俺を慕っていた王女だったが心は痛まなかった、俺が選択を誤ったとは言え村を滅ぼしたのは紛れもなく王族。何人の村人が隷従させられオーバーワークで死んだかを考えればこの程度のことは妥当な仕返しだと思った。


黒龍は魔王の遺跡に住まわないかと俺に提案した。周囲は人間の手が入ることはなく、国も魔王が復活しないようになるべく刺激をしないように努めていた。


俺達は魔王の遺跡に住むようになった。


でも魔獣を放ったりはしない、そもそも放つ能力も無い。俺は魔王の遺跡に住んでいるだけであって魔王ではない、魔王じゃないから魔獣は操れない。


数年たつと妻との間に子供が生まれた。かわいらしい女の子だった。黒龍の洗礼を受けて普通よりも強い魔力を宿したその子に俺は雨を意味する言葉と恵みを意味する言葉を足した名前をプレゼントした。


さらに数年たつと今度は元気のいい男の子が生まれた。この子は黒龍を訪ねてきた土龍の洗礼を受け普通よりも強靭な体を得た。そんな息子に妻は大地と愛を意味する言葉をプレゼントした。


さらに十数年たち、娘が美しく魔術にも長けた才女に成長し、息子がたくましい狩人に成長したころ。王国と常に小競り合いを起こしている帝国が俺に一つの話を持ちかけてきた。


帝国との国境にも近いその地。帝国の領土としてあなたが宣言するならば私達は魔王の名を剣に王国を大きく揺るがすことができるだろう。そう言う使者を俺は突っぱねた、俺と妻に国を憎み蜘蛛地はもうほとんどない。ここはどの国にも属さない空白地帯であるべきだとそう言った。


すると使者は後悔することになると言った。俺は口車に乗るととんでもないことになるのを知っていたからそのまま帰る使者を見送った。


数週間すると森の様子が変なことに気づいた。何故かはわからない、だけど小動物や弱い魔獣が見当たらない。しかし俺は深くは考えなかった。


更に数週間するとなんだか虫の知らせとでも言うべき寒気に襲われた。俺は黒龍に頼み、妻と子供達を王国でも帝国でもない最近できたばかりの連合国に連れて行ってもらった。


俺は何かが引っかかって後で行くから二週間したら迎えに来てくれと黒龍に頼み魔王の遺跡に留まった。


一週間後、俺の元に一人の男が現れた。


彼は俺を魔王と呼び、俺は勇者だったというと魔王に取り込まれたのだと聞いていると言って剣を振るいだした。


俺の力は全盛期には及ぶわけがないがその分技術は洗練されて剣も魔術も昔よりも高い次元にいた。しかし寄る年波には勝てず体は固く、体術では劣った。


剣と剣がぶつかり幾度目かの火花が散った時俺は悟った。


俺が殺した魔王も俺と同じだったのだ。魔獣はおそらく帝国が送り込んだのだろう、前魔王がどういう理由で俺と同じようになったのかは知らない。ただ彼もまた何かのために戦い、何かを失い、竜を従え、魔王となり、帝国に嵌められ――そして悟って硬直した隙に俺に殺されたのだ。


――ザクッ


首に剣が刺さる。


お前は俺の様にならないでくれ。そう言いたいのに口からはヒューヒューとだけしか出ない。


手を伸ばしても伝える力が無い。


二度目の絶望の中、妻と二人の子供と一緒の食事の時のたわいもない会話が脳裏をよぎってパッと弾けた。

非常に短い作品でしたが読んで下さりありがとうございます。

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