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2013年・2014年

水没圏・大機械

   水没圏


人の流された無言の街を見よ

静寂しじまの讃頌歌が

ただしずしずと鳴らされ

ほの暗い隘路から

来たる男は

にっくき氾濫王なり

大鴉の羽撃はばた

音の現れと

水滴の垂れ

聳えるダムの

落ち逝く水は

陰鬱な潮に流れだす

さかさまの橋の

葬式とむら

うるわしの尖塔は

千尋のたにへ落下す

魂はあまねく

深いそらへ接吻を始める

嗚呼!

愛溢れる都市メトロポリス

ついに王領に達す!

裂け目に清浄きよめられ

もはや月に曝されることのない

人々はコンクリートを見つめ

自分たちのくに

壁龕に蔽われていたことに気づく

流れていく閉塞

もう誰も振り向かない

そして

これから

晴れた空がざわめき

レテの川ができるころ

この星はさざ波もたたない

青い球体に戻るのだ

もしくは

淡青の淼淼たる

睡った夢になるのだよ













   大機械


稀薄な脈を殺してよ

分裂の恐怖を

味わわせないで

そんなことを思って

造られたものは一台の機械

深い傷をはやす

カッターナイフ

電流体で

完全に再現したのだ

それは

大きな音も出さず

わが身に罪を滲みだす

「自動リストカット装置」

無数に咲いた裂帛は

手首を切り刻んでいく

紙でできた月のように

生命の韻動を

ことごとく弱めさせる

しかし

死ぬことのない

まったく安全な

「自動リストカット装置」

その機械を眺める男

彼は

即死王

「こんな幼いものなど

熱病者の青い夢だ

しづかな霊魂など

できやしない」

そう言って呆れ

この世を去った

魂の剥がれ落ちる感覚

透明な血漿を

真白の砂に流して

死なぬ機械を

幾度も機動させて

それでも足りない

ひとりの少女をとめ

脆い心悸の鼓動

弱々しい音を鳴らし

この大機械だけを信仰して

部屋の隅でふるえている……

呼吸が乱れ

廃人のように

虚無のまっただなかを

這っている

嗚呼!

だれか彼女を

優しく

撫でる者はいないのか

どこかに

彼女の冷たい皮膚はだ

温める機械は

ありはしないのか

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