殺害
「ねえ、だったらしてみない?」
そう言われて、俺が受け取ったのは、一本のナイフだ。
誰か知らない、名前も知らない、そんな相手から受け取ったそのナイフは、いつも通りに過ごしていた俺の日常を奪った母親に向けられる。
これは、確定事項だ。
変えることはない。
俺は何度も言い聞かせて、ネットで知り合ったその人と会った。
その人は、世界の裏で必要な物を揃えてくれるという人物だ。
なにせ、ロケットランチャーや核ミサイルから、市販されているような小さなメモリーチップに至るまで、その人の手にかかれば、手に入らない者はないともいわれている。
俺はネットでその人と接触して、いよいよ計画を実行することにした。
いつもいつも注意ばかりしてくる母親には、常々イラついていた。
俺が鬱になるのも、ストレスがたまるのも、殺したいという衝動を抑えられなくなるのも、全ては母親が悪い。
だが、いくら言っても、俺に躾という名前の嫌がらせを止めることはなかった。
その人と会った時に、初めに言われたのは、戻れないよという注意だった。
「それでもいいの?」
確認するようにもう一度。
「ああ、構わない」
俺はすでに腹をくくっていた。
これは、確定事項だ。
変えることはない。
そう、と簡単に答えてから、彼女は俺に刃渡り15センチほどのナイフを渡した。
「処分については、あなたが責任をもって行ってね。それと、私は何に使うかは全く聞かないし、あなたも私と会ったことはない。いいね」
「分かった」
それから、俺は代金を支払い、すぐにその場所から去った。
もう、後戻りはできないことと、今ならまだ間に合うのではないかという葛藤があった。
家に帰ると、母親はすぐに俺に怒ってきた。
もう、慣れてきた俺は、すぐに部屋へと戻る。
そして、もう一度だけ、母親にチャンスをあげることを決めた。
もう一回怒ったら、俺は迷わずナイフで刺す。
それは、確定事項とした。
その時は3分と経たずに現れた。
ああ、もうだめだ。
俺は決意をした。
扉を開き、その物を見た。
「バイバイ」
涙が流れているのは、嬉しいからだろう。
やっと、これから解放される。
その気持ちが、俺に涙を流させた。