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私の名前は中鳥洋菜という。両親の離婚以来、高校教諭である母親と三歳年下の妹と
三人で暮らしている。大学を卒業して、現在求職中だ。資格もない。彼氏もない。そし
て大学という後ろ盾も失ったのが今の私だ。
この一年間で失ったものは実に多かったが、実は私の中では実質何も変わってはいな
かった。私は小学生の頃に、たまたま読んだ探偵小説に感銘を受けて小説家を志すよう
になった。その翌年に、たまたま再放送がかかっていた外国の児童労働をテーマにした
アニメに感動して、将来はアニメ監督になると決意した。その二つの構想が重なって、
自分の書いた小説をアニメ化するという大きなまとまった構想が生まれた。そう。多く
のものを失った今も、その構想だけは変わってはいなかった。今回のことと同様にこれ
までの人生でもいろいろなことがあったが、この構想だけは死ななかった。なので私は
この構想を”フェニックスアジェンダ(不死鳥の構想)”と呼んでいる。
私は外国語系の大学に通っていたが、在学中に本気でアニメーターになることを志し
専門学校へ通うことを考えた。そもそもアニメ監督になるという構想は小説家になると
いう構想の上に成り立っていたが、この全く違う職業を両立させるためには独立した知
識やスキルがいるということに気づいたのだ。当たり前の話だが、大学になっても私は
この話をわかっているようでわかってはいなかった。
そこで私は悩んだ。私は地方在住だったが、アニメ制作会社の99パーセントは東京
に集中していた。その先の就職のことを考えると私は上京するしかなかったが、私は踏
みとどまっていた。すでに四年生の大学に通った自分に再投資することを戸惑っていた
のだ。何百万というお金と、さらに何百万円というお金を投資してもらうほど、誰も自
分に期待していないような気がした。いや、自分が一番自分自身に期待していなかった
のだが。
両親の離婚が成立したとき、母親は実は何千万円という大金を手にしていた。父親が
マンションの名義を書き換えて母親に譲ったのだ。母親は老後の心配がなくなったし、
二人の娘を大学まで通わせてやれるととても安心した。現に妹は今、四年生の大学に通
っている。
専門学校の話を持ちかけたとき、母親は私がいいならそれでかまわないとさらりとい
った。母は心のどこかでインフレになることを懸念していて、現金のまま財産を持って
いたくなかったのだ。彼女も投資がしたかったのだ。
そんなわけで、当時の私は悩んでいた。