彼女を家に連れてきたら「人類滅亡の前触れか」と親に驚かれた
恋人を家に連れてきた時、妹よりも何よりもまず母が驚いた。
「ま、ま、ま、まさかあなたに彼女ができるなんて……!」
ヨロヨロとよろめきながら居間のソファーに突っ伏す母。
すかさず妹が駆け寄り、母を抱え起こした。
「お母さん、しっかり!」
「し、信じられないわ……。あの涼介に彼女ができるだなんて……」
「信じられないけどこれは現実よ! お母さん」
「人類滅亡の前触れかしら……」
いや、驚きすぎだろ。
人類滅亡ってなんだよ。
てか彼女に失礼だろ。
そんなにオレが彼女を連れてきたらおかしいか。
しかし、そんな失礼きわまりない母に、オレの愛しの彼女はにっこり微笑みながら会釈した。
「はじめまして、お母様。涼介さんとお付き合いさせていただいている間宮祥子と申します。お会いできて光栄です」
「は、はじめまして……涼介の母です。お見苦しいところをお見せしました」
ほんとにな。
「こ、この度は涼介と付き合ってくださってありがとうございます」
「いえいえ、とんでもありません! こちらこそです。涼介さんと出会えた私は幸運です」
「あらあらまあまあ。涼介、良い子見つけたねー。こりゃ明日あたり隕石衝突するんじゃない?」
勝手に人類滅亡させるな。
するとそれを聞いた彼女が「あはは」と笑った。
「たとえ隕石が来ても大丈夫ですよ、お母様。私と涼介さんの愛の力ではじき返しますから」
ヤバい。ニヤける。
愛の力だなんて。
恥ずかしいじゃないか、このやろー!
にやにやしながら彼女の二の腕をツンツンつついていると、妹がボソッとつぶやいた。
「キッモ……」
うっさいわ。
「そ、それで、今日はどういったご用件で……」
「いや、ただオレがうちに連れて来たかっただけだって」
「涼介、そういうことは前もって言ってくれないと」
「だってかしこまって紹介するつもりで連れてきたわけじゃないし」
「それでもよ! 初めてのお客様にはおもてなしの心を見せつけたいじゃない!」
初っぱなから、がっつり失礼な心を見せつけたけどな。
「お母様、お気遣いなく。私も堅苦しいのは苦手なので……」
「ああ、本当に素敵なお嬢さん。涼介、あんた頑張ってひとりで隕石の衝突を防いできなさい」
オレはアルマ○ドンの主人公か。
「ところで涼介のどんなところに惚れたんでしょう? 差し支えなければ教えていただきたいのですが」
「なんてこと聞くんだよ! 差し支えありまくりだよ!」
「や、優しくて……たくましいところ」
「まさかの下ネタ!」
「下ネタ違うわ! たくましいに反応すんな!」
オレが必死でツッコんでいると、妹が隣でポツリとつぶやいた。
「お兄ちゃん、さいてー……」
「なんでだよ!」
あーだこーだ言い争っていると、彼女はクスクスと笑い出した。
オレたちは顔を見合わせて彼女に目を向ける。
「楽しいご家族で羨ましいです。これからは私もその輪に加われたら嬉しいです」
にっこり微笑む彼女の姿にオレたちの心は癒されたのだった。
※
そんな彼女と夕食を一緒にとることになった。
母がどうしても一緒に食事をしたいというので、無理矢理4人で食卓を囲むことになったのだ。
本当は顔を見せてすぐに帰らせるつもりだったのに。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
けれども彼女は嫌な顔ひとつせず、にこにこと母と妹と談笑していた。
そこへ父が帰ってきた。
「ただいまー」とスーツを脱ぎがてらダイニングに入ってきた父は、彼女を見るなり「へ?」とかけていたメガネをずり下ろした。
「……ど、どちら様?」
「祥子さん。涼介の彼女だって」
「か、か、か、彼女だと!?」
母の紹介に父が素っ頓狂な声を上げる。
信じられないといった感じで青ざめた表情をしていた。
そんな父に彼女が立ち上がって頭を下げた。
「初めまして、お父様。涼介さんとお付き合いをさせていただいております、間宮祥子と申します」
ニッコリ微笑む彼女のなんと美しいこと。
まさに天女とは彼女のことだ。
しかし父は彼女の微笑みに「ずこー!」と床に突っ伏した。
「な、なんてことだ……! あの涼介に彼女が出来るなんて……! あの涼介に彼女が出来るなんてーーー!!」
両親そろってひどくない?
「涼介に彼女なんて……。ありえん……ありえん……ありえんてぃー……」
変な言葉でぶつぶつつぶやく父を妹が抱え起こす。
「お父さん、しっかり! 信じられないけど、これは現実よ!」
「信じられん……。人類滅亡の前触れか……」
このくだり、さっきも見たな。
「こうしちゃおれん。やり残したことを片っ端からやっていかないと……」
慌てて家を飛び出そうとする父をオレは慌てて止めた。
「あー、あー。父さん? オレが彼女を連れてきたからって、人類は滅亡しないと思うよ?」
「ん?」
「そもそも人類なんてそんなに簡単に滅亡するもんじゃないだろ?」
「そ、そうは言ってもだな。お前に彼女が出来るなんて天地がひっくり返ってもあり得ないことだし……」
そろそろ殴っていいですか?
なんなの、うちの両親。
すると彼女はスッと父の近くに座り、その手を取った。
「お父様、信じてください。私は正真正銘、涼介さんの彼女です。涼介さんは素晴らしい方です。私、この方とお付き合いできて幸せなんです」
ヤバい、ニヤける。
幸せだなんて。
オレの方こそ幸せだよー。
彼女の腕をツンツンしてると、妹がゲスを見る目つきでオレを見ていたので手を引っ込めた。
妹も妹でなかなかだ。
そんなこんなで理性を取り戻した父が「コホン」と咳払いをしながら立ち上がった。
「も、申し訳ない。見苦しいところをお見せしました」
ほんとにな。
「涼介の父です。はじめまして」
ずり落ちたメガネをかけ直してきちんと挨拶をする父。
彼女はホッとしながら笑った。
「はじめまして。お父様にお会いできて光栄ですわ」
「うほう、まさに天使のような笑顔ですな!」
人の彼女を口説かないでくれます?
「それで……差し支えなければお教えいただきたいのですが、涼介のどこに惹かれたんでしょうか?」
「差し支えありまくりだよ! なんで同じ事聞くんだよ!」
思わずツッコんでしまった。
二人そろってなんでそんなこと聞くの?
バカなの? アホなの?
息子の馴れ初めなんて恥ずかしいからやめて欲しいんだけど!
けれども彼女は頬を赤らめながら言った。
「涼介さんの惹かれたところですか? や、優しくて……たくましいところ」
「まさかの下ネタ!」
「下ネタ違うわ! たくましいに反応すんな!」
さっきもあったな、このやりとり!
なんなんだよ、もう。
すると彼女は「うふふ」と笑った。
「面白い家族ですね」
「いや、ほんとゴメン」
こんな親でも笑ってくれるのが唯一の救いだ。
「謝らないでください、涼介さん」
「へ?」
「涼介さんの戸惑う顔も新鮮でステキですから」
「そ、そう? でへへへ」
頭をかきながら笑うと、妹が今日一番の侮蔑の表情を浮かべながら言った。
「キッモ……」
うっさいわ。
その後、実は彼女は大財閥のご令嬢と判明し、あまりに信じられなかったオレは
「ああ、これは人類滅亡の前触れだな」
と思ったのは数週間後のことである。
お読みいただきましてありがとうございました。
人類は滅亡しませんでした。よかったよかった。




