12 確認は大切
気づけば丸一日寝ていたらしい。
やはり、原因は昨日、吐血しながらも無理して力を使いすぎたからだろうと静は結論付けた。
そんな静は今、とても豪華な一室にいた。何かだ見るからに高価そうな一人掛けのソファーに座らされており、そして目の前には楕円の低いテーブル。両脇には二人でもゆったりと座れるだろうソファー。
片方には見知らぬ青年が一人がゆったりと腰を掛けており、背もたれの後ろには妙に既視感を感じる見知らぬ青年が一人と、さらに後ろの方では壁に寄りかかる褐色肌の男が一人。
そしてもう片方には何故か項垂れているロビンが一人、座っていた。
「いつまでそうしているんだ。ロビン」
いつまでも顔をあげないロビンに、静の横に控えているルイスが呆れたように言えば、ばっと顔をようやく上げた。
「うるせぇ。こちとら平民なんだから貴族の暮らしなんて知るかよ。怖いわ」
「殿下付のくせに何を言っているんだ」
「はぁ、これだから坊ちゃんはよぉ」
「呼ぶな」
「ナイフ持つんじゃねぇよ、静様の前だろうが。いや、だからって糸に切り替えるんじゃねぇよ」
ルイスへの坊ちゃん呼びは禁句らしい。というか、本当に坊ちゃんって呼ばれるのかと静はのんびりと考えながら、ひじ掛けに頭を乗せて見上げている狼を見て、わしゃりと撫でまわした。
視界の端に見えたジェイク達は何やら面白いものを見ているかのようにそれぞれ笑みを必死に耐えている。その横でリーリアが呆れたように見つめていた。
何故、この場にロビンがいるのかという理由。そして王都で今、何が起きていて、残してきた三人の現状。それら全てを聞いた静は、狼の頭がある方へと身体を僅かに傾け、僅かに目を細めた。
「ん、分かったぁ」
「いやいや、分かったって。心配じゃないんですか」
おそらくはもっと慌てた様子を見せるか、動揺してしまうかのどちらかだと思ったのだろう。だが静のあまりに落ち着きよう。というよりかは、まるで他人事のような反応に、ロビンは僅かに腰を浮かせてしまった。
静はゆるり、と視線を少しだけ落とし、またロビンへと視線をあげた。
「心配だけど。こんな状態のわたしが心配してもなぁ、とは思う。何も出来ないし」
何せ今、場所は本当によく分からないが王都にはいない。スマートフォンなんて便利な道具が使えるのであれば今すぐにでも連絡をとって声を聞きたかった。
しかしこの世界にはそんなものはない。もしかしたら存在しているかもしれないが、残念なことに手元にはない。であれば今、こんな場所で一人で慌てて騒いだところでどうしようもなかった。
それに、と静は付け加える。
「三人の側にはちゃんと信頼出来る人がついているわけなんでしょ? それなら大丈夫だよ」
「完全他人事ですね。まぁ、信頼してくださっているのはありがたいことですけど」
「ああ、えっと。あれだよ。わたしじゃなくって、他の三人が信頼しているなら大丈夫って意味。わたし、オリヴィア以外知らないからさ」
何せほとんど話をしたことなんてないのだから仕方がない。しかし、三人の様子を見る限り、関係は良いように見えたのを覚えている。
静の言い方に何か思う所があったのか、ロビンは僅かに顔をしかめた。
「愛娘がいるからとかは言わないんですね」
「……なんというか。結局ほら、ユフィアータが眠ってしまっているのが現状だしさ。もし、彼女達にだけ頼っていたら、わたし今頃死んでるわけよ。そんな状態になっている以上、結局頼れるのは側にいる誰かになるんだよねぇ。今日だって、歩けないからルイスにここまで運んでもらったし」
「自分で運んでもらうってどうかと思いますけど。すみません、失言でした」
「良いよ、気にしてない。事実だし」
今日だってルイスに抱えられてここまで来た。
慣れってすごいなぁと、抱えられることにさえ疑問を抱かなくなった今日この頃。けども顔を直視できないのは仕方がないと思いたかった。
「それで昨日のあれですけど。結局は何だったんです?」
「さあ? 魔術の類に近い何かぐらいしか分かんないや。ルイス、分かる?」
そもそもとして魔術の無い世界からやって来たのだ。そんなもの知るはずがないため、静はルイスに聞くことにした。しかしどうやらルイスにもはっきりと分かっているわけでないらしく、口を僅かに歪めていた。
「……庭園の魔術の類、だと思われました。が、あの蛙が一体何なのかによっては異なるかと」
「だよなぁ……。えーっと、お二人は何か分かったりします?」
腕を組むロビンは目の前の二人へと視線を向ける。が、二人はそろって顔をしかめたり、首を横に振った。
「残念ながら分からないよ。ライナスは?」
「知らねぇ。っていうか、父上さぁ。そんな部屋の隅にいないで、こっちで話聞けよ」
ライナスと呼ばれた、立ったままの青年は壁際にいる男を父と呼んだ。
髪の色は違うが何故か、とても既視感を抱かる得ない褐色肌の男はわざとらしく肩を竦めてみせた。
「馬鹿言えよ。若人達が顔付き合わせて悩んでいるのを邪魔できるか」
「楽しんでるよな?」
「すっげぇ楽しい」
「ルイス、何か後で仕返ししてやろうぜ」
「静様の世話で忙しい」
ライナスは親し気にルイスに話しかけるが、ルイスは静を理由に容赦なく断った。別にルイスはそんなに忙しくないはずだ。何せ静は今、一人で歩き回れないだけ。いないなら大人しく寝ているつもりだ。たぶん。
それにしても、と静は名を知らぬ三人を順繰りに見つめた。静の視線に気づいたらしい、ソファーに座っている青年は小さく困ったような笑みを浮かべた。
「えっと、どうされましたか? 静様」
「……いや、あの。すみません、お名前というか……はい」
と言うと、そこでようやく彼は名乗っていないことに気付いたらしい。慌てて姿勢を正した彼は人の良い笑みを浮かべた。
「申し遅れました、アイザックと申します。そちらにいるルイスのいとこになります。後ろにいるのが……」
「ルイスの兄の、ライナスと申します。で、あそこにいるのが俺達の父のヴィートです」
背後にいる青年を続けて紹介しようとしたところで、ライナスが遮り自ら名乗った。そして壁に寄りかかっている男、ヴィートへと視線を向ける。ヴィートは軽く手を振るだけだった。
なるほど、だから既視感と言うべきか。とくにヴィートに関しては、本当にルイスとそっくりだったことに静は納得した。
「静と申します。その、突然このようにお邪魔をしてしまったわけなんですが……。しかもお部屋とかも用意してくださってありがとうございます」
「いえ、どうか気になさらず。それに敬語は不要です。是非、ルイスと同じように接していただければ幸いです。それにこちらとしては訪れてくださり、とても感謝しているのです。おかげで我らに害する者がいることがはっきりと見えましたから」
とても人の良い朗らかな微笑みだ。けどもどうしてか、妙に薄ら寒い何かを感じてしまうのは。本能的にとても距離を置きたくなった。
と、ロビンがわざとらしく小さく咳払いをした。
「……そんで、話を元に戻しますけど。静様が使われたあの力っていうの、聞いても良いもんです?」
「良いよ。と言っても、わたしもよく分かんないけど……あれかな。たぶん、ユフィアータの盾、だと思う。まさかあんなに綺麗なものだとは思わなかったけど」
静は話題を元に戻ったことに安堵しながら、昨日の事を思い出す。
しかし使った力については静も分かっていないことが多すぎた。こんな時、ネーヴェが。ユフィアータが起きていてくれれば、なんて愚かしい考えがよぎり、静はすぐに強く瞼を閉じ、すぐに瞼を開けた。
「けど見えるようになったのはルイスの力を借りたからなんだよ。でさ、ルイス。その右目、何?」
「リディアータとラウディアータからご加護をいただきました。そちらにいらっしゃる、眷属を探し、静様へお力を分けていただくために」
「あの蝶も、ゴーレムも眷属?」
「そうなります。それとあの木にも宿っておりました」
「すごいねぇ。ねぇ、あの木って桜、だよね?」
「……あの木のことをご存じで?」
「知ってるも何も、わたしがいた国にもあった木だよ。まさか、ここで見られるとは思わなかった」
呼び名も同じだったらしい。もしくはちゃんと翻訳されているかのどちらかだが、ルイスの言い方からおそらくこの地にはない植物なのだろうと予想がついた。
まだ桜は咲いているだろうか。もし咲いていれば是非ともお花見をしたいな、と思いながら静はリーリアへと視線を向けた。
「それで……たぶん、リーリアも、だよね?」
「は、はい。私はメルヴェアータからご加護をいただきました」
「そっかぁ」
リーリアの茶色の瞳は何一つ変化はない。ただ、少し、触れていると呼吸が楽になる気がしていたが、まさかそのおかげだとは思わなかった。
その経緯について、また後で聞けるなら聞こうと思い、ロビンへまた顔を向けた。
「まぁ、そういうことだね」
「……静様って、あんまり先の事考えないで行動していません?」
「ある程度は考えているよ。けどほら、考えても分かんなかったら、とりあえずやってみる精神って大事だと思うんだよね」
何せここは分からないことばかり。魔術も、この国の成り立ちも、神も、愛娘も、敵も。何も分からないことから始めなければいけなかったのだ。ならば考えるのに必要な情報を得るために動くのは当然だった。
とはいえ、こうなっているのは不本意なことなのは変わりがない。
だと言うのにロビンは片手で口を覆い、何を思ったのかルイスを見やった。
「……苦労してんなぁ」
「……ああ」
大変遺憾である。
ロビンは静の思考なんてさっぱり分かっていない様子で、今度はフィルへと視線を向けていた。
「んで、あのゴーレムについてですけど」
「眷属らしいね」
「……なんでそいつに渡しているんです?」
「一緒にいたいらしいよ?」
「静様の指示とかではなく?」
「いや、全くしてない。良かったねぇ、フィル」
フィルの肩に危なげなく乗っている小さなゴーレムは嬉しそうに片腕を大きく振った。対してフィルは何故だろう、悲愴に満ちた顔を浮かべている。
ちょっと理由が分からないが、なるほどあまり嬉しくはないのだな、という事だけは理解出来た。
「とりあえず、元気なお姿を拝見出来ただけでも良かったです」
「自分一人じゃ動けないけどね」
「そうみたいですね。それ以外はとくにありませんか?」
「……三人には、ちゃんとわたしが起きたってことぐらいで留めてほしいかな」
「と、言いますと?」
せっかくだ、と静は今の自分の状態を素直に話すことにした。
「痛いんだよねぇ」
慣れ始めてしまっているこの痛みはもはや、最初からあったかのようにさえ勘違いを起こしそうなほどだった。それぐらいに、静は落ち着いて語ることが出来た。
「前よりは本当によくはなっているのは前提として言うけど。手足から、身体の内側からずっと痛くってね。鈍器で殴られたかのような、炙られているかのような、切られているかのような、そんな痛みがずっとあるんだよね。今も」
笑っている静がまるでおかしいと言わんばかりに、誰もが静を見ていた。
それがあまりにもおかしくて静はつい、小さく肩を揺らした。
「後は、味覚と嗅覚。それと温度も感じてない。触られている感触は分かるのが救いではあるかな」
ある種の温情のようなものと言えた。それが無ければ何もかもに恐怖し、叫んでいた。そして、ルイスとのあの約束なんてものを捨て去り、この命をすぐにでも捨て去ろうとしただろう。
「水と、食べ物は異物としてとらえてしまっているから、口に含んだ瞬間吐き出しそうになる。後、痛みが増す。だから無理やり食べさせてもらって、どうにか飲み込めているような状態」
今のところ話せること全てを語れば、ロビンは頭を大きく項垂れ、両手で顔を覆った。静はさてどうしようかと考えていると、思ったよりもすぐにロビンは顔をあげたが目に影が落ちているかのように疲労の色が見えた。
「……あれですよね、静様。お三方に同じ目に合わせるなよって、そういう意味でおっしゃいましたよね?」
正直、静は全く持ってそんなつもりはなかった。だが、そう思ってくれたのならば静はちゃんと利用することを決めた。
「期待してるね?」
静はより深い笑みを浮かべる。ロビンはその笑みを見て、口元を引きつらせた。また両手で顔を覆ってしまうかと思ったが、今度は立ち上がり、胸元に手を当て僅かに頭を下げた。
「承知しました。我らが銀の聖女様」
横から小さく息をつく音が聞こえた。静はそんなもの聞こえなかったふりをして、ロビンを見つめたまま小さく頷いた。
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ロビンは急ぎ王都へ戻ると言い、それならばとアイザック達は見送ると言って揃って部屋を後にした。残されたのは静に、ルイス、リーリアにジェイク達。それと眷属達に、膝の頭を乗せて甘えてくる狼だけだ。
「ねぇ、ルイス。さっき、溜息着いたよね」
「はい。考えなしにおっしゃられたのだろうとは思っていたのですが、違いましたか?」
「うん。とりあえず言っておこうかなって思って」
今度こそルイスは誤魔化すこともせずに大きくため息をついた。
「し、静様。先ほどお話されたことは」
「嘘はついてない。紛れもない事実だけど、慣れるもんだねぇ」
のんびりと言ってみるが、リーリアは顔を大きく歪めてしまった。困ったなぁと思いながら、ルイスを見上げた。
「一先ずさ、ここに来るまでのこと。教えてよ」
何はともあれ、話はそこからだった。
ルイスは当然分かってたようで、すでにある程度は頭の中で整理をしてくれたのだろう。戸惑うことなく順番に報告を始めた。
大神殿から脱出して、そこから伯父。つまりはこの屋敷の主のジェラルドの所有する屋敷に行き、ユアンと遭遇。そしてこの首についている魔具をもらう。そこから後は、道中いくつもの出会いがありながら、ここに到着した。
話を聞く途中、静は首が疲れるからとルイスに空いているソファーに座らせた。そしてリーリアも座らせて、その隣に移動させてもらっていた。
静はちゃっかりとリーリアに寄りかかり、膝に頭を乗せて甘える狼を撫でまわしながら、小さく呟いた。
「……ジェイク達が怒られている所、見たかったなぁ」
「止めてくださいよ」
ジェイクは即座に反応をし、大きく顔を歪めた。本当に嫌そうな反応をするため、静は困ったねぇと狼に視線を向けた。
「止めてくださいだってぇ」
きゅう。
狼は気持ちよさそうに瞳を細め、緩慢に尾を左右に動かす。本当に利口だ、驚くほどに。こうも落ち着いて触れあえるなんて夢にまで思わなかった。
しかし、狼。犬とは異なる。とはいえ、同じ仲間である以上、その反応はきっと同じだろうと静は想像する。
だから、静はそのまま撫でまわしながら狼へと言葉を落とした。
「ところでお前さ、普通の狼じゃないよね」
確信めいた、疑問符すらない言葉。対し狼はぴんと両耳を立て、少し遅れてきゅうきゅうとさらに甘えようとしてくる。が、その甘え方なんて本当に利口で膝に頭を押し付けてくるだけだ。
本当に、可愛らしい。
静は構わずに続けた。
「今更誤魔化しても駄目だと思うなぁ。ねぇ、ジェイク。あの蔦触った時、手、黒くなってたけどもう平気?」
「ん、ああ、はい。静様が降らしてくださったあの雨のおかげで十分に癒えました。けど、あれは厄介ですよ。まるで焼かれたような痛みの他に、感覚もほとんどなくなっちまいましたから」
「そっかぁ……。じゃあ、気をつけないとだ。けど……」
魔術は有効。触れなければ対処できる。が、ジェイクのあれは本当に意味が分からなかった。聞いても良いものかと思っていると、ジェイクはああ、と小さく声を漏らした。
「俺があの時やってた奴ですか? 俺、魔術すげぇ苦手なんですよ。だから直接魔力ぶち込んでました」
とても分かりやすい説明だったが、他三人はもちろん、ルイスも珍しく片手で頭を抱えていた。
「ねぇ、ルイス。魔力ぶち込むってさ」
「……一歩間違えれば、手が使い物にならなくなるやり方です」
何それ怖い。皆がそんな反応を見せる理由がよく分かった。
「大丈夫ですよ、静様。ちゃんと注意しましたから」
「……そっかぁ」
リーリアがとても綺麗に微笑んだ。何故だろう、ちょっとだけ怖いと思ってしまったのは気のせいだと思いたい。
さて、と静はなんとか誤魔化そうとしてくる狼を見下ろした。
「で、お前はあれを直接触っていた、というか噛みついてたけど。ずいぶんと平気そうだったね?」
ねぇ、と静は狼に微笑む。痛みの他に感覚が無くなるということは、一撃でむしろ動けなくなる程の致命傷を負うことになる。だというのにこの狼は一切変わらなかったし、黒銀の毛並みには一切の変化が見て取れなかった。
「それともう一つ。これは……まぁ、ちょっと違うか分からないけど」
と、一つだけ前置きしつつ、静はぐっと眉をひそめた。
「……なんかよく分からないんだけど。わたし、すごく犬に好かれやすいんだよね。小型犬なら良いんだけど、中型以上の子達になると大変というか。あの大きな身体で半ば襲い掛かって来る勢いで集まってくるんだよねぇ。もう顔中舐められてベトベトになるし、服は毛だらけになるし、踏まれるし、埋もれるし。周囲の友達に助けてもらうまで動けなくなるんだよねぇ」
本当に意味が分からない。母には襲い掛かっていなかったはずだのに。まさか父か、そうなのか。そうかもしれない。だって母は襲われている静を見て、あらあらと言うだけで笑っていたのだからきっとそうだ。
ああ、これも生前に聞けば良かったとまた一つ、小さいけれども後悔が積み重なった。
周囲から憐みの視線が突き刺さるが静は無視して続けた。
「まぁね? 狼と犬って違うのは分かるんだけど、すごく近いはずだと思ってね? だからさ、もしかして本当は狼じゃないんじゃないかって、ちょっと思う所があってね?」
……きゅう。
「いや、狼じゃないからって嫌うわけじゃないんだけどね? やっぱりほら、貴方の事よく知りたいなって思っただけなんだよ。本当だよ?」
ぐぅ。
「そうそう。ああ、でもおしゃべり出来ないし、どうしようかなぁ……」
そうだ。普通の狼でもないと分かったところで、では何かと知るための手段が無いのだ。どうやらルイスの右目にも判別が出来ないのは言葉の節々で理解出来た。
一先ず、はいかいいえの二択で何とか絞るところから始めるべきか、と静が考えていた時だった。
『話せるわよ』
静は大きく肩を跳ねさせ、リーリアはぴしり、と固まった。ルイスやジェイク達なんかも同じような反応を見せる中、その狼は女性の声でまた発した。
『ごめんなさいね。今はもうただの狼と変わらないから、ずっと黙っていようと思っていたのよ。けど、騙そうとは思っていなかったのよ? 本当よ?』
静につづるように言葉を発し続ける狼に、静は大きく鼓動する心臓をどうにか落ち着かせようと何度か深呼吸をし、恐る恐る口を開いた。
「……一先ず、お名前、聞いても?」
『忘れちゃったから、お名前くれない?』
まさか名前を所望されるとは思わず、静は大きく天井を仰いだのだった。




