10 王都からの来訪者
ルイスは目の前の男を見て、目元を押さえた。
「なぁ、こいつら強くね?」
「……何故、ロビンがここにいるんだ」
「殿下から様子見に行けって言われてさ。ってか、お前の家、でかくね?」
ジェイクとフィルの間にいるロビンは床に座ったまま、にっと笑ってみせた。
二人からどうするんだ、という視線を向けられるのを感じ取ったルイスは、小さく息をついた。
「にしても、この部屋。豪華なくせして物ってなんもねぇんだな」
「俺の私室だ。悪かったな、物がなくて」
「あー、それなら納得したわ」
どういう意味で納得したのか。ルイスはにやつくロビンにさらに鋭い視線を向けた。
「っていうかさ、ルイス」
「何だ」
「いや。まぁ、こんな状況だからなんだろうけど。休めてるか?」
ルイスは一呼吸置き、まるで何も聞こえなかったと言わんばかりに話を変えた。
「場所を変えるが、俺以外が聞いても構わないな?」
「あー、はいはい。かまわねぇよ」
ロビンはそれ以上は何も言わずに頷き、ようやく立ち上がった。
ジェイクとフィルが無言で見てくるが、ルイスはそれも無視を決め込んだ。
ちょうど見つけた侍女にヴィート達を呼んでくれるように頼み、ルイスは屋敷の応接室へと移動した。までは良かった。
「ルイスお兄様、そちらのお方はどなたです?」
「もしかしてお客様ですの?」
「まぁ、ルイスお兄様にお客様?」
ルイスの年下のいとこ達。双子の片方、フローラが先に応接室の扉の隙間から顔をだし、続いてもう片方のミリアが顔を出す。同じ顔を同じ衣服。声も同じだが、フローラは茶髪に、青の瞳。ミリアは黒髪に深緑の瞳とすぐに見分けがつきやすい、と誰もが思うだろう。
残念ながら、あの双子はいたずら好きだ。よくお互いの色を変えては驚かせようとしてくるし、今も色を交換しているので始末におえない。
そして最後、ルイスの実妹、シェリーは控えめに顔をのぞかせる。
見目は母のセレスと本当に瓜二つ。ではあるが、茶髪の髪に暗褐色の瞳と、両親とは似ても似つかない色を持っている。とは言え、中身もセレスによく似ている為に、それに触れたら最後、ちゃんと令嬢らしく追い詰めていた、と昨年にライナスから送られてきた手紙にそんなことが書かれていた。
ルイスはそれを目に通し、背筋に冷たいものを覚えたのは今でも忘れない。
勿論だが、そんなことを知らないロビンは呑気にルイスに聞いてきた。
「あれ、全員妹?」
「一人は実妹。もう二人、というかあの双子はいとこだ」
「あ、俺、ロビンっていうんだ。異国出身で漆黒所属。よろしくなー」
軽くロビンが手を振ると、彼女達は双子はきゃあと黄色い声をあげ、シェリーは小さく会釈した。
「え、かわいいじゃん。紹介してくれよ」
「お前、本気で言っているのか」
「冗談だって」
ロビンはルイスの言葉をどういう意味で受け取ったのかは不明だ。ただあくまでルイスは、本当に良いのか。吊るされるぞ、この家の人間達に。という意味で言ったつもりだ。
だがロビンの様子を見る限り、おそらくは彼女達の兄として注意をしたと理解したと推察する。
それを説明すべきかどうか、と考えていれば扉の向こうから新たな声が聞こえてきた。
「ほら、お前達は戻ってろ」
「そうだぞー。これから大事な話をするんだからな」
「ごめんね、三人共」
順番に、最初にヴィート。ライナスが注意し、そして最後にジェラルドの息子、つまりはルイスのいとこであるアイザックが三人に謝っていたのが聞こえた。妹達はそれぞれ素直に返事をし、ようやく静かになったかと思うと入れ替わりでようやく三人がやってきた。
ルイスは座っていたソファから立ち上がり、入れ替わりにアイザックがロビンの目の前に当然のように腰を下ろした。その際、落ちてきた黒髪を耳にかけてからロビンへと視線を向けた。
「はじめまして。アイザック・エヴァンハインだ。父がまだ王都から戻っていないから、申し訳ないのだけど代理として息子の僕が対応させてもらうよ」
ジェラルドとは異なる柔和な青い瞳を細め、アイザックはほほ笑みを浮かべた。
ロビンはわずかに腰を浮かせたが、すぐに止め、着席したまま胸元に手をあて、姿勢を正した。
「これはご丁寧に。ロビン・クノールと申します。所属は漆黒ですが、ランスロット殿下付の騎士も兼任しております。そちらは」
ソファに座らずに、起立したままのヴィートは少しだけ姿勢を崩した。
「ああ、ルイスの父のヴィートだ。で、こっちが俺の息子、ルイスの兄のライナスだ」
「よろしく」
ヴィートは変わらずに砕けた口調であったが、ライナスはずいぶんとそっけなく一言発するだけだった。普段はそういう対応をしている、ということなのだろうか。
アイザックは後ろにいる二人が名乗るのを終えるのを待ち、口を開いた。
「それで、わざわざここまで来た理由だけども」
「殿下のご命令ですよ。静様のご様子を確認して来いっていう」
小さく、アイザックは殿下が、と呟きルイスを見やる。
「ルイス。ランスロット殿下は、静様と交友があったのかい?」
「……交友というものではないが、何度か話は交わされたことはある。他の聖女もいる場でだから、個人としてはない」
「そう。じゃあ、銀の聖女様に何か特別な思惑があるとは考えなくて良い、ってことでかな。ね、ロビン」
その問いに何の意味があるのか、ルイスには理解することご出来なかった。だが、ロビンの口元が僅かに引きつっているのを見る限り、ロビンには理解出来ているようだった。
「あはは、本当に確認しに来ただけですって。ただ、他の聖女様達の状態が良くないもんで」
そしてロビンは大神殿に残る御三方の状態を続けて説明した。
あれから、御三方はそれぞれ個々に過ごしている、という。ただ、金の聖女は部屋から出ようとはしない。紫の聖女は一心不乱に大神殿内を忙しなく掃除し始め、空の聖女はただ日がな一日、凡庸に過ごしている。
明らかに、この現実から目を反らそうとしている行動だった。
当たり前と言えば当たり前だ。あの惨事を目にし、静は倒れた。そう簡単に受け止められるはずかない。
だからせめて、静が無事であることを聞けば、前のようには戻らずとも少しばかりは持ち直せるのではないか、とランスロットは考えたのだろう。主に紫の聖女に対して。
「ルイスはその場にいたんだろ。どうだったよ、そん時の聖女様方は」
「……気丈には振る舞われていたが……」
「……気を失われないだけ良かったと思うべきか。話しか聞いちゃいねぇけど、静様はそん時に倒られたらしいな」
その時のことをルイスは鮮明に思い出す。
突如、声にならない悲鳴を上げ、苦しげに喉を掻きむしり、そして目が痛むほどの血を大量に吐血した。
ただ、静はあのような状態になっていても変わらず笑っていた。
ルイスは一つ、小さく息を吐き出した。
「……吐血し、倒られた。ただ、気を失う直前まで笑って、どうやって敵を殴りに行くかとおっしゃられていた」
「なぁ、もしかしてだけど。すっげぇ元気なんじゃないだろうな?」
「床に伏しているし、自力では動けない状態だ。それと言葉が通じない」
「は? 言葉が? ……いや、まぁ、最悪生存確認さえ出来ればとは思ってたけどさぁ……。ってことは、起きてらっしゃるって思って良いんだよな? 一応話らしきものは出来るってことは」
「ああ」
ほぼお互い一方的に言葉を向けているだけで、話にさえなっていないのが実状だった。
ただ、眷属は仕方がないにしても、あの狼はどうも静の言葉を理解しているらしく、静の発する言葉にしきりに反応を示していた。
正直、不愉快ではある。
「なぁ、ルイス」
「なんだ、ライナス兄上」
「殴るって?」
「静様は売られた喧嘩は全て買う主義だそうだ。実際、相当喧嘩慣れしているし、そこにいる二人の頭に拳をいれた。とくにフィルは顔面に拳を受けた」
ジェイクは顔をしかめ、フィルは片手で顔を覆った。
ライナス含めて静のあれを知らない三人は無言で二人の反応目にし、冗談ではないことを理解したようだった。
「……ルイス。その、確認だけど。他の聖女様というのは……」
「静様だけだ」
「ああ、うん。安心……いや、安心ではなくって」
アイザックは口元を手で覆い、何とか受け入れようとはしてくれていた。
ヴィートに関しては、面白いものを見つけたと言わんばかりの笑みを浮かべていたが、見なかったことにした。
「まぁ、そう言う事なんで。静様にご挨拶をさせていただきたいんですけど、よろしいですかね」
ロビンは改めて大きく困惑しているアイザックに、静への面会の許しを問いかけ、アイザックは了承した。
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リーリアが困り顔を見せているが、今はこの狼の好きにさせて欲しかった。
「もうちょっと、かかると思ってたけど、偉いねぇ」
きゅう。
「けどねぇ、動けないのが問題なんだよなぁ……」
ベッドの上に堂々と上がった狼の頭をわしゃわしゃと撫で回しながら、静はわずかに顔をしかめた。
本当であれば、さっさと解決するために動く予定ではあった。けども、やはりこの体はどうしても力が入らず、起き上がるのだけでも精一杯なほど。その原因は、魔力という名の毒のせいだった。
とにかく身体中は痛いし、食事なんてまともに出来やしない。おかげで袖から見える腕は、ずいぶんと痩せてしまっている。だからか余計に体に力が入らないのだと、静は考えていた。
「あっち?」
ぐぅ。
静は狼に方向を確認すれば、利口に返事をするように小さく唸り声を上げた。また、静は頭をわしゃりと撫で回しながら、笑みを深めた。
「そっかぁ。というか、すごいねぇお前。ちゃんとわたしの言葉が分かるなんて。本当に普通の狼なのかな? ん?」
黒銀の狼は今更に反応を見せずに、静の胸元に頭を乗せた。仕方のない子だな、と思いながら静は枕元の籠に寄り添う白い蝶と小さなゴーレムへ視線を向けた。
「君らもどう思う? この子、普通の狼じゃないよね?」
白い蝶は軽く羽ばたき、小さなゴーレムは両腕をあげた。
「ほらぁ、違うってさぁ。もう、誤魔化しちゃって。悪い子ねぇ……うぶっ」
狼は遠慮なく、静の口を塞ぐためか。今度は頭を顔に押し付けてきた。
慌てて静は頭を押し返す中、小さなノック音が聞こえた。リーリアが静を気にしつつも扉を小さく開く。
と、ルイスが入ってきた。それだけではなく、後ろから続けてロビンとジェイク、フィルが続いた。ルイスが室外に目を向け、何かを話している。どうやら外にまだ人がいるらしいが入っては来ないらしい。
にしても、何故ロビンがこの場にいるのか。
静はさらに狼の頭を押し返しながら小さく首を傾げると、ルイスは鋭い視線を向けてきた。狼に。
「ほら、ルイスがあがるなって。ぶふっ」
ルイスがすぐにベッドの傍らに立ち、狼を退かそうと腕を伸ばしてくる。狼はそれから逃げようとし、さらに静へと身体を寄せてきて、結果静の顔が完全に狼の毛並みに埋もれた。
わぁい、もふもふだぁ。
と、堪能出来たのはほんの一瞬。狼は見事にルイスに捕まり、後ろから抱きかかえられるようにされながら下ろされた。
きゅうと、甘えたように鼻を鳴らすけども、こればかりは仕方がない。
静は情けなく鳴いている狼を見て笑いながら、ふと、思いついた。
「ねぇ、もしだけど彼、案内してくれるかな?」
ぐぅ。
ようやくおろされた狼は、頭だけベッドに乗せて静を見上げた。
本当はルイスを行かせない方が良いのは分かっている。けども今、静は動けるほどに回復をしていない。であれば、今、このタイミングであれば、ジェイクとフィルがこの場に残ったとしてもロビンはルイスについて嬉々としてついて行くだろう。何せ兄貴分と名乗っているくらいだし、そこそこ好奇心が強い、と静は見ている。だから一人で行動するという危険性はほとんどなくなる。
それにだ、静自身、もしある程度でも動けていたらルイスに言わないで勝手に動いていたけども、どうせルイスは勝手について来るだろうから一人で行動する前提ではない。なのでちゃんとルイスには言える立場だ、たぶん。
「良い子。じゃあ、お願いね」
がぅ。
とても利巧な狼は律儀に返事をし、遠慮なくルイスの裾を加え、扉へと向かおうとした。ルイスは突然の事に僅かに目を見開き、止めさせようとする。
「ルイス」
その前に、静はルイスの名を呼んだ。ルイスはぱっと狼から静へと顔を向けてくれた。
「悪いけど、見に行ってくれるかな?」
静は続いて、通じていないと分かっていながらもお願いしつつ、扉を指した。
ルイスはしばらく静を見つめ、目元を抑えると深く息をついた。どうやらちゃんと察してくれたらしい。
その後、ルイスは胸元に手を当て、姿勢を正した。
――。
「うん、よろしくぅ」
何を言ったのかは分からないが、きっと承知したというような言葉なのだろうと静は予想した。
ただ、その時のルイスの視線はとても鋭くて、ちょっと内心怖かったのは内緒だ。
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本当に意味が分からない。
「なぁ、ルイス。本当に、静様が言っていることは分かってないんだよな?」
「分かるわけないだろ」
「にしては、通じてるように見えたけどさ」
どこをどう見れば、そんな風に見えるのか。ロビンを横目で一瞥し、ルイスは軽い足取りで駆ける黒銀の狼の背を見つめつつ、静に対しても山程言いたいことを並べていた。
一体何をお考えなのか。どこまで把握しているのか。どうしてこの狼ばかり。それに何故、今このタイミングなのか。
言葉が通じない相手に何を言っても無駄だと理解しているからこそ、ルイスはさらにそこに苛立ちをつのらせた。その矛先は後ろからついてくる二人にも向けられた。
「それで、何故兄上達まで」
「面白そうだから」
「ほら、机仕事って疲れるんだよね」
ライナス、アイザックは揃って執務から逃げ出したかったらしい。まだヴィートがいないだけ良い。がしかし、狼が今向かっている先に予想がついてしまい、ルイスは今回ばかりはいても良いはずだろうに、と理不尽な文句をさらにつのらせた。
「なぁ。この先、何があるんだ?」
「庭だが?」
「ただの?」
ロビンがさらに問いを重ねた。ルイスはつい、舌打ちをこぼしかけそうになるのを耐えながら答えた。
「父上がどこからか集めた植物が植えられている庭園だ」
すでに見えてきた庭園は、見ないうちにまた知らないものが増えていた。
ヴィートはつい、珍しいものを見ると集めたくなる。それは高価なものから安価なものまで。さすがに動物までは手を出してはいないだけ良いが、代わりと言わんばかりに植物をどこからか買付けては、おかしな庭を作り出しているのだ。
「もう少し暖かい季節に来てくれたら、いろいろと見頃の花もあるんだけどなぁ」
「ただ管理する方は本当に大変というか。おかげで何人もの庭師を雇う羽目になっているんだけどね」
確かにライナスの言う通り、見る分にはそれなりに楽しめるのが良いところだと言える。だが、続いて言ったアイザックの言葉の通り、とにかく手入れの面で手間がいるのだ。
ロトアロフの最南に位置するこの領地は、場所のおかげ雪が積もることはない。だが、冬は冷たく乾いた風が容赦なく吹きわたり、異国からせっかくやってきた植物達は耐えきれずに枯れてしまうこともしばしばある。
そのために寒さに耐性のあるものは外へと植え、ないものは屋敷の裏手にある温室で大切に庭師達によって管理されている。そんなことが許されているのはセレスが気に入っているからの一言だけだ。だからジェラルドも時折苦言を言いつつも、仕方がないというように息をついていたのをルイスは幼い頃から何度もめにしていた。
「そういえば言ってなかったけどさ。ほら、春先に咲いてくれるあの木。実は去年から咲かなくなってさぁ」
「……シェリーと母上がずいぶんと気に入っていたあれか?」
「そうそう。だから今、あれに詳しい庭師がいないか探してるところ」
ライナスが教えてくれたそのことに、純粋にルイスは残念だと素直に思えた。
春先のわずかな期間の間しか、あの木は花を咲かせない。枝という枝に小さな花を咲かせ、そして終わりが近くなるとまるで雨を降らすように花弁を散らいていく。一見すれば白い花のように見える。しかしよく見れば、水に紅を一滴ほど落としたかのような色合いをしていた。
家族はもちろん、使用人達もその季節となればこぞって集まり、春の喜びと共に花を鑑賞していた。それはもちろん、ルイスも例外ではなかった。
手放しに、あれは純粋に美しいと心の底から思えたものだったから。
もう少しでその木がある場所へと着く、と同時にルイスは右目を見開き、足を止めた。
「っと、どうしたんだよ。ルイス、急に足を止めてさ」
ロビンが数歩たたらを踏むように止まり、ルイスに振り返った。が、ルイスはロビンに答えず、ただ目の前の光景を見る。
ぐぅ。
分かるだろう、と言わんばかりに狼が小さく唸る。
嫌でも分からせられる。右目はこの場に入った途端、ずきずきとより痛みはまし、より体から力が抜けてしまいかけているのではと錯覚してしまそうなほどの倦怠感に襲われた。だが、それだけではなかった。
この場で倒れてしまえたらどれほど楽か。ルイスは奥歯を噛み締め、拳を強く握りしめた。そうしなければ、目の前の光景から目をそらしかねなかった。
一体、これは何だというのか。
中央に鎮座する木を中心に、周囲の植物から黒いヘドロのようなものがとくり、とくりと溢れ出ていた。さらにそこから黒い胞子のようなものまで生み出されており、この空間一体に漂っていた。
がうっ。
狼が吠え、ルイスはようやく呼吸をちゃんと行えていなかったことに気づき、深く息を吐きだし、吸い込んだ。
なんて、情けないことか。
ルイスはもう何度目かになるか分からないほどの叱責を己に行った。
そしてすぐ、この目の前に起きているものに対してどう対処するべきかと、思考を回す。はずだった。
「……なんだ」
横から下へと身体を引っ張られる感覚がしたかとおもえば、また狼が服を大きく加えていた。狼はそのまま、来た道側へとルイスを引こうとする。
それは戻る、という意味ではないことをルイスは察してしまった。
「……まさか、静様を連れて来いと言うんじゃないだろうな」
ぐぅ。
その通りらしく、狼は器用に服をくわえたまに鳴いた。
「おーい、ルイス。いい加減に教えてくれよ」
左目ではこの光景が見れない。だからロビン達が見ることが出来ないのは当然のことだがしかし、ロビン達の様子を見る限りこれは体調を害すようなものではない、ように見えた。
では何故、己はこのように影響が出ているのかと思ったがすぐに、この加護があるからだと答えにたどり着いた。
今、この屋敷の中で一番に影響が出ているのは静だった。そして他に、加護を与えられたルイスと、リーリア。眷属達もどことなく動き鈍く、リーリアが不安げな顔をずっと浮かべていた。
つまり、これは神に対して害のあるものだ。
そこに静を連れてくる必要がある、ということはおそらく何かしら対策を講じていると判断して良いのだろうかと迷いを抱きつつ、腹をくくるしかないとルイスは目の前の睨むように見つめた。
「ここに何かが施されている」
「何かって」
「おそらく、だが。庭園の魔術のそれか、それに近いものだ」
墓守がいる森で見た、清廉とした光を放っていたものとはまるで異なっていた。
どこまでも淀み、重苦しい。
「静様を連れて来る」
「おー、待っているわ」
今は狼に従う他ない。ルイスが来た道へと振り返れば狼はようやく服を離し、大人しく座った。
それを確認して、ルイスは魔術で身体強化を施し、地面を蹴った。
「……やっぱ、あいつ無理してんなぁ。遅ぇ」
「嘘だろ? あれで?」
「漆黒にいるなら、あれよりも早くないとやってけないですよ」
残されたロビンはライナスの驚いた様子に肩をすくめた。
「手紙とかやり取りしてないんです?」
「あれがすると思うか?」
「しないですね」
様子を見る限り、家族関係はあまりうまくいってはいないように見えた。それもこれも、異国の血が分かりやすく出てしまったが故なのだろうか。
異国人であり、赤の他人でもあるロビンには理解しようにも出来ない。だからすぐに思考を切り替え、漆黒でのルイスの働きを話すことにした。
「ルイスは、漆黒の中でも高い実力を持ってますよ。後少しで副隊長にまで上り詰めてるくらいですし。表には出てませんけど、副隊長補佐の話まで出てたっぽいです」
うっかり聞いてしまった話を口にすれば、ライナスは目を丸くし、そしてすぐに大きな笑みを浮かべた。
「……ほーら見ろ。やっぱり俺の弟はすげぇじゃねぇか」
誰に言った言葉なのか、ロビンは分かるはずがない。ただ、隣にいるアイザックは、眩しげにライナスに見つめていた。
ほら、ルイス。お前、ちゃんと見ろよ。いつまで目をそらしているだよ。
この場にいないルイスに、ロビンは内心文句を言い連ねた。




