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白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第1部連載中】  作者: tamn
第1部 落とされた四人の聖女達 六章 白銀は御旗を掲げる
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03 美しき惑いの森

 大きく馬車が揺れ、ルイスはぱちりと瞼を開けた。

 どうやらいつの間にか少し眠ってしまっていたらしい。ぐるりと薄明るい幌の中を見渡し、そして腕の中で眠り続ける静へと視線を落とした。

 穏やかな顔で、ゆっくりと安定した呼吸を繰り返している。瞼が開かれる様子はないし、顔色もまだ白いまま。

 白い蝶が静の髪にまた止まっていたが、ルイスが起きたことに気付いたのか、ふわりと羽を羽ばたかせた。そして毛布にくるまり、木箱に寄りかかって器用に眠るリーリアの頭へと移動していった。


「……おはようございます、静様」


 返答はないと分かっていながら、ルイスは馬車が走る音に掻き消えるほどの声で静に囁いた。



 ジェラルドは少しばかり王都の残ると言っていた。少しぐらいは追手の足止めぐらいにはなるだろうからと笑っていた。事実、追手が来たという報告はないし、その様子もない。

 ユアンは、あの後どうするのかまでは聞いていない。ただ、ある程度は他の聖女について気にしていた上にジェラルドからしっかり目をつけられているから、早々おかしなことはしないだろう。


「お、起きたか」


 揺れる馬車に身を任せて、また思考が微睡み始めそうになった時、ジェイクの声が上から降って来てルイスは顔をあげた。

 ルイスが乗っている方の幌馬車はヴィートとルイスが乗り、当然ながらリーリアと静の他、ジェイクもいる。後方にいる幌馬車にはフィル、ノーマン、ヘクターが乗っていた。

 どうやって分かれるかという時になり、ヘクターが文句を漏らしていたがフィルとノーマンが無理やり引っ張ってくれたのでルイスが面倒ごとを背負う必要はなく、速やかに出発することが出来たのを思い出した。


「そろそろ休憩するってさ」

「……分かった」


 さすがに夜通し走らせていたのだ。そろそろと休憩をしなければ身体は持たないし、ジェイクは空腹なのだろう片手で腹をさすっていた。

 そのままジェイクはリーリアを起こすのに肩を手荒に揺らし、起きたことを確認してから後方側の幌から顔を出した。


「おーい! そろそろ休憩するぞ!」


 ジェイクのよく通る声に、これまたよく通るヘクターの返事が良く聞こえた。

 ちなみにその後だが、あまりにも手荒すぎる起こし方だとジェイクは馬車が止まるまでリーリアに小言を言われていたが、ルイスは面倒なので見えていないふりをしていた。そして少し乱れていた静の髪を櫛がない代わりに手で梳きつつ整えていたのだった。



 休憩に入った瞬間、ヘクターは何故か森の中に入っていった。ジェイク達は一切慌てずに各々火を起こしたり、早々に空腹に耐えかねて食事の準備を自ら進んで行なっていた。

 さすがに手慣れているとルイスは感心し、リーリアはやはり慣れておらずにノーマンに教えてもらいながら準備を行っているとヘクターが戻ってきた。

 しめた三羽の鳥を持って。

 食料は積んでいたが、長期保存用のものばかりなので味は勿論二の次。なので誰も迷わずにそれを食べることにしたのは当然のことだった。

 とは言え、この人数。さらに言えば、よく食べる四人もいるのでスープ等でかさ増しをしたまでは良かったが、土産で購入したらしいどう見ても貴族御用達の調味料をヴィートが笑顔で追加するということもあり、ルイスは軽く食事を済ました後も疲労感は増していた。

 それもあってか、誰もがルイスには作業をさせようとはしなかった。ルイスは断ることはせずにそのまま受け入れ、眠る静を抱えたまま幌馬車のすぐ近くに携帯用の椅子に座り、小さく息をついた。


「悪かったって」

「……少し聞きたいんだが」

「なんだよ」


 どかりと同じ携帯用の小さな椅子を持ってきて隣に座ったヴィートに、ついでだと思ったルイスは薄らと抱いていた疑問を投げかけた。


「あの量の荷物。どう見ても馬車一台分しかないと思うんだが」


 二頭だての二台の幌馬車。積んである荷物はそれなりにあったがしかし、もしルイス達がいなければ全て丸々一台に収まるほどの量でしかないように見えたのだ。

 ヴィートは僅かに赤い目を丸くした後、にんまりと大きな笑みを浮かべた。


「よく分かったな」


 つまりは、ルイス達のために二台に分けたという事だった。予想通りに当たってしまった事実に、ルイスは無意識に舌打ちをこぼした。



「さて、これからのことだが」


 出発前、ヴィートはルイス達全員を集めて周囲に座らせようとしたが、ジェイク達は立ったままだった。ヴィートは納得していないように顔をしかめたが、そのまま続けた。


「俺は見ての通り異国出身だって分かりやすいからな。悪いが場所によっちゃあ町や村には入れねぇから野宿が基本になる。それについては問題ねぇな?」

「ああ、分かっている」


 本当に、嫌になるくらい。けれども仕方のないことだとルイスは理解している。とくに漆黒に入隊してからは今まで見えていなかった事情というものを知り、現状を受け入れ以外にないのだと学んだ。

 それに身を隠しながら移動しなければならない以上、むしろ野宿は当然のことながら想定済みだった。


「リーリア殿。申し訳ありませんが」

「はい、構いません」


 ただ慣れないであろうリーリアには厳しい話だろうと思った。だがリーリアはむしろ問題がないと言うように話をすんなりと受け入れてくれ、ルイスは内心小さく息をついた。


「……ってかさぁ、ルイス。なんで敬語で話してんだよ。こいつらには普通に話してるのにさ」

「深い意味はない」


 ふと、ヴィートが何故かこんな時に余計なことをルイスに問いかけ、ルイスは対して即座に返答をした。

 本当に何も意味はない。むしろそう、礼儀の観点から言えば何一つおかしな所はない。


「セレスのせいか」


 ヴィートの言葉に、ルイスは巡らせていた思考をぴたりと止め、顔をすっと背けた。

 誰もが二人の会話の意味を分からずにいる中、リーリアが口を開いた。


「その、セレス様というのは……」

「俺の妻」

「まぁ、奥様でしたか」


 つまりは、ルイスの母親である。


「ルイスはさ、セレスには敬語で話すんだよ。俺にはこんな感じだって言うのに」

「そうなのですか?」

「そうなんだよ。すげぇ怖いからっていう理由で」


 すぐ横から何とも鋭い視線を向けられたのを感じた。


「ルイス様?」

「癖です」

「しかしオリヴィア様にはそのような口調ではありませんでしたよね?」

「同僚なので」

「私も同僚の一人かと? しかも同じく静様にお仕えしておりますよね?」


 ルイスはしっかりと学んでいた。こうなったら素直に従うべきだと。


「……これで良いか」

「はい。ああ、私は普段からこの話し方ですので、お気になさらず」

「……呼び方は変えないからな」

「譲歩いたしましょう」


 心の底から静が眠ったままで良かったとルイスは思ってしまった。このやり取りを静に見られたりしたら、それこそガキという一言をもらうのは確実だとルイスは分かっていた。

 しかし仕方がないとルイスは思いたい。幼い頃からの教育というのは本当に根深いものだからだ。


「怖ぇ」

「聞こえていますよ」


 うっかりぼやいてしまったジェイクはリーリアの耳にしっかりと届き、満面の笑顔を向けられていた。慌ててジェイクは口を真横に結ぶが、分かりやすく顔を背けていた。

 その様子を見てルイスは、何かジェイクがやらかしたらリーリアに任せようと決めた。


「あのさ、道のりってある程度決まってる感じ?」

「ある程度はな。なんだ、どっか寄りたいところでもあるのか?」


 ノーマンがジェイクの挙動を完全に無視してヴィートに問う。予想通りある程度の道順は決めていたらしく、外套の内側から折りたたんだ国内の地図を広げて見せた。


「寄りたいって言うか。まぁ、そうなんだけど」

「へぇ、どこだ?」

「よく覚えていなんだよね。あの時は本当に偶然だったし」


 行きたい場所があるとノーマンは言いながら、場所は覚えていないと言ってのけた。

 一体こんな時に何を言いだすのかとルイスは苛立ちと不愉快さを覚えた。そしてすぐにそれを無視して、もう出ようとヴィートに告げようとするよりも先に、フィルとヘクターが顔を見合わせ、両方からノーマンの肩を掴んだ。


「なんであそこなんだよ」

「いやいやいや、待てって! なんであそこなんだよ!」

「けど、可能性はあるだろ?」


 どうも二人はその行き先に心当たりがあるらしい。フィルは疑問を呈し、ヘクターは大きく驚愕していた。


「ジェイクが言っていただろ。僕達にユフィアータのことを教えてくれた人がいるって」

「確か……墓守、だと」

「そうだよ。なんて言えば良いのか分からないけど。あそこ、本当に墓と墓守しかいないんだ。けど、他の神殿と何かが違っていた気がして……」


 墓に墓守。そのどちらもが凍土の揺り籠たるユフィアータに通ずるものだった。そして彼ら四人に、とくにユフィアータについて教えを説いたという人物がいる場所。

 ノーマンが言った通り、そこにユフィアータの眷属がいる可能性は十分にあり得る場所だと、ルイスは納得した。だが大きな問題があった。


「他の神殿とは違う、ねぇ。それに可能性っていうのは、こちらの蝶のお姿をしている眷属が他にもいるってことなんだろう?」

「そういうこと」

「ただ場所は分からない、と」

「……さすがにさ? 一応は何でも屋みたいなことしてたし、一度行けばだいたいは場所は覚えるんだよ。けど、あそこだけはどうしても思い出せないんだ。そうだろ、ジェイク。ってか、いつまでそうしているのさ」


 未だに顔を背けていたジェイクは、ノーマンから腕に拳をいれられた。が、全く痛みはないようでジェイクは軽くあてられた腕を掻きつつ、僅かに視線を上へと向けた。


「……あー……そうなんだよ。何度か行こうとは思ったんだけど、なんか知らねぇけど元の場所に戻るって言うか……。ヘクターの勘があっても探せなかったんだよなぁ」

「だからさぁ、あそこには何かがあるんだって! なんかこう……入っちゃいけねぇ感じがあったっていうかさぁ」


 ヘクターはその時のことを思い出しているのか、両腕を大きくさすっていた。直感が鋭いヘクターがそれほどまでの事を言うのだ。ただの魔術の類ではないことは明白だった。


「……ルイス様」


 リーリアがどうするか、と問うようにルイスの名を呼んだ。

 ルイスは思案し、ノーマンに確認をする。


「どの付近かも分からないのか」

「それは分かるよ。だいたい、この辺り。今がここだから、けっこう近いんだ」


 ヴィートが広げた地図にノーマンが指を指す。そして続けて今いる場所を指で指し示した。ノーマンが言う通り、そう遠くはない場所にいるのだとルイスは知った。

 だからノーマンは今、その墓守がいる場所のことを話しに出したのだとルイスは推察した。

 ルイスは彼らの話を信用していないわけではない。

 実際、大神殿の地下にある書庫の件で多大な活躍を見せてくれた。全てに嘘偽りなく、ただ純粋に静のためにと動いていた。そして静の本当の願いを知っていてなお、こうして変わらずに静のためにと側にて動いてくれている。

 だが、それでも懸念は抱いてしまう。もし、その先に偽りがあったとしたら。真実であったとしても、何かしらのろくでもない魔術かなにかが仕掛けられていたとしたら。ユフィアータの眷属がいなかったら。

 可能性はあくまでも可能性。確実ではない。運よく王都の屋敷でユフィアータの眷属と出会い、まさかついてきてくださっているという幸運である状況である中、無理にそちらに行く必要があるのかとさえ疑問に抱き始めてしまう程。

 ここはやはり、先を急ぐべきか。ルイスが地図から顔をあげてすぐ、本当にすぐ目の前に白い羽が右目に近づいてきていた。ルイスは慌てて瞼を閉じれば、右目側についてきていた白い蝶が止まったかすかな感覚が伝わった。


「け、眷属様……!」


 リーリアの慌てた声が聞こえ、左目だけ開けて、慎重に右目に指を添わせればすぐに白い蝶が羽ばたき、静の黒髪へと移った。

 一体、何をしたかったのか。それともただの気まぐれか。

 ルイスは右目の瞼を軽く拭い、まぶたを開ける。と、蝶の羽ばたきに合わせてあの暗闇で見た青い光が、鱗粉のように舞っていたことに今更ながら気付いた。

 この光は眷属の力なのだろうか。だから、この加護を受けた右目しか見ることが出来ないものなのか。確かにこの右目に宿る加護は、眷属を見るための力だとリディアータから説明を受けた。そして、ラウディアータはこのように説明をしてくれた。

 眷属まで導く力、だと。

 ルイスは再度、地図へと視線を落とした。

 この二つがあるならば、もしかしたら。否、確実に。その道を見つけられるはずだ。そうでなければ、何の為の加護であるか。それにだ、ノーマンが折角その可能性の道を示してくれたのだ。なんて愚かな判断を下そうとしたのかと己を強く叱責し、ルイスは再度顔をあげた。


「向かう。良いか、父上」

「当たり前だろ」


 ヴィートは立ち上がり、何故かルイスの髪をいきなり乱した。


「何をっ……」

「ほらさっさと乗れって。もうしばらく父上様が御者してやるからさ」


 全く持って意味が分からないヴィートの行動にルイスは目を白黒させながらも、一つ息を吐きだして立ち上がる。腕の中で眠り続ける静の首元に光る銀の魔具が小さく揺れた。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 行けども景色は変わらず森の中だった。


「あー……このあたりだ」

「すげぇ嫌そうだな。まぁ、一度停まるか」


 ヴィートの隣で道案内をしていたヘクターの、それはもう嫌だと言わんばかりの声が聞こえた。それに合わせてヴィートが幌馬車を止めれば、後続もゆっくりと停まったのルイスは幌の中から確認した。

 今、静はリーリアの膝を枕に横になって眠っている。その様子は何一つ変わっていないことも確認した後、ルイスは外に降りた。


「この先か」


 ヘクターがずっと視線をある一点から動かさずに見続けている。ルイスはその隣に並んで同じ方向を見るが、見えるのは森の木々だけだった。

 木々の合間から光が差し込んでいる明るく、穏やかな森だった。


「そうなんだけどさぁ……。なぁんか、ぞわぞわするっていうか」

「身の危険を感じるようなものか」

「それとは違う。けど、無理に行こうとしたら……って、ルイス?!」

「ここにいろ」


 ルイスは驚きの声を上げるヘクターを他所に、躊躇なく足を踏み入れた。



 無作為に森へと足を踏み入れたわけではない。蜘蛛が糸を張るよう、魔力の糸を木々にくくりつけながらルイスは足を止めずに歩き続けた。

 ひたすらにただまっすぐに。

 そして目の前に魔力の糸をくくりつけた木々を目にし、ようやくルイスは足を止めた。


「……これか」


 ルイスは深く息を吐き出し、周囲を見渡す。

 先程から方向感覚が失いそうになる。森の中にいるからではない。強制的に、第三者から無理やり狂わされそうになっているのだ。

 魔術の類は見かけられない。その僅かな痕跡もない。光か差し込む明るい森。いくつかの木々には蔦が巻き付き、葉を茂らせている。足元にはこの森特有のものだろうか、楚々とした小花が咲いていた。

 よく見る森の光景だった。あくまでも、左目で見るならば。

 ルイスは右目を擦り、左目を閉じて改めて見渡す。

 あたりは薄らとした小さな光の粒が漂っていた。

 見ることに特化している加護だからなのかは不明だった。だが、愛娘達にとっては僅かな力を一粒が人間にとってはあまりにも強すぎる力なのだとルイスは知った。

 それと同時に、多くの力を与えられなければ静達が生きられないという事実を目の当たりにした。

 光の粒子は周囲をゆったりと漂う。もう一度ぐるりと見渡せば、それが蔦や足元の小花から生み出されていることを目にした。


「……これが、正体か」


 ずいぶんと昔に使われなくなったとされる庭園の魔術。その元となったものが、メルヴェアータとユフィアータが授けたとされる守る為の術、のようなもの。

 確かにこれについて知らなければ分かるはずがない。いや、分かっていても、この小花や蔦が要因だとは誰も思わないだろう。

 あまりにも些細で、繊細な、美しい結界。

 これを破らなければ進めないのは分っているが、どうしてもこれを破るという考えには至れなかった。

 そしてふと、ルイスは疑問を抱いた。

 これは変わらずに存在しているようだった。それならば、どうやってジェイク達はこの先にあると思われる神殿にたどり着いたのか。

 一度、戻って話をより聞いたほうが良いだろう。

 ルイスは判断してすぐに戻る為を張った糸へと視線を向けた。その先に、一頭のずいぶんと小柄な黒銀の狼がいつの間にかルイスの様子を見ていた。

 右目は何も反応を示さない。と言うことは、この森を住処にしている狼なのだろう。見たところ若い狼は一頭だけ。ならばとルイスは身を僅かにかがめるが狼はしばらくルイスを見やり、ふい、と顔を横へと向けた。興味でも失ったのかと思えば、また狼はルイスを見て歩み寄ってきた。

 襲いかかるような足取りではない。それでも警戒をとかずに様子を見ていれば、そのまま狼はルイスの足に頭突きをしてきた。

 意味が分からない。

 ルイスはぐっと顔をしかめると、ルイスを横へと移動し、また頭突きをしてきた。今度はそこそこな勢いがあり、つい一歩足を動かせば満足げに尾を揺らしてきた。


「……あちらに行け、と?」


 言葉なんて通じないだろうと思いながらも狼に問えば、また尾を大きく揺らし、そそくさにルイスを押した方向へと歩き始めた。

 行けども周りの景色は変わらない。それでも狼の後を黙ってついて行くと、気付けばずいぶんと開けた場所に出た。

 そして目の前に現れた建物を見上げ、あの術に底無しの恐ろしさを感じ、小さく息を飲んだ。


「まさか、本当に神殿が……」


 ずいぶんと寂れたように見える石造りの神殿。壁には青々とした蔦が張りつき、年月を語っていた。

 ルイスはしばらく遠目から神殿を眺めた後、ここまで案内してくれた狼に振り返る。


「帰りも導いてもらっても良いか」


 狼は当然と言わんばかりに大きく尾を揺らし、また先を歩き始めた。



 最初に足を踏み入れた場所から少し離れた場所に出たルイスは、最初に彼らの姿を見て深緑の瞳を少しばかり細めた。

 ルイスが言ったとおりに待っているヘクターと、何故か集まって外から様子を見ているジェイク達。いつもなら、この距離に入った瞬間に気づかれるはずなのに、四人は一向に気付く気配がない。

 あえてルイスは彼ら四人の後ろに音もなく立つ。やはり気づかない。

 にしても、とルイスは彼らを僅かに見上げる。実を言えば、彼らはルイスよりも背が高い。とくにヘクターが一番背が高く、カルロスとそう変わらないほどだった。その次に背が高いのがジェイク、フィルと続き、ノーマンが四人の中で背は低い方だが、それでも目線の高さはノーマンが上だった。

 少し不愉快さを覚えつつ、ルイスはようやく口を開いた。


「何をしているんだ、お前達は」


 四人は一斉に振り返り、目を見開いてルイスを見下ろした。とても不愉快でしかない反応に、内心舌打ちをこぼした。


「ルイス?! お前、いつの間に戻って来たんだよ!」

「今」

「今って……! え、なぁ、後ろにいるの」


 ヘクターが続けて文句を言おうとしたが、どうやらルイスの後ろにいる存在に遅れて気づいたらしい。


「……狼がいるんだけど」

「案内してくれた」

「おお?」


 よく分からないと言わんばかりにヘクターが首を傾げる。ルイスは少し離れた場所にいたヴィートに視線を向ける。どうやら最初から様子を見ていたらしく、顔を大きく背けて身体を振るわせ、笑うのを必死に耐えているようだった。


「父上」

「お、おうっ……! なんだよっ……ふはっ!」


 耐えきれず、ヴィートは小さく噴き出した。

 もう盛大に笑えば良いのではないかとルイスは冷ややかな視線を向けながら続けた。


「父上、この狼が案内をしてくれる」

「ああ、分かった……っ……!」


 幌の合間から外の騒ぎに気付いたのだろう、リーリアが顔をのぞかせた。リーリアは不思議そうに首を傾げ、何かを聞きたそうにしていたがルイスは無言を貫いた。



 共に乗っているジェイクから、ルイスはどうやって辿り着いたのかと聞いてみた。

 ジェイクは顔をしかめ、視線を上に向けた。


「あん時は……確か。なんか知らねぇうちにたどり着いんだよ。霧も深かったのもあったし、腹は減ってたしでさ」


 体力も気力も限界に近かった。そんな時だったのかもしれない。であるならば、あまり当時のことを覚えていなくてもそう不思議なことではないとルイスは聞きながら思案する。


「ただ、なんか……光が見えた、気がするんだよ。たぶん神殿の灯りだったんだろうけどさ」


 続けて聞いた光という言葉に、ルイスは目を細めた。

 確かに、正面には灯火を設置できる場所はあったと記憶している。しかし、本当にそうなのかと、ルイスはこの右目を通して見たからこそ疑問を抱いた。

 だが、それを考えたところで答えはきっと見つかることはないだろうと即断した。

 幌馬車が一つ大きく揺れ、止まる。ルイスは立ち上がり、幌の外へと降りた。

 空を見上げれば、ずいぶんと夕暮れの色に染まっていた。

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