表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第1部連載中】  作者: tamn
第1部 落とされた四人の聖女達 五章 空は決意を歌う
79/107

10 破壊された我らが神

 王都から少しずつ離れていくに連れ、環境は随分と変わってきていた。

 まず、雪はずいぶんと少なくなってきたこと。そして、治安がずいぶんと悪い場所も増えてきていた。しかも、本当に笑えない状況にまで陥っていたなんて、誰も予想なんて出来やしなかった。


「え、ちょっと待って? は?」


 真咲は目の前の状況を見て、ひどく混乱した。

 それもそのはず。目の前は何も無い、アルカポルスの彫像さえない祭壇があるだけで、本当に何もなかった。くわえて祈る場所として使われていたであろう小屋の中はずいぶんと荒れ果ててしまっていた。

 ディーヴァもさすがにこの状況を目の前にし、鞄から出てきて真咲の肩へとまった。


「……ここで、何を祈れって?」


 そういえば、この町の人達は場所は教えてくれたが、誰一人として案内をしようとはしなかった。さらに話している時なんか誰も彼も目線は合わせようともしなかった。ということは、あの聞こえてきた言葉も気の所為ではなかったということだ。

 余所者。異国。部外者。ただのお人形。お飾り。

 全ての声が聞こえたわけではない。その前にカルロス達が追い払ってくれていたおかげで、本当に気の所為だと思えるくらいのものしか聞こえてこなかったのだ。余所者なのは確かにそうだし、異国も本当。だけども部外者やお人形、お飾りと呼ばれるのだけはさすがに許せなかった。

 真咲は踵を返す、がすぐ目の前にカルロスがいたせいで見事に顔をぶつけた。


「ぅぶっ……!」

「おい、聖女様が出して良い声じゃねぇぞ」

「うるさいわね! あんたの図体がでかいからぶつかったじゃない!」

「おっと、それは悪かった」


 なんともわざとらしくカルロスは謝ったことで、避けずにわざとその場にいたのだと真咲は知った。

 さらに文句を言おうとする前に、カルロスが矢継ぎ早に言ってきた。


「良いか、真咲様。ここで喧嘩は買うなよ」

「大丈夫、買い方を変えるから」

「買うなって言ってるんだよ」

「問題ないわ。だって遊戯盤で遊ぶだけだもの」

「止めてくれ! イーサン、アリッサ!」


 カルロスがすぐさまにイーサンとアリッサに手助けの要求を出した。


「なぁ、真咲様。止めてさっさと次に行こうぜ? ここのことならこっちに任せてくれたら良いし」

「そうですよ、真咲様。まだ他に巡らなければならない場所もありますから」

「嫌よ」


 二人の話を即座に却下した真咲は笑顔をカルロスの袖を掴んだ。一瞬、腕を掴もうとしたが、あまりにも太いので諦めた。


「なっ、なんだよ……!」

「ほら、さっさと行きましょ。あたしの騎士で護衛なんでしょ。良いのよ、一人で行っても」

「……それしたら肩に担ぐからな」

「ルイスみたいに抱えてはくれないわけ?」

「両手が塞がったら守れねぇだろうが」

「……ふぅん。あっそ」


 当たり前に言ってのけるカルロスに、真咲はすぐに言い返せずにそっぽを向いた。

 カルロスのことだ、とくに深い意味はない。確かに最低でも片手は空けておかないと剣を握れないのだから仕方が無いことだ。それにカルロスは真咲の騎士なのだから、守るのは当然のことだ。しかもあんな誓いを目の前でしてきたのだから。

 真咲はけどもカルロスを見れず、袖を掴んだままずんずんと町の中へと足を進めた。

 だいたい、いきなりそんなことを言ってくるだなんて予想していなかった。せいぜい面倒だなんだと言うくらいだと思っていたのに、あんなことを言って来るだなんて。


「真咲様さ、あてはあるのかよ」

「あるわけないでしょ。とりあえず見つけたら声かけて、遊戯盤に誘うだけよ」

「絶対に一人で行くなよ」


 それはフリというものだと、真咲は知っている。が、本当にやろうとしたら絶対に肩に担がれるのもちゃんと分かっているし、それが危ないことだって理解していた。

 ようやくいつもの調子に戻って来た真咲は周囲を見渡す。人影一つ、いや、一人だけいた。


「あ、ちょうど良いのがいたわ。それにあの男、あたしをお飾りって言った奴でしょ?」

「……よく見てるんだな」

「偶然よ」


 本当に偶然だ。そんな真咲にカルロスは何か言いたげに顔をしかめ、しかし深く息を吐きだした。


「で、一先ず話しかけるんだったか?」

「ええ、そうよ」

「分かった。けどな」

「何?」

「さすがに袖掴まれたままってのはな?」


 カルロスが真咲に見せつけるように掴まれている方の腕をあげて見せた。

 真咲は一瞬ぴたり、と固まり、すぐに手を離した。


「早く言いなさいよ!」

「はいはい、申し訳ございませんでした」


 全く持って心のこもっていない謝罪に、真咲はさらに苛立ちを覚えたまま、男に突撃を開始するのだった。

 何故か男に話しかけてた時、妙に顔を青ざめて顔を背けていた。真咲は少しだけ不思議に思ってしまったが、それよりも男が遊戯盤が出来るかどうかが重要だった為、特に気にすることはなかった。



 なんて運が良いのか。

 男は遊戯盤の遊び方を少しだけは知っているようだった。とはいえ、駒の動かし方を少しだけ知っているだけのようだが今の真咲には一切関係のない話だった。

 カルロスの手を借りて半ば無理やりに他の騎士達に用意してもらった簡易的な椅子に座らせ、小さなテーブルを挟んで真咲も座り、遊戯盤を手早く用意した。

 やはり遊戯盤で遊ぶときはこうでなくては。


「さ、遊びましょ? ほら、早く動かして」


 有無を言わせない真咲の笑みに、男は挙動不審に周囲を見渡しながら震える手で駒を一つ、動かした。

 それから真咲はとてもとても手加減をしながら、ある程度盤上が動いたところで問いかけた。


「ねぇ、聞きたいのだけど。なんであそこ、何もないの?」


 びくり、と男の手が大きく震えた。


「あれ、あんたがやったの?」

「っ……俺じゃねぇ。そんな……、そんな愚かしいことを……!」


 この男ではない。しかもあの行為が愚かしいと分かっている。なら何故、あそこは何もない状態のままなのか。そして男はもちろん、他の人達も何もやらないのか。

 真咲は手がすっかり止まってしまった男をつまらないと言わんばかりに見つめた。


「ほら、さっさと駒を動かして。はーやーくー」


 はっとして、男は遊戯盤を見下ろし、青さを通り越して白い顔のまま考えすら思い浮かばないようすで言われた通りに駒を一つ動かした。

 真咲はその駒を一瞥し、肩を落とした。


「それじゃあ、あそこにあるはずのアルカポルスの彫像。どこにやったのよ」

「お、俺じゃねぇんだ! 信じてくれ!」

「分かったわよ、うるさいわね。で? 隠されたってこと?」


 隠されているなら見つければ良いだけの話だった。しかし、男は大きく顔を歪ませ、両手で頭を強く抑え込むように抱えた。


「分からねぇんだ。朝、起きて、外に出たら……皆の家の目の前に壊された我らが神の彫像がばらまかれていて……」


 そして男は、かっと目を見開き、耐えきれずと言わんばかりに大きく狂ったように叫んだ。


「ああ、我らが神よ、ユフィアータよ! 早く罪を犯した奴に罰をお与えください!」


 直ぐ側で待機していた二人の騎士が男を抑え、後ろにいるはずのカルロスから小さく金属が僅かに擦れる音が聞こえた。男は突然抑えられたことに驚いたことでさらに大きく声をあげ始める。

 真咲は顔を大きく歪め、自身の駒を一つ手に取り、思い切り遊戯盤に叩くように動かした。

 よく響いた音に男はぴたりと動きを止め、白い顔をして遊戯盤を見下ろす。真咲は対してすでにもう何も興味がないと言うように視線を完全に男と遊戯盤から外した。


「ほら、あんたの負けよ。さっさとどっかに行きなさい。二人とも、そんなことしたらその人戻れないでしょ」


 なにか言いたげの様子を見せる騎士達だが、カルロスの方をちらりと見てから何故か素直に男から手を離した。男は椅子から立ち上がろうとしたが転び、そしてすぐにまた立ち上がりながらどこかに去っていってしまった。

 一応、この巡礼の為に集められている騎士達を取りまとめているのはカルロスだ。だからきっと確認の意味だったのだろが、それでも素直に何で聞いてくれないんだと真咲は思いつつも何も言わず、代わりに先程男から聞いてしまった話を苛立ち混じりに吐き出すことにした。


「ちょっと聞いた? どっかの誰かが我らが神に馬鹿なことをしでかしたらしいわよ。しっかも、ユフィアータにあんなことを願うだなんて、本当にイラつく」

「……壊されたものが、か。だからって放置は考えものだな」

「犯人探しでもしてたのかしら?」

「可能性はあるな。が、結局分からないままでむしろ自分以外の全員を疑うようになっちまった、と」


 それならそれで一人で祈りを捧げる場所を直せば良いだけの話だというのに、それすら頭に浮かばなかったと言うの事なのか。

 この人達がどうしてそうなってしまったのか、真咲は欠片も分かりたくはなかった。だからそれはそれだと捨ておき、さっさとこんなことをした人を見つけた方が早いと考えた。

 けど、どうやって見つけるのか。いきなり来てすぐにこんなことが発覚したが、手掛かりなんてもうとっくに残されているはずなんてない。それでも残っているのはここに住んでいる人達ぐらいだろうか。

 残された遊戯盤のばらばらにおかれた駒を一つずつ丁寧に並べ直す。こつり、こつり、と聞きなれた音が真咲の耳に届く。この音を聞いていると何故だろう、真咲はいつもよりもじっくりと考えることが出来た。おかげでそう、墓守がいる神殿で休ませてもらっていた時だって、いつもよりも苦労することなく考えられて、気づけて。そして。

 真咲は手を一度止め、膝に置いている鞄を見下ろす。鞄からひょこりとディーヴァが顔を出していた。


「……いる?」


 ディーヴァにだけ聞こえるように小さな声で聞いた。何がとは聞かなかったが、それだけでディーヴァには十分に伝わったようで、ぴぃ、と小さく答えた。

 真咲は曇り空を見上げ、ぐるりと見渡す。と、いくつかの屋根の上にほんのわずかに光を纏っているもの達がいたことに気付けた。

 いるならば、これしかない。そう、案内してもらえば良いのだ。ここにいる眷属達に。

 けどただお願いするだけでは申し訳ないから、まずは歌を眷属達の為に歌ってからにしよう。そしてその歌にたくさんの祈りとお願いを込めよう。そうしよう。


「うん、きーめた!」

「……真咲様、聞くが……何を決めたんだ?」

「なんの歌を歌うか決めただけよ?」


 にこりと笑う真咲に、何故だろうカルロスは口を真横に結び、アリッサは慌ててなんの歌を歌うのかと聞いてくるし、イーサンは遠くの方をひたすら見つめていた。その他、この場にいる騎士達は顔を寄せない何かを話している様子だった。

 ちょっとばかり意味がわからないそれぞれの反応に真咲は首を傾げつつ、鞄から見上げるディーヴァに笑いかけた。ディーヴァは機嫌良さげにぴゅい、と可愛らしく鳴いた。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 この町にいる眷属達は小さな小鳥達だった。ディーヴァよりも一回り小さな子達は真咲の歌を聞いた後、目の前へと集まり、すぐにこちらだと教えてくれた。

 真咲は笑顔でまたカルロスの袖を引き、アリッサとイーサンはもちろん、他の騎士達も連れて一つの家の前までやってきたわけだが、他に比べてずいぶんと大きな家で、一目で偉い人が住んでいる場所だと理解出来た。

 それからイーサンが代表して扉をノックし、開けてもらう。警戒するように出てきた髭を蓄えた男の姿が見えたその直後、真咲は笑顔で言い放った。


「どうしてアルカポルスの彫像を壊したの?」


 と。



 男はすぐに白状した。というより、まるでその通りと言わんばかりに真咲はもちろん、騎士達が集まっている姿を見てすぐに自供したのだ。

 違う、私はただ言われて、そう言われて、と。まるで他人事のように。

 男はすぐさま外に引き連れだされるが、まるで真咲に懇願するように地面の上で身体を丸め、頭をこれでもかと下げる。まるで土下座でもされているかのような気分だが、正直気分は爽快だった。


「やだ、なんで泣いてるの? ちゃんと話してくれないと分からないじゃない。ね?」


 真咲は少しばかり離れた場所でしゃがみこみ、男に話しかける。本当はすぐ近くで話をしたいが、それはさすがにカルロスが許してくれなかった。

 助けてくれ、赦してくれ、と懇願する男の耳障りな声にうんざりして、少し顔をあげれば男の家族であろう女と、年若い青年の姿があった。さらに周囲を見渡せば、何事かとこの町の人達が遠くから様子を見に来ている。

 これじゃあまるで弱い者いじめをしているようではないかと真咲はさらに顔をしかめてしまった。


「ねぇ、なんで壊しちゃったの?」


 さっさと終わらせようと真咲は男に問いかけた。そこで男は僅かに顔をあげた。


「わ、我らが神、が……。やれ、と」

「うっそ、やだ。アルカポルスは見ているだけでお話なんてしないわ。あたしだってお話したことがないっていうのに。それに、自分の像を壊せって、ちょっと意味が分かんないんだけど」

「お、お助けください……! ああ、見るな、見ないでくれ……!」


 男はようやくそこで、周囲に人が集まっていることに気付いたようだった。これ以上見られないように、無駄だと言うのに身体を小さく丸め、頭を地面にこすりつけている。

 ああ、かわいそうに。なんて真咲は他人事にそう思った。


「……皆が呼ぶ銀の聖女はこういう時、何をすると思う?」

「ば、罰を……」

「そう罰で、頭をぶん殴るのよ。あ、でも一発だけね。こうやって上から力いっぱいにぶん殴るの」

「え、は……?」


 ジェイク達の頭を殴った時の静は、上からまっすぐに拳を勢いよく入れていた。その真似をしてみたが、やはりやったことが無い動きだったのとしゃがみながらだったため、身体のバランスがわずかに崩れた。

 後ろに転びそうになったがカルロスがすぐに支えてくれた為、転ばずに済んだ。が、強制的に立ち上がらされてしまい、加えて頭の上からため息をつかれたのがばっちりと聞こえた。これについては後で文句を言おうと思い、驚き見上げる男を見下ろした。


「それで終わり」

「死を、お与えには……」

「あの人がするわけないじゃない。むしろ、自分を狙ってきた奴らに、ちゃんと生きたら赦してあげるって言ったぐらいよ? もちろん頭ぶん殴ったけど」


 けど、本当にそれだけだった。本当にそれだけで赦したのだ。下手をすれば本当に殺されていたかもしれないというのに静は笑って、死ぬためにやってきたという彼らに本気で怒りを見せて、名前の無い彼らに名前を名乗らせ、生きることを赦した。

 どうして静があんなことをしたのか、真咲は実のところ一切分かっていない。きっと聞けば答えてくれるだろうが、なんとなく当たり障りのないことを言って本当のことは教えてくれなさそうだと真咲はそう想像している。だから何もかも終わった時に、ちゃんと逃げられないようにしてから聞こうと決めていた。

 けど真咲はこれだけは分かっている。静はとても優しい人だと。奈緒のあの世話焼きとは違う、甘ったるい優しさを持つ人だと。


「あの人は、いつも困ったねぇって笑っていてね。食べるのが好きで、とくに側にいる侍従の人の紅茶が特に好きで。面倒くさがりのくせに何でもやろうとして、かわいい服が似合うのに嫌いで、すぐに喧嘩の売り買いしようとするし、実際にちゃんと殴り合いの喧嘩したことがあるらしい人なんだけど。たぶん、あたし達の中で一番、とっても優しい人よ」


 後ろにいる騎士達がほんの少しざわついた。そういえば、カルロスとイーサン以外で静に会ったことがある騎士はいないはずだった。しかもあんな、殺戮のなんたらなんて話が王都中に広まってしまっている以上、静に対するイメージが悪いのは当然だった。

 とはいえ、この場にいるのはアンソニー達が選んだ騎士達だ。その中でもある程度は静に対して良くは思っていなくても、ちゃんと真咲を守ってくれる人達がいるわけだ。だからそこは信用しているが、まさかざわつくとは思ってもみなかった。本当、一体どういうイメージを持っていたのだろうかと、つい考えが逸れそうになり慌てて真咲は意識を目の前の男へと向けた。

 男もまた、信じられないと言わんばかりに真咲を見上げていた。ああ、ここまできっと話が広まっているのだと知った。そのことに真咲はすぐに苛立ちを覚えながら無理やりに笑顔を見せた。


「けどね? あたしが同じ事が出来るわけじゃないでしょ? だからねちょっと考えたの」


 考えていた。無事に犯人を見つけられた時、どうしようか、と。

 どうせ罰がどうだという話になってくるはずだ。だって静建、あの四人に対しての罰をどうするのかと問われていたくらいだ。だから仕方が無いと言うように、生きることが罰だと言った。

 それなら自分はどうするべきだろうか。静と同じように言うつもりは毛頭なかった。そもそもとして、これ以上関わりたくないのだから、これについて考える時間すら勿体ないと思ってしまうくらいだ。だから、この考えにたどり着いた。


「あたしね、何もしないことにしようと思って」

「……え?」

「だって、そっちのよく分かんない神様に導いてもらったんでしょ? それならあたしが途中で邪魔とかしたらいけないじゃない。ね?」


 もはや何もしないことにした。だって結局自分は巻き込まれた側なのであって、本来であればこちらの国の人達が解決するようなものなのだ。それがどうしてそこまで考えなきゃいけないのか意味が分からない。

 真咲は男の視線を合わせるように、またその場にしゃがんだ。


「もし。ここに銀の聖女がいたら、きっと怒るし、頭一発だけ殴るかもしれないわね。それで、もしかしたら赦してくれたかもしれないのに。とっても残念だわ」


 真咲はにっこりと、とても綺麗に微笑んだ。


「お赦しください! 私は、ただ言われた通りのことをしただけで、導かれてなんて……!」


 途端騒ぎ出し、真咲へと縋りつこうとする男を周囲の騎士達が上から押さえつけた。

 真咲はよいしょと立ち上がり、さっさと踵を返してその場から歩き始めた。


「真咲様、どうすんだ?」

「知らなーい」

「……はいはい。分かったよ」


 先に行く真咲の後ろにいるカルロスは真咲の返答に、ため息交じりに返事をした。


「ね、カルロス。これでも主って言ってくれる?」

「当然だろ。我らが空の聖女様」


 振り向かないままに問えば、少しだけお道化たように言うカルロスに続けて、背中からイーサンとアリッサが聞こえた。


「真咲様、僕もいますよー」

「私もおりますが?」

「分かっているわよ」


 真咲は三人が側にいると分かっているから、振り向かないままに前へと足を進める。

 少し遅れて自分もいると鞄の中からディーヴァが顔だけ出して、ぴぃと文句を言ってきた。そういえば大神殿にいる時はほとんど鳴くことなかったが、あの時はずっと肩にいたから翼を広げたり身体を寄せてきたりでディーヴァが気持ちを伝えて来ていたなと思い返した。


「そうね、ディーヴァ」


 小さな頭を指先で軽く撫でれば気持ちよさそうに目を閉じ、また鞄の中へと引っ込んでいった。

 なんだか、今ならどこまでも行けそうな気がするほど真咲の心は、この曇り空に相反して清々しいほどに晴れ渡っていた。

 ああ、すっきりした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ