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白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第1部連載中】  作者: tamn
第1部 落とされた四人の聖女達 五章 空は決意を歌う
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08 巡礼前のひととき

 翌日。真咲は今、なんと王城へとまた訪れていた。とはいっても、アウグストに会うためではない。


「うわぁ、男臭い」

「そりゃあそうだろ。ほとんど男しかいねぇしな」


 ここは王城の中にある、深紅の訓練場だ。一目見てうっかり言ってしまった真咲だが、カルロスは当然だと答えた。

 何せ、本当に男ばかりだったのだ。

 カルロスのように身体の大きな男や、それに比べれば細いような男。年齢もバラバラだが、比較的全体的に若く見えた。

 しかしそれにしてもだ、こんな寒いと言うのに最低限の防具を付けて木の剣で撃ち合いながらよく外で訓練が出来るなと、つい感心してしまう。

 ああ寒い寒い、とまた雪が降ってきそうな空を見上げそうになって、ようやく奥で必死に訓練をしている女の姿を見つけた。


「あ、女の人もいるのね」

「ああ。すげぇ怖いぞ」

「へぇ、そんなこと言うのね?」

「おい、言うなよ? 絶対に言うなよ?」


 カルロスが本気で動揺を見せている所を見ると、本当に恐ろしいらしい。

 真咲はイーサンをちらりと見ると、イーサンは笑顔でどこから取り出したのか、例の書類を持っていた。


「見ます?」

「見せるんじゃねぇよ!」


 きっとカルロスが何かやらかした結果、恐ろしいことになったのだと真咲は察してしまった。

 それはそれとして、大神殿に戻ったら見してもらおうと真咲は内心決めた。カルロスが無言で見てくるが、そんなものは気づかないふりをしつつ訓練場を見渡し、ふと気づいた。


「ねぇ、あの水路って何?」


 訓練場の端にずいぶんと大きな水路があった。ちょうど大人一人が入ってもまだ余裕がありそうな幅があるように見えた。が、カルロスからの話を聞いて、つい納得してしまった。


「ん? ああ、あれな。水浴び用だったり、気絶したやつをそこに投げ入れたりする用。毎回魔術でやるのも面倒だからって作ったらしいぜ」


 すごく野蛮だ。騎士ってそんなに野蛮なのか。

 少女漫画とかに出てくるような、キラキラとした騎士という幻想が日に日に崩れていっていたが、ついに瓦礫となって完全に崩れ去った。

 いや、違う。この国が特殊なだけだ、きっと。と一歩遅く思い込んだが、どうしてか目の前にいる男達を見て、やはり野蛮という感想しか思い浮かぶことしか出来なかった。

 何故、真咲達がここに来たのかと言えば巡礼のためだ。巡礼に行く真咲の為に、基本的には大神殿にいる騎士が護衛を務めるが、それでは王城側の立場がないし、非常に関係も悪化する原因になるという。しかも、よくよく聞くと実力で言えば、深紅の騎士達の方が上だとエドヴィンが教えてくれた。

 だから是非、安心して実力を確認してほしいとも。

 正直今見ただけでも、真咲は欠片も実力というものがよく分からなかった。ただ分かるのは、激しい打ち合いをしている姿だけ。この場に静がいればきっと分かるのではないか、なんて思ってしまったが、喧嘩とこれはまた違うのだから分からないと言われてしまうかもしれない。


「お、真咲様。隊長達が来たぞ」


 深紅の、確か名前はレナートという隊長と、何故か顔を思い出せない副隊長のリクハルドと、ここで会う予定だった。

 しかしわざわざ外で会わなくてもと文句がつい出てきそうになりつつ、カルロスが視線を向ける先に真咲が追うように視線を向け、喉までせり上がってきたはずの文句が一瞬にして消え去ってしまった。


「え、え? アンソニーさん?!」


 体の大きなレナートのすぐ横に、なんと見慣れたその人。城下町でよく遊戯盤の相手を良くしてくれているアンソニーが朗らかな笑みを浮かべつつ、なんと歩いてきていたのだ。ちなみにその後ろにいたリクハルドには少し経ってから気づいたが、仕方がない。たぶん。


「お待たせしました、真咲様」

「だ、大丈夫。うん、けど、その」


 恭しく胸元に手を当て、騎士の礼をしたレナートに対し、真咲は答えつつも視線はまっすぐにアンソニーに向けていた。

 アンソニーは口元に手を当て、控えめに、しかしこれまた楽しそうに肩を揺らしていた。


「ほほっ。やはり驚きましたか」

「なんで、アンソニーさんが?」

「元深紅の騎士だったのですよ。それで急遽、古巣に呼ばれまして。ねぇ」


 さすがに連日のあの驚くべき真実に触れてしまったから、これでもう簡単に驚くことはないだろうと高をくくっていた真咲だが、今日もまた声が出ないほどに驚いてしまっていた。

 真咲のそんな様子を察していないらしいレナートは手をアンソニーに指し示しながら説明をしてくれる。


「アンソニー殿は深紅の中でも歴代屈指の実力者なのです」

「実力者なんぞ。私はただ考えることだけが得意だっただけで、腕っぷしはとても弱いものでしたよ?」

「ですが、参謀まで務めてくださったでしょう? あのときは何度助けていただいたか」

「私はただ、最も良い戦略を考えただけに過ぎないのですがね」


 目の前の二人はとても親しげに会話をしている。真咲は後ろに控えているカルロスに振り向いた。


「カルロス……。ほ、本当?」

「ああ、本当だ」


 そう言えば、と城下町にいた時のカルロスを思い出す。

 アンソニーといつも話をしている時は、何故か妙にいつもよりも離れた場所にいたな、と。なるほど、本当に最初から分かっていたらしい。

 一言二言、カルロスに言いたくなったが、それよりも先にアンソニーがまた真咲に話しかけてきた。


「真咲様」

「あ、うん。はい!」

「そうかしこまらず。いつものようになさってください」

「……分かったわ」


 目の前にいるアンソニーはいつもの通りの、何一つ変わったところがない姿をしている。だから妙にここでは浮いているようにも見えるが、しかし真咲を安心させるのには十分すぎるものだった。

 落ち着いた真咲を見からってか、アンソニーは慣れたように先ほどレナートが見せたように胸元に手をおいた。


「今回は巡礼の経路及び、大神殿との連携等々も含めて私が取り仕切らせていただきます。また深紅の騎士の選抜ですが、私も行います。ご安心ください、とは言えないのが申し訳ないのですが、複数の目で見ることで確実性というものは増しますのでご容赦ください」

「そんな! アンソニーさんがそこまでやってくれるだなんて、とても安心しちゃうわ!」

「嬉しいことをおっしゃてくださいますな」


 アンソニーは本当に嬉しそうに微笑んでくれた。が、すぐに初めて真咲が見る真剣な表情へと変化した。


「真咲様。我らが神に誓って、貴方をお守りいたします」


 その言葉に、レナートも、そしてリクハルドも姿勢をただし、胸元に手を当てた。二人もまたとても真剣な顔ををして、それこそ決意に満ちた光を目に宿していたのを真咲は見逃さなかった。

 真咲はこの時、なんて言葉を返せば良いのだろうか分からなくなりそうだった。

 だって自分は聖女で。そしてこんなに人目がいっぱいあって。だからそれらしい言葉を、と思ったがいや、違うとすぐに否定した。この場にいる人達は命をまさにかけて守ろうとしてくれている。そんな人達に対して、こんなくだらないことを考えているのがどうも馬鹿らしくなった。

 だから真咲は姿勢を正してすぐ、肩に止まっているディーヴァをまず両手の中に避難させてから、頭を深く下げた。

 周囲は大きくどよめく。けどもそんなものは真咲に関係ないものだった。真咲はこの日本式のやり方しか知らなかったから。


「ありがとうございます。それと、よろしくお願いします」


 頭を上げた真咲は、そろって目を丸くして固まっている人達に向け、にっと笑ってみせた。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 五日間はあっという間だった。

 ニーナのいる孤児院にいの一番に訪れ、巡礼に行くことを伝えた。ニーナは不安そうにしていたが、子供達と共に無事を祈ると言ってくれた。ジルも少しだけ不安がっていたが、それだけで後はいつもの調子で真咲に絡んできた。なので、いつものようにガキと言って、カルロスに渡した。

 食堂の女将の元にも忘れずに訪れた。女将もまたとても驚き、しかしとても喜んでいた。聞けば、きっと会う人皆、喜ばれるだろうと。その姿を想像したら同じく喜んでしまったと。きっとそうなると良いなと思いながら、女将に少し強めに抱きしめてもらった。城下町の子供達はしばらくこれないことにひどく不安の声をあげていたが、それなら次まで強くなってやると遊戯盤で遊び始めていた。

 巡れるところは可能な限り巡った。どこも不安がったり、驚いたり、寂しがったり、喜んだりと反応は様々で、そしてまた誰も彼もが次は、と口にした。

 次。次は、あるのだろうか。しかしもうここまで決めた以上、真咲の中では進む以外の選択肢なんて無かった。



 そうしてついに前日。真咲は部屋の中で慌ただしく動き回っていた。


「本当に行くのか?」

「しつこい。ねぇ、アリッサ。後、必要なものって他にあった?」

「いえ、ありません」

「あ、待って、遊戯盤は?」

「こちらに」


 部屋の片隅にいるカルロスから何度目かの確認をされ、真咲は飽きたと言わんばかりに返事をしつつ荷物をまとめていた。

 ほとんどの荷物はまとめたのだ、アリッサが。ただいくつか真咲が個人的にこれも持っていきたいと思った物もあったわけで、今は大慌てで荷物の詰め直しをしていたところだ。


「真咲様、通信機はちゃんと入れましたか?」

「ここにいれたわ。ディーヴァったらずっとそこにいるわね」

『良いわね、これ』


 アリッサに問われ、真咲は間違いなく入れたことを自分でももう一度確認するためにベッドの上に置いている肩掛けの皮の鞄から、スノードームにも見えなくはない通信機を二つ、取り出して見せた。そしてその中にはディーヴァが中に入って休んでいる。

 この鞄はアリッサが、ディーヴァの為に用意してくれたものだ。

 いつもディーヴァは真咲の肩にいるが、寒さが厳しくなってくるとディーヴァもさすがに寒いようで真咲の服の中にいることも増えてきた。もちろん真咲はそれで構わないが、それではあちらこちらへ動くときに支障が出るだろうと、中にふかふかの温かい素材が詰め込まれた特製の鞄を用意してくれたというわけだ。

 居心地は見ての通り、中に入ってから一向に出てこようとしないぐらいに良いらしい。

 そしてその中に、奈緒がユアンに作ってもらったという、自分達専用の通信機を二つ入れている。

 使い方は簡単だったし、なんでも魔力を持っていると逆に使えない魔具らしく、もしこの世界の人達に拾われてもただの置物にしかならないものだ。

 それを真咲は二つ持っている。一つは自分。もう一つは、もしかしたら会えるかもしれない静に渡すために。

 向かう先は南。まさしくあのエヴァンハイン家が治める領地に行くのだ。

 静は今頃何をしているだろうか。もしかしたら変わらずに皆を困らせては小言をもらっているんじゃないかというその姿が簡単に思い浮かんでしまった。


「もう明日なのに、まだ荷物まとめてなかったんですか?」

「うるさいわね!」


 控えめなノック音。カルロスが確認した後に、イーサンが中へと入って来た。

 入ってきて早々、ちょっとさすがに言われたくないことをつい言われてしまい、真咲はすぐに言い返した。イーサンはわざとらしく肩を竦め、カルロスの様子を見て大きく息をついた。


「カルロスさぁ、いい加減腹くくれって。行くなら行くでかまわねぇとか言ってたくせにさ」

「あれは二人とか三人ならの話で、まさか一人でとか思わなかったんだよ」


 真咲を目の前にしていると言うのに、堂々と話をする二人。というよりカルロスに、真咲は最後の荷物をつめ終わった後に目の前へと歩み寄った。


「文句でもあるの?」

「文句じゃねぇが……」


 言い淀むカルロスに、真咲はじぃっと黙って見上げる。カルロスはその視線から逃げるように顔を背けるが、真咲は止めない。ちょっと首が痛くなってきたかもしれない、という時に先に根をあげてくれたカルロスが大きく息を吐きだした。


「分かった、分かったよ」

「お、カルロスが根負けした。真咲様、首疲れたでしょ。こいつ、しゃがませますよ?」

「大丈夫よ」


 茶化すイーサンを無言で睨むカルロスを姿を見て、つい真咲は笑みをこぼした。

 とは言えやはり疲れたので、遠慮なくソファに座れば、カルロスは見計らったよう真咲に問いかけた。


「この大神殿、というより王都か。その外についてはどの程度把握している?」

「知っているわけないじゃない」

「偉そうに言うなよ。まぁ、言わなかったのは俺の方だけどな」


 そうだ。カルロスはそもそも何も言わないでただ単に、行くのか、本当に行くのかと真咲に問いかけることしかしなかったのだ。

 そんなことを問われ続けたのだ、それはもう向きになって行くと言ってしまうのは、真咲の性格からしても当然だった。ただそんな性格じゃなくっても、はっきりと行くと今なら言えると真咲は確信していた。


「正直言えば、人間は怖くねぇ」

「そうなの?」

「せいぜいいても賊ぐらいだが……、今回は空の聖女だからって多くやってきそうだから回数は増えそうだがそれぐらいだ」

「……それぐらい」

「怖くなったか?」

「全く!」


 カルロスがそれぐらいと言い切ってしまうぐらいなのだ。だからきっと大丈夫だと、真咲はそう思いながらも湧き上がる不安を抑えるように両手を強く握りしめた。

 それに気づいてカルロスは少しばかり目を細めたが、構わずに続けた。


「怖いのは魔物だ」

「そ、そうなの?」

「この冬だからこそ活発に動く魔物が複数いる。一応南に向かうから、まだマシだろうが舐めてたら命を落としかねない。加えてこの寒さだ。外にいるだけで体力が奪われかねないし、うっかりはぐれちまったらそれこそ凍土に眠る他ない」


 騎士であるカルロスは、間違いなく戦うだろう。そしてアンソニー達が選抜してくれた騎士達も。皆、真咲を守る為に。それこそ命を落としかけないような状況になろうとも。

 ああ、そうか。と思う。真咲だけが危険ではないのだ。皆が皆、危険の中に飛び込んでいくのだ。

 そこでようやく真咲は気づいてしまった。

 カルロスはもう一度、真咲に問いかける。


「それでも行くか?」


 けども、真咲の決意は、これっぽっちも揺らぐことはなかった。


「奈緒が、希望が残ったって言ったじゃない?」

「あー……、なんたらの箱だっけ?」

「パンドラの箱」


 真咲は、あの日、あの夜、ディーヴァに語ったことを話した。


「希望は残ったけど、それだけでしょ。だからってわけじゃないけど……、なんていうか。ほら、あたしはラウディアータの聖女だから。だから、残ってる希望に導けたらって、その、ちょっと思っただけっていうか……」


 けどやっぱりちょっと気恥ずかしくって、最後あたりはどもってしまったが言いたいことはちゃんと言えた、はず。


「真咲様、ご立派になられて……」

「ねぇ、アリッサ。それ、どういう意味?」


 たぶん伝わっているが、アリッサのその反応の意味について真咲は後でよく聞こうと思った。


「そ、それによ! あたしはラウディアータの聖女だもの。それなら、安全な道ぐらい導ける、はず……よね? ね、ディーヴァ」

『そうね。たぶん』

「ねぇ、ちょっと。ディーヴァ、だいぶ他人事じゃない? ねぇ?」


 しかも、たぶん、だなんて。なんてひどい愛娘なのか。アリッサもアリッサだが、今日はディーヴァもひどい。なんて日だ。もう前日だって言うのに。

 真咲はさらに文句を言うために口を開く、その前にカルロスが言った一言が耳に入った。


「そうか」


 たったそれだけだ。けども、妙に満足したようにも聞こえた。

 カルロスへと視線を向ければ、聞けた通りに満足げな顔を浮かべていた。けども何が、そうか、なのか真咲には全く欠片も分からなかったが、カルロスが納得するようなことを言えたことだけは分かった。きっとこれでもう何も言われることもないと安心しきった真咲は、カルロスから突拍子もないことを言われた。


「真咲様。悪いけど、ちょいとこのあたりに立っていてくれねぇか?」

「……それぐらいなら」


 何故か部屋の中心あたりに立ってくれ、といきなり言われたのだ。一体何を考えているのか分からないが、それでも断る理由なんてものはないから真咲は素直に立つ。と、カルロスが真咲の目の前に立った。一体何をするのかと眺めていたら、急にカルロスは目の前で片膝をつき、真咲を見上げた。


「我らが神に誓います」


 驚きで呆然としている間に、カルロスはまっすぐに、いつものよく通る声で言い放った。


「カルロス・ノヴェロは、真咲様を唯一の我が主とし、この身、この命、この魂。そして我が剣と炎にかけてお守りいたします。我が血潮に誓いを刻み、破られることがあれば血は業火となり、我が身を焼きましょう」


 周囲の空気が何か変わった、ような気がした。本当にそんな些細なものだ。


「その、カルロス? いきなり何なの?」

「見ての通り、誓っただけだから気にすんな」

「け、けど……」


 誓い終わったカルロスは立ち上がり、なにか問題でもあるのかと見てくる。

 確かに誓ったのは分かった。しかし問題はその誓った内容と、アリッサとイーサンが二人揃って顔を引き攣らせていることだ。


「イーサン!」

「そこの馬鹿は、血の誓いをしたんですよ。しっかもどぎつい奴」

「え、血?」


 血の誓いだなんて、言葉からしても良くないもののように聞こえてくる。だが血と言う割に、カルロスは一切血を流してはいないし、ただ単に真咲に向かって誓っただけだ。内容はともかく。


「説明しますと、血の誓いっていうのは神の目の前で行う誓いです。内容によっては、一人でやったり、立会がいる前でやるんですよ。で、血っていうくらいなんで、もちろん血を使います」

「え、でも」

「通常だったらの話ですよ。通常だったら、書面に記して、そこに血印をするんです。で、誓いを破ったら内容によっては立会者に殺されるわけなんですけどね」

「こっわい誓いじゃない! え、通常でそれ?!」

「そうですよ。あ、僕も一応血の誓いを漆黒の隊長立会でやっているんで安心してください。って言っても、通常の方なんですけど」

「待って。え? 安心して良いの?」

「そりゃあそうですよ。どんな状況になっても裏切らないってことですから。あ、本当に裏切るつもりはないから今、こうして話たんですけどね?」


 それは喜んで良いものなのだろうが、全く持って純粋に喜べないのは、その血の誓いのせいだ。しかも通常がこれというのだから、カルロスは一体どういう血の誓いをしたのか気になりつつも、それ以上に聞くのが恐ろしくなってきた。


「じゃ、じゃあ……カルロスがやったのは?」

「内容はその馬鹿が言った通りなんですけど、カルロスは真咲様以外を主としないし、もし誓いが破れたら自分の身を燃やすって誓いました。だいぶ昔の方法で当時の騎士達が行っていたものです。絶対に唯一の主である貴方を裏切りませんっていう奴ですね。で、これのすごいところが、ちゃんと自身の血に誓いが刻まれているんですよ。だからもし破ったら、誓った通りの罰が下るって言うわけです。ね、こいつ馬鹿でしょう?」


 なにそれ怖いし、カルロスがとんでもないことをしでかしたのだと真咲はようやく理解した。

 カルロスを見上げれば、少しばかり困ったような顔をしていた。


「そこまで説明するなよ、イーサン。しっかも丁寧にさ」

「僕は当然のことをしただけだけど?」


 困り顔を浮かべていたのは、イーサンが説明をしたからだった。ということは、この馬鹿はイーサンや、きっとアリッサがいなければ黙っていたに違いない。知らず知らずに押し付けようとしていた、というか強行してきたカルロスの行動が本当に意味が分からなかった。

 だって先程まで、巡礼に行くことに顔をしかめていた。一応は納得してくれたと思ったら、今度はこんなもはや地面にめり込んでしまうのではと思うほどに重たい誓いを立てられた。

 なんて、大馬鹿ものなのか。


「唯一の主、って」

「勝手に俺がそうしただけだから気にすんなよ?」

「だ、だって、あたし、帰るのよ? それなのに」

「おう、そうだな」


 カルロスは軽く答え、にっと笑った。


「けど、俺の生涯の主は真咲様だ。一応は国や王族の騎士だが、この魂は真咲様の物だ。血の誓いなんてなくても、これは変わらねぇよ」

「なんで、そんな……あたしを、主とか」

「なんでって聞かれてもなぁ……。真咲様が決意したんだ。それなら俺は、俺の決意を示すのが騎士ってもんだろ?」


 ほんの少しだけ、なにかを飲み込んでいるかのようにも聞こえた。しかし、それにしたってあまりにもやり過ぎだと言いたいが、あまりにも満足げにしているカルロスを前に、真咲はただ呆れて笑うしかなかった。


「本当、馬鹿ね」


 無意識にこぼれた言葉に、カルロスは何か文句を言いたげに器用に片眉を上げる。が何も言い返してこず、代わりにわざとらしく肩をすくませた。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 夜が明けた空は雲一つない、澄んだ青空が広がっていた。

 紫紺色の大きな馬車と、深紅や紫紺の色を纏う騎士達が乗る馬が人々に見送られ、王都を後にする。

 人々は思い思いに祈り、願う。

 どうか、どうか。空の聖女が行く先々に、良いことがありますように。そして巡礼の旅が無事でありますように、と。

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