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白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第1部連載中】  作者: tamn
第1部 落とされた四人の聖女達 三章 黄金は真を覗く
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05 隠された部屋

 一番は祈りの間を細部まで調べるのが得策だった。しかし昼間は信徒達がいる為、調べることが出来ない。かと言って毎夜調べに行くというのも、護衛や伊織自身の体力な問題もある。その為、大神殿内を調べ直してからという話になったのだ。

 アイヴィが借りてきた建築図をもとに調べる順番を決めた。

 最初は神官達がよく使う食堂でおやつをもらってから、なんだかよく分からない部屋をいくつか回る。そのうちの一つの物置はヴィンセントが勝手に休憩室として使っているのを見つけたが、とくに面白味は無かった。

 大神殿の中から信徒達の姿がよく見える場所があることを知って、こっそりと上からぼんやりと眺めた。その後、前に見つかったと言う隠し通路を見て回ったり、この付近は逢引をしている者達が数多くいるなんていう話をこっそりとクレアから教えてもらったり。

 改めて大神殿の広い内部を可能な限り見て回り、伊織は結局のところまた地下の書庫室に戻っていた。

 相変わらずここは薄暗く、視界は悪いし、端々に何かしらが横切ったり蠢いたりしているが、いい加減に慣れてきてしまっていた。何せそこにいるだけなのだ、もはや景色と同じだった。


「何か見つかったか?」

「……ううん、特に何も」

「そうか」


 粗末な丸椅子に座り、疲れた様子を見せる伊織を隣にいたヴィンセントは傍らにある木の机に腰かけながら小さく息を吐きだした。

 執務の合間を見て休憩がてらに伊織の様子を見に来るようになったヴィンセントはだからと言って暇ではなく、なかなかに忙しい身だ。今日もきっとエドヴィンの目を盗んでここまで来たのだろう。

 そうでなくても何故場所が分かったかと言えば、周囲の神官達からの目撃情報をもとにあたりをつけてこうして伊織を見つけるのは流石と言えた。


「しかし違和感か……。見えてもいないというのに」

「うん」

「奈緒と真咲には言っていないんだろう?」

「……言った方がいいんだろうけど……、よく分かんないのに言っても困らせちゃいそうで……」


 奈緒と真咲はきっと親身になって聞いてくれるのはすぐに想像がついた。そして二人はそれなら一緒に行こう、と提案してくるはずだ。

 けども、それではいけないと伊織は思ったのだ。

 ちょっとした我儘のようなものだった。奈緒も真咲も、自分の事で精一杯だというのに、さらにこんなよく分からないものを押し付けようだなんて出来なかったし、どうしても二人に頼らないで解決したかった。

 後で絶対に怒られるだろうが、それでも胸張って頑張ったでしょ、と言えることをしたかった。そして静に再会した時に笑ってこんなことがあったのだと話したかった。

 そのために今、頑張ろうと強く決めたのだ。


「……そうか。無理はするなよ、静みたいに」

「さすがにそこまで無理はしないよぉ」


 だがここに静がいたら、間違いなく伊織は静には話をしていたに違いない。そして的確な判断でどうすれば良いのか教えてくれ、そして率先して傍らにいる侍従に怒られに行くに決まっている。

 そんなことを想像していた伊織はふと、それを思い出した。


「ここって、確か……元はエヴァンハイン家がいた場所なんだよね」

「ああ、そうだ」

「この大神殿も元からそうなの? それとももしかして何もなかったとか……?」


 あの祈りの間ぐらいはあったかもしれないが、もしかしたら本当にそれだけの場所だったのではと少し想像をしてしまった。

 しかし、どうもそれは違うようだった。


「今は大神殿という形となっているが、元々ここは砦だったそうだ」

「砦?」

「ああ、あの祈りの間を守る為のな。それを改築、増築を繰り返して今に至っている。もちろんだが、隣の王城は後から建てられたものだから歴史としてはこの大神殿の方が長い。そのせいで隠し通路、隠し部屋がそのあたりにあるということだ。だが、それにしたってこの地下の書庫はあまりに深すぎると思わないか?」


 ヴィンセントの言う通り、この地下の書庫はあまりにも深いと伊織も頷く。

 一体どうしてこんな地下に作ったのか。後でまた広げるにしても、わざわざこんな最下層を掘る必要性はないように思えてならない。

 この世界は魔術という便利なものがあるから、おそらく掘るのは楽だが、うっかり掘り過ぎたなんてお茶目な理由だったらだいぶ面白い。だが、それならまた埋め直せば良いだけではと思い、すぐにその想像を取り消した。


「もうちょっと浅かったら移動も楽なんだけど……」

「だろう? 全く、当時の人間はどうしてこのような地下深くに作ったんだか意味が分からん」


 日本によくあるゲームや本、漫画を思い出す。

 伊織自身はあまりそう言ったものに触れてこなかった為、なんとなく触りの部分でしか分からないがよくありそうなものは何だったかと思い返す。

 そしてふと、どこで見たのかまでは覚えていないがその映像が頭の中に浮かんだ。


「……例えばだけど、階段の途中に何か作った、とか?」

「……なるほど、可能性はあるな。では行くぞ」

「え、行くの?」

「当然だろう? それにそろそろ戻らねばエドヴィンが騒がしいんだ」

「それなら先に戻れば……」

「面白そうなものが優先だ」


 それはヴィンセントの都合では、という言葉は飲み込んだ。

 先に立ち上がったヴィンセントはさっさと来い、と言わんばかりに伊織を見やる。伊織は静かに二人の会話の邪魔にならないように控えていた三人に向け、困ったような笑みを見せた。



 順番に壁をじっくりと見ながら、長い長い階段を一段ずつ上がっていく。

 よくよく壁を見れば所々ひび割れがいくつも見つかり、壁にはめられた魔具も点滅し始めているものや他に比べて光が弱かったりと、あちらこちらで修繕が必要そうな箇所が見えてくる。

 それらをついでだからとヴィンセントの指示の元、クラウスが一つずつ書き記していく。そうこうしていれば、ちょうど中腹辺りにまで差し掛かったところで伊織は少しだけ声を張り上げた。


「……ただの壁、壁、壁……! なんも見つからないよぉ!」

「思ったよりも老朽化が進んでいるな。さて、いつ修繕させるか……。ついでに魔具を新調するか……」


 それらしい痕跡がなく、それどころかヴィンセントに修繕が必要そうな箇所を確認させられる始末に、伊織は嘆いた。がんばろうと意気込んだ結果、何もないどころかついでにとっても便利に使われているだなんてちょっと腹立たしくなってくるのも仕方がない。

 別にこの力を便利に使ってくれるのは構わないが、目的が全く違うのだ。


「伊織様、戻られたら甘いお菓子をご用意しますね!」

「これが終わったら今日はもうゆっくりとお休みになりましょう。ね?」

「休息は必要かと」


 三者三様、伊織を宥め、さらにヨルも体を寄せて伊織を宥めようとしてくる。そのもっちりとした感触につい頬を緩ませそうになるがおかげで少しだけ心が落ち着いてきた。


「そういえば庭師が昨日だったか、珍しい虫を見つけたそうだぞ」

「なんでそれ早く教えてくれないの!」


 本当に今思い出したらしいヴィンセントの言葉に、伊織のやる気は完全に復活した。すぐにまた何かないか丁寧に変哲もない壁をじっくりと目を凝らしながら探すことを再開させた。

 そうして少しばかり上へと登って来たあたりで伊織は足を止めた。


「あれ……?」


 壁は老朽化によって、ここも目立たないひびが走っている。だが、妙なものが見えた気がしたのだ。

 何か、この壁の中に何かがいるように見えた。そして書庫室でよく視界の端で蠢いているそれも一瞬だけ、この場に横切ったような気がした。

 伊織は恐る恐る壁に触れる。何の変哲もない壁。しかし、何かがあるように見えてならなかった。


「伊織、下がれ」


 ヴィンセントが横から伊織を下がらせ、代わりにアイヴィとクラウスが前に出て壁を調べ始めた。何の変哲もない古びた壁に触れたり、軽く剣の柄で叩いてみたりとそれぞれの方法で確認をしていく。時間はそうかからずにすぐ二人は顔を見合わせ、アイヴィが振り向いた。


「この壁の向こう側、どうやら空洞のようです。いかがいたしますか?」

「やれ」


 ヴィンセントが迷いなく判断を下せば、クラウスが思い切り鞘に入ったままの剣を壁に突き立てた。たったそれだけだったが、そこから大きな亀裂が走り、次の瞬間土埃と大きな音をたてて壁が崩れた。

 アイヴィがすかさずに周囲を覆う結界を張ったおかげで土埃の被害には巻き込まれなかったが、なかなかに派手な壊し方だった。


「ずいぶんと力技を使うのね。まさか魔力で無理やり壊すとは思わなかったわ」

「下手に魔術を使うよりも安全で確実だろう? それにあまり驚いているようには見えないが」

「うちので慣れているせいかしら?」


 アイヴィが肩をわざとらしく竦めながら結界を解く。クラウスは服に付いた土埃を払いながら、なんてことない顔を見せながら剣をまた腰に佩いた。

 鞘が壁に突き立てられた時、白い光のようなものが壁に流れ込んだのを伊織は見ていた。あの白い光は魔力で間違いない。クラウスが言った通り、二人ぐらいが余裕で並んで入れる程度の範囲まで魔力は広がっていたがそのおかげで範囲外は全く崩れてはいなかった。

 なるほど、魔術だけが全てではないのかと見えているからこそ分かった事実だった。


「それでは確認してきますので少々お待ちを」

「おい」

「心配してくれるの? かわいいとこあるのね」

「さっさと行ってこい」

「あら冷たい」


 アイヴィが心配するクラウスを茶化しつつ、慎重な足取りで暗闇に満ちた空間に姿を消した。



 どれほど深い空間なのかと思えば、アイヴィが戻って来たのは案外早いものだった。

 それでも右手に浮かべていた光の球体を消しながら軽やかな足取りで暗闇の中から出てきた時は、伊織もさすがに安堵の息を吐き出してしまった。

 アイヴィは困ったように一瞬だけ笑みを浮かべたがすぐに騎士としての顔を見せ、ヴィンセントに身体を向けた。


「内部ですが、小さな部屋のようです。長い年月でほとんど朽ちていましたが食器や家具のようなものがありましたので、おそらくは簡易的な休憩室のようなものかと。ただ壁の状態からして、いつ崩落するか不明ですので立ち入りは危険かと思われます」

「なるほどな。一時的に作った場所ということか。しかし、わざわざ壁で塞ぐか……? 魔術なりで埋めてしまうか、どうせだから物置ぐらいには出来ただろうに」

「わざわざそうしなかった理由があるとするならば……」


 この中にある、何かを隠したかったのか。

 濁したアイヴィの言葉につられるように誰もが無言で暗闇を見据える。この中に一体何があるのか、待ち構えているのか。

 伊織は目を凝らし、何かしら見えないかじっくりと見据える。と、視界の端で蠢いていたそれが迷いなく、その暗闇の中に吸い込まれるように入っていった。

 伊織は自然と足がそれを追うように前へと動き、すぐにアイヴィが腕で伊織を制した。


「危険ですよ、伊織様」

「……その」

「中が気になりますか?」


 困ったように眉尻を下げたアイヴィの問いに、伊織は小さく頷いた。


「そのね? あの……言ってなかったことが、あって。見つけられた理由っていうか」

「教えてくださるのですか?」

「うん。あのね、たぶん……幽霊が、見えるんだけど」


 後ろの方でクレアが小さく、ひっ、と悲鳴を上げたのが聞こえたし、どことなくクラウスがわずかに後ろに下がった。


「あら、そうだったのですね」

「うん。それでね? この中に今、入っていって……」

「ヴィンセント様。よろしいでしょうか?」


 幽霊と聞いてもアイヴィは表情も内情も変化せずに平然としたまま、ヴィンセントに窺う。ヴィンセントも同じように今のことを聞いても、とくに驚きというものは見せずにむしろ面倒と言わんばかりに顔を大きく歪めていた。


「伊織、分かっているな?」

「……えっと」

「崩落の危険がある場所だ。その予兆を絶対に見逃すな。見た瞬間、即座に戻れ。分かったな?」


 ヴィンセントが小さな子供を相手にするように伊織に言って聞かせる。しかしそれは危険と判断した場合の対処法であり、否定ではなかった。


「ありがと!」

「いいから早く行って戻ってこい!」


 伊織は、はぁいと返事をし、アイヴィと共に手招く暗闇へと足を踏み入れた。



 暗闇の中はじっとりとした重たい空気に満ちていた。この目がなくとも、この中がどことなく危ないというのは肌感覚で分かってしまうものだった。


「何か、気になるものがありますか?」

「んー……」


 横でアイヴィが魔術で明かりを灯してくれているおかげで視界はある程度だが良好だった。

 黄金の瞳を数度瞬きながら、少しばかり湧き上がる不安を首に巻き付いているヨルに触れることで心を落ち着かせる。

 揺らいでいる。

 明かりは揺らいでいない。二人の影も揺らいでいないし、アイヴィは気づいていない。しかしこの瞳は確かにそれが揺らいだのを見つけた。

 こっち、こっち、と。それが手招いている。


「あそこの奥って……」

「……見て良いものではありませんよ」

「けど、呼んでるから」


 端正な顔を歪めたアイヴィは、しかし伊織を止めることはせずに奥へと明かりを向けてくれた。

 伊織は明かりが灯された奥へと進み、少しだけくぼんでいる場所にいるそれを見つけ、しゃがみこんだ。


「もしや、この者が呼んでいた、と?」

「……たぶん」


 伊織は部屋の片隅にいた崩れた一人分の骸を真っ直ぐに見つめた。

 どのぐらいの年月、ここにいたのだろうか。

 元は衣服だっただろうボロボロになった布切れに包まれた骸はもはやばらばらに崩れ、ただの山のように積み重なっていた。

 伊織は両手を伸ばしかけてすぐに日本式だが、両の掌を合わせて瞼を閉じる。そして瞼を上げ、今度こそ、ためらう事なく一番上にあった骸の頭を両手で持ち上げ、そっと抱き寄せた。


「一緒に戻ろ」


 視界の端にいるそれが大きく蠢いた。それは、いつになく近い距離で骸を指差していた。

 何かを伝えようとしていた。

 一体何があるのかとよくよく見ていると、白い骨の合間に輝くものがあることに気づいた。

 心の中でごめんなさいと呟きながらなるべく丁寧に骨をどかし、一番下にあったそれを拾い上げた。


「伊織様、それは……」

「分からないけど……たぶん、この人が守っていたもの、だと思う」


 そして伊織を呼んだのだ、渡すために。

 それは片手で収まるくらいに小さな黄金で作られた四角い何かのモチーフのようなものだった。片面は細かな彫刻が彫られ、もう片面は大きく凹凸している。一体これは何なのかは不明だが、とても大事なものだと伊織は確信した。


「戻ろ、アイヴィ」

「はい。伊織様」


 骸の頭を抱え直し、黄金の小さなそれをしっかりと握りしめ、湿った土の匂いが満ちていた暗闇からようやく外へと出た。

 残されていた三人はそれぞれ安堵したような表情をしたり、呆れたりと様々な様子を見せていた。


「全く……。崩落する危険だってあったというのに」

「ごめんなさーい」

「しかし、良くやった。その者を救い出したのだからな」

「……そうだと、良いなぁ」


 先ほどまでいた蠢いていたそれはいつの間にか消えていた。いや、隠れているのかもしれないし、ここにいるのかもしれない。

 救えたのならば良い。後は安らかに眠って欲しいと願いを込め、もう一度しっかりと抱きしめた。

 傍目からすれば頭蓋骨を抱く聖女なんて不吉のようなものとして目に映るかもしれない。だが、その意味を知れば、神聖なものとして目に映るだろう。

 まして、伊織は骸を目の前にしても驚きも拒否もせず、当然のように受け入れ、躊躇なく抱きしめた。それこそ誰もが描く聖女の姿そのものだった。

 ヴィンセントは伊織の行動をしかりと目に焼き付けるように見つめた後、ぽっかりと開いたままの暗闇に視線を向けた。


「さて。後はこれをどうするか、だが……」


 立ち入りは当然禁止だ。何かに活用すると言っても崩落の危険がある為、その為の補修が必要になってくる。そうでなければ埋めるかのどれかになるだろう。

 ヴィンセントが一人思案をしている姿を横目で見ながら伊織はじっと暗闇の空間を見つめ、あ、と口を丸く開いた。


「崩れる」


 伊織が言ったと当時、アイヴィとクラウスが大きな結界を展開させ、地鳴りのような音と共に一帯に広がる砂埃が視界を埋め尽くした。

 アイヴィが指先を軽く振りながら、何かを呟く。と、結界の外にどこからか風が流れ、一気に砂埃が晴れ、目の前にあったはずの暗闇の空間が土に埋もれてしまっていた。


「……本当に崩落寸前だったとはな……いや、もしくは」


 ヴィンセントは何かを言いかけ、視線を伊織が腕に抱く骸の頭に向ける。

 結界が解かれたと同時、一気に土の湿った空気が満ちたのを感じた。まるで先も度までいた、あの暗闇の空間にいるかのようだった。


「……待っていたのかも」

「お前をか?」

「分からないけど、これを渡しても良い人を」


 片手に握りしめていた黄金に輝くそれをヴィンセントに見せる。

 何か知っているかもと期待をしたが、顔をしかめた様子からどうもヴィンセントも知らない物のようだった。


「……ただの装飾品ではなさそうだな」

「たぶん、そうかも」


 この黄金が何かは分からない。

 しかしあの暗闇の中、長い長い年月の中であの場所が崩れないようにと支えながら、ずっと待ってくれていた。それほどまでの物であるのだ、大切なもの以外にあり得ない。


「それは伊織は持っていろ。そして他の誰にも話をするな。奈緒や真咲相手にもだ」

「うん、そうする」


 もし変に言ってしまって不安にさせるよりも、言わない方が今は良さそうだと伊織はそう判断した。

 もちろん後でこんな事があったと話せば、それなりに怒られるかもしれないが、まだそっちの方がずっと良かった。

 伊織が素直に頷いたを確認したヴィンセントは口角を上げ、そしてまた崩れた先に視線を向けた。


「さて、これらの言い訳を考えねばならないが……。そうだな。壁が一部崩落し、そこから出てきたということにするか。おい、もう少し派手に崩せないか? これではまだ不自然だ」

「仰りたいことは分かりますが……」

「ほら、この辺りなんか如何にも何かあったようなものだろう?」

「……はぁ」


 ヴィンセントの言葉の通り、まるでここに何かがありましたと言わんばかりの崩れ方をしている。これではあまりに不自然と言わざるえない状態だった。クラウスはせっかく腰に佩いた剣をまた鞘ごと手に持ち、また壁に振りかぶった。

 それからああじゃない、こうじゃない。いや、やりすぎだとヴィンセントの細かい指示の元、いかにも自然に崩れましたと言わんばかりのボロボロの壁が出来上がった。


「いい感じに馴染んだな!」

「二度はやりませんので」

「二度目がないことを祈ろう」


 満足げなヴィンセントにクラウスはとても疲れた顔を見せていた。

 伊織は戻ったらクラウスにしっかり休んでもらおうと思ったが、そういえば彼が好むものを知らないことに気づいた。それとアイヴィのことも。

 知らないことがまだまだたくさんあることに今更また気づいた伊織は、まずは上に戻った時にこの腕の中にある骸の頭をどうするのか聞いてからクレア達ともっとお話しをしようと決めた。

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