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白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第1部連載中】  作者: tamn
第1部 落とされた四人の聖女達 二章 喪失に眠る
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21 小憩にワルツを

 それは僅か四日後の事だった。

 静はヘクターからの報告に、つい驚きの声を漏らした。


「もう捕まえたの? 早いね」

「へへっ……! 朝飯前ですよ、こんなん」

「だったら一人でやれよ」

「うるせぇっ」


 ヘクターの隣にいるノーマンが呆れたように文句を言えば、すぐにヘクターが噛みついた。

 基本は二人一組で動いているのだろうか。そう言えば最初、ルイスと出会った時はオリヴィアと一緒だったなと思い出した。


「んで、捕まえたのは良いんですけど。どうも指定の本を盗ってきたら金をくれるとかでやっていたらしいです。ちなみにマジの職人でした」

「えーっと……、ヘクター達みたいな人、じゃなく?」

「そうです。ただの平民です」


 金。この世界でも金の力と言うのはずいぶんと大きいらしい。

 職人というのは、この大神殿の壊れた家具等を修理しにくる職人だと言う。腰がずいぶんと低く、困ったように笑うような人でさらに口下手だったとか。それでも腕は確かなものだから、皆重宝していたらしい。

 しかし、ルイスの話によれば、どうも酒癖がとても悪い上に借金をしており、常にその日暮らしをしていたのだとか。なるほど、そこに付け込まれたかと静は納得し、深く息を吐きだしながら目元を抑えた。


「……その先を調べないとかぁ。ヘクター、やってくれる?」

「もちろんです!」

「ありがと。引き続きよろしくね」


 やる気満々な返事がこれほど心強いものは無かった。静はすぐに顔を上げ、リーリアの膝の上にいるネーヴェに視線を向けた。


「ネーヴェ。ちなみにだけど、こういうのって影響してる? えーっと、そいつら捕まえたら力が戻るとか」

『人の祈り、願いだからな。捕まえたところで、という所では何も、だな』

「……難しいよなぁ。とりあえず国外に出たらまだ良い感じ?」

『そうだな。国の外に関しては我らの範囲外だ。何に対し、祈ろうと我らにとっての影響はない』

「国の外に出す、って言うのも……たぶん、国同士の問題になるよね、ルイス」

「はい。間違いなく」


 正直なところ、何に対して祈ろうが願おうが勝手にしてほしいと静は心底思っている。とはいえ、ユフィアータに対して祈り、願いは歪んだものを向けてほしくはないという思いもある。

 人は常に変化をし、それにより物の価値観、考え方も変わってくる。それは当然神に対する祈り、願いも同様だと理解しているが、それはあくまで日本で生まれ育った静の考え方だ。

 事実、ユフィアータが存在し、そしてその結果、眠りにつきかけている。であれば、本来の役目に沿ったものが一番望ましいのだ。

 他人の思考なんぞ簡単に変化させることはほぼ不可能だ。だから手っ取り早く、外に追い出す方法が早いわけだが、それを行えばまた別の問題になるのは即座に分かること。

 何を選んでも簡単に解決はしない。静は頭が痛くなるような感覚がした。


「にしても……、虫のように湧いてくるねぇ」

「やはり巣を叩く他ないかと」

「良い感じに撒き餌みたいなこと出来たら良いんだけど」

「ある程度はおびき寄せられるでしょうが、巣までと考えると……」


 ルイスが言い淀む。ヘクターが小さく首をかしげる横で、ノーマンは苦い顔を浮かべていた。

 そうなるのも静は理解していた。

 結局今、掴めたのは末端の末端だと思われるものだ。辿り着けても良くて末端のほんの少し上程度。掴めそうになっても簡単に蜥蜴の尻尾切りの如く、あっという間に逃げ去ってしまうのは容易に想像できた。そしてそこまで行えば、こちらの動きもある程度あちらに知られると言う事であり、二度目の手は通用しない。

 賭けのような手段になりかねないのだ。

 本格的に頭が痛くなってきた静はこめかみを抑えながら、すぐに別の事に思考を向けることにした。


「ジェイクとフィルはどうしてるんだっけ」

「なんかここの騎士とか神官の奴らに捕まってましたよ」

「捕まってたって……。ジェイクは強いから分かるけど。フィルも?」

「あいつ器用なんですよ。こういうの、実はフィルが作ってて」


 そう言ってノーマンは腰に付けている小さな鞄から何かを取り出し、ルイスに丁寧に手渡す。と、ルイスはああ、と納得した表情を見せてから静に手渡した。


「静様。それがユフィアータ様の紋章です」


 簡素な造りの小物だった。

 焼いた土で作られたそれは掌にすっぽりと収まるくらいに丸く、平たい。表面の方には、円に六角が刻まれており、裏面には紐か何かで通せるように細工がされている。


「……その、ルイス」

「はい。それぞれ愛娘には簡易的に表す紋章があります」


 静が聞きたいことを瞬時に悟ってくれたルイスが丁寧に説明をしてくれた。

 天の神、アルカポルスは天にして原初の星。ゆえに六つ星が紋章だと言う。そう言えば調度品や衣服の刺繍によく六つ星が使われていたことを思い出した。よく使われる理由として加護にあやかる為だと言う。

 そして愛娘達の紋章だが、扱われ方はそれとは異なる。他の神もだが、一般的に天の神、アルカポルスのように彫像が公にあるわけではない。その為、祈る時の道具として用いられることがほとんどだと言う。

 フィルが作ったような小物であったり、装飾品の一部に紋章が入れられていたり。使い勝手の良いように作られているが、共通してどれも肌身離さずに持ち運べるものが主流らしい。

 さて、それでは彼女達の紋章はというとやはりそれぞれ特色があった。


 リディアータは天秤と杖。故に紋章は天秤をより簡易に表したもの。

 メルヴェアータは国花の花。特定の時期にしか咲かないとされる花で、八つの花弁を持つ花が紋章となっている。

 ラウディアータは太陽と星。太陽の変わりとして炎の輪、そして中央に十字の星が紋章だそうだ。

 そしてユフィアータは雪に月。おそらく一番分かりやすく描きやすい、満月を模した丸と雪の結晶をもした六角形が紋章となっていた。


 それを聞いて静は大きく頷いた。

 だからネーヴェは雪を意味するその名を即座に受け入れてくれたのだ、と。

 偶然とはいえ、ユフィアータそのものを表す名を付けられたことに静はほんの少しだけ嬉しく思いつつ、妙に何かひっかかりを覚えた。


「静様、どうされました?」

「んー、いや。器用だなぁと思って」


 ルイスに小物を返しながら、静はもやりとした何かを誤魔化すように笑った。

 なんだっただろうか。いつだっただろうか。何か、見たような気がするのだ。それを、それらを。そう、夢の中で。


「フィルの奴、依頼の内容によるんですけど。土人形とか道端で売っている商人のフリしている時もあるんですよ」

「へぇ。今度見せてもいたいな、それ」

「伝えときまぁす」


 ヘクターが少しだけむすっとした表情をしたのを見逃さなかったし、横にいるノーマンは呆れているが、何故か頬を少し膨らませているのもしっかりと見つけた。

 まるで子供のようなそれに、静はつい笑いをこぼした。


「なんすか、静様」

「ううん、何でもないよ」


 少々ご機嫌斜めになっている二人にさてどうするか。

 静はゆるりと姿勢を崩し、二人の姿を眩しそうに銀の瞳を細めながらのんびりと考えることにしようと、それも止めた。


「なんか、騒がしいね」

「そうですね」


 妙に部屋の外が騒がしい。その騒がしさは段々と近くなっており、ずいぶんと大きな声で話をしているのが分かる。しかも知っている声だ。

 静はルイスに目くばせをする。ルイスは分かったようにすぐに踵を返し、扉をわずかに開けた。

 そして少しの間の後、ルイスは大きく扉を開けた。


「静!」

「どうしたの、真咲。そんな大きな声だして」

「ちょっと聞いてよ!」


 勢いよく入って来た真咲の後からアリッサが慌てて頭を下げ、そしてカルロス、イーサンと続く。

 勢ぞろいでどうしたのか、と思いつつも真咲の服装が丈の長い簡易的なドレス姿で、カルロスは騎士服ではなく簡易的な服装をしていたのを見て、ああと納得した。


「ダンスの練習してたの?」

「そう! 奈緒と伊織も一緒にやっているわ。で、今は休憩中!」


 夜会に出ることになった三人は今、必須と言われているワルツを踊る練習をしていた。マナーやらルールやら、いろいろとしきたりがあるらしく、せめて一回は踊らないと示しが付かない云々。

 それを聞いて三人からは恨めし気な視線を向けられたが、静は堂々とゆったりと過ごせていると言うわけだ。とはいえ、こうしてルイス主導のもの行っているものについての報告を聞き、その後どうするべきか考えなければならないわけだが。

 真咲は苛立ち気にびしりっ、とカルロスを指した。


「こいつすっごい下手くそなのよ!」

「敢えて聞くけど、何が?」

「ダンス!」


 瞬間、ぐっとカルロスは顔を歪めた。


「だから言ったじゃねぇか。俺は踊れねぇって。それに俺よりイーサンの方がうまく踊れるし」

「今まで散々逃げてきたツケが回ってきたのを僕に押し付けるなって。それに漆黒は基本的には出ないんだよ。出ても潜入とかそういう時ぐらいで目立たったら本末転倒も良いところだよ」


 完全初心者な真咲に対し、踊れないカルロス。何とも苦労する組み合わせだろうか。しかし一曲踊ればそれで終わり。別に相性としては悪くはない、ただ下手なだけであれば練習あるのみだ。


「それは分かっているけどよぉ。あ、けど、もし静様が出ることになったら相手どうするんだよ」

「ルイス一択しかないだろ? 静様が相手なんだしさ」


 いつもよりもずいぶんと情けない声を出すカルロスにイーサンは肩を竦めつつも、当然のようにルイスを指した。

 ずいぶん前に、ヴィンセントが何かそんなことを言っていた気がしなくもない。

 とはいえルイスも多少何か思う所があるのか、口元がわずかに下がっていた。


「じゃあ別に俺じゃなくっても」

「状況が違うって言ってんだろ? 静様がルイス以外に無理なの知っていてそれ言ってんのか? それとルイスは……あーまぁ、そういうことだ。分かったか?」

「……あー……悪い」


 イーサンが途中、はっとしてすぐに言葉を少しだけ濁した。

 カルロスは一瞬だけ怪訝な顔を見せたが、静がルイス以外触れられないことをうっかり忘れていたのかは分からないが、ばつの悪そうな顔をして片手で目元を覆った。

 真咲は無言でカルロスの脇腹に軽く拳を入れたり、アリッサが極寒の視線を向けている。真咲の肩にいるディーヴァは器用に片方の翼で頭を抱えるような仕草をしていた。

 静はそろり、とルイスの様子を窺えば表情はほとんど変わっていない、ように見えた。


「……ルイス?」

「何か」


 ほんの少し鋭い返答に静はこれ以上触れないでおこうと決めた。

 妙に居心地の悪い空気の中、真咲が静を見て、そしてルイスを見て、ほんの少しだけ笑みを深めた。


「静って今日は元気なの?」

「……おかげさまで」


 何故だろう、とっても嫌な予感がするのは。静はあえて察しの悪いふりをしつつも、ほんの少しずつ体調が穏やかになっている事実は隠さず伝えた。

 そしたらさらに笑みを深めた真咲を目の前にし、静はすぐに嘘を言えば良かったかと若干の後悔を覚えた。


「一回だけよ。一回だけ。軽くちょっとダンスとかやってみない?」

「嫌だけど?」

「良いじゃない、一回くらい」

「なんで」

「あたしが見たいから。見たい人!」


 真咲の言葉に、瞬時にヘクターとノーマン、そしてリーリアが手を挙げた。なんと味方と思っていたら敵が紛れ込んでいたらしい。ネーヴェなんて期待で銀の瞳をキラキラと輝かせている。


「いや、ほら。ルイスが踊れないかも」

「最低限ですが身に着けております」


 横から間髪入れずに敵の言葉が覆いかぶさった。残念ながら味方はいないらしい。


「どうされますか?」

「……ねぇ、ルイスさぁ」

「はい」

「面白がってる?」

「はい」


 無表情。しかし間髪入れずに答えられた静は、すぅっと息を吸った。


「足踏んでやるっ」

「逆に怪我なさるのでお止めください」


 冷静に返され、静はぐっと睨みつけた。がルイスは全く持ってそれを無視したまま静に手を差し出してきた。

 静は反射的に身についてしまった習慣により、何の躊躇もなく手を重ねてすぐにしまったと顔をしたが、その前にがっしりと掴まれた。


「……静様、素直過ぎるのはいかがかと」

「ちがっ、これはっ……!」


 そしてルイスに心配されるくらいだ。

 静は小さく呻きながらも立ち上がり、邪魔にならない場所まで連れて行かれる。そしてあれよあれよ、と動画等々でしか見たことがないダンス特有の姿勢を取らされ、ほぼ抱擁に近い恰好になっていた。


「え、ちかっ」

「これが通常です」

「嘘っ」

「動きますよ」

「え、まっ、わたし知らない」

「合わせてください。静様ぐらいなら踏まれても痛くないので」

「思いきり踏んでやる」


 吠える静の言葉は一切聞こえていないのか、ルイスは無情にも動き始めた。

 足がもつれそうになると思ったが、ぐっと腰を支えられながらもゆったりとした動きに、静は自然と足を難なく動かすことが出来た。

 とはいえ初めてなのは変わらない為、周囲の様子なんて一切視界に入れることが出来ず、ついつい足元に視線を向けてしまう。


「静様、視線は上に」

「上」


 上から降ってくる言葉に無意識に従い、静は顔を上に向けた。


「うわ」

「……何ですか、それ」


 静は見上げ、すぐに変な声が漏れ、ルイスの視線が鋭くなった。

 いや、しかし言い訳はさせてほしいところだった。

 何せ綺麗に整っている面が視線の先にあるのだ、ついそんな声が出るのも仕方がないと思いたい。

 確かに数えるのも嫌になるほど抱えられた。その度に、この整った面を間近で見たり、ついこの前は初めて笑みを浮かべたルイスを目の当たりにした。結果、この距離でならおかげで多少の耐性がついたわけだが、何度見てもこの面の良さに感嘆の声が漏れそうになる。というか漏れたが。


「……なんでもなぁい」

「そうですか」

「え、ちょ」

「思ったよりもお上手だったので、違うステップでもと思ったのですが」

「一言先に言えっ」


 腹いせだろう、ルイスはいきなり動き方を変化させてきた。

 突然の変化に静は転びそうになるも、しっかりとルイスが支えてくれているので安心はしていた。とはいえ、腹立たしいことに変わらないので、次こそはちゃんと足を踏んでやろうと心に決めつつ、きっちりとルイスのリードの元、静は無事に踊りきった。

 結局足は踏めなかった。


「なんで静、そんなに動けるの」

「え? いや、分かんない。ルイスがうまいからだと思うけど」

「ああ……そうなのね、やっぱり」


 終わった直後に詰め寄った真咲に静は慄きつつ答えれば、真咲は深く肩を落とした。

 真咲の後ろに視線をやれば、すっと視線をそらしているカルロスと、呆れた顔をしたイーサンがカルロスを見上げていた。


「おい、どうするんだよ」

「うるせぇ」


 開き直っているのか、諦めているのか。しかしそれにしても、大人にしてはずいぶんと餓鬼臭い反応を見せるカルロスに静は銀の瞳をすぅっと細めた。

 詰め寄って来た真咲から一歩だけ下がり、静は軽く一人で先ほどの動きを数度繰り返す。そしてふむ、と小さく頷いた。


「真咲、ちょっと」

「何?」


 一人頭を抱えそうになっていた真咲を呼び、静は真咲の手を取った。真咲はそれに対して驚きも何もせず、小さく首をかしげるばかり。

 静はそんな真咲に笑みを浮かべた後、よいしょと先ほどルイスが静にやった様ににダンスの姿勢を取らせた。もちろん真咲が女性側で、静が男性側だ。


「わたしの背が低いから腕の場所は置いといてだけど」

「静?」

「いくよー」


 やり方は先ほどルイスのおかげで覚えた。呆気にとられる真咲に、静はよいしょと腰をちゃんと支えて床を滑るように足を動かし始めた。



 ダンスを終えた直後、真咲が静に抱き着いた。


「静と行く!」

「わたし欠席だからごめんね」

「いやっ」


 いやだ、静と一緒に出ると抱き着いて駄々をこね始める真咲の背中を撫でる。困ったなぁと静は思いつつ、こちらを見ているカルロスに視線を向け、そしてにっこりと笑ってやった。

 ぴしり、と固まるカルロスに噴き出すイーサン。そしてアリッサはほぅ、と感心するような視線を向けてきてくれた。


「カルロス、どうすんだよ」

「……やるに決まってんだろ」


 どうやらうまく喧嘩を売れたようである。

 なんとか抱き着く真咲を宥め、どうにか離れてもらった静はぐっと両腕を上に伸ばし、背筋を伸ばした。


「今ので覚えたんですか」


 何も言わず、様子を見てくれていたルイスが意外だと言わんばかりに言うもので、静は小さく笑いをこぼした。


「そう。頭で覚えるのは苦手なんだけど、こういうのは比較的には得意な方なんだよ。ほら、やっぱり相手の動きよく見たり覚えないと、うまくよけられないし」

「喧嘩ではありませんよ?」

「分かってるって。ただその時に身に着けたというか、そういう話」


 とはいえ、喧嘩を売ってみたのは本当なのだが。


「疲れたぁ。ルイス、お茶飲みたい」

「すぐにご用意いたします」

「いいなぁ、あたしも」

「真咲様。伊織様と奈緒様が練習しているのに、お一人だけ逃げるのですか」


 飲みたい、と真咲が言い切る前にアリッサがしっかりと真咲の肩を掴んでいた。

 そして反対の肩にいるディーヴァがいい加減に戻れと言わんばかりにわざとらしく真咲の耳元で羽ばたいた。


「……戻るわよっ! 静、邪魔したわ!」

「いいよぉ。良い気分転換になれたし。今度、遊戯盤用意しておくね」

「ありがと、静! それと伊織と奈緒に静と踊ったの自慢するわね!」

「いや、それは」

「じゃあね!」


 まるで嵐が過ぎ去ったかのように真咲達がいなくなった室内はあっという間に静寂に満ちる。

 中途半端にあげた片手をゆっくりと下ろした静は、椅子に座り深く息を吐きだした。


「……なんか、こう。甘い紅茶が良いなぁ」

「砂糖多めに入れますか?」

「うん。たまにはそういうのにする」

「承知しました」


 ルイスが紅茶の用意の為、一度室内から出ていくのを横目に、静はもう一度息を吐きだして窓の外を見た。

 今日は雲が多いため、普段よりも眩しさはない。


「あ、もうちょっとで雨降るかもしれないです」

「……ヘクターってそういう勘も鋭いの?」

「いや、たぶんですって。たぶん」


 たぶん、なんて言ったヘクターだったが、少しして天候は悪化し、ヘクターの言葉通り雨が降ってきたのはまた別の話である。

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