04 再会と梟
さらに北上し続ける途中、ルイスが珍しくこんなことを言ってきた。
「静様。急ぎではあるのは承知していますが、立ち寄らせていただきたい場所があるのですがよろしいでしょうか」
「良いけど、どこ?」
「ジェイク達に教えを説いた、墓守がいる神殿です」
墓守のいる神殿。そこでヨカゼと出会い、そして鳥の眷属と出会ったと、ルイスから聞いている。何よりもそこの墓守はジェイク達に生きる道を示してくれたお方だ。
むしろ会えることを諦めていたぐらいだというのに、こんな嬉しい頼みが他にあるだろうか。
静はルイスへと笑みを浮かべ、一つ頷いた。
「もちろん、良いよ」
ほんの少しだけ緊張気味だったルイスは、僅かに肩をおろし小さく息をついたのが見えたが静は気づかないふりをした。
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すでに葉が落ちた木々が並ぶ森を進んでいく。途中、深い雪のせいで馬や幌馬車が進めなくなるのではと思ったが、進むには問題のない積雪しかなく、順調に静寂と白が満ちる森を進んでいった先に、古めかしい石造りの神殿が突如として現れた。
幌馬車から降りた静は目の前の神殿を見上げ、続いて周囲を見渡し、自然と頬が緩んだ。
「……ああ、うん。良い場所だね」
『そうでしょう?』
自慢の場所だと言うように、声をはずませて尾を大きく揺らすヨカゼの姿を見て、静はつい笑みをこぼした。
と、ヨカゼは鼻先を高く上げた後、両の耳をピン、と立たせた。
一体どうしたのかと静は首を傾げている間にも、ジェイクは大股で神殿の大きな扉に歩み寄り、拳で扉を大きく叩いた。
「おーい、いるかぁ」
ジェイクのよく通る声があたり一体に響き、吸い込まれるように消え去る。しばらくして何も聞こえないことを確認してから、ジェイクはまた大きく腕を振り上げる。
と、神殿の影から人影が姿を現した。
「騒がしい! 聞こえとるわい!」
「お、そっちか」
温かそうな毛皮の外套を着込んだ一人の老年が大きく肩を上下させつつ、ジェイクへと歩み寄る。
静の隣にいるヨカゼは落ち着かない様子で、その場でぐるぐると回り始める。とても喜んでいる様子だがもう少し落ち着いてほしいと思いつつ、また顔をあげて見れば、老人の視線とまっすぐかち合った。
静は一度横を見て、後ろを見て。間違いなく自分を見ていることを確認してから、小さく会釈をする。
「……こんにちは?」
瞠目したまま動かない老人に、静が焦りを覚え始めた頃、突如としてその場に両膝をつき、力強く祈りを捧げるように自身の両手を握りしめた。
「おお……! 我らが神よ、ユフィアータよ……!」
まさか出会ってすぐ、祈られることになるだなんて、静は全く予想していなかった。
それからすぐに静は神殿の奥にある部屋へと通された。
奥は居住空間になっており、暖炉の火はゆらゆらと揺れながらぱちり、と音を立てた。
「こちらのお方が、わたしに力をわけてくださったのですね」
「ええ、はい。そうなのです」
目の前にいる老人。この神殿を守り、ジェイク達に教えを説いた墓守が力強く頷く。その肩には一羽の白い鳥。ほのかに白い光を放っている眷属はそうだと言うように、片方の翼を広げた。
「ありがとうございます。助かりました」
改めて静が鳥へと感謝の言葉を述べれると、静の肩へと移り頬に体を寄せてきた。
心地の良い羽毛の感触に頬を緩めつつ、部屋の隅っこに伏せていたヨカゼに振り向いた。
「ヨカゼ、墓守さんに挨拶しないの?」
「なんだお前、名をいただいたのか」
ぐぅ、と一つ鳴いたヨカゼは頭を小さく持ち上げた後、鼻先をそっぽに向けた。どうやら言葉を向けることはしないらしい。
ヨカゼがそうするならば仕方がないと静は受け入れ、ここへ来ることを提案してくれたルイスに感謝を言おうと振り返り、静は小さく首を傾げた。
「ルイス。どうしたの?」
「……いえ」
体は静の方へと向けている。だが顔は大きく横に向けており、どこかを見つめていた。静のいる位置からではルイスの右目の様子は見えないが、おそらくは何かを見たのかもしれない。
それならばと静はまた墓守へと向き直り、ちょっとしたお願いをすることにした。
「少し、周りを歩いてきても大丈夫ですか? ルイスとヨカゼもいるので」
「ええ、構いませんよ」
ただの周辺の散策だ。当然のことながら墓守は止めず、快く頷いてくれた。
一歩、森へと踏み入れるとなれない雪の深さに足が何度も取られそうになる。そのたびに手をつないでくれているルイスに引っ張られ、転ばずに済んでいるが先ほどからの視線は痛い。
視線はさっさと大人しく抱えられろ、と語ってくる。先頭にいるヨカゼも何度か振り返り、呆れたように鼻を何度か鳴らしてくる始末だ。
静はもちろんそんなものを無視し、これも体力づくりの一環だと思って慣れない道なき道を進んでいく。
「ねぇ、ヨカゼ。話さなくて良かったの?」
『ええ、良いの。あの人間には、ただの狼だと思っていてほしいから』
「そっか」
やはり、ヨカゼはあの墓守とはそういう付き合い方をするつもりだったようだ。
確かに誰彼構わず話をするというのも、長い時を過ごしてきているヨカゼにとっては良いことも悪いこともあるのだろう。
それが、少し寂しいと思ってしまうのは置いていってしまう側の傲慢さ所以なのかもしれないと静は、そっと抱いた思いを奥へとしまい込んだ。
「じゃあ、あれかな。もし姿が変わらないことを聞かれたら、ヨカゼは元々小さい子ってことで、大きくならないとか言っておかないとだね」
『ありがとう、静』
とは言え、あの墓守はまだまだ長生きをしそうな雰囲気がある。そして今後、ヨカゼが会わない、なんてことはないかも知れない。この先、静はいなくなるだろうが誰かにそう説明をしてもらえれば、墓守に会いやすくはなるはずだ。
その役目をルイスへと頼もうと視線を向ければ、分かっているかのように顔をしかめられた。
さらに森の奥へと進むと、この森の中で一番大きいのではないかと思うほどの木が一本あった。幹の太さに、一体どれほどの年月を重ねてきたのかとつい静は想像してしまいそうになる。しかし、ここに何があるのか。静はルイスの様子を見ると、視線は真っ直ぐに上へと向けていた。
静もならい見上げてみる。そこにはただの葉が落ちた寒々しい樹木の姿。だったが、中央辺りに、何かがぼんやりといるように見えた。
「……何か、いる?」
「静様には見えないのですか」
「うん。何かいるのは分かるんだけど」
ルイスにはその姿が見えているのだろう。ということは、伊織も見えるということだが、愛娘の力を持ってしても、あちらが姿を見せようとしてくれない限り、リディアータの力を持たない静には見えないらしい。ということは奈緒や真咲も同じだろう。
「梟です。おそらく、ユフィアータの眷属かと」
「あの子以外にもいたんだね」
「はい。この森には他にもいるようですが……」
しかし、ユフィアータの眷属でも姿はまだ見せるつもりはないことに、静はちょっとばかりの不満を覚えた。
と、ルイスの視線が静へと向けられた。一体どうしたのかと思っていると、右肩がずしり、と重くなった。まるで心霊現象のようなそれに思わず変な声をあげそうになったが、すぐに肩になにか鋭いものが食い込む感触に気づき、静はヨカゼを見つめ、ルイスを見上げた。
「……肩が、重い」
「それなりの大きさですからね」
どうやら梟が乗っているらしい。乗るのは構わないが、せめて姿を見せて欲しかった。
『びっくりさせるかもしれないからって、姿見せないようにしているみたいよ』
「……どっちにしてもびっくりするよ」
ヨカゼの通訳のお陰で理由は分かったが、乗っている重さや頬にあたるその感触等々で比較的大きな梟なのは分かったが、それにしたってだ。
「あのぅ。もうお姿見せていただいてもよろしいですか?」
ホッホー。
野太い梟の鳴き声が聞こえたと同時、瞬きの間にいつの間にか右の視界にもさりと覆い隠そうをしていた羽毛が姿を見せた。
無意識の内に静は左手を伸ばし、もさりと梟の羽毛に触れ、そのまま中へと沈めてみた。わぁい、もふもふだぁ。
ホホー。
『力はいるか、ですって』
「欲しいです」
まるで冒険してたどり着いた奥地にいる主のような問いかけだった。いや、状況としては変わらなくはないが、あれは勇者とかそういう役割での話だ。確かに静は聖女としての役割だが、今の問いの意味は、ただ単により強い力ではなく、この世界で生きるに必要な力である。こちらのほうが死活問題だ。
なんて静が思考を思い切り他所へと向けている間に、視界いっぱいに白い光の粒子が雪のように覆った。
途端、襲ってくる睡魔に負けじと欠伸を耐えている間に、梟はようやく静の肩からヨカゼの背中へと飛び移った。梟は種類で言えばメンフクロウと呼ばれる種類の梟で、白と焦げ茶が入り混じる羽毛に包まれていた。大きさは静の顔の大きさと同じぐらいだろうか。鏡で見比べればよく分かるが、たぶん間違いはないだろう。
「あの、ありがとうございます。助かりました」
ホホー。
『あら、貴方もついていきたいの?』
「何で……!」
ヨカゼの通訳のおかげで意思疎通が出来るのはとても有り難い。だがしかし、何故こうなるのか。しかも今初めて会ったばかりである。いや確かに、ヴィラ以外の眷属は静がついてこさせたものであるのだが。
ホウホウと梟はヨカゼに何かを話している。ヨカゼは耳を数度揺らし、分かったかのように大きく一度尾を揺らした。
『本当は諦めてたそうだけど、力が戻ってる静を見て、もう一度信じることにしたみたいよ』
「……それは、嬉しいなぁ」
つまり、静を通してもう一度人間を信じることにした、と。
これは静の想像に過ぎないが、おそらくこの梟はついて行った先々で人間の姿をより注意深く観察するつもりでいるのだろう。そして期待外れであれば、その翼でさっさとこの森へと戻る可能性はあった。
であれば、高い観察眼と細やかで広い目を持つ彼に預けるのが一番だと静は判断した。
そうと決まればすぐに戻らなければ。と、何故か妙に静かなルイスへと振り返れば、ルイスはまた遠くへと視線を向けていた。
「どうしたの、ルイス」
「来ます」
何が。と、言葉を静が発する前に、ルイスが言った直後、妙に黒い何かが静達がいる場所に空から向かってきた。
思わず静はルイスの腕を掴み、慌てて身を寄せた。
「な、何あれ」
「眷属ですよ、静様」
「いや、けど、集まりすぎだって……!」
鳥だ。本当に小さな、日本でよく見る雀くらいの小さな鳥が静に向かって来たのだ。集団で。なるほど鳥も集団になれば黒く見えるのだなと、無理やり落ち着こうとそんなことを考えている間にも静はあっという間に小鳥達に襲われた。
比喩ではなく、本当に襲われた。もちろんだが突かれたというものではない。
頭や肩、小さな足で掴める所全てに静の体に止まり、それでも止まれなければルイスやヨカゼ達の上にも止まり、周囲の雪原にもぴょんぴょんと跳ねながら静に止まろうと狙ってくる。
「……鳥にも襲われるのですね」
「知らない……! ねぇ、ちょっと、笑わないでよ! ルイスだって鳥まみれなのに!」
「静様に比べたら」
ルイスにはほどよい数の小鳥達が止まっているだけだ。くらべて静は本当に小鳥まみれ。気づけば小さな線香花火のように青白い光がぱっ、ぱっ、と点滅し始めている。どうやら順番に力をちょっとずつわけてくれているらしい。
それは本当に有り難いことだ。だが、タイミングがとても悪かった。
力を分けてもらうのは良いが、代わりにどうしたって眠くなるのだ。ルイスが体を支えてくれなければ今頃静は、顔面から雪に突っ込んでいたに違いない。
静はなんとか残りの気力を振り絞りつつ、今度はルイスの体に真正面から抱きついた。
「寝る」
「……承知しました」
静はルイスの服に顔を埋めているため今、ルイスがどんな顔をしているのかさえ分からない。だが深い溜息も同時に聞こえたので、また面倒だなぁなんて思っているに違いないとそう静は思ったまま、意識を睡魔へと手渡した。
ヨカゼを先頭に、ルイスは足早に森の奥地から神殿へと戻る道中、狩猟していたらしいヘクターとはちあった。片手には二羽の野兎。一体どうやって見つけたのか分からないが、今更な話ではあった。
「お! ルイスって、静様どうしたんだよ!」
そして当然のことながら、ルイスの腕の中で寝ている静の姿にヘクターは驚きの声をあげた。静はどうも深く眠っているらしく、起きる様子はない。そのことにルイスは安堵しながら、先程あったことを軽く説明した。
「眷属達から力を多く分けてもらったおかげで眠っているだけだ」
「まじで?! あ、じゃあ、その肩にいるのって」
「ああ、眷属だ」
ホホ。
ルイスの肩にいる梟は律儀に、そしてとても礼儀正しくヘクターに挨拶をしたのだった。
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どれほど眠っていたか。
目覚めた時、静はルイスに両手首を束ねて取り押さえられていたことに気づいた。
「……一応聞くけど。わたし、何してた?」
「私の首を絞めようとしてきました」
「両手縛るか。やっぱり」
「お止めください」
もう何度目か。ちょっとした軽口を叩ける程度になってしまったことに、静は深く息を吐きだし、自由になった両手で顔を覆った。
「……ごめん」
「謝罪は不要です」
きっぱりと言い切るルイスだが、やはりこう何度も知らない間に体を乗っ取られてしまっている状況は、あまりにも悪すぎた。しかも、ルイスに危害を加えようとしているだなんて、とんでもなく不愉快極まりない。
自分で自分の首を締めるほうがまだマシだったが、最初のあれ以降、それのようなことは起きていない。代わりにこうして近くにいる誰かへ虎視眈々と危害をくわえ続けている状況が続いていた。
さすがの静も精神がすり減りそうになってくる。その状態をルイスが一番理解しているから、なのだろう。だから静の好き勝手をだいぶ許してくれてはいるが、おかげで静は雪原の上で何度も転び、埋もれる始末。そしてルイスは何も言わずに拾い上げて馬の元へと静を抱えて連れて行くという一連の流れが出来たが仕方がないと思いたい。
「体の調子はいかがですか」
「……良いよ。少し、楽」
答えながら静は深く呼吸をし、手を下ろした。体全体の痛みはまだまだある。だからあの梟や、小鳥達のおかげでまた少し、痛みが引いた。
月明かりで見えたルイスの顔は安堵したように少しだけ緩んで見えた。もっと回復をすれば、今度は少しだけでも笑ってくれるだろうか、と静はそんな期待をしつつ、今になってようやく今いる場所と、背中の柔らかな感触に気づいた。
「ここは?」
「神殿の空き部屋です。静様が眠られていた時もここを使わせていただきました」
部屋。ならば、この背中の感触はベッドということだろうか。ずいぶんと久しぶりになる柔らかな寝床に、静は勿体ないからと仰向けになったまま古びた木の天井を見つめ、思考を回す。
それでも、と。
呪術による傀儡がこの程度で済んでいるのは、やはりユフィアータの剣のおかげなのかもしれなかった。夢は変わらずに黒いヘドロに飲み込まれるような最悪なものだったが、すぐに強い白銀の光によって夢は唐突に終了し、目が覚めるのを繰り返している。
剣は今、ベッドの傍らに立てかけてある。もし、この剣がなければ。と静は考えそうになり、慌てて消し去った。
「ねぇ、ルイス」
「なんですか」
「一緒に寝よ」
ルイスが睨むように静を見つめてきた。
見た所、この部屋には椅子がない。ということはおそらくルイスは、今のようにずっとベッドの端に座り、静の側にいたということだ。折角の久しぶりとなるベッドだというのに。
「あのですね、静様。私が何故、こうしているのか分かっているのですか」
「じゃあ、わたしが寝るまで」
これならば良いだろう。それに近頃、ルイスの顔面の良さにずいぶんと慣れてきたから大丈夫だ。きっと。
しばらくの静寂の後、ルイスは大きく息を吐きだし片手で顔を覆った。
「もう少し端に寄ってください」
「はぁい」
狭いベッドだ。思い切り端に寄ったほうが良いだろうと移動すれば、すぐにルイスが目の前に体を横たえ、静の体をそのまま抱き寄せてきた。
まさかの展開に、静はぴしり、と体を固くした。ルイスはそれに気付いているはずだろうに、いつもと変わらずに呆れた様子で小さく息をつかれた。
「冷えるでしょう。毛布、一枚しかないんですから」
「え、あれ? ルイスのは?」
「ありませんが?」
何を当然に無いと言っているのか、静には意味が分からなかった。
普段こそルイスの抱き枕に慣れてしまっているが、あれはルイスに背中を向けているから問題はなかった。しかし今、真正面から抱き枕のようにされていて、更に言えばルイスの足がわざとらしく静の足を挟んできたのだ。これでは絶対に逃げられない。なんて姑息な。
「変なこと考えていないで寝てください」
「足重い……あ、ねぇ、力入れないでよ。待って待って、そっち曲がらない」
無言で静の足を器用に捻ろうとしているルイスに文句を言えば、すぐに悪戯を止めてくれた。ルイスの小さく震える胸元に静は軽く拳を入れ、どうせだからとそのまま暖をとることにした。
「ルイスって、体温高いね?」
「静様に比べたら普通だと思いますが」
「熱がまだ出てるしねぇ」
昼間、あれほど動き回って入るがもちろん未だに発熱は続いている。今だって体はぽかぽかだが、残念ながら手足の先端は冷たいまま。どうせなら先から先まで温かくしてほしいのに、本当に残念でならない。
背中に回されているルイスの手が、軽く一定の間隔で柔く叩き始める。本格的に寝かしつけてきた。
静はちょっとだけこの状況が勿体なくって、けれども心地が良すぎてすぐに夢の中へと落ちていってしまった。
そうして残されたルイスは静が眠ったことを確認すると大きく息を吐き出し、視線を無機質な木の天井を見上げた。
天井のしみをいくつか順番に業務的に確認した後、ルイスは静を起こさないようにベッドから抜け出す。そしてまた先程と同じようにベッドの端に座り直し、ルイスは深く項垂れたのであった。
そして一夜明け、梟を背中に乗せているヨカゼを連れて馬の世話をしているノーマンの側へ歩み寄った。
「あ、静様。それ以上近づいたら駄目ですからね」
「分かってるよ」
「あれ、ルイスは?」
「あそこ」
ルイスは今、わざわざ見送りに出てきてくれた墓守へ挨拶を交わしているところだった。
ノーマンはそれに納得したように一つ頷き、そして不思議そうに首を傾げた。
「それで、どうしたんです?」
「うん。ノーマンに用事っていうか」
静は言いながらヨカゼの背にいる梟へと目を向けた。
「この人間と共にいてくれると嬉しいのだけど。どう?」
梟は数度大きく首を傾げたが、納得したように大きな翼を広げ、音もなく馬の鞍へと飛び移った。
突然のことにノーマンは何度も梟と静を見て、目を白黒させていた。
「良かったね、ノーマン」
「え、あ、はいっ!」
「それじゃ、名前つけてあげてね」
「名前……。え、良いんですか。僕が」
「うん」
むしろノーマン以外に誰がいるというのか。むしろ静が首を傾げてしまいそうになる。
まだ驚いたままの状態のノーマンは口元に手を当て、じっくりと梟を観察するように見渡す。梟は真っ黒い瞳をまっすぐにノーマンに向け、大人しく待っている様子だった。
「……フーリュ。どう?」
ホホー。
すぐにそれが自身の名であると受け入れてくれたらしい。梟、もといフーリュは満足げに鳴いた。
ノーマンは無言で満面の笑顔を浮かべ、嬉しそうに拳を握りしめていた。
静かに喜ぶノーマンの姿に、静は満足しつつ、羨ましそうに見てくるリオンをどうやって宥めようかと頭を悩ませ始めた。




