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白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第1部連載中】  作者: tamn
第1部 落とされた四人の聖女達 七章 願いが集う夜に祈りを
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02 喧嘩を買いに静寂の山へ

 各々、静は静で、真咲は真咲で一夜を過ごし、東の空から眩しい日差しが差し込み始める頃。一段と空気は冷えきり、吐き出す息が凍るのではなんて大げさに静は考えながら、目の前にいる真咲の手を両手で握りしめた。


「次は静寂の山?」

「そうなるね。一足先に行くよ」


 真咲もまた同じように静の手を両手で握りしめ、わずかに視線を落とし、口元を歪めた。離したくない、と言わんばかりにきつく握りしめてくる手に、静は思わず笑みをこぼした。


「次は四人で、ね?」

「ええ、そうよ。絶対だからね」

「指切りでもする?」

「する」


 どちらともなく両手を離し、互いの小指をからめる。指切りの歌はあるけども、なんだか気恥ずかしくて歌わないでおいた。真咲も無言できゅっと力を籠めるだけで無言のままだった。

 それから名残惜しげに互いに指の先が最後まで触れ合うように離し、静と真咲は向かい合い、笑みを浮かべた。


「またね、真咲」

「ええ、またね。静」


 二人はそれ以上の言葉を交わさず、各々が待つ人達へと踵を返した。



 揺れる幌馬車の中、静は幌の合間から見える青空をぼんやりと見つめていた。

 そんな静に、また足を枕にしていたヨカゼが頭を上げて小さく耳を動かし、頭を傾げた。


『静。寂しい?』

「ちょっとね」


 突かれてしまったせいでより寒さを感じた静は、突いてきたヨカゼの頭を両手でわしゃりと撫でまわす。と、腹に回っていた腕がきつくなり、静は笑みをこぼしながらわずかに顔を後ろへと向けた。


「なぁに、ルイス」

「……何でもありません」

「そう。じゃあもう寝な」


 見れば眠たげに何度か瞬きを繰り返すルイスが、じっと静を見つめていた。

 馬車の揺れがちょうど寝るのに良いのか。それとも、この抱き枕が良いのかと思ったが、自分を抱き枕と例えるのもどうかと静はつい冷静になりそうだった。けどもルイスは静が乗っ取られて以降、常に静が眠る時、側にいるのだ。当然のことながら疲労はたまるし、眠くもなる。

 だからこうして抱き枕にされるのだって受け入れるし、なんだったら膝枕だってしてやっても構わないと静は思っている。とりあえず静はルイスを寝かせることを第一優先にしていた。

 もうほとんど深緑の瞳が隠れてしまっている。ルイスは静の首元に頭を甘えるようにうずめた。肌にあたるルイスの黒髪がくすぐったくて、少しだけ体を動かすとさらに腹に回された腕が、逃がさないと言わんばかりに力が込められた。


「おやすみ、ルイス」

「……おやすみなさい……静様……」


 少しして、ルイスの寝息が聞こえてきた。

 静は起こさないようにルイスの頭を軽く撫で、静は昨日交わした話を一人、振り返ることにした。


 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-


 まだまだ真咲と話を続けていた所、真咲の通信機がぴかぴかと球体の中の石屑が瞬き、軽やかな鈴の音が響いた。真咲はすぐに底を押す、


「はい、もしもーし」

《遅くなったわね》

「大丈夫よ。今、どこにいるの?」

《ヴィンセントの執務室よ。伊織もいるわ》

《いるよー! ねぇ、静いる? 静!》


 こちらでも、もしもしなんて聞くことが出てくるとはなぁ、なんて呑気に静が横から聞いていると、伊織の明るい声が通信機から飛び出してきた。相変わらず元気そうな声にまた胸が締め付けられそうになりながら、静は息を一つ吸い込んだ。


「いるよ、伊織」

《静! あのねあのね、私ね!》

《ちょっと落ち着きなさいって。あ、ユアンも連れて来てるし、もちろんヴィンセントもいるわよ》

「はぁい」


 話したいことがたくさんあるのだろうが、止まらなくなりそうな伊織の雰囲気が通信機越しからも伝わってくる。すぐに奈緒がそんな伊織を止め、他にユアンとヴィンセントがいることも説明してくれた。

 ヴィンセントがいるならば自分のおかれている状況を話しても良いだろう。いや、話さなくてはいけないのだろう。静は無意識に両手を握りしめた。


《一応聞くけど、どこまで聞いた?》

「大神殿の地下の事は聞いたよ。それと忘れらた神のことについても」

《それなら話は早いわね。あ、待って。国王陛下が倒れたことも聞いてる?》


 初めて聞く話だ。静はルイスを見上げれば、小さく頷いたのを確認し、真咲が持つ通信機へ顔を寄せた。


「大丈夫。ルイスが聞いてたから後で詳しく聞く」

《分かったわ。それで静は、その……》

「ある程度省いて話すけど。今までジェラルドさんの所に匿ってもらってた。後、道中ユフィアータの眷属から力をちょっと貰ってたりもしたから回復はしてるよ、ある程度だけど」

《ある程度って?》

「言葉が通じる。立って歩ける。温度は感じられる。けども味覚と匂いが分からない。飲食については、摂取するもの全て異物感が伴って嚥下することが難しい。後、呼吸するだけで身体全体に鈍い痛みがある。飲食するともっと痛くなるけど、前よりはマシにはなってる。以上」


 隣から、真咲が息を呑む音がはっきりと聞こえた。

 そして通信機はしばらく無音が続いたかと、ようやく奈緒の声が響いた。


《……ロビンからは何も聞いていないけど》

「黙ってくれてたみたいで助かった」

《なんでそれを言うのよ。今》

「今言わなかったら怒るでしょ、どうせ」


 しかも、関わっている者達のほとんどが勢揃いしている状況だ。尚更今この場で言うのがちょいど良いタイミングだろうと静は思っている。

 沈黙しか返ってこない通信機と、この天幕内の重苦しい空気に静はつい笑みをこぼしながら、次の報告を続けた。


「後は……あれだ。エヴァンハイン家が所有している宝剣。つまりはユフィアータの剣が現存していたから、今だけ借りてこの場にある。相手は呪術を使っていたけども、この剣である程度防げると思う。実際、すでにエヴァンハイン家に呪術が仕込まれていたけど、それの侵食を防いでいた」


 何故、エヴァンハイン家の宝剣を借りているのか。ユフィアータの剣だからという理由は真咲に先ほど説明した。だが呪術についてはまだ話をしていないものだ。さすがに真咲の反応を見るに、呪術というものについては顔をしかめて疑問符を浮かべているが、周囲の空気はさらに殺伐と化していた。

 あちらではどういう反応になっているのかは不明だが、似たような状態なのかもしれないと静は予想してみた。


《……ええ、分かったわ。他には何かあった?》

「召喚のあの術について。あの術によって、百年以上前になるけども、異国出身のあちらの神に仕えていた神使に出会った。黒銀の狼で、今はもうほとんど力がないらしいけど。……大丈夫?」

《……ええ、大丈夫よ。ちょっと、その。こっちで飲み込むのが……》


 端的に、必要なことだけを問う奈緒の姿勢に、静は少しだけの申し訳なさを感じていた。何せ、今から言う話は確実に心配以上のものを抱かせてしまうからだ。


「……その、もう一つ。大きい話があるんだけど」

《まだあるの?!》

「うん。乗っ取られて」

《……乗っ取られて?》

「わたしが、その神に。たぶん」


 真咲が強く静の手を掴んだ。確かに目の前にいるのは静であると確認するかのように。静は掴んできた真咲の手を上から重ね、ほんの少しだけ体を真咲に傾けた。ちゃんと、ここにいるよと伝えるために。


「……呪術を使って、夢を介して乗っ取ろうとしたっぽいんだよね。その時、わたしの目、紅くになってたらしいから、たぶんそいつなんだろうと思う。で、なんでわたしかって言うと、ユフィアータの力をもらっているっていうのもあるんだけど。わたしの私物、たぶん全部あっちの手に渡ってるっぽくって」

《え、待って。なんで私物の話になるの?》

「呪術使うのに、相手の私物がないと駄目なんだって。で、監禁されて助けられた時に、荷物持っていくのうっかり忘れちゃって」

《静?!》

「ごめぇん。あ、だから奈緒達の荷物は奪われないように気を付けてね」


 真咲や奈緒の様子を見るに、今はまだ静以外に被害が出ていないことに静は安堵する。しかし、今後はどうなるかは分からない以上、警戒するに越したことはない。まして真咲は今、大神殿の外にいる。おそらく真咲の荷物は大神殿に置いたままだ。下手したら盗み出されかねない状況ということだ。

 大神殿から出て、どれほど日数が過ぎ去っているのかは不明だが、遅すぎるという状態ではないはずだ。

 と、通信期から奈緒の焦った声が響いてきた。


《あ、オリヴィア! その、オリヴィアに言ったわけじゃないから!》

「そうだよ、オリヴィア! もちろんルイスもだけど! わたしのうっかりだから……!」


 そう言えば、あの時はオリヴィアもいたのだ。確かに救出したのはルイスだけだったが、それでも二人一組で動いていたオリヴィアからしたら連帯責任として、強く責任を感じてしまうはずだ。

 またルイスの顔は強張ってしまうのが見え、静はすぐに強く自分の責任であることを主張し、なんとか場を無理やりに納めさせた。もう二度とこの話はしないと強く誓った。


「まぁ、うん。そういうことです。なのでわたしは、静寂の山に行ってそいつをぶん殴ろうと思います」

《ちょっとぐらい殴ることから離れたら?》

「じゃあ蹴る」

《言葉遊びしているんじゃないのよ》

「だって喧嘩売られたんだもん。買わなきゃ」


 不愉快極まりないし、こちらはずっと腸が煮えくりかえるほどの怒りをずっとマグマのようにたぎらせているのだ。一発だ。一発だけ殴るくらいどうってことないはずだ。だってちゃんと顔面狙うから死にはしないし。

 通信機越しだと言うのに、奈緒の長く深いため息がよく聞こえてきた。


《真咲。静をよーく叱っておいてくれる?》

「え、無理。さっき殴り方教えてもらったもの」

《教育に悪いわ! 伊織は目を輝かせるんじゃないの! ほら、ヴィンセントを見なさいよ! お腹痛そうにしているわよ!》


 わぁ、向こう側は大変だなぁ。なんて、静は完全に他人事のように落ち着くのを待っていれば、妙に視線が突き刺さってくるのに気づいた。見たくないな、と思いつつも念の為に視線の方向を見れば、ルイスはじっとりと静を真っ直ぐに見下ろしていた。


「……静様」

「わ、わたし悪くないもん。たぶん」

「貴方以外にいるとでも?」


 いや、違う。確かに拳の正しい握り方は教えたし、人の急所なるものも教えたけれども喧嘩を勧めたわけではない。と、思ったところで弁明をしなければ意味がないのだが、今のルイスにそれを言えばさらに面倒な小言が増えるのは容易に想像が出来た。

 だから静はむすりと口を閉ざす他出来なかった。

 そしてようやくあちらが落ち着いたようで、奈緒の落ち着いた声がまた響いてきた。


《念の為に聞くけど、静寂の山へ向かうのよね。喧嘩を買いに行くってことは》

「そうだね」

《……何故か静がいると、緊張感がなくなるのよね》

「……おかしいな。だいぶ真面目に考えてるんだけど」


 失礼だなぁと思ったが、周囲からは何故だろうか哀れみや納得した雰囲気が漂ってきた。くわえて真咲も無言で強く頷いている。

 とっても不服である。


《どうやって行くの?》

「幌馬車。行商人の恰好で向かう予定」

《そうなのね。こっち、だいぶ雪が積もってるから気をつけなさいよ》

「楽しそう」

《遊ばない》

「はぁい」


 奈緒に注意されたけども、一回はこっそり雪に埋もれようと決めている。埋もれると言っても、ただ単に飛び込むに近い。問題はルイスにその前に止められないか、だ。

 何故かルイスの視線が鋭くなっているが気のせいだ。


《ねぇ、ユアンが魔具の調子はどうかって聞いてるんだけど。魔具って何のこと?》

「ああ、あれだ。わたし、その時寝てたからよく分からないけど、ユアンに魔力を放出する魔具を作ってもらったんだって。即席で。別にとくに問題はないよ」


 突然話が代わり、静の首につけている魔具について問われ、静は躊躇なく答えた。作った本人からすれば、ちゃんと正しく今も作動しているのか気になる所なのだろうと軽い気持ちでいると、また沈黙が少しの間だけ返ってきた。


《……よく分からないけど、相当良くないものらしいわね?》

「あ、そうなんだ。知らなかった。けど、これがあるおかげでだいぶ楽なのは確かだと思う」

《そう。それなら良かったわ》


 確かに魔力を放出する魔具だなんて、魔力を持っているのが普通なこちらの人間からすれば脅威、もしくは凶器に近いものなのかもしれない。想像上でしかないけれども。

 そして静は、話題が変わったところで更にもう一つ、話題を変えさせてもらうことにした。


「ねぇ、奈緒。ちょっと気になることがあるんだけど」

《何?》

「召喚術について。あれってさ、調べられたり出来るものなの?」


 痛みを誤魔化すために思考を回し続けていた。しかし、回しても回しても、答えには一切辿り着けなかった。

 何せ、召喚術について何一つ知らなかったから。


「そのお相手が使ったんだろうけど、実際何度も使われているものだからさ。実際あれってどういうものなんだろうなぁって思って」


 一体どうして使われるようになったのか。異世界にまで届くような恐ろしいものがどうして、どうやって使われたのか。自分達が巻き込まれた原因となった召喚術は一体どこで行われたものなのか。

 深まっていく思考は、痛みを誤魔化すのには丁度よいものだった。けどもそろそろと辿り着きたいものでもあった。

 少しの間の後、奈緒の声が響く。


《ユアンが言うには、これについてはまだ分からないことが多いらしいの。後、禁術として定められているそうよ》

「けど、使っているね」

《ええ、それが問題なのよね》


 ため息交じりの奈緒の声の後、ぼそぼそと通信機越しに何かの音が入り込む。どうやらあちらで何か話をしているようだった。ぼそぼそとした音が消え去るとすぐにまた奈緒のはっきりとした声が響いた。


《分類としては魔術に近いそうよ》

「近い?」

《解明途中だから何とも言えないけど、仕組みがおかしいらしいのよ。本来であれば、異国ならまだしも、異世界にまで影響が出るはずがないものらしいわ。しかも、その媒体となるものが記録に残されているものでも様々で、ただ願っただけで発動できてしまった時もあるそうよ》


 魔術に近いもの。しかし贄としてジェイク達が使われたともあれば、呪術にも近いのではないかと静は想像する。も、これはあくまで想像の話だ。そもそもとして静は魔術についてほとんどのことを理解していない。

 だから静は勝手な憶測はそのままに自分の胸の内にしまい込み、話をさらに別方向へと向けた。


「うん、分かった。ありがと。そういえば庭園の魔術について調べたんだって?」

《ええ、真咲から聞いたの?》

「聞いた。大変だったらしいね? 主に殿下のそれ」

《私の代わりに殴ってくれない? というかご所望よ》

「やだよ、面倒。それにわたしが異性に触れられないの知ってるでしょ?」

《殴ってるじゃない》

「やだなぁ。あれはただ単に怒ってる時だけだって」

《私のために怒ってくれないの?》

「いや、なんか解決してるっぽいから、わたしが参戦してもなぁって」

《参戦ね》


 呆れた奈緒の声に、静は小さく喉の奥を鳴らすような笑みがついこぼれた。こちら側でも呆れた視線をいくつか受けるが、そんなものはまるっと無視をした。


《雪のお陰で庭園の魔術の効果が無くなってるわ。だから動くとしたら、本当に今のうちね》

「ん、分かった」


 庭園の魔術の元となるものは人の願いから、メルヴェアータとユフィアータが創り上げたものだ。雪のない時でも守れるように、と。

 だから雪が積もってしまえば効果が無くなる。まさに奈緒の言葉の通り、今が絶好のチャンスと言えた。


《後は……、そうね。今以上に体調を悪くしないちょうだいよ?》

「分かってる。今、どうにかして体力というか落ちた筋力を鍛えなおすところ」

《……ルイスに迷惑かけるんじゃないわよ》

「あ、そう。聞いてよ。このクソガキがね、変なこと覚えたんだよ」

《何よ。変なことって》

「馬に近づけてくる」

《……ちょっと意味が分からないんだけど》


 話の流れでルイスの告げ口をしてみたは良いが、確かに脈絡なく馬に近づけてくるというだけでは意味が分からないと静は一つ頷く。隣にいる真咲も首を傾げる始末だ。ただその目は、また何をしたんだと言わんばかりのもので静はちょっとばかし不本意ながら説明することにした。


「なんかよく分かんないんだけど、馬に妙に好かれて」

《あら、良いじゃない》

「半分襲われるんだよね。昨日とか挟まれてつぶされそうになった」

《何してるのよ。何でそうなったのよ》

「……いや、ちょっと。ね?」

《ああ、静がやらかしたのね?》

「や、ちょっとさ? やっぱり鍛えなおさなきゃと思って、そのあたり歩き回ってたんだよ。転んだけど」

《膝が悪いの忘れてない?》

「体力ないから余計だったね! けど大丈夫、リーリアの加護ですぐ傷治ったから」

《大丈夫じゃないのよ。ねぇ、ちゃんと成人越えてる? 嘘じゃないのよね?》

「ちゃんと超えてまぁす」


 もしや、こういう拗ねたような言い方が幼さを際立たせているのだろうか。であれば言い方を改めなければいけないと思ったが、何故かは分からないが急に変えることの方が気恥ずかしさを覚え、静は結局まぁ良いやと流した。

 もちろんだが、周囲の視線は続けて全て無視をした。


 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-


 それが、昨日のやり取りだった。

 ひとまずは奈緒からの連絡を待つ必要が出てくるが、そう簡単に召喚術について分かるとは静は思っていない。

 何せおそらくは百年以上前から使われている術でありながら、その実態が未だに分かっていないのだ。何か、そう、下手をしたらもっと大きなものが後ろに控えているのではないかと思わざる得なかった。

 今日はより冷えているせいか、手足の震えがなかなかに止まらない。背中は温かいが前はやはり寒いのは変わらない。外気にさらされないよう、ミノムシのように毛布を体に強く巻き付ける。凍えている静に気付いたヨカゼは一度体を起こし、思い切り体を静の上にのせてきた。どうだこれで温かいだろうと言わんばかりに。

 確かに温かい。けども同時にそこそこの重量を感じてしまうが、凍えるよりはマシだと思い、静はそのまま受け入れることにした。


「……雪」


 幌の隙間から、雪がちらほらと入り込んできた。

 雪は花びらのようにゆっくりと舞い降り、ヨカゼの体の上に落ちてきた。雪はしばらくしてゆっくりと溶け、小さな雫になった。

 静は小さく息をつき、この寒さの中よく眠っているルイスに深く寄りかかり、同じように瞼を閉じた。

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