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白銀に踊る ~四人の聖女達は愛に貪欲に生きることにした~【第1部連載中】  作者: tamn
第1部 落とされた四人の聖女達 六章 白銀は御旗を掲げる
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20 出立と再会

 話が終わったその日から、ルイスは慌ただしく動き始めた。それを申し訳ないなぁと思いつつ静はのんびりとその様子を見ていた。

 本当に心の底から申し訳ないとは思っている。だから後でちゃんとお礼は忘れずに伝えるつもりだ。

 それに余計なことを考えさせないように静は変に動き回ることを止めて室内に極力いるようにしている。これならば文句は言われないだろうし、余計な心配はされないはずだ。

 と、静は自分で考えていて少しばかり悲しくなった。

 確かに、勝手な行動をしている自覚はちゃんとあるが、ある程度考えての事だ。終わり良ければ総て良しなんて言葉があるくらいだ、少しは大目に見て欲しい。


「また変なことを考えていませんか、静様」

「考えてないよぉ」


 鏡越しに見てくるリーリアが綺麗な眉を歪めた。


「考えておりますよね、ヴィラ。ほら、ヴィラもそうだと仰ってますよ」

「ちゃんと大人しくしてなきゃなって思っただけだって」


 リーリアの肩にいるヴィラが小さく羽ばたく。どこか不満げにも見えるそれに、静は唇を尖らせた。


「嘘じゃないよ」

「はい、承知しております。ただ、他の方に何かをお願いしようとなさっていないかと心配になりまして」

「まだそこまで考えてないよ」

「考えようとはしていたのですね」


 静はすぐに口を真横に結んだ。見事にはめられた。

 リーリアは小さく息をつきながら、首のレースリボンを華やかに結んだ。


「最近、お小言増えたね」

「ルイス様に強くお願いされましたので」


 静はこの場にいないルイスに内心文句を言い連ねた。

 ちょっとぐらい信用してくれても良いと思う。いや、やらかしているのは自分なのだけども。



 そして室内で過ごす静は、別にいつも一人でのんびりと過ごしているわけではない。

 今日、まさしく今だって、静のもとへと訪れてくれているのだ。


「本当に行かれるのです?」

「私、もっと静様とお話したかったのに」

「ごめんねぇ」


 静は目の前にいる双子のフローラとミリアへ謝罪の言葉を向ければ、そろって双子は顔を伏せる。その後ろから、クラリッサがそっと二人の肩に触れて緩く首を振った。


「困らせてはいけないわよ」

「けど」

「お母様」


 今日も今日とて、もう少し長く居られないかと強請る双子をいさめるクラリッサは、少し申し訳なさそうに微笑みを向けた。


「私も、もっとお話をしたかったのですが」

「わたしもです」


 クラリッサは次は、という話をしない。目の前にいる双子もそうだし、昨日訪れてくれたシェリーもセレスも、他の人達も皆、再会の話はしなかった。

 ジェラルドが言い含めているのかまでは静の知るところではない。ただおかげで、次の再会について静は悩むことなく過ごすことが出来ていた。

 と、扉からノックの音が響いた。傍に控えていたリーリアがあ、と口元に手を当てて慌てて扉を開けに行く。


「おっと、まだ話の途中だったか」


 扉の向こうにいたのはライナス一人だった。

 フローラとミリアは揃って不満げな顔を浮かべるのを他所に、クラリッサはゆるく首を横に振った。


「いいえ、もう終わるわ。ほら、二人共」

「まだお話していたいわ」

「そうよ」

「静様が困ってしまうでしょう?」


 クラリッサがもう一度双子をいさめた。

 二度もいさめられた双子はそろって肩を小さく落とし、素直に目の前のソファから立ち上がった。


「それでは静様。お話、楽しかったですわ」

「失礼いたしますわね、静様」


 フローラとミリアがそれぞれ淑女の礼を見せる。いや、今は逆だった。


「うん。ありがと、楽しかったよ。ミリア、フローラ」

「まぁ、静様ったら」

「もう。分かっていたなら最初から言ってくだされば良かったのに」


 まさかバレていたとは思わなかったらしい双子は可憐に笑った。クラリッサも同じように淑女の礼を一つしてから、ライナスと入れ替わりで部屋から去っていった。

 途端、静まり返る室内に入るライナスは、先ほどまで双子がいたソファの横で立ち止まり、控えめに口元を緩めた。


「申し訳ありません、お疲れのところ時間をいただき」

「大丈夫。それより話って何?」

「話というより、ただ感謝をしたく」


 ライナスはヴィートそっくりに微笑みを浮かべた。


「ルイスの背を押していただいたこと、感謝しております」


 静はリーリア達以外に、何をしたという話はしていない。リーリア達が誰かに話をしたならともかく。

 しかしライナスの様子からは、その様子はうかがえない。

 おそらく、ただの想像で話をしているだけだが強く確信を抱いているようだった。

 静は何と言おうかと少しばかり視線を上に向け、そのまま口を開いた。


「わたしの父、病死したんだよね」

「それは……」

「ちゃんと話さなかったから、父が本当はどう思っていたのは結局分からないままなんだよ。で、すごく後悔したのね?」


 視線をライナスへと向け、静は微笑みを浮かべた。


「ルイスにはそういう後悔をしてほしくないって思っただけの、ただのわたしの自己満足。だから感謝はいらないよ」

「……いえ、それでも感謝しております。結果として、ルイスが王都で良き仲間に出会えたことや、より強くなったという話を聞けたのですから」


 本当に何も言わなかったルイスに呆れつつも、最終的にはそこまで会話したことに小さな感動を覚えた。

 これならば大丈夫だと、静はようやく息をついた。


「わたしね、これが終わったらルイスを置いていってしまうんだよ。なんていうか、その時がちょっと心配なんだよね。ほら、素直でとても一直線でしょう?」


 大丈夫、だけども。やはり心配なのは変わらなかった。

 何せ静にとっては初恋の相手というやつだし、ずっとこんな面倒な奴の側にいてくれるのだ。だから、最後の最後まで生きて幸せになってほしいとさえ身勝手にも願ってしまうのだ。

 ライナスは驚く様子もなく、ただ静の言葉を受け止め、微笑みを返してくれた。


「……そうですね。もし、自暴自棄になるようでしたら、性根から叩きなおしてやりますよ」

「あは、よろしく」


 頼もしいことを言ってくれたライナスに、静はゆるりと目を細めた。少しだけ兄という存在がいるルイスに羨ましさを覚えてしまう。

 静はそれを誤魔化そうと、何気なく黒いジャケットの袖をなでた。

 その静の仕草を見たライナスは、ほんの少しだけ口角を下げた。


「ところでそれ、今更ですがルイスの服ですよね」

「うん、借りた。あったかい」

「……ルイスに何か言われませんでしたか?」

「すっごく不満そうな顔してた」

「でしょうね……」


 何か他の理由があるような言い方をするライナスに、静は小さく首を傾げた。

 だから静は何故と問おうしたが、残念な事にそれは外からの冷たい風によって遮られた。

 そこそこの大きな音と共に窓が開かれ、外からの冷たい空気が部屋に入り込む。その原因であるルイスは大神殿にいた時と変わらずに窓から部屋へ入ってきたのだった。

 しかしタイミングは非常に悪かった。

 何せライナスがいるのだ。明らかにやらかしたと言わんばかりにルイスは顔を盛大に歪めた。


「……なんでライナス兄上が」

「今朝、静様と話をしたいって伝えただろうが。それより、なんで窓から入って来てんだよ」

「こっちの方が近かった」


 淡々と答えながらも部屋に入ってきたルイスは、迷わずに静のもとへ歩み寄り、立ち止まった。


「明日、出立できます」

「ん、分かった」


 思ったりよりも早く行けそうなことに静は小さく息をつき、強く袖を握りしめた。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 二頭立ての幌馬車。それと単独の馬が二頭。行商人に変装して北へと向うのだとルイスが説明してくれた。単独の馬がいるのは、護衛が付いていると分かりやすく見せつける為らしい。

 何せ静はお尋ね者だ。その他、ルイスの風貌は異国人のそれであることから、見られたとしても商人だと言ったほうが説明しやすいのだとか。

 くわえて商人として行動した方が情報が集まりやすいのだとか。


「……見送りが手厚い」

「耐えてください」


 フードが付いている厚手の外套を羽織りながら静は振り返り、思わず遠い目を向けそうになった。羽織らせてくれてルイスは目元を抑えている。

 何せ静達の目の前にいるのは、ジェラルド他、全員。本当にこの屋敷にいる全員が集まっているのだ。こんなにも人がいたんだなぁと思いつつ、静は足元にすり寄り、不安げに見上げてくるヨカゼの頭を軽く撫でた。


「馬に乗られたことは?」

「ないよ」

「経験がなくて大変助かります」

「……勝手に乗らないよ?」


 もうそろそろ出立しなければならない。静は小さく息をつき、幌馬車の元へと向かう。

 途中、ルイスからの疑いの目を受けながら、ついでに繋がれている馬でも軽く触れあおうかと思い、静は近くへと歩み寄った。

 馬達は静を見るとぶるり、と鼻先を揺らすだけでとくに驚く様子はない。それにルイスも止める様子がないからと、静は控えめに手を伸ばせば、馬は触れることを許すように頭を下げてくれた。静は一瞬驚いて手を止めるが、すぐに軽く馬の顔に軽く触れ、ルイスへと振り返った。


「ね、ねぇ。ルイス」

「お一人での乗馬は却下しますから」

「二人なら良いってことだよね」

「緊急時のみです」


 それならばまだ望みがあるし、押せばもしかしたら一人でも乗せてもらえるかもしれない。その為には体力と筋力を取り戻さなければ。馬車に乗っている間はどうせ暇だし、その時にでも筋トレをしよう。

 そう決めた静は最後に馬の鼻先をもう一度撫で、幌馬車に乗り込もうと踵を返した、時だった。


「ぅぐふっ……!」


 突然、後ろへ強く引っ張られ、静は慌てて目の前にいるルイスの服を掴んだ。


「え、な、何っ?!」


 どうやら何者かがフードを掴んだらしい。静は慌てて振り返り見れば、馬が何故かフードをくわえ、引っ張っていた。


「え、ちょ、やめっ、後で! ルイス、ルイ、ス……?」

 静が馬の顔を押し返すも離そうとしないどころか、またより強く引っ張ろうとしてくる。静はルイスの服を強く引き、どうにか助けてもらおうと見上げ、顔をしかめた。

 ルイスは最低限、静が後ろへ倒れないようにと腕をしっかりと掴んでいた。が、空いている方の手は口元にあり、顔を大きく背けていた。

 これは、分かる。一度目にしたことがあるから。

 静は大きく息を吸った。


「おい、てめクソガキ! 笑ってんじゃねぇぞ!」

「何、遊んで……っ」

「どこが……! びゃっ?! まっ、ヨカゼ待って!」

「っ……!」


 耐えられないと言わんばかりにルイスは声と肩を震わせる。まだ笑い声を上げられないだけマシだと思いたい。

 仕方がないと言うようにヨカゼが外套を引っ張ってくれるが、より転びそうになりかけ情けない声をあげてしまえば、ルイスが小さく吹き出したのが聞こえた。



 その横で、今にも静に戯れていきたそうな馬をなだめるノーマンは、呆れたように見つめていた。


「うわぁ……、静様かわいそ」

「静様、すげぇ馬に好かれるんだな!」

「いや、あれはやべぇって……」


 呑気なヘクターに対し、フィルは今後のことを考えてか、頭を抱えていた。

 一人離れて幌馬車の隣にいたジェイクが、珍しく動こうとしないリーリアに首を傾げた。


「なぁ、助けにいかなくて良いのかよ」

「大丈夫ですよ」


 にこりとリーリアが微笑む。と、気付けば静はいつもと同じようにルイスに抱えられていた。


「助けるの遅いんだけど! 静さん怒るよ!」

「どうぞお好きに?」

「良いもん、不貞寝してやる!」

「大人しくしていただけて助かります。ああ、馬に乗りたいんでしたっけ?」

「リーリア! このクソガキがぁ……!」


 ぎゃっと喚く静だが、その内容は早く助けなかったことに対して。もはや抱えられることには、何一つ疑問を抱いていないようだった。


「呼ばれてんぞ」

「ええ、分かっています」


 そう言いながらも、リーリアは静の元へと向かわずに待っているだけ。ジェイクはわざとらしく肩を竦め、静が離れたことに不機嫌そうに鼻を鳴らす馬を落ち着かせるようとノーマン達の元へ向かった。



 そして使用人達がざわめく中、セレスは口元を押さえながら、小さく肩を震わせていた。


「ふふふっ……。静様ったら、あんなにかわいらしいのね。ふふっ、だからルイスが執着するわけだわ」

「本当、静様には感謝してもしきれない。あのルイスを傍に置いてくれるだなんて」

「ルイスお兄様ったら、静様で遊ぶのがお好きなのね」


 セレスの隣にいるライナスはご機嫌に笑顔を浮かべ、シェリーは両手を合わせて輝く微笑みを浮かべていた。三人がそれぞれに笑顔を浮かべているというのに、ヴィートは眉間に深い皺を刻んでいた。


「ほら、ヴィート。静様も満更ではなさそうだよ?」

「本当、静様に申し訳ねぇっていうかさぁ……。中身がセレスそっくりだから……」


 見かねたジェラルドがヴィートの肩に手を添えれば、ヴィートは大きく肩を落とし、両手で顔を覆ってしまった。

 あのルイスが、あんな風に笑ったのだ。いや、喜ぶべきではある。だが素直にどうしても喜べない理由があった。

 ルイスの見た目は父のヴィートに瓜二つだが、中身は母のセレスに瓜二つだった。そのことを誰もが知っている事実であるが、静はそんなもの知る由が無い。

 何せこのセレス、手に入れたいものがあるならば手段は選ばず、地の果てまで追いかけてくるほどの末恐ろしい執着心の持ち主なのだ。だからこうしてヴィートがいるのだが、それはまた別の話になる為、割愛する。

 とにもかくにも、ルイスという男は執着心の塊といっても過言ではない。しかも相手のかわいそうなところを見るのを好んでいるのだ、セレス同様に。悪癖でしかない。

 おかげでルイスはセレスを避けていたのだが、静のおかげでわだかまりが少し和らいだのは良かったと言わざるえない。

 一番、被害にあっているヴィートは静に対し、心の底からの謝罪と旅の無事を我らが神であるアルカポルスと愛娘達に祈ったのだった。



 -*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 そうして出立し、領地から出た後も比較的安全に進んだ。時折魔物に襲われたり、襲ったり、静が馬に襲われたりもしたが順調に進んでいた。


「いつまで寝ているつもりなんですか」

「寝てない」


 もふもふのヨカゼから顔をようやく上げた静は、見下ろすルイスへと視線を向けた。


「馬車止まったけど、どこ?」

「はずれの村です。それで静様」

「うん?」


 ルイスは何故か迷いながら、目の前に片膝を付き、静に告げた。


「真咲様がいらっしゃいます」



 巡礼、というものを行ってるらしい。

 どうして巡礼というものを行っているのかは後で聞くとして、その巡礼をしているのがまさかの、あの真咲だと言うのだ。

 聞いた時、静はとても驚いたし、すぐさまに会いたいとルイスに願った。もちろんのことルイスは止めず、むしろ分かっていたようにすぐに頷いてくれた。

 真咲の周囲には護衛として深紅の騎士達がいるらしい。もちろんアリッサはもちろんの他、カルロスとイーサンもいるとのことだった。というより、イーサンとすでに話をしたらしい。

 音もなく移動するルイスに、いつものように抱えられている静はその話を聞きながら周囲を見渡した。


「そのイーサンって人。驚かなかった?」

「多少は。それよりも先にヘクターが捕らえていたので、そちらの方で驚いていたようです」

「……ヘクター。最近遊び足りないのかなぁ……」

「あの眷属を使いたいだけだと思います」


 新しい玩具をとにかく使いたいらしい。それならば今後はもっとヘクターに頑張ってもらおうと静は決めた。

 そうこうしているうちに、よく目立つ深紅の騎士達の集団が見え始めた。そして端っこのほうには小さな椅子に座っている真咲の姿。たった一目見ただけだと言うのに、何故か鼻の奥がつん、と痛くなってしまい、静はぐっと顔をしかめた。

 ルイスは静の指示を聞くこともなく、真咲の真後ろへとたどり着き、そこでようやく静を下ろした。

 ちょっとした悪戯心というものなのかは分からないが、良い場所へと下ろしてくれたことに胸の内で感謝しつつ、その後姿をじっくりと眺めた。

 真咲がいる。そして肩にはよく目立つ空色の鳥。あの時と一切変わらない姿を目の前にした静は、なんと声をかけるべきかと口を開きかけては閉じ、ばくばくと強く脈打つ胸元を押さえた。


「……暇だわ」


 ぽつり、と真咲の声が耳に入った。溢れ出しそうになるものを堪えながら、静はようやく真咲に言葉を向けた。


「手伝わないの?」

「あたしが出来ると思うの?」

「力仕事だしねぇ」

「そうなのよ。アリッサもいないし、だからこうして一人で遊戯盤、を……?」


 最初の一言で気づくかと思ったら、真咲はすぐに気づかないでそのままちょっとした会話をしてしまった。けども一つ二つ繰り返したことでようやく気づいたらしく、真咲は言葉を止めた。

 静はついつい吹き出しそうになるのを堪え、言葉を投げかけた。


「それならさ、わたしとおしゃべりしない? 真咲」


 返事はなかった。代わりに真咲は座っていた椅子を蹴飛ばし、静を力いっぱいに抱きしめてきた。

 なかなかの勢いで後ろに倒れそうになったが、すかさずに後ろにいたルイスが支えてくれた。


「巡礼しているって聞いた時は驚いたよ。大変じゃなかった?」


 そうだと言うように真咲の腕に力が込められた。


「うぅん、困ったな……。あ、久しぶり、ディーヴァ。もしかしてわたし達がいるの分かってた? ああ、分かってたの。内緒にしてた感じ? 悪い子だねぇ」


 やはり愛娘であるディーヴァは気づかないふりをしていたらしい。わざとらしく悪い子だと言うと、びぃ、と一つ反論された。

 静は真咲の背中を軽く叩いだ。


「ちょっと腕、緩めてくれると嬉しいかなぁ? 後ね? なんかちょっと重い……あ、まっ、転ぶからっ……!」


 ディーヴァと同じく素直じゃない真咲がわざと抱き着いたまま寄りかかって来る。静はそんな真咲に怒るわけではなく、微笑みを浮かべたまま囁いた。


「ねぇ、真咲。顔見せてくれないの?」


 早く、早く。静ははやる気持ちを抑えて待てば、真咲はようやく顔を上げてくれた。

 真っ赤になった鼻と目元。綺麗な涙を溢れさせながら、美しい空色が輝いていた。


「あっは、ぶさいく」

「ひどいっ……!」

「ごめんねぇ」


 ちょっと意地悪なことを言うと、真咲はくしゃりと顔を歪め、さらに涙が溢れだしてきた。

 小さくひゃっくりを上げながらも必死に真咲は口を何度も開こうとする。


「静、あのね、あたしね……っ」


 必死に何かを伝えようとしてくれている。けども言葉よりも先に大粒の涙が邪魔をしているのか、どうしても言葉を詰まらせていた。

 だから静は大丈夫だというように、また真咲の頭を抱き寄せると、真咲はより一層強く静を抱きしめてくれた。もう絶対に離さないと言わんばかりに。

 少しばかり苦しかったが、こんなものは普段の痛みに比べたらまるで真綿のような、それこそ羽毛にでも包まれているかのようだった。

 遠くからリーリアと一緒にアリッサが駆けてくる姿が見える。そして周囲にいる深紅の騎士達はこの状況に動揺を隠せず、それぞれ顔を見合わせているが、こちらに剣を向けようとしてくる者は誰一人だっていなかった。

 だから静は一先ず、この再会をとびきり喜ぼうと決め、出来る限りに力を込めて真咲を抱きしめた。

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