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灰かぶり姫、その名はエラ

昔書いていた物語を、どうせなら公開しようと少し加筆してみました。

続き読んでみたいって声があれば続き書いてみます。

無ければそのまま終わるかなと。

 童話のお話シンデレラ。

 皆が知っているそのお話の中に転生してしまった女の子が居た。


「え、私王妃様になんてなりたくないンですケド……。そんな教育も受けてないし」


 継母達からエラと呼ばれていたその女の子がシンデレラのお話に気付いたのは、部屋の掃除をしていて頭を打った事が発端だった。

 自分を虐めてくる継母達、だったのだが?


「エラ!信じてくれないかもしれないけど、今日から私エラに優しくするからね!」

「エラ!信じてくれないかもしれないけど、今日から私色々と手伝うからね!」

「エラ!信じてくれないかもしれないけど、今日から私良い母になると誓うわ!」

「えぇぇ……」


 ある日、姉1姉2、更には継母までもが私に対する態度が変わってしまった。


「一体どうなってンのコレェ……まぁ、良いんだケド……」


 エラに転生した女の子は、元のストーリーと逸脱したシンデレラのお話をなぞる事になる。


 果たして、エラは王妃にならずにすむのか。












「灰まみれのエラ。私達が帰ってくるまでに、綺麗に掃除をしておくのよ?」


 継母が綺麗なドレスで着飾り、ドアのノブに手を掛けながらそう言う。


「シンダーエラ!ちゃんとやってなかったら、どうなるか分かってるわよね? キャハハ!」


 その綺麗な顔を醜悪に歪めながら、ケタケタと笑いながらそう言う姉2。


「シンダーエラ、貴女も連れていけなくてごめんなさい。けれど分かってね? 貴方のような薄汚い妹を連れて行こうものなら、私達がお笑いものにされてしまうの」


 よよよ、としな垂れながらそう言う姉1に、義母は「ああ、なんて優しいの。灰まみれのエラの事をそんなに想ってあげるなんて……」とか、「お姉様は優しすぎるのよ!」なんて言う姉2。


「分かっております。いってらっしゃいませ、お母さま、お姉さま」


 別段、この日が特別な日だったわけじゃない。いつも、私は連れて行ってはもらえない。

 でも、それは仕方がないと思っている。

 お母さまのように気品があるわけでもなく、お姉様方のように美しいわけでもない。

 埃を頭に被り、常に汚れた姿の私を見て貴族だと思う人は居ないだろう。


 灰で汚れた姿を見て、灰まみれのエラ、シンダーエラと馬鹿にされている事からも分かるように、私はこの家ではなんの価値も無い人間だ。

 そんな私が、舞踏会に行きたいと思う事すら、烏滸がましいだろう。


 土下座をしながら継母達を見送る。

 ただこの日は……ある意味で特別な日になった。

 私が、私でなくなった日。ううん、私である事は変わらないのだけど、私にもう一つの人格が溶け込んだ日。

 そして……継母……ううん、お母さまやお姉さま方と、真の家族と成れた特別な日。



 継母と姉1、姉2が出かけてから、私は3階にある倉庫へと向かった。

 口に布をつけ、ハタキを使って埃を落とす。

 本がたくさんあるのだが、普段は私以外誰も足を踏み入れない。

 私の唯一の憩いの場所。それが先日、休んでいる時に眠ってしまって、姉1に見つかってしまった。


 継母に告げ口されて、この部屋も綺麗にするように命じられた。勿論、他の部屋もいつも通り掃除するのが基本として、だ。

 ただ、この部屋を綺麗にする事はむしろ望む所だったので、心の中では喜んでいた。


 継母は命令した以外の事をすると怒るので、掃除したくてもこの部屋の掃除を出来なかったから。


「ケホッコホッ……うぅ、凄い埃。頭の上にわたあめが出来てる……」


 ちりとりも用意しておいたけれど、すぐに一杯になるのでゴミ袋の数がどんどん増えていく。

 それから1時間程経っただろうか。高い所の埃を取っていたので、普段使わない筋肉を使って体が痛い。

 少し休もうと、脚立から降りようとしたその時、私は足を滑らしてしまう。


「あっ……!」


 これ、死んだかも?と思ったその時、脚立も一緒に倒れるのが見えて私は持ち前の貧乏性故というか、脚立を守らないとと思ってしまったので、変な体制になりながら床へと落ちる。

 ガン! という音と共に、凄い衝撃が来た。ジンジンと痺れる全身だったけど、なんとか助かったみたいだ。

 これも日ごろの行いが良いからね……とか思っていたら、脚立が本棚にぶつかったらしい。

 グラグラと揺れた本棚が、私の元へと倒れてくるのがスローモーションで見えた。

 ああ、神様……私、何か気に障るような事をしましたでしょうか……?


 そして私の意識は闇へと落ちた。




「痛たた……ここは……?」


 少し暗くなっている部屋。窓から零れる光に、夜ではない事は分かる。


「ええと……私は継母にこの部屋の掃除を命令されて……ぐっ……頭が、痛い……え? 何、この、記憶……?」


 それは、私の人生ではあり得なかった記憶。

 学校というものに行き、友人達と共に学ぶ時間。

 本当の家族という名の、父、母、姉、妹と共有した時間。

 全て、今の私が経験した事の無い記憶。

 ふいに、涙が溢れてきた。それと同時に理解した。


 私が今生きているこの世界の事を。


 シンデレラ。童話の中のお話そっくりだった事を。


「シンデレラの本当の名前が確かエラ。灰を被った姿をからかわれてたから、シンダーエラをシンデレラって呼ぶようになったんだっけ。で、エラ妃とか呼ばれるんだよね……」


 うん、大体思い出してきた。

 という事は、近いうちに城で舞踏会があって、そこで王子様と踊るわけかー。

 確かに、この記憶が私に溶け込む前であれば、私は舞踏会にどうしても行きたいと思っていたと思う。

 だけど今は……


「王子様と一緒になるなんて無理。というかこんな家でずっと過ごすのも無理。継母と姉ズに虐められながら暮らすなんて平和な日本で生きてきた私の記憶が拒否反応起こしてる」


 転生と言えるのかは分からない。

 前の名前は思い出せないし。だけど、自我は思い出した。

 それは今の私に溶け込み、合わせた自我が私となった。


「よし、逃げよう」


 そう思ってからの行動は早かった。

 元からこの家に私物はほとんどない。

 お金もないけど……どこに保管しているかは知っている。

 これまでこの家で荷馬車のように働いてきたんだから、ちょっと拝借しても良いよね。


 というわけで、金庫の前に到着。

 バールのような物で、金庫へ一撃を加える。

 キィィィンという金属質の音がして、その後にビリビリとした痺れが手に起こる。


「かったぁぁぁいっ! なんでこんなに硬いの!?」


 "当たり前でしょ。簡単に開けれるなら金庫の意味がないじゃン。

 場所知っててもどうにもならない現実を理解した方が良いって"


「なら、そのまま持って行く!」


 持ち上げようとして、当然持ち上がらない。


「んぎぎぎぎ……! お、重すぎる……! 何でできてるのよ!」


 "鉄でしょ。持って行けるなら金庫の意味がないっしょ"


「……さっきから当然のように私に突っ込んでくるあなたは誰?」


 "ンー……多分、もう一人のエラかなぁ、知らんケド" 


「えぇぇ……あ、ひょっとして私が見た記憶って……!」


 "多分私の人生かなー。ま、短い人生だったっしょ?"


「幸せそうな記憶だった。貴女はどうして死んでしまったの?」


 "さぁ、詳しい事は覚えてないんだよね。ケド。家族に不満があったわけじゃないから、エラよりは幸せだったっしょ"


「……」


 "ゴメン、言って良い事じゃなかったね。で、現代人の記憶を受け継いだエラは、これからどうしたいの?"


「私が、どうしたいって……そんなの決まってるわ!」


 "あはは、そうだったね。この家から出て、幸せになりたいってトコ?"


「もちろんよ!」


 "そっか。なら、私の持ってる知識、好きに使ってよ。私はもうじき、この自我も消えると思うから"


「え……?」


 "今はまだ、エラの中に全ての記憶が混ざれてなくて、外に締め出されてんのが私。それも少しづつエラの中に溶け込んでいってる。もうじき、私も溶け込むよ、それが分かるから"


「そんな……ねぇもう一人の私。私と一緒に、生きる事はできないの? 私の初めてのお友達になって欲しいの……!」


 "あはは、その気持ちは嬉しいケドね。自分と友達になるなんて悲しいコト言わないでよね。ナルシーでもそこまでじゃないっしょ"


「なるしー?」


 "ナルシストっていう、まぁそれも私と完全に混ざれば理解できるっしょ。……ねぇエラ、もし周りの環境が違ったら……シンデレラはどうなったと思う?"


「え?」


 "義母がもし優しかったら。姉がもし優しかったら。エラが家族の事を大好きだったら。私さ、童話のシンデレラストーリーが大好きだった。むかつく家族が断罪されて、今まで不幸せだったエラが、幸せになっていくの。でもさ……こうも思った。家族全員のハッピーエンドじゃ、いけなかったのかなって"


「……!」


 "だからね、皆と幸せになってエラ。私が望むのは、そんだけ"


「待って、エラ……! エラ!」


 最後に、エラは微笑んで私の中へと溶け込んでいった。

 そして、何故エラがそう言ったのか、分かった気がした。

 記憶の中のエラは……些細なきっかけで家族がバラバラになったんだ。

 最初にあった幸せな家族の記憶。それが、少しづつ崩壊し、最後には……。


 エラは、家族に殺された。だから、思い出せなかったんだね。

 最後まで家族と仲良くしたかったんだね、エラ。


 うん、それはそれとして、今の継母と姉ズと一緒にいるのは無理だケド!

 あれ? なンか私の考えが今までと少し変わっているような気がするンですケド……気のせいだよね?


「エラ、もう一人の私。短い間に話せた奇跡に感謝します。私はこれで、一人じゃないもの」


 目を瞑り、黙祷する。ほんの少しの間の、はじめてできたお友達。

 今はもう、私の中で一つになった。


「さて、こうしちゃいられない。継母達が帰ってくる前に、この家を出なくちゃ……!」


 着の身着のまま、ドアへと手を伸ばそうとして


「「「エラァァァァっ!!」」」


 凄まじい勢いで、ドアが開いた。


「お母さま、お姉さま? まだ、パーティのお時間では……?」


 驚きつつも、そう言うしかなかった。

 仕方ない、逃げるのは次の機会にするしかない。

 そう思い、いつも通り土下座の姿勢を取ろうとしたところで、両端から腕を取られた。


「「エラッ!」」


 信じられなかった。この姉1と姉2は、服が汚れるからと私に触れる事など一切なかった。

 だと言うのに、今は私の腕をその胸に挟み、私の体を支えているのだ。

 それだけでも驚きだと言うのに、信じられない事を言い出した。


「エラ!信じてくれないかもしれないけど、今日から私エラに優しくするからね!」

「エラ!信じてくれないかもしれないけど、今日から私色々と手伝うからね!」


 そうか、私は今夢を見ているのね?

 多分今の私は、あの本棚の下で走馬灯を見ているんだわ。

 そんな事を考えていたら、継母が私に近づいて、私のエプロンの汚れを手でポンポンと払って、咳ばらいをした後……言った。


「エラ! 信じてくれないかもしれないけど、今日から私良い母になると誓うわ!」

「えぇぇ……」


 その後、私は二人の姉に部屋まで運ばれ、ベッドに横にされた。

 動こうとしたら


「こらエラ! 貴女その傷で動いたらダメよ!」

「そうよエラ! 私達が傷薬買ってくるから、それまで大人しくしてなさいっ!」


 そう言って、二人の姉は出て行った。

 窓から外を見ると、二人が道を走っている姿があった。

 貴族の娘にあるまじき行為である。

 一体、何が起こったのか。


 そうして言われた通り、大人しくベッドに横になっていると、義母がおかゆを持ってきた。

 え? どうして? もしかして最後の晩餐とかでしょうか……?

 と体を震わせる。


「ごめんなさい、エラ。今まで、本当にごめんなさい……」


 私が震えているのを見た義母が、涙を流しながらそう言うので、私はもう驚きっぱなしだった。


「あ、あの、お母さま、どうなされたのですか? その、私が何か至らない所があったのでしょうか……?」

「違う、違うわ! ああ、エラ……!」


 おかゆを机の上に置き、継母は私を優しく抱きとめた。

 一体、何が起こっているのか。

 そうこうしていると姉1姉2が帰ってきて、私の全身すり傷だらけの皮膚に傷薬を塗り始めた。


「こんなにボロボロになって……ごめんなさい、エラ……」

「痛かったよね、本当にごめんなさい、エラ……」


 どうしよう、二人の姉が気持ち悪い。いつもなら


「傷だらけのその姿はシンダーエラにお似合いね! キャハハハ!」

「ふふ、そうね。その薄汚れた姿はシンダーエラによく似合っているわ」


 なんて素で言う姉ズなのだ。何か企んでいるんだろうか?

 いや、でも企むにしても、私に触れるなんて絶対しないだろう。

 なら、これは一体……


「信じられないのも、無理はないって分かるわエラ。でも、今から話す事は嘘じゃないの。それはね、私達は転生者だったの」

「え?」

「分かってる、信じられないのは。けれどね、この世界は……シンデレラという童話の中の世界。私と娘達は、それを思い出したの」


 私が今日、転生者の記憶を得た時に……継母と姉ズ達も? そんな偶然が、あるだろうか。


「私はその中で、シンデレラを虐める継母。娘二人も、シンデレラを虐める役回りだったわ」


 二人の姉は、うんうんと頷く。


「でもね、私達は違う。いえ存在というか、役割がそうだったのは仕方ない。だけど……私はシンデレラが大好きなのよ!」

「「私もよ!」」

「虐められながらも健気に負けず、王子様を射止めるシンデレラ……私達の間では勝ち組の人生を送る人の事をシンデレラストーリーなんていうくらい、代表的なお話なのよ!」

「ああエラ! 私貴女のお姉ちゃんで嬉しい! 絶対絶対幸せにしてあげるから!」

「私もよ! 私は転生前弟が居たんだけど、それはもう可愛げがなくって……エラやヘレナみたいに可愛い子が妹なんて、なんて幸せなのかしら!」


 ちょっと何言ってるのかわかンないンですケド。


「え、私王妃様になんてなりたくないンですケド……。ほら、そんな教育も受けてないし」


 とつい言ってしまった。


「ええ、ええ! それならそれで良いのよエラ!」

「そうよエラ! 王子様じゃなくたって、良い男はいっぱいいるわよ!」

「むしろエラは王子様には勿体ないわっ! もっと相応しい男じゃないと!」


 私の発言に全肯定なのに引いてしまいそうになる。

 いや王子様には勿体ないって、どんな女なの。

 どこにでもいるような普通の、いやそれより下の女なんですケド。


「ふふ、最初に言ったけれど、信じてくれなくても良いの。ただ、私達がこういう考えだと知っておいてもらいたくて。今までごめんなさいエラ。私は良い母になれるよう、努力しますから見ていてくださいね」

「ゆっくり休むのよエラ」

「また後でねエラ」


 そう言って、継母と姉ズは出て行った。今まで一度だって見た事の無い、優しい表情で。

 ……信じて、良いんだろうか。

 これは夢じゃないんだろうか。


 いつも、残飯のような食事をしてきた。

 米や穀物が入っていれば運がいい方で、ほとんど水のようなスープに、干からびたパサパサのパン。

 高熱を出して動けなくても、気になんてしてもらえなかった。


「う、ぅぅっ……ぅぅぅ……」


 気付けば、涙が零れた。

 今までエラとして生きてきた時間と、もう一人の私の記憶がごちゃ混ぜになって、止められなかった。

 信じても、良いんだろうか。この一時は、私が死ぬ前に見ている夢ではないのだろうか。


 夢なら、どうか覚めないで欲しい。そう思いながら、私は眠ってしまった。






「泣きつかれて、眠ったようね」

「ええ。エラ……今まで辛かったわよね」

「そうね……私達がしていた事とはいえ、許せないわ!」


 エラが眠った後、継母のギネヴィア、姉1のベラ、姉2のヘレナが集まって話をしていた。


「でもまさか、お母さんやお姉ちゃんまで一緒に転生するなんてねぇ……人生何が起こるか分かんないわね」

「こら恵、お母様でしょ!」

「お母さんこそ! 今の私はヘレナなんだから!」

「はいはい、そこまでよお母様、ヘレナ。大事なのは、これからの事。エラはこれから、城の舞踏会に単身で行く事になるわ。まずはそれを全力でサポートするのよ」

「え? でもお姉ちゃん、エラは王妃様になりたくないって言ってたわよ?」

「それは実際に王子様と出会ったら変わるかもしれないでしょ? 原作と違うのは、私達はもうエラを虐めたりしないって事よ」

「そうね。それに、このままだと私達は死んでしまうわ」

「「ガクブル……」」


 三人深刻な顔で震える。エラの事が大好きな三人ではあるが、自分達の役割上で起こる悲劇も、知っていた。


「そうね、私達のこれからの行動をまとめるわよ。まず一つ、エラには幸せになってもらう。もう一つ、エラの邪魔はしない。むしろエラに好かれるように努力する。最後にもう一つ、私達も死なないように、できればエラとハッピーエンドを迎える。良いわね?」

「「異議なし!」」


 こうして、三人の密談は終わる。

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シンデレラを王子の元へブチ上げて、家族全員助かっちゃうぞ作戦 果たして上手く行くのかどうなのかw
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