第26話 カッコいいのか悪いのか。クロウの日常は続く
「ちょっとクロウ。あなた、魔族は?」
皆の所に戻ってきたクロウ。
余裕の表情で答える。
「ぶっ飛ばした」
「は?」
「魔大陸にまで帰ってもらったわ」
「え?」
「まあ、気にすんな。とりあえず数年は閉じるはず」
「数年? 何の事」
「ああ、こっちの話だ。それよりも・・・レオ君。大丈夫か」
起き上がったレオの肩に、クロウが右手を置く。
「だ。大丈夫です」
「うんうん。無理はしないでくれ。リリちゃんの魔法が完璧に作用しても、すぐに完全にはならないのさ。だからここはな。ネルフィ君。三日は安静を覚えておいてくれ。これをしっかり守るように監視してくれ」
ネルフィがすぐに返事をする。
「はい! マスター」
「お。ずいぶん返事がいいな」
「当然です。この町の救世主様ですから」
「え? 救世主??? そんなわけないだろ。俺は気ままに魔族をぶっとばしただけ」
「いえいえ。この大陸を救った救世主様です。ありがとうございます」
「いや・・」
なんかそれは嫌だな。
クロウは、世界を救った人間にはなりたくないのである。
「マスター。この後も魔族が来るんですか? あれは、偵察部隊ですか?」
フランが聞いた。
「いや、違うと思う。あれでしばらくは大丈夫なはず。あのレトアロッゾだっけ? あいつの生命力と魔力次第で、あっち側の封印が上手くいくから、こればかりは期間がわからん」
シオンが呆れた声で、会話に入る。
「クロウ。テスタロッゾよ」
「え? そんなんだっけ?」
「酷い人ね。そいつ倒したんでしょ。せめて名前くらい覚えてあげなさいよ」
「わりい。興味ない奴の名前を覚えねえ主義なんだよね」
おじさんに名前を覚えられる。
それは大変名誉な事である。
それが、あだ名だとしてもだ。
「さて、明日から通常業務に入るから。さっさと帰ろうか」
「・・・え。マスター。でもこれ・・・・」
リリアナが町半分を見て、クロウに言った。
ボロボロになった町並みに、海が凍っている状態は異常である。
「ああ。そうか。そういや、ここら辺、ボコボコだな。シオン。お前暴れすぎだろ」
「なんであたしだけなのよ。フランだって暴れたわよ」
「フラン君のスキルは、ほとんど近接寄りだから、こんな風にはならんの。こんな風にな」
町が壊れている箇所に魔法の残滓を感じる。
テスタロッゾと、シオンの物だ。
「なによ。あたしが悪いって言いたいわけ」
「いんや。よくやったな。シオン。お前、魔族とも撃ち合えたんだな。魔法合戦が出来る魔法使いってなかなかいねえんだぞ。優秀だなお前。よく頑張ったな」
不意に褒められてしまったから、シオンの感情がどこかに行ってしまった。
顔を赤くしてもじもじし始めた。
「そ。い。いきなりなによ・・・急に褒めるなんて・・・やだわ・・・えへへへ」
と独り言を言っている間にも、クロウは別な指示を出していた。
「フラン君。リリちゃん」
「「はい」」
「えっと、フラン君は、町の人たちに、こっちに来ても、もう大丈夫だよと伝えてくれ。中央より向こうに人が移動しているっぽいわ」
「わかりました」
町全体を見ていないクロウなのに、彼は待ちの人たちが移動した先を理解していた。
「リリちゃん。俺が魔法を行使するから、町が直ってるか。よく見ておいてくれ」
「え? ま、町を直す??」
「ああ。いくよ。神様ちょっと待って」
「ええええええ」
壊れている地面が直り、損壊した家の屋根が直る。
海が水に戻り、小舟も波に乗る。
ロクサーヌの町並みが、元の姿に戻りつつあった。
「え。あ。え? いや。ど、どういうことでしょうか」
リリアナは大きな声で驚いた後に、さらに驚き続けた。
「いいかな。こんなもんか。どうよ。リリちゃん」
ある程度直ったと思ったクロウ。
大体こんなもんっしょと、テキトーな性格なので、チェックが欲しかった。
「は、はい。大丈夫です」
「あれ? それってどっちの意味?」
「はい。これなら、誰もわからないかと」
「そっちね。じゃあいいや。これで。でさ・・・」
「はい」
「俺さ。マスター会議に行ったでしょ。そこでさ、新人の登録料上げて来たんだよ。俺って仕事デキるでしょ! めっちゃ頑張ったよね!」
ブイサインをして言ってきているが、リリアナにとってそんな事はどうでもよかった。
正直に言って、今はそれどころじゃない。
「あれ? 反応薄いな。これでちょっと儲かるのにさ。それに新人登録する人も、少しは躊躇するよね」
値上げが起きれば、人が多少は来なくなるだろう。
これがクロウの考えだった。
列の半分くらいは、来なくなるはずという見積もりがあった。
「じゃあ。とりあえず帰ろうか」
先程。凄い事が起きたはずだ。
魔族襲来など千年ぶりの出来事で、ありえない事態だ。
なのにこの男。
あまりにも普段通りで、周りの皆が呆れかえる。
「ああ。疲れた。疲れた。一銭にもならん仕事は勘弁したいわ。頼むよ魔族。大人しくしとけよな」
自分の金欠の方が気になる男。
それが辺境のギルドマスタークロウである。
◇
そして、ここから10日程。
クロウの思惑が大きく外れる事件が起きた。
それが・・・。
「なんでじゃああああああああああああ」
クロウの叫びがギルド会館に響く。
『ガヤガヤガヤガヤガヤ・・・・ガヤガヤガヤ』
体感二倍以上。
それほどに、冒険者新人になりたい者たちが列を成していた。
前よりも凄まじい数が、ロクサーヌのギルド会館に集まっている。
入口の扉は締まらないどころか。
隣の隣の隣のお店にまで列が連なって、近所迷惑となっていた。
「どうしてだ。なんでこんなに人が来てんの!」
仕事をしながらフランが言う。
「それはマスターの噂ですよ」
「俺の噂? なんだそれ??」
忙しすぎてフランが答えられない。
隣のリリアナが言う。
「マスター! あの時のマスターの活躍が伝わったみたいです」
「え? 俺の活躍?」
「はい。町を救いましたでしょ。あれって大活躍なんですよ。それであの後で、レオさんたちが宣伝しているらしいです」
「なぬ!? レオ君たちが?」
ギルドマスタークロウのおかげで、ロクサーヌは守られた。
『冒険者になりたいのなら、救世主様の元で!』
このレオが考えたキャッチコピーが、アバルティアの国へ広がって、その内大陸全土にも広がるだろう。
それが、リリアナとフランの予想だった。
「そうよ。クロウ。だからあなたも登録作業。手伝いなさいよ。救世主様でしょ。あたしたちのギルドも救ってみせなさいよ」
「シオン・・・いやいや。ここは俺がいなくても・・・イタダダダダダ」
逃げようとしたクロウの耳をシオンが引っ張る。
「マスターなんだから、仕事をするのが当たり前よ」
「いやいや。俺って金にならない仕事は・・・」
「どんな仕事も仕事。あんた頑張んなさいよ。魔族の相手よりも楽でしょ」
「いや。俺にとっちゃ、魔族の方が楽勝だ。細かい事務作業の方が厳しいんだよ! 魔族よりも難敵だぜ!」
「なによ。そんな事偉そうに言うもんじゃありません。仕事しなさい」
シオンがクロウの頭を叩く。
「マスターなんだから、しっかりしなさいよ」
「・・・へ~い」
ギルドマスタークロウ。
人はこの人物を、伝説の勇者クロウディオ・エクスタインだとは知らない。
なぜなら、一見すれば、ただの普通のお仕事サボり魔にしか見えないからだ。
それに守銭奴でもある。
でも、人の為に動くギルドマスターでもあった。
彼がなぜここに来たのか。
辺境にいる理由を知る者は少ない。
謎多き男である・・・。
「ちょっ・・・狭めえのに、人が多すぎだ! 君たち、冒険者になるの。あとでもよくない? もうちょい待っても損はしないぜ。よく考えろ若者たちよ。若い時はね。勢いばかりじゃ駄目なんだよ。ちゃんと考えようね」
ギルドに来る人を減らそうとするマスターは、今日も仕事に忙しい。
第一章が終わりました。
ここから先は、冒険者育成編。クライロン学校編。マスター選抜編。魔族決戦編と続く予定でありますが、これはお試しでしたので、ここでいったん終わります。
まだ他にも書いている物があるので、そちらとの兼ね合いで、この話が進むかどうかを決めます。




