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辺境のギルドマスター  作者: 咲良喜玖
第一章 不思議な事に、働いているのにおじさんにはお金がない

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第26話 カッコいいのか悪いのか。クロウの日常は続く

 「ちょっとクロウ。あなた、魔族は?」


 皆の所に戻ってきたクロウ。

 余裕の表情で答える。


 「ぶっ飛ばした」

 「は?」

 「魔大陸にまで帰ってもらったわ」

 「え?」

 「まあ、気にすんな。とりあえず数年は閉じるはず」

 「数年? 何の事」

 「ああ、こっちの話だ。それよりも・・・レオ君。大丈夫か」 

 

 起き上がったレオの肩に、クロウが右手を置く。


 「だ。大丈夫です」

 「うんうん。無理はしないでくれ。リリちゃんの魔法が完璧に作用しても、すぐに完全にはならないのさ。だからここはな。ネルフィ君。三日は安静を覚えておいてくれ。これをしっかり守るように監視してくれ」


 ネルフィがすぐに返事をする。


 「はい! マスター」

 「お。ずいぶん返事がいいな」

 「当然です。この町の救世主様ですから」

 「え? 救世主??? そんなわけないだろ。俺は気ままに魔族をぶっとばしただけ」

 「いえいえ。この大陸を救った救世主様です。ありがとうございます」

 「いや・・」


 なんかそれは嫌だな。

 クロウは、世界を救った人間にはなりたくないのである。


 「マスター。この後も魔族が来るんですか? あれは、偵察部隊ですか?」

 

 フランが聞いた。


 「いや、違うと思う。あれでしばらくは大丈夫なはず。あのレトアロッゾだっけ? あいつの生命力と魔力次第で、あっち側の封印が上手くいくから、こればかりは期間がわからん」

 

 シオンが呆れた声で、会話に入る。


 「クロウ。テスタロッゾよ」

 「え? そんなんだっけ?」

 「酷い人ね。そいつ倒したんでしょ。せめて名前くらい覚えてあげなさいよ」

 「わりい。興味ない奴の名前を覚えねえ主義なんだよね」


 おじさんに名前を覚えられる。

 それは大変名誉な事である。

 それが、あだ名だとしてもだ。


 「さて、明日から通常業務に入るから。さっさと帰ろうか」

 「・・・え。マスター。でもこれ・・・・」


 リリアナが町半分を見て、クロウに言った。

 ボロボロになった町並みに、海が凍っている状態は異常である。


 「ああ。そうか。そういや、ここら辺、ボコボコだな。シオン。お前暴れすぎだろ」

 「なんであたしだけなのよ。フランだって暴れたわよ」

 「フラン君のスキルは、ほとんど近接寄りだから、こんな風にはならんの。こんな風にな」


 町が壊れている箇所に魔法の残滓を感じる。

 テスタロッゾと、シオンの物だ。

 

 「なによ。あたしが悪いって言いたいわけ」

 「いんや。よくやったな。シオン。お前、魔族とも撃ち合えたんだな。魔法合戦が出来る魔法使いってなかなかいねえんだぞ。優秀だなお前。よく頑張ったな」


 不意に褒められてしまったから、シオンの感情がどこかに行ってしまった。

 顔を赤くしてもじもじし始めた。

 

 「そ。い。いきなりなによ・・・急に褒めるなんて・・・やだわ・・・えへへへ」


 と独り言を言っている間にも、クロウは別な指示を出していた。


 「フラン君。リリちゃん」

 「「はい」」

 「えっと、フラン君は、町の人たちに、こっちに来ても、もう大丈夫だよと伝えてくれ。中央より向こうに人が移動しているっぽいわ」 

 「わかりました」


 町全体を見ていないクロウなのに、彼は待ちの人たちが移動した先を理解していた。

 

 「リリちゃん。俺が魔法を行使するから、町が直ってるか。よく見ておいてくれ」

 「え? ま、町を直す??」

 「ああ。いくよ。神様ちょっと待って(タイム・タイム)

 「ええええええ」


 壊れている地面が直り、損壊した家の屋根が直る。

 海が水に戻り、小舟も波に乗る。

 ロクサーヌの町並みが、元の姿に戻りつつあった。


 「え。あ。え? いや。ど、どういうことでしょうか」


 リリアナは大きな声で驚いた後に、さらに驚き続けた。


 「いいかな。こんなもんか。どうよ。リリちゃん」


 ある程度直ったと思ったクロウ。

 大体こんなもんっしょと、テキトーな性格なので、チェックが欲しかった。


 「は、はい。大丈夫です」

 「あれ? それってどっちの意味?」

 「はい。これなら、誰もわからないかと」

 「そっちね。じゃあいいや。これで。でさ・・・」

 「はい」

 「俺さ。マスター会議に行ったでしょ。そこでさ、新人の登録料上げて来たんだよ。俺って仕事デキるでしょ! めっちゃ頑張ったよね!」


 ブイサインをして言ってきているが、リリアナにとってそんな事はどうでもよかった。

 正直に言って、今はそれどころじゃない。


 「あれ? 反応薄いな。これでちょっと儲かるのにさ。それに新人登録する人も、少しは躊躇するよね」


 値上げが起きれば、人が多少は来なくなるだろう。

 これがクロウの考えだった。

 列の半分くらいは、来なくなるはずという見積もりがあった。


 「じゃあ。とりあえず帰ろうか」

 

 先程。凄い事が起きたはずだ。

 魔族襲来など千年ぶりの出来事で、ありえない事態だ。

 なのにこの男。

 あまりにも普段通りで、周りの皆が呆れかえる。

 

 「ああ。疲れた。疲れた。一銭にもならん仕事は勘弁したいわ。頼むよ魔族。大人しくしとけよな」


 自分の金欠の方が気になる男。

 それが辺境のギルドマスタークロウである。



 ◇


 そして、ここから10日程。

 クロウの思惑が大きく外れる事件が起きた。

 

 それが・・・。


 「なんでじゃああああああああああああ」


 クロウの叫びがギルド会館に響く。


 『ガヤガヤガヤガヤガヤ・・・・ガヤガヤガヤ』


 体感二倍以上。

 それほどに、冒険者新人になりたい者たちが列を成していた。

 前よりも凄まじい数が、ロクサーヌのギルド会館に集まっている。

 入口の扉は締まらないどころか。

 隣の隣の隣のお店にまで列が連なって、近所迷惑となっていた。


 「どうしてだ。なんでこんなに人が来てんの!」


 仕事をしながらフランが言う。


 「それはマスターの噂ですよ」

 「俺の噂? なんだそれ??」


 忙しすぎてフランが答えられない。 

 隣のリリアナが言う。


 「マスター! あの時のマスターの活躍が伝わったみたいです」

 「え? 俺の活躍?」

 「はい。町を救いましたでしょ。あれって大活躍なんですよ。それであの後で、レオさんたちが宣伝しているらしいです」

 「なぬ!? レオ君たちが?」


 ギルドマスタークロウのおかげで、ロクサーヌは守られた。

 『冒険者になりたいのなら、救世主様の元で!』

 このレオが考えたキャッチコピーが、アバルティアの国へ広がって、その内大陸全土にも広がるだろう。

 それが、リリアナとフランの予想だった。


 「そうよ。クロウ。だからあなたも登録作業。手伝いなさいよ。救世主様でしょ。あたしたちのギルドも救ってみせなさいよ」

 「シオン・・・いやいや。ここは俺がいなくても・・・イタダダダダダ」


 逃げようとしたクロウの耳をシオンが引っ張る。


 「マスターなんだから、仕事をするのが当たり前よ」 

 「いやいや。俺って金にならない仕事は・・・」

 「どんな仕事も仕事。あんた頑張んなさいよ。魔族の相手よりも楽でしょ」

 「いや。俺にとっちゃ、魔族の方が楽勝だ。細かい事務作業の方が厳しいんだよ! 魔族よりも難敵だぜ!」

 「なによ。そんな事偉そうに言うもんじゃありません。仕事しなさい」


 シオンがクロウの頭を叩く。


 「マスターなんだから、しっかりしなさいよ」

 「・・・へ~い」


 ギルドマスタークロウ。

 人はこの人物を、伝説の勇者クロウディオ・エクスタインだとは知らない。

 なぜなら、一見すれば、ただの普通のお仕事サボり魔にしか見えないからだ。

 それに守銭奴でもある。

 でも、人の為に動くギルドマスターでもあった。


 彼がなぜここに来たのか。

 辺境にいる理由を知る者は少ない。

 謎多き男である・・・。


 「ちょっ・・・狭めえのに、人が多すぎだ! 君たち、冒険者になるの。あとでもよくない? もうちょい待っても損はしないぜ。よく考えろ若者たちよ。若い時はね。勢いばかりじゃ駄目なんだよ。ちゃんと考えようね」


 ギルドに来る人を減らそうとするマスターは、今日も仕事に忙しい。



 第一章が終わりました。

 ここから先は、冒険者育成編。クライロン学校編。マスター選抜編。魔族決戦編と続く予定でありますが、これはお試しでしたので、ここでいったん終わります。 

 まだ他にも書いている物があるので、そちらとの兼ね合いで、この話が進むかどうかを決めます。


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