第23話 レオ救助
「リリちゃん。オールキュアだ」
「え・・・でも私にはあれは無理で」
「無理じゃないよ。君なら出来る。やってみな。レオの魂はまだここにある。だから間に合う」
クロウは、レオの胸に手を置いた。
鼓動は無くとも、まだここに想いがある。
生きる力をクロウは勇者レオから感じている。
「ここに集中的に魔法を。いいかい。助けたいと心から思って魔法を出すんだ」
「マスター・・・でも」
「わかっているよ。トラウマがあるのもね。でも乗り越えるべきだ。君はあの時の君じゃない。今は成長した。立派なギルド職員だよ」
「・・・わかりました。マスターが言ってくれるなら、信じてやってみます」
「おっけ。やってみてくれ」
レオに手を置く人間が替わる。
リリアナが今度は両手を置いて、全身全霊の魔法を出そうと準備した。
その時、クロウは近くにいたフランを呼んだ。
「フラン君」
「はいマスター」
「確率操作してくれ」
「ん? あの確率操作ですか」
「そう。君。今日使った?」
「いいえ。あれは本当の奥の手として、マスターが切り札として使えと教えてくれたので。まです」
「だよね。君ならまだ使わないと思ってたよ」
確率操作は一日一回。
0から100まで、自由自在の確率を任意で出せる。
例えば、敵の命中率すらも、いじることが出来るので、回避不可の攻撃すらも、命中率を0に出来る。
かなりチートなスキルだ。
「まさか。わかりました。そういうことですね」
「そう。彼女の魔法の成功確率は、よくて3%くらいだからね。だから発動と同時に、フラン君がいじってくれ」
「わかりました。やってみます」
勇者レオに、蘇生魔法を使う。
状態異常の最上位『死』
それを拒絶するために、神官の中でも回復魔法専門の彼女が、勇気を持って、魔法を発動させる。
過去との因縁を乗り越えるために、ここが成長した自分の力試しだった。
「いきます。レオさん。私頑張ります。オールキュア!」
聖なる光が、彼女とレオを包み込む。
希望の光。
それを見たネルフィは。
「団長。団長ぉ。帰ってきてくださいよ。私たちのそばにです。あなたがいないとどうしたらいいか・・・団長」
叫んだ。その思いを受け取るリリアナも、この魔法のトラウマを乗り越えて、力一杯に魔法を出す。
「助けます。絶対に。今度こそ!」
輝きが増していく中で、クロウが呟く。
「足りねえ。やっぱり、リリちゃんの力じゃまだ無理だな。このままだと失敗だな。でも、フラン君がいれば違う」
フランが、リリアナの集中を邪魔しないように、彼女の背後に立った。
「いきます。確率操作」
物。人に干渉する。
確率操作前の確率が、フランには見えた。
「2.2%ですね。これを引き上げます」
成功率が低いのも見えた。フランはここから、数値を上げていく。
「10・・・30・・・50・・・んん。さすがに重い。ここまで離れていると難しいです」
ほぼ0の状態から、100まで引き上げる。
そのスキルの負担は相当なものだった。
戦いの疲れがありながらもフランは懸命に確率を操作する。
「来ました。100です」
彼のスキルが完璧に作動すると、リリアナの魔法の輝きが増した。
「え? これは・・・」
オールキュアの光が、レオの全身を癒す。
傷が治り、顔に血の気が出てきて、魂を固定し始める。
「リリちゃん。まだだ。油断するな」
「は、はい。マスター」
「いいかい。まだレオの体を癒したに過ぎない。ここからは、レオ自身の意思が重要だ。だから、ちょっとだけ失礼するよ。ネルフィ君」
「は、はい」
レオの隣を離れないネルフィの肩に、クロウが触れると。
「このまま。レオの体に触れてくれ。俺が君の意思を増幅させる」
「わかりました」
増幅とは何ですか。
と聞きたい所だったが、今はマスターが真剣そのものだから。
余計な口出しをしなかった。
ネルフィはレオの体に手を置いた。
「ネルフィ君。レオに呼びかけを」
「団長。団長起きてください」
「・・・・・」
彼の上に置いた手に、弱い鼓動が伝わってくる。
動いていなかった心臓が動き出していた。
「団長! 私たち、待ってますよ。ホームで皆。待ってるんですよ。一緒に楽しくご飯を食べましょうよ」
「・・・・・」
「団長。あなたがいないと寂しいです。また一緒に冒険をしましょうよ」
ネルフィの顔にも言葉にも、涙が滲みだしていく。
一緒にいたい気持ちを素直に表現していった。
すると、無言は変わらずであるが、レオの顔に変化が起きた。
「・・・・」
レオの眉がピクッと動く。
「団長!」
ネルフィがレオの胸に顔を埋める。
泣いた顔を見せない為か。それとも思いが届いてほしいのか。
それとも両方なのか。
それは彼女にしか分からない。
でもその行為が彼の本能を呼びおこす。
女性に愛されていると力を発揮する性質だ。けしからん!
「ぐっ。ネルフィ・・・俺は・・・」
「団長! 生きかえったんだ。団長が帰ってきた!・・・・マスター。リリアナさん。ありがとうございます」
ネルフィは、二人を見た。
リリアナはホッとした顔をして、クロウはいつもと変わらない顔から、優しく微笑む。
余裕のある態度で、クロウはこの場にいた。
彼はすぐにフランとリリアナを労う。
「よくやった。フラン君。リリちゃん。君たちもだいぶ成長したね。俺が教えた頃よりもだいぶ上手いよ」
「ありがとうございますマスター」
「はい。マスターのおかげで乗り越えました」
二人がクロウに感謝を示した。
深く頭を下げると、シオンが言う。
「ちょっと。今は、こんな余裕がないんじゃ。クロウ。あの魔族はどうなったの?」
「ん? ああ。あいつか。そういや、どうなってんだ? どこまで行ったんだ。俺の分身体?」
クロウの分身体とテスタロッゾは現場にいなかった。
シオンは目を離さずに二人の戦いを見ていたのだが、レオの蘇生魔法を施す瞬間だけ、目をそちらに向けてしまったことで、魔族とクロウの戦いを見失っていた。
「どれ・・・ああ、そういうことか」
クロウは空を見上げた。
「クロウ。どういう事?」
「シオン。俺の分身体。上で戦ってるわ」
クロウが空に向かって指を差した。
「え? 空???」
「あいつ。俺が飛べねえと思って、上なら安全圏だと思い込んだみたいだ。上にいたら攻撃も出来ないだろうという安易な考えをしたんだな。馬鹿だな」
クロウの顔が細かく左右に移動する。
どうやら、はるか上空で戦う自分の分身体を追いかけているようだ。
「・・・え。あなた。その言い方だと、空を飛べるの?」
「ん?」
「疑問に思わないでよ。あなた空を飛べるの?」
「むしろ。お前、飛べないの?」
「いやいや、なんで飛べる前提で会話が進むのよ」
「飛べるに決まってんだろ。飛べなきゃ魔族とは戦えんぞ」
「あのね、こっちは魔族と戦う想定で生きてないのよ。あなたは何で、その想定に入っているのよ」
「ああ。そうか。そうだよな。それは俺が悪いわ」
千年前の人間たちとは違う。
今の人間は、平和が前提で生きている。
「魔族ってのは、強さはいいとしてな、飛ぶことがかなり厄介でさ。ちょこまかと空を飛び回るからよ。こっちは魔力で空を飛べねえといけないのさ。ああいう風にな」
「え? ああいう風?」
クロウが指を差した位置から、流れ星のような光が降り注いできた。
まだ明るい時間帯なのに、眩い光を放っている。
「ぐあああああああああああああ」
テスタロッゾの悲鳴と共に、光が地面に落ちた。
【ド―――――――――――――――――ン】
土煙が巻き起こると、皆が手で顔を覆う。
しかし、クロウだけは余裕がありすぎるようで。
ポケットに手を突っ込んで、光が落ちた先を見つめていた。
「ふぅ。俺の分身体にボコボコにやられたか・・・あいつ、魔族にしては弱いか? どの位置かによって、今の時代の実力を測るか」
どんな事態でも余裕のある男。
それが、ギルドマスタークロウである。




