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辺境のギルドマスター  作者: 咲良喜玖
第一章 不思議な事に、働いているのにおじさんにはお金がない

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第21話 遅くなったわ

 「・・・あ」


 勝利に安心したシオンが地べたにへたり込んだ。

 しかし、そんな暇はなかった。

 

 彼女や、フランも大変な状態であるが、レオの方が一大事であった。 


 ◇


 意識のないレオのそばには、ネルフィとリリアナがいた。


 「団長。団長!」

 「上手くいくかは、分かりませんが! 回復魔法をしてみます」

 「お願いします」


 リリアナがヒールを出し続ける最中。

 ネルフィは必死に呼びかけた。


 「団長。目を覚まして。団長」


 魔法で、傷は消えている。

 リリアナの回復魔法は、少しの効果でも彼に効いていた。

 だから、まだレオは生きていた。


 「間に合って。とにかく間に合って」


 焦るリリアナは必死に魔法を出し続けた。


 ◇


 「急がないと。ここから避難を呼びかけて・・・それに、あのガーゴイルを倒さないと」


 魔族を退けてもまだ海の上にはガーゴイルがいる。

 シオンは、立ち上がって動き出そうとした。

 しかしここで声が聞こえる。


 「シオンさん。逃げて。まずい」

 「え?」


 目の前に上半身のスーツが破れちぎったテスタロッゾがいた。

 服が乱れている事にも激怒している彼は、呟く。


 「人間がこの私に傷をだと・・・許せん。貴様らの恐怖に応じて、成長しようとしたが、もういい。ここで殺す」

 「え・・・なんで、あたしが勝ったんじゃないの」

 「あれほどの威力を出せる人間・・・邪魔な存在になりうるからな。ここで消す」

 「うそ。なんで・・・あれで勝てないの」

 「おおお。その表情いい。実に良い。私の力が溢れてくるぞ。全身を刺激する甘美な恐怖だ。美しい女性の歪んだ表情は、良いぞおおお」


 テスタロッゾの今の姿は、まるであの時のアースハルトのようだった。

 悦に入って、興奮を得ている。

 シオンはそれがまた悔しかった。

 またあんな男みたいな奴にいいようにやられるのかと。


 「死はこれからだ。貫いてからゆっくり殺してやる。痛みと死の恐怖を同時に与えてやろう・・・死ね」


 伸びる爪がシオンを貫こうとしたその時、淡い期待が花を咲かせてくれた。


 「いやいや、悪い悪い」


 待ち望んでいた人物がようやくやって来たのだ。



 ◇

 

 「おじさんまた遅れちゃったみたいでね」


 頼もしい背中に向かってシオンが少女のような言い方をする。


 「お。遅いよ。クロウ」

 「ああ、シオン。ごめんな。またそんな顔をさせちまったか」


 シオンの顔をちらっと見たクロウは、酔っぱらた人の腕を軽くつかんでいるみたいにテスタロッゾの右腕を横から掴んでいた。

 そんな状態で、彼女と会話しているのは異常である。

 相手が魔族だという事を理解できないくらいに異常だった。


 「だ。誰だ貴様」

 「ちょいと待ってな。こいつ。うっさいから、俺に任せとけ」


 クロウはテスタロッゾの顔を見て言う。


 「魔族が人間の恐怖で成長するって聞いた事がねえんだけど。どっからそんな話が出てきたの?」

 「知らん。魔族の常識だ。私たちはそれで成長すると」

 「誰かから聞いた? ってことか」


 話の流れからして、そんな風に感じたクロウは、とりあえず敵を投げ飛ばすことにした。

 

 「んじゃ。まず距離を取るわ。ほい」


 ゴミ箱にごみを捨てるくらいに軽いノリで、テスタロッゾを空中に放り投げた。


 「うおおおお。な、なんだこの威力は・・・」


 放り出される敵を見て、クロウは次の展開を仕掛けた。


 「うぜえのが奥にもいるな。それにあっちの状態もヤバいか。これは時間稼ぎをしてもらうかな。三重幻影(トリプル)


 クロウとそっくりの人間が二人現れた。

 本体が指示を出す。


 「お前は。あっちを全滅で頼む」


 クロウは自分から見て左の自分に、ガーゴイルの全滅を依頼して。


 「お前は、あいつから話を聞きたいから、半殺しで頼むわ」


 右の自分に、テスタロッゾの半殺しを頼んだ。

 ありえない指示を聞いたテスタロッゾは怒りで空中で止まれた。


 「ふざけるな。何が半殺しだ。人間なんぞに出来るわけが・・な」


 クロウの分身体が、テスタロッゾの目の前に現れる。

 いきなりの拳を顔面に受けると、そのまま吹き飛んでいく。

 自分を遥かに上回る力の強さに、さっきまで余裕の態度だったテスタロッゾが慌てていた。

 

 それを見つめるクロウは、この事態を収束させようと動く。

 シオンの肩に手を触れて。


 「すまん。一か所に集める」

 「え? 一か所?」

 「説明は後だ。シオン、信じてくれ」

 「え。うん。いいわ」

 「よし」


 彼女の承諾を得ると、クロウはテレポートでフランの元に飛んだ。


 「フラン君」

 「あ。マスター。申し訳ないです。倒せませんでした」

 「いいんだ。君が無事ならね。よく戦ったようだし、いい感じで使いこなせてるね。だいぶ修練を積んだようだ」

 「はい。ありがとうございます。マスター」


 褒められて嬉しそうなフランの肩に、クロウが触れる。


 「このままあそこに飛ぶ。事態が良くないからな」


 二人を連れて、クロウはリリアナたちの元に飛んだ。



 ◇


 「団長。団長」

 「これ以上は駄目。私の回復魔法じゃ・・・レオさんを・・・回復できない。やだ。助けたいのに・・・私じゃ・・・」


 泣きながら回復魔法を発動させるリリアナの元に、クロウがやって来る。


 「リリちゃん。そいつは回復魔法じゃ無理だ」

 「え? ま、マスター」

 「レオ君を助けるには、回復魔法じゃ無理。魂の拡散が始まりかけている。だから、回復させるのは傷だけになっているよ」

 「・・え。じゃあ。もう駄目なんですか。マスター」

 「いんや。出来るよ。ただ、君はトラウマを超える事が出来るかい」

 「・・・マスター・・・まさか」


 リリアナの顔に恐怖が混じる。 

 クロウの言葉で過去が蘇ったのだ。


 

 

  

 


 

 

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