第20話 フランとシオンの連携
水魔法により、海に波が生まれて。
風魔法で、その波が大きくなる。
それが連なり、津波となる。
ロクサーヌに襲い掛かる津波は、海の上にいるガーゴイルたちが引き起こした。
シオンは、その光景に絶望せずに抗う!
「負けるもんですか。凍てつく波動。アイスタイム」
小さな氷の結晶が、彼女の杖から出現する。
それらが、細かく細分化して、津波に向かっていった。
『パキパキパキ』
津波から流れる音じゃない音が響く。
すると徐々に徐々に、津波の動きが鈍っていき、凍り始めた。
波全体が止まっていく。
「キエエエエエエエ」「キエ?」「???」
ガーゴイルたちは、自分たちの渾身の魔法が止まったことで、疑問を持っていた。
宙に浮かびながら首を傾げる。
「ま、まだまだ。止めないと。完全停止に・・・」
シオンの根比べが始まっている最中。
◇
「限界のようですね」
「はぁはぁ」
三分も凌いだフランは、偉かった。
魔族相手に三分も戦えるのが凄いからだ。
「あなたの強さの仕組みが分かりませんでしたが、殺しましょう。ここでまた粘られるのも面倒です」
「・・・ま、まだまだ・・・」
諦めない目。
それに喜びを感じるテスタロッゾは、魔族だ。
人が簡単に絶望をするよりも、希望から絶望に堕ちた表情が大好きだからだ。
テスタロッゾは、スキル稼働限界を超えた素早く動けないフランの前をゆっくり歩く。
「どうしましょうかね・・・恐怖の顔色に変わりませんね」
中々表情が動かない。
その事に不満を覚えるテスタロッゾが、フランの前に立った。
「ん? おかしい。恐怖の心があるのに、表情にはないときた」
心は恐怖をしているはず。手足が震えているのが見えているからだ。
でも、顔は変わらない。
眉一つ動かさないフランに、意地のようなものを感じる。
「死ぬ。その時まで、絶望の顔を見せないつもりですね。わかりました。それでは少々痛めつけましょうか」
ここから一方的な攻撃が始まった。
フランが死なない程度に殴る。
その微妙なさじ加減が上手い。
さすがは魔族だ。
◇
「こ、凍らせたわ・・・もういいはずよね。そうだフラン。あなた・・・あ!?」
自然災害を乗り越えたシオンは、後ろを振り向く。
すると、フランがボコボコに殴られている最中だった。
彼の意識は、あるのかないのか。
傍目から見るとそれがわからない。
「フラン!」
名前を呼びながら、シオンが魔力を練る。
「あんたね。いい加減にやめなさいよ。ダークボール」
後ろから来るシオンの魔法に、テスタロッゾが気付く。
右手でフランの首を締めながら、左手で殴る途中で、フランを捨ててダークボールに集中し始めた。
飛び込んで来る三個の魔法の側面を素手で殴って、ダークボールの直撃を回避した。
「な!? あたしの魔法を??」
「やはりあなたが邪魔ですね。あなたが希望になっているからこの男の顔に絶望が現れない。ならば、あなたから先に殺しましょう」
「え?」
一瞬でシオンの懐に入ったテスタロッゾ。
自分の爪を鋭く伸ばして、串刺し棒のようにした。
彼女の胴体を貫くつもりだった。
「死になさい。シオン!」
爪の先が彼女を貫くと思われたその時。
「駄目です。あなたがいないとここは勝てない」
「れ、レオ!?」
最後の力を振り絞った勇者レオが、シオンにタックルして身代わりになった。
腹のど真ん中に、テスタロッゾの爪が食い込み、そして突き破る。
「ぐあっ・・・ま、まだまだだぁ」
そこから勇者レオは、自分の剣をテスタロッゾの顔に叩きつけようとした。
だが、その速度がなく、いとも簡単に躱されて、爪を引き抜かれた。
大量の血が飛び交うと同時にレオが倒れる。
「レオ。あなた。なんて無茶を」
「俺は・・・勇者だ・・・・ゆう・・・しゃ・・・なんだ」
レオは、朦朧とする意識の中でも、誰かを守るために戦った誇りを捨てない。
心構えだけは、真の勇者なのだ。
そこに、リリアナとネルフィが遅れてやってきた。
二人が来た時にはすでに自体は最悪である。
「団長!」
「え・・・レオさん。フランさん。シオンさん!」
現場が荒れている。
二人は急いだ。
◇
「団長!」
必死に走るネルフィ。
テスタロッゾが彼女たちの存在に気付く。
「ほう。こっちの方がいいですかね」
目の前の粘る敵の心を折るには、ここで援軍を先に消すのが有効。
そう考えたテスタロッゾは動き出した。
「しまった・・・まさか。この敵」
その動きに気付いたのがフラン。恐怖を乗り越えて冷静な判断をしていた。
「ネルフィさん。承認してください」
「え?」
「いいから、承認と叫んで」
「は、はい」
「急いで」
フランの焦る声で、慌てるネルフィが走りながら叫ぶ。
「承認」
「よし。いきます。承諾交換」
フランとネルフィの立ち位置が入れ替わる。
倒れていたフランが、テスタロッゾの前に現れて、走っていたネルフィが座った位置からの走りになった。
「あれ? なぜここに・・・」
ネルフィが戸惑っている間に、フランの戦いが再開となる。
「なに。あなたは別な場所に置いておいたはずだ。なぜここに急に現れ・・・」
フランは奥の手を発動させた。
承諾交換は、承諾した者と立ち位置を入れ替えることが出来るスキル。
戦いで使うスキルではないが、上手く扱えば、このように戦いに使用できる。
「これで、どうだ。僕の必殺! 千日手」
さらに重ねてスキルを発動させたフラン。
必殺の千日手は、完全コピー技。
相手の能力。相手の動き。
この二つを完璧にコピーする技だ。
でもこれでは、相手を上回ることが出来ないから、勝つことが出来ない。
だから、フランはテスタロッゾと互角に戦いながら、シオンに作戦を伝えるわけである。
「シオンさん。全力の魔法の用意をお願いします」
この一声で、自分がしたい事を理解して欲しい。
能力を明かすと、力を失う賭博師ならではの駆け引きだ。
◇
フランの声で、魔法の準備を始めるシオンは、彼がやりたい事を理解した。
レオの顔を見て、自分を守ってくれた人の想いに報いるために、この戦いの決着をつけようと動く。
全身に魔力を溢れさせて、自身最高の魔法を出すつもりだ。
「フラン。あなた・・・時間稼ぎに使ったのね。その技を・・・」
テスタロッゾの右ストレートを、同じ手で防ぐと、この技の仕組みを知られる。
だから、フランの動きはその右ストレートに対して、左ストレートを出して、相殺した。
拳同士が衝突する音が、遠くにいるシオンにも聞こえた。
「微妙に動きをずらすことで、相手の動きと能力をコピーしている事を悟らせない」
賭博師の千日手を知っているシオン。
この技だけは知っていた。
それは、人魔戦争の際にいた伝説の賭博師を知っているからだ。
歴史の教科書には載っていない人物だが、以前彼女はアカデミー時代に独学で学んでいる。
「なんて頭のいい戦い方なの・・・誰が。あんなことを教えたのかしら。自分で気付いたの? 自分の能力をあんな風に完璧に活かせるなんて、簡単には出来ないわよ」
フランは、クロウの教えを大切に胸にしまっていて、ひけらかすことがないから、誰も知らないのだ。
クロウは、人を上手く育てる事に長けていた。
「勝負はあたしの魔法次第。だからありったけの魔力をこれに・・・」
闇の力に勝負をかける。
◇
「おおおおおおおお」
魂を震わすために雄たけびをあげながら敵に対抗する。
フランは、決死の覚悟の戦いを繰り広げていた。
「なんだこの人間は、私と互角に戦えるなど・・・ありえん」
ここまで戦える人間がいる事の戸惑い。
自分と戦っても臆さない人間いる事も驚き。
だから驚愕していると言ってもいい。
若干の恐れを抱いたテスタロッゾは、勝負を決めようと攻撃が大振りになった。
この瞬間が最大のチャンス。
「シオンさん! どうですか」
フランの望みをかけた一声に。
「承諾!」
シオンが答えた。
さっきのやり方を見てくれていた。
無駄な説明を省いてくれたことに感謝したフランは、承諾交換を発動させた。
立ち位置が入れ替わった瞬間から、すでにシオンは魔法を放っていた。
「消し飛べ アクシオンキャノン」
闇魔法を全身全霊で敵に叩きつける。
シオンオリジナル魔法の一つ。
アクシオンキャノンは彼女の手から闇の玉として殴りつけるような形で始まる。
テスタロッゾの腹に当たった。
「なに。あの男・・・また入れ替わったのか・・・しまっ。この威力はまずい」
シオンが放つ魔力の大きさに、即座に気付いても、すでに遅い。
その魔法は発動条件を満たしていたのだ。
「はあああああああああああああああ。ぶっ飛べえええええ」
闇の玉が、ぶつかった衝撃で、変形をして、そのまま放出される。
巨大な魔法ビームと化す。
「ぐおおおおおおおおおおお。しまったあああああ。人間如きに」
テスタロッゾは、シオンの魔法によって、空の彼方へ消えた。




