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辺境のギルドマスター  作者: 咲良喜玖
第一章 不思議な事に、働いているのにおじさんにはお金がない
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第18話 冒険者シオンの苦難

 ガーゴイルの群れを見て分かった事は、魔法連携して自然災害を起こすこと。

 目的が分かってしまえば、敵が出したい魔法を推察できる。

 戦いの経験が多い彼女ならではの分析だった。


 「ふぅ。あれは恐らく、ストームバード・・・」


 風魔法をかき集めて、辺りに風を吹き散らかす。

 連携魔法の一つだ。

 人間のみならず、魔物にもあれを扱えるのか。

 シオンは驚いていた。


 「それと、水魔法で、波を作る気ね」


 海に小さな波を生み出して、そこをストームバードで動かす。

 そうなれば、港に津波がやって来る。

 先程の地震でも、小さな波が生まれているので、その強さを生み出しやすい環境にあった。


 「くっ・・・最初の攻撃も。この時のことを考えていたんだわ・・・魔物ってこんなに統率がとれるの。信じられない」


 魔族と魔物の協力関係。

 これは過去の文献にもなかった情報だった。

 シオンは優秀な学生でもあったから、そういうことを覚えていた。


 「でもやるしかない・・・あたしが津波を凍らせるしかないわ!」


 シオンがやる事は、敵の魔法を真っ向から否定する事。

 津波ごと捻じ伏せるつもりだった。

 

 杖に宿る力は、極寒の魔法。

 氷魔法だ。


 「絶対零度・・・・アイスタイムで、敵の魔法を封じる」

 

 相手が複数でもここは自分一人でやりきるしかない。

 魔法は基本一人で出来るもの。

 クロウの教えの一つだ。



 ◇


 冒険者クラン『時の行方(ツァイト)

 

 それがシオンが所属していた冒険者クランだ。

 主な活動拠点は、大陸中央クライロンである。

 冒険者にとっても中心地のクライロン。

 そこで活動が出来るという事は、冒険者としてトップクラスである証明だ。


 団長アールハイト・シュバイツァー。

 黄金騎士と呼ばれる特級冒険者を筆頭に。

 副団長エドナ・ホーフェン。

 参謀タタラ・ミュラー。

 A班班長テルマ・クライン

 B班班長オルトマン・ベルガー。

 などなど。


 彼らは他の冒険者クランで言えば団長クラスの実力者。

 それらを雁首揃えることが出来るクランは、異常であった。

 

 冒険者クランの全クランの中でも一二の強さを争うのが時の行方(ツァイト)

 その中で、新進気鋭の実力者として、シオン・ドゥンケルハイトがいたのだ。

 彼女は、類まれない魔法の才を持っていて。

 強者しかいない時の行方(ツァイト)の中でも、大出世を果たす。


 ちなみに、このクランは通常。新人が入る班はD班であり、ここが最下層の班員となる。

 だが、彼女は一味違かった。

 新人入隊でも、広く門徒が広がっているわけでもない。

 狭き門であるエリートしか入れない。

 そんな時の行方(ツァイト)の中で、シオンはここを飛ばして、いきなりB班から所属していた。

 その異例の待遇からも、彼女の優秀さが分かる。


 

 しかし、これが良くない部分の一つだった。

 彼女を妬む者が多く現れた事だ。


 新人の癖に。なんでDから始まらないの。雑事の任務もこなさないのよ。


 これらの言葉が陰口となって、彼女を突き刺していた。

 しかし、彼女も負けず嫌い。それくらいで、へこたれるような甘っちょろい言葉を吐く女性ではなかった。


 「負けるもんですか」


 この言葉を自分に言い聞かせて、精神的には劣悪な環境で、彼女は二年を耐えた。

 そして、異例の出世をするまでに至り、主力となる。

 なんとたったの二年で、一線級の冒険者がいるA班を飛び越して、幹部の班。

 つまり時の行方(ツァイト)の本体入りを果たしたのだ。

 団長。副団長。それらと肩を並べる場所で戦う事が出来た。


 彼女は実に優秀だった。

 様々な任務を団長らと共にこなしていき、実績を積み上げていく。

 すると、多くの実績と栄誉を得て、光陰のシオン(ダークマスターシオン)という称号まで得た。

 彼女の魔法センスが、世にも珍しい闇魔法にあった事から名付けられた異名である。

 同じ冒険者らを畏怖する力を持つ名でもあった。


 

 ◇



 そして、彼女にとっての不幸は、この冒険者ギルドにあった。

 それはミオエンド王国にあるレグルスの塔という塔ダンジョンを制覇した際の宴会で、事件が起きた。

 

 団長アールハイトは、彼女の才能と彼女自身を狙っていた。

 うら若い女性であった彼女が、豊富に実った果実となり、自分が愛でるに相応しい位を得た。

 その瞬間に、彼は裏の顔を出したのだ。


 昔から、アールハイトにはとある疑惑があった。

 それは青田買いの疑惑である。

 優秀な人間を、あらかじめ取っておいて、使い物にならなくなれば捨てて、使えるのであれば、ゆっくりと自分好みに成長させる。

 遠巻きで眺めながら、舌舐めずりもするらしい。

 男女を問わずして、狙った者を逃がさない男だった。


 そして、この日。

 彼女は謙譲された。

 皆が下で宴会をしている最中。

 宿屋の上層の部屋を用意されて、そこでベッドに寝ろと言われた後がシオンらしい行動だった。


 彼女はそんじょそこらの女性じゃない。

 この状況でも癇癪を起こした。


 「あたしは、こんな事をするためにここに来たわけじゃない」

 「怒っても無駄だよ。君の魔力ではこの結界は解けない」

 「え?」


 目を凝らして見るとよく分かる。

 部屋の周辺どころか、この宿屋全体を覆う薄い結界。


 「これはまさか。魔力封じ」

 「そうだよ。だから君は私のそばにおいで。私の寵愛を受けなさい」

 「い、いらないわ! あたしは、あなたに憧れて、冒険者になったんじゃないもの」

 「それはおかしい。団員全てが、私を愛していないとおかしいなぁ」


 部屋から変な匂いがする。

 鼻の奥を刺激する匂いだ。


 「こ・・・これは・・・」

 「さあ、私の元へおいで。シオン」

 「い・・・いやだ。絶対に嫌だ」

 「んんん。意志が強い。ここまでして折れないのは珍しい」


 魔力封じの結界を破る方法は二つ。

 術者を叩くか。結界の許容範囲を超える魔力をぶっ放すか。

 この二択だ。


 でも現状、術者が分からない。

 どこに隠れているのかを見つける時間もない。

 だから彼女は、現状を打破する行為を単純行動に決めた。


 「ふざけんじゃないわよ。あたしは、安い女じゃない。裏でコソコソするような、あんた程度の男には負けない!」

 「なに!?」


 怒りに身を任せて、魔力が解放された。

 爆発的な魔力を強引に発動させて、魔法を放つ。


 「失せろ。ナイトレイン!」


 闇魔法最高クラスの魔法の一つ。

 ナイトレイン。

 狙われた人間は、暗黒の雨から逃れることが出来ない。

 一粒の雨が無数となって降り注ぐために、一滴を躱すことは不可能だ。

 そして一滴の雨でも、高威力の魔法となっている。


 「君は、この状況でも、この魔法を・・・素晴らしい・・・ああああ、最高だ」


 悦に入ったアールハイト。

 全ての機能が、興奮状態に入っているのは、シオンから見ると気持ちが悪かった。


 「エドナ! 解除しろ」

 「はい」


 副団長の声が聞こえて、シオンは絶望した。

 『賢者の跡継ぎ』エドナ・ホーフェン。

 彼女が繰り出す魔法は、シオンを上回る魔力展開だった。


 「クロスライト」

 

 黒い雨とは反対に、地面から光の柱が伸びあがる。

 シオンの魔法を打ち消した。


 「な!? エドナ様!」

 「シオン。受け入れなさい。このクランに入ったからにはね。彼を受け入れない限り、先がない」

 「嫌です。あたしはあたしの道を」


 二人の会話に割って入るのが、アールハイト。


 「うるさいな。君は大人しく、私の物になればいいのだ」

 「嫌!」

 「仕方ない。エドナ、やれ!」


 深いため息の後に、エドナは魔法を出す。


 「リロック」

 「くっ・・・この魔法は」


 拘束魔法『リロック』

 術者の魔力が、相手よりも上回っている限り、その拘束が続く。


 「え・・エドナ様」

 「受け入れなさい。天からの洗礼のようなものです」


 顔を背けたエドナに、シオンは絶望した。

 このクランに入った理由は、エドナだったのだ。

 別にアールハイトの事はどうでもよく、エドナのそばで彼女の魔法を勉強したいと思ったのだ。

 それは彼女が、伝説の賢者メイフリンの後釜になれるかもしれない女性のそばにいたかったからだ。

 次の賢者とも言われるほどの魔法の才を持っているのに、そんな人がこんな屑の言いなりだったとは・・・。


 憧れの人物に、こんな魔法をかけられて、そして好きでもない男が、自分を貪ろうとする。

 そこに絶望して、涙が勝手に流れる。

 アールハイトが、シオンの右肩の服を破ると、いよいよを持って心が消えかけた。

 その時。


 「なにしとんの。君ら?」


 飄々としているおじさんが現れたのだ。

 

 

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