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辺境のギルドマスター  作者: 咲良喜玖
第一章 不思議な事に、働いているのにおじさんにはお金がない
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第16話 やる気おじさん

 ロクサーヌのギルド職員フランは、一般人ではなく、高貴な出の人間である。

 彼は北の国のブリトン王国出身の貴族リーブス家の三男だ。

 長男。次男と。

 双方ともに非常に優秀な魔法使いで、二人とも宮廷魔法師団に入っている。

 彼の両親も、また同じ職場。

 つまり、彼のみが違う職業に就いてしまったというわけだ。


 魔法一家と呼んでもいい一族の中に一人だけ魔法を扱えない者がいる。

 ここから想像がつくだろうが、そこが彼の災難であった。


 それは、毎日のように家族から・・・。


 「何故魔法使いじゃないんだ。お前は、無能だな」

 「そう。私たちの子じゃないのかもしれませんわ」


 父と母の罵倒が続き。


 「弟だと思われるのが恥ずかしいから、お前の口から家の名を出すな」


 兄からも攻撃を受ける。

 しかし、次兄はそんな事がなく。


 「三人とも酷いよな。こればかりはしょうがないのにな。魔法使いになりたくてもなれないだろうし。なにより、ジョブなんて選べないのにさ」


 次兄ハロルドだけはのんびりしていて、穏やかだった。

 弟の辛い立場に、介入が出来ずとも、寄り添ってはくれていた。

 きつい性格の一族の中に、唯一の優しい人物である。


 「いいんです。僕が悪いんですから」


 当時のフランは自己否定が多かった。

 偉大な魔法一家にいて、魔法使いじゃない自分が悪い。

 その事に後ろめたさがあった。

 家族として扱われないのも当然の事だろうと、そう思っていた。



 そして、宮廷魔法師団には当然の如く就職が出来るわけがないので、両親の斡旋により、城の警備兵に就職した。

 そこならば別に魔法使いじゃなくても、なれる職業だろうとの配慮もあった。

 しかし、彼のジョブは賭博師(ギャンブラー)

 城勤めでも、見栄えの良いジョブとは思えない。

 だからここでも当然仲間外れのような形になっていた。

 同僚からも、上司からも、白い目で見られる生活を数年。

 長く忍耐強い性格だから、彼は耐える事が出来た。

 常人ならば、いつ精神が崩壊してもおかしくなかっただろう。


 そんな生活を続けていたある日。

 城の中庭で一人。

 ベンチに座りながら、黙々と昼食を取っていたその時、隣に真っ黒なおじさんが座った。

 全身が黒。

 髪も、目も、そして服も黒だ。

 

 「いやぁ。広い城だよな。迷っちゃった。ハハハ」

 「え?」


 おじさんが座るまで、人の気配がなかった。

 だから、サンドイッチを持ったまま左を向いたフランは固まっていた。


 「君。一人なの」

 「は、はい」

 「なんで? 食堂には、人がたくさんいたよ。一緒に食べないのかい」

 「僕は無理です。仲間外れですから」

 「へぇ。喧嘩?」

 「いえ。僕が弱いのが原因です」

 「弱い??? 君が??」

 「はい。両親の口添えで、警備兵になっていますが。僕のジョブが、戦士でも騎士でもないので、馬鹿にされています」

 「ほう」


 おじさんは真剣に話を聞いていた。


 「何のジョブだい?」

 「賭博師(ギャンブラー)です」

 「おお! 凄いね。特殊系統か」

 「凄くないですよ」


 おじさんは、ここで手をパチンと合わせた。


 「じゃあ、君がフラン君だな」

 「え? なぜ僕の名を」

 「いや、俺って運がいいね。そんじゃちょっとさ。道案内、お願いできるかな」

 「僕がですか。いいのでしょうか」


 嫌われ者なんですが・・・。

 フランは、この言葉を上手く飲み込んだ。


 「うん。いいよ。えっとなんだっけ。オレスって言う部屋だったかな。それどこ?」

 「オレス・・・ああ、わかりました。特別応接室(オレス)ですね」

 「うん。なんもわからないから、そこなのかもわからないや」

 「て、適当ですね」


 フランにとって、誰かと会話して、面白いと思ったのはこれが初めてだった。

 何気ない会話が、楽しいなんて、驚きでもあった。



 ◇


 目的地前。


 「こちらですよ。えっと・・そうだ。お名前を聞いていませんでした。大変失礼でした。申し訳ありません」


 案内中もおじさんのくだらない話が続き。

 それが面白いと思っていたフランは、ついつい彼の名を聞かずにして話をしていた。

 フランは、自分が無我夢中で会話するなんてと、内心驚いていた。


 「別にいいのよ。俺はクロウだよ。フラン君!」

 「はい。ありがとうございます。クロウさん」


 名前を聞けて嬉しくなったフランは、別にお礼なんて言わなくてもいいのに、思わずお礼を言っていた。


 「ああ。じゃあ、一緒に入ろうか」

 「え? 僕もですか」

 「そうだよ。とりあえずさ。この中には依頼人がいるからね」

 「依頼人?」


 扉の先へと二人が向かう。



 ◇


 「お待ちしておりまし・・・な!? フラン」

 「え。ハロルド兄さんと・・・王子?」

 

 部屋の中にいたのは、ハロルド・リーブスと、ライド・ブリトンだった。

 二人は学校時代の同期で仲が良い。

 宮廷魔法師団の団員と王子の間柄だけど、親友関係である。


 「クロウさん!」

 「おお。ライド君。おひさ」

 「はい。お久しぶりです」


 かなり親し気な雰囲気がある二人。

 事情は深く知らないが、この二人が親しい間柄なのだろうと、フランは兄に会えた驚きと共に、一国の王子と知り合いのおじさんにも驚いていた。

 

 「大きくなったね。こんな小さかったのにね」

 「はい。クロウさんはお変わりなくで」

 「そうでしょ。爺様から聞いてる?」

 「ええ。それはそうです」

 「色々、ナイショだよ」

 「はい。もちろんです」


 王子が頭を下げた。


 「ライド君。キャルバ君は、まだ元気でしょ」 

 「はい。お元気でいます。今は離れにいて、家庭菜園を楽しんでます」

 「だろうね。あの子、そういうの好きだったしね」

 「はい」


 キャルバとはまさか。

 フランの頭に浮かんでいる名前は、偉大な先代国王の名だった。

 

 「よし、そんじゃ。本題を聞こう。この子がいても問題ないよね。お二人さん」

 「「はい」」


 フランの事を指差したおじさんは、二人から案内を受けて席に座った。



 ◇


 「んで。用件はこの子だよね。お兄さんからの依頼だっけ?」


 おじさんはハロルドの方に顔を向けた。


 「はい。私です。弟にはノビノビ生きて欲しいんです。だから、あなたを頼ればいいのかと思いまして。お呼びしてしまいました」 

 「そう。で? なんで俺?」


 不思議そうな顔をしたおじさんは、自分に指差しした。


 「それは昔ですね。ライドから話を聞いた事がありまして」


 公式な場じゃないので、ハロルドはライドと言った。

 これは、別な場所であれば打ち首ものの無礼である。


 「どんな話だい?」

 「それはですね。あなた様が育成のプロだという話を聞きまして」

 「ほう。俺が?」

 「はい。先代キャルバ様の能力開花。そのきっかけになったのがあなただと聞いた事が」

 「あ! こら、ライド君。他の人にも秘密を言っているじゃないか」

 

 おじさんは、ライドの方に顔を向けた。


 「すみません。でも事実だけですよ。秘密は言っていません」

 「しょうがないな。ライド君が真面目だから許そう。でも君のお父さんは許さんよ。失礼な奴だ」

 「あ。ありがとうございます・・・・それと、申し訳ありません」


 頭が上がらないライドは安心した。

 父トーレスとおじさんは仲が悪い。

 意見がよく食い違う上に、元々の考えにも違いがあり過ぎるからだった。


 「それで、ハロルド君は。その話を聞いて何をしてもらおうと思ってんの」

 「はい。私の弟を鍛えてもらい。それと楽しく生きられるようにしてあげて欲しいのです。あなた様の指導を受けた者は、いずれも幸せにしていると話を聞いていまして・・・」

 「ほう・・・」

 「私の家に、このままフランがいれば、必ず不幸になる。この職場でも、幸せは見つかりません。なにせここは、権力が深くこびりついている。今の王の体制では・・・」


 現国王の政権が続く限り、この国があまり良い形にはならない。

 それを肌感覚でハロルドは分かっていて、親友のライドも深く理解している。

 二人とも、顔色が悪かった。


 「なるほどね。権力関係の話の中に、ジョブ関連の差別もあるってことか」

 「そうです。賭博師(ギャンブラー)だからって理由で馬鹿にしています。それも私の家族もです」

 「へえ。ひでえ家族だな」

 「情けない事にそうです」


 ハロルドが申し訳なさそうな顔をした。それが悲しいと思うフランだった。

 兄にそんな顔をさせてしまうのかと、悔しい思いも出て来る。


 「ライド君に、ハロルド君。君たちはこの子が弱いと思ってんの?」

 「「え?」」

 「君たちはこの子が弱いと思ってる?」

 「それは・・・」


 賭博師(ギャンブラー)というジョブの強さが分からない。

 不確定要素ばかりのスキル。

 戦闘職に感じられない名称。

 これらで強さを測るのが難しかった。


 「強いよ。この子はね。俺がちょちょいといじれば、ドドンと強くなるよ」

 「「え?」」

 「よし。ここからはフラン君に聞こう。フラン君」

 「あ。はい」


 こちらに話しが来るとは思わず、返事の声が上ずった声になった。


 「どうよ。ちょっとの間さ。俺の修行を受けてみる?」

 「クロウさんのですか?」

 「ああ。そんで、そうだな・・・ここの衛兵隊長ってどんな奴」


 クロウの質問にはライドが答える。


 「バーナードさんという方で、大戦士のジョブの方です」

 「ふ~ん。じゃあ、そいつ倒そう。そんで、君の親とここにいる衛兵たちにぎゃふんと言ってもらおうか」

 「「「は???」」」

 

 三人が驚いた。


 「どうするかい。フラン君にやる気があるのなら、俺はそういうプランで君を育てよう。賭博師(ギャンブラー)とは戦えない職業じゃない。むしろ、既存のノーマルタイプのジョブの人間とは相性抜群だ。それにね。ジョブなんてものは、所詮ジョブ。扱う者が、上手に自分とジョブをコントロールすると、そのジョブは無限の可能性を示すのよ」

 「僕でも・・・無限の可能性ですか」

 「そう! 無限だよ。その人次第とも言える」

 「・・・お願いします。クロウさん。僕はやってみたい」

 「いいだろう。君のやる気の炎に免じて、おじさん。お金、度外視で頑張っちゃうよ」


 フランの目に宿ったやる気の炎で、クロウは仕事をする気になった。

 その人の為になる事なら、クロウという人間はやる気になる。

 ぐうたらじゃない姿を見せてくれるのだ。


 「んじゃ。そういう方向性で一週間後。予定と場を用意してくれ。ライド君!」

 「「「一週間!?!?!」」」

 「護衛隊長を倒す場所と予定さ」


 たったの一週間修行したくらいで、隊長を倒せるわけがない。

 三人は、そういう意味で叫んでいた。


 

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