第14話 辺境のギルド職員 シオン
「この音の響きから・・・港方面ね。フラン、そっちに行きましょう」
「わかりました」
シオンとフランは一緒に行動をしていた。
地震直後から、町に出て情報を探ると、何回か大きな戦闘音が聞こえる。
それが港側からだった。
「人がこっちに来ます」
今から向かおうとしている先から、町の人々が慌てて走ってくる。
行き先はこの町の中央だろう。
だから、そちらへ行こうとする二人とはすれちがう事になる。
「シオンさん。これは、敵が来たのでしょうか」
「敵・・・かもしれないわね」
「いえ。かもじゃなくて、断定できます。人の顔に恐怖が見えますよ」
「え? そんなのが見えるの。まだ遠くよ」
顔色の変化に敏感なフランは一人一人の表情がよく見えていた。
これは彼のパッシブスキルが影響している。
賭博師の特殊スキル『顔色相談』だ。
相手の顔を見て、感情を読み取るスキルで、ある程度スキルを使いこなさないと、上手く機能しない。
熟練のスキルである。
「間違いない。シオンさん。敵がいるはずだ。これは気を引き締めないと」
「わかったわ。慎重にいきましょう」
二人は港へと急ぐ。
◇
その頃。
一人で懸命に敵に立ち向かっているレオが、一方的に負けていた。
「がはっ・・・」
「雑魚だな。人間とはこうも弱いのか」
「・・・くっ・・・ま、まだまだ」
滴る血を拭い、挑戦者レオは、再び魔族に挑む。
余裕を持つ魔族は空を飛ぶのを辞めて、レオの土俵で戦うために、地上戦をしていた。
部下のガーゴイルたちを一度も使わずに、あえて自分が人間の相手をする。
それは、人間側の実力を試す意味合いがあった。
魔族と人は、長らく戦っていないから、慎重を喫していた。
「遅い!」
レオの剣を左手で払い、右手でデコピンをする。
おでこにポン!
軽い一撃なのに、攻撃とも言えないだろうに。
今のレオには抜群に効く。
信じられない距離を吹き飛ばされて叫んだ。
「ぐああああああああ」
「これほど弱ければ、名を名乗るのももったいないか。さて、この他にも強い奴はいるのだろうか・・・」
魔族は辺りを探す。
レオには興味なし。
それでも、レオは大健闘だ。
なぜなら、この間の時間で、民間人への被害を食い止めただけでも、彼が勇者である証だった。
力の差はあっても、勝負に負けていても、結果は負けていない。
勇者レオは漢を見せた。
「レオ!」
「レオさん」
ギルドの二人が到着した。
◇
フランが、レオを介抱する。
「レオさん。大丈夫ですか」
「がはっ・・・はぁはぁ・・・あ、フラン殿・・・」
「目は見えていますね。息もある。よかった。間に合った」
「フラン殿に・・・シオン殿。あれ・・マスターは?」
「ええ、たぶん来てくれるとは思いますが時間が掛かるかと」
フランとシオンは、リリアナの連絡を待っていた。
クロウならば、何とかしてきてくれるのではないか。
淡い期待を持っている二人。でもないよりはマシな希望だ。
「・・・それはまずい。あの魔族・・・異常に強いです。俺は遊ばれただけでした。それが悔しいです。勝ちたかった・・・」
「レオさんが遊ばれた!?」
三級相手で軽く遊ぶ。
単純に見積もって、一級冒険者クラスの実力があるのか。
フランは敵を見た。
◇
「新しい人間・・・女性か」
魔族から見ても美しい女性がこちらにやってきた。
魔族は少々やる気が出たようだ。ニヤリと笑っている。
「あなたは誰? 魔物じゃない。魔族ならば、言葉を交わせるはず」
「ええ。知りたいですか。ご令嬢」
「!?」
流暢な返しから分かる。
魔族としての格の強さを知る。
「まさか・・・上位クラス?」
シオンの冷や汗が一つ、頬の上を流れた。
「私は、テスタロッゾ。あなたはどなたかな」
「・・・あたしは、シオンよ」
「シオン。良い響きだ。美しい名であるから、その美しさがあるのかな」
「褒めて頂いて嬉しい限りだけど、あなた。何しにここに来たの」
「それは秘密だ。教える義理がない」
「・・・あらそう。まあ、魔族がこちらに攻め込むなんて、理由は一つよね」
ニヤリとテスタロッゾが笑った。
「そうですか。面白い。その予想通りであれば、次の私の行動を予測できると」
「ええ。当然。だから先手よ」
「ほう! 早い!」
会話の途中で、シオンの魔法が炸裂。
ダークボール三個が、テスタロッゾの懐に入り込む。
その大きさは手の平サイズだから、素早く敵に到達した。
「しかし、私の魔法よりも小さいですね。それでは勝てませんよ。はい」
テスタロッゾも同じ魔法をぶつける。
ダークボール三個。
でも大きさは、人を包み込めるくらいの大きなものだった。
「これであなたの負けでしょうね」
小さな魔法と大きな魔法が衝突すれば、こちらが勝つに決まっている。
そう思っていたテスタロッゾは甘かった。
「なに!?」
魔法の行く末は、小さな玉の勝利だった。
テスタロッゾに向かって勢いよく飛び込む。
「私の威力の方が負けるだと!」
「甘いのよ。魔族! あたしは、光陰のシオンよ。闇魔法では負けない。それがたとえ魔族であろうともね」
「高密度で、高威力にしているということか。しまっ・・・」
テスタロッゾが、攻撃をまともにくらった。
煙が巻き起こり、事態を把握できない。
確実にくらったはず。
◇
「あたしの魔法・・・・どうなったのかしら?」
シオンが煙が明けていくところで、敵がいた位置を凝視する。
「・・・くっ・・・ハハハハ。人間を甘く見た代償か。この血は」
ほぼ傷がない。スーツ姿の敵に汚れすら付かなかった。
「な!? まともに当ったはず・・・」
先程のダメージは、魔族の口から一滴の緑の血が流れているだけ。
あまりにも軽いダメージにシオンは驚くしか出来ない。
「この程度の威力では、私は殺せませんよ」
「あなた、頑丈なのね」
「私の耐久力はさほどありませんよ」
「へぇ」
その耐久値で、力がない方だと言いきった。
ではまだ上が存在するのかと、シオンの足が震える。
「それでは、根比べを開始します。いきましょうかね。レディ・シオン」
「な!?」
テスタロッゾの上空に、無数のダークボールが現れる。
数にして五十以上。
「これが終わった後で、生きていたら良いですね」
「う、嘘でしょ。くっ・・・」
シオンが杖を取り出した。
隠形の杖。
魔法の威力を倍増させる特殊武器だ。
杖を地面につけて、固定砲台とする。
「ここは光陰のシオンの意地を見せるときね。もうこうなったら、やってやるわよ」
やるしかない。
他の選択肢を考える事すらも勿体ないとして、シオンは全力で魔法を展開した。
無数の敵のダークボールに対抗して、こちらも無数のダークボールで対抗する。
「勝負ですよ。始めます」
「ええ。さっさと、かかって来なさいよ。あたしだって、あんた相手に、やってやるんだから!」
光陰のシオンの魔法の連続発動。
魔法乱れ撃ち合戦が、始まる。
極限の戦場。
轟音が鳴り響き、ロクサーヌの港の至る所に爪痕が残る。
この戦いは、壮絶なものとなっていく。




