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辺境のギルドマスター  作者: 咲良喜玖
第一章 不思議な事に、働いているのにおじさんにはお金がない
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第12話 一人目の勇者の始まり

 クロウのいないロクサーヌのギルド会館は、朝から静かだ。

 町の人々の挨拶が、この建物内にも聞こえるくらいに、静かだ。

 普段なら、外の音なんてあったのかと思うくらいに、ロクサーヌのギルド会館内は騒がしい。

 シオンの怒号からスタートするからだ。

 しかし今は、そのシオンが叱る相手がいない。


 彼の席を黙って見つめるシオンの顔は、悲しげだった。


 「・・・・」


 彼女の正面にいるフランも黙っていた。


 「・・・・」

 「あの。シオンさん? フラン君?」


 朝礼の時間。

 何も始まらずにいる事に不安を覚えたリリアナが、たまらずに話しかけた。

 彼女から始まる朝礼も珍しい。


 「え。ああ。リリどうしたの?」

 

 ぼうっとしていたシオンが返事を返す。


 「あのシオンさん。今から朝礼じゃありません?」

 「あ。そうね。そんな時間ね」


 いつもなら、クロウがギリギリでこちらに来るか。

 それか、時間内に来たとしても、このマスターの椅子で眠っているかの。

 二つの内のどっちかで、シオンの朝が始まるものだから、平穏無事に朝が始まるのに違和感がある。

 フランもリリアナも勤務態度が素晴らしいから、怒る事なんてない。


 「・・・・・」


 そしてこちらのフランも、挨拶がてらに嫌味の釘差しを一言添えるのが日課なものだから。

 朝の第一の話し相手がいなくて寂しいのだ。

 言葉にはしないけど、フランもクロウが大好きである。

 これは、彼の名誉のために内緒にしておこう!


 「二人とも! マスターがいなくても、元気にやりましょうよ」

 

 そしてこちらのリリアナは、マスターのクロウがいなくても元気だ。

 彼女は心からマスターを信頼しているので、離れていても平気なのだ。


 「そうよ。あたしたちは別に! クロウがいなくたってね。仕事なんて簡単の出来るのよ」


 という明らかな強がりが炸裂した。

 それでも、こんな風に言わないと自分が駄目になりそうだったから、シオンは大声で言った。


 「そうです。淡々と仕事をしますか」


 フランも彼女に追従しているが、こちらもまた強がり。

 本当は彼がいないので、不安に思っている。


 「そうですよ。それじゃあ、今日も一日頑張・・・」



 リリアナが掛け声を出そうとした瞬間。


 『ドカ――――――――――――――――ン』


 大爆発と共に、地響きがした。

 縦揺れの軽い地震が起こる。


 「「「地震!?」」」

 「いや、シオンさん。地震なんて、今までロクサーヌではなかったですよ」

 「そうよねフラン」

 「だったら、今のは何でしょうか? シオンさん。フラン君」


 三人がバランスを取っていると、この衝撃が思った以上に強い事を悟り、自分たちに近い場所が震源地だと感じた。


 「え。まさか。この町で何か起こったの?」


 町の規模からいって、何かが起こるとは思えない。

 今までで、一番の事件は、火事くらいだ。

 それに対して今の衝撃の強さは異常だ。


 通常業務を後回しにして、シオンは情報を集める事に集中した。

 クロウ抜きでも、優秀な部下二人と共に行動に出た。


 ◇



 事態は急変していた。最初の爆発の前。

 現場にいたのは獅子一人(レオハーレム)の団長レオと副団長ネルフィ。

 二人はロクサーヌの港側で、皆の朝食の食材集めをしていた。

 昨日のノール洞窟での一働きにより、だいぶ稼げたので、皆にご馳走を振舞おうとしている可愛らしい団長と副団長だった。

 

 買い出しを行い、女性陣に自ら料理を振舞う。

 彼は器用な男で料理上手だ。

 というか、女性陣に振舞うとか言っているが、彼以外の団員に、男性がいない。

 そこがズルい。

 卑怯だ。

 羨ましい。

 おじさんもそこに入れて!

 

 と、おじさんがいたらこう言うだろう。


 だが、こういう几帳面で優しい部分が、レオが好かれている部分だ。

 皆を平等に愛しているのが、レオという男だ。


 「ん?」


 レオがたまたま海の方の空を見上げた。


 「どうしました団長?」

 「ネルフィ。君にあれが見えるか?」

 「え。何がです?」


 彼が指を差した方角には何もない。

 ネルフィの目には何も映らなかった。

 しかし、彼の目には。


 「あそこに何かいるんだよ・・・・」


 目を凝視していくと、空に人の姿を見える。


 「羽が生えた人間が空を飛んでいる!? それにあの後ろ・・・」


 羽を生やした人間が宙に浮いている。

 それには驚愕せざるを得ないが、それよりもその後ろにいるのが。


 「あれは、ガーゴイルの群れだ!?」

 「え。ガーゴイル?? 団長。それって、Aランクが最低の?」

 「そうだ。たしか、悪魔系統では中位クラスの魔物・・・」


 では、あの羽が生えた人間は、魔族という事になる。

 ガーゴイルを統率できる人間らしき者。

 それは魔族に間違いない。

 歴史から来る知識だ。

 二人の予想は一緒だった。


 「まずい。これはいち冒険・・いや一つのクラン如きでも手に負えない。ネルフィ。ギルド会館に急げ。君はマスターに連絡を。俺はここで奴を迎え撃つ」

 「団長。そんなの無理ですよ。団長は三級ですよ。相手は魔族かもしれない。それにもし魔人貴族だったりしたら・・・」


 魔物を束ねることが出来る魔族とは。

 それは歴史の教科書にもある。

 魔王。

 デューク。

 アロン。

 バロン。

 の四つの階級を持つ魔族の事だ。

 これらの階級はどの階級であっても伝説的な強さを持っている。

 人間が束になっても勝てないと言われている。 


 「三級なんて関係ない。ネルフィ。俺は、勇者見習いだ。ここで、皆の前に立てないのなら、この先勇者を名乗れないんだ。俺は勇者になるんだ。人々に勇気を与える勇者になりたいんだ!」

 「だ、団長・・・」


 勇者見習いのレオ。

 今の実力が三級冒険者であろうが関係ない。

 勇者だったら、勇気を持って敵に立ち向かう。

 勝てなくても、何が何でも人の為に動く。

 そして、人々に明るい希望をもたらすのが、レオの夢だから。

 彼は懸命に動くのだ。


 「急げネルフィ。マスターに連絡をするんだ。冒険者がたくさん集まれば、なんとかなる・・・かもしれない。あの群れに対抗できるかも」

 

 レオの顔を見て、覚悟がある事を悟ったネルフィは、頷いた。

 振り返り、走り出す直前。


 「団長。生きてくださいよ」 

 「任せろ」


 頼りになる男を置いて、彼女は走り出した。

 彼女を見送ると、レオが叫ぶ。


 「ロクサーヌのみんな。聞いてくれ。町の中央に逃げるんだ。とにかくギルド会館へ移動するんだ! 彼らの指示を仰げ。敵襲だ」


 唐突な指示でも、彼らロクサーヌの民は移動した。

 それは、この町一番の冒険者レオの発言だったから・・・。


 この行動が勇者らしい行動だった。

 ロクサーヌの英雄。 

 その第一歩である。



 

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