第11話 裏を知る三人
ロミオリの部屋。
「ロミちゃん。メイちゃん。おひさ!」
ノリが明るいクロウの声に、二人も明るい返事をする。
「はい!」
「先生、お久しぶりです」
テーブルで対面となる三人。
先に偉いはずの二人の方が頭を下げる。
「クロウ殿。それで、どうなっていましたか?」
「あれ。早速本題かい。まったく、ロミちゃんは相変わらずせっかちだね」
「ええ。当然ですよ。この計画は、この大陸の命運が掛かっていますから。クロウ殿にもご足労をお掛けしているのが、申し訳ない所です」
「そうか。じゃあ、真剣に答えてあげよう」
あのクロウの顔が、真剣な表情に変わった。
いつもの楽しそうな笑顔じゃないのが摩訶不思議である。
「いくつか来た」
「やはり来たんですか。先生。魔族がですよね?」
「ああ。やっぱさ、あそこって、大陸で一番魔大陸に近いからな。海の向こうにある魔大陸にな」
紅茶を持ってクロウは東を見つめる。
敵は東にあり。
「クロウ殿。どの程度の実力でしたか?」
「まだ雑魚だわ。奴らの評価基準だと、下だ」
「下ですか。こちらだと・・・たしか」
「ああ。冒険者一級クラスだ」
「実力の違い。これはまずいですね」
冒険者ランクは。
特級。準特級。一級。準一級。二級。三級。四級。五級である。
新人は五級にも入らずに、新人となっている。
そして、クロウが言った魔族のクラスは。
下。中。上。特上。最上。天上。
の六段階だ。
「先生。メイらには時間がないのでしょうか?」
「どうだろうな。君たちの育成。これはどんな感じなのよ・・・・ロミちゃんから聞こうか。ギルドの方かな」
クロウはロミオリに顔を向ける。
するとロミオリは軽く頭を下げてから話し出した。
「はい。冒険者は現在。特級が三十名です。準特級が百名。これくらいとなっています」
「そっか。足りねえな」
「やはりそうですか」
「まあな。特級クラスでは、向こうの特上と戦えればいいくらいだろうな。奴らの上位クラスは馬鹿みたいに強いからな」
「・・・・」
ロミオリが黙ったので、クロウは彼女にも聞く。
「じゃあ。メイちゃんは? 各国の学校の方はどうなってんの?」
「はい。魔法師団に入っている子たちもちらほら。それと、近衛兵団にもです」
「そいつらは、どの程度なの」
「冒険者で言えば、準特級、一級クラスかと」
「何人?」
「五国で、総勢五千はいると思います」
「それがこの百年の成果?」
「はい。そうなっています」
「そっか」
「先生。これだと、足りませんか」
「・・・どうだろうな。いざ戦いになってみないと分からないな」
クロウが腕組みをして悩んだ。
戦えるだろう戦力はあると思う。
だが、向こうの幹部クラスがやってきたら、戦えるのはこの二人と自分だけだろう。
それ以外は確実に死ぬ。
クロウの頭の中の計算では、魔族有利に変わりがない。
「はぁ。面倒だな。結界の終わりが来るのもさ。彼女・・・どうなっているんだろうな。また会えるのか。それとも死んでるか。二つに一つだろうな」
クロウはとある人を思い出していた。
あの日。決戦をした彼女との思い出だ。
「クロウ殿。もうすぐで千年・・・ですか?」
「そうだな。俺があの子と戦って、千年が経ちそうではあるな。でもまだか。もうちょい先かもしれん。あと十年くらい先かも?」
「結界は二人で行なったんですよね」
「ああ。そうだよ。彼女と一緒に魔大陸を封鎖したのさ」
「でも、魔族が侵入できていると?」
「弱くなったみたいだわ。これが一番ありえる話だと思う。しかもよ。東が一番近いからさ。遠回りをしなくてもいいから、こっちに偵察が来てるんだと思う」
「・・・そうですか」
「まあでも、魔族関連の事は気にすんな。とりあえず俺が押さえてやるから。その間に、人を育てておけ。メイちゃんも、ロミちゃんも出来る範囲で準備をしておけ」
「「わかりました」」
辺境のギルドマスター、クロウ。
彼のその名は仮初の名だ。
昔馳せた名は、伝説の勇者クロウである。
かつて、魔王を倒す一歩手前まで行った人物で、今はのらりくらりと生きている男。
千年前の人間対魔族の戦いを経験した唯一の人間で、魔族の戦い方を熟知している人物である。
「先生。聞いてみたい事があるのですが」
「ん? なんだい。メイちゃん」
「なぜ先生が人間に協力してくれることに?」
「俺が協力? してないよ」
「でも、メイたちに協力してくれているじゃないですか」
「俺は別に人間に肩入れしていないし、魔族を滅ぼしたいとも思っていない。現に魔王は殺してないしね」
「・・・」
魔王は生きている。
クロウの発言で、二人が止まった。
「ではなぜでしょうか。先生」
「そうだね。まあ、俺にとっては、メイちゃんとか。ロミちゃんがいるからかな。ちょっとこっちに協力しておこうと思うのは、君たち二人がいるからだ! 死んでほしくないからね。俺の可愛い弟子でしょ」
「先生・・・」「クロウ殿・・・」
二人が喜んでいても、クロウの話は続いていく。
「それにさ。あっちでも彼女が頑張るのなら、こっちにはそんなに魔族が来ないと思うんだよね。あの子。今も頑張ってると思うんだ。これでもしだ。こっちに魔族が大量に来るのなら」
「なら?」
「ああ。その時は彼女の敗北による魔王交代が一番の筋だわな。または、統率が取れなくなったかだな。魔族は人間以上に統率が取りにくい。力こそ正義の奴らが多いからな。権力第一主義の人間の方がまだ下の機嫌を取りやすいからよ」
「なるほど・・・」
ロミオリが納得した。
自分の権力も最早五大国に影響を及ぼしている。
一言一言に気を遣わないといけない。
統括マスターの地位はそこまでになっていた。
「まあ。そうだな。今度の新月か満月に、また来ると思うからさ。その時は俺が注意しておく。もし来たらさ。二人に連絡を入れるから、こっちに来るわ」
「ありがとうございます。クロウ殿」
「先生。いつも助かっています。大好きです」
「あら。おじさん嬉しいよ。可愛いメイちゃんにそんな事言われたらね」
「はい。世界で一番大好きです」
「ありがとね。それだけで、おじさん。頑張っちゃうから!」
メイフリンが呆れ声で言う。
「おじさんじゃないでしょ。先生。時が止まってますでしょ」
「ん?」
「知ってますよ。先生のお体の事はね」
メイフリンがジロリとクロウの体を見た。
ハリのある顔。瑞々しい肉体美。魔力量の豊富さ。
ありとあらゆる分野で若い。
「あれ。メイちゃん。調べた?」
「ええ。当然。先生の姿が、メイと出会ってから一ミリも変化していません」
ロミオリも続く。
「ワシたちの方が歳を取り始めていますからね。当然です」
「そうか。さすがだな。メイちゃん。ロミちゃん」
弟子の優秀さに満足するクロウは、大きく背伸びした。
ずっと座っていた姿勢が辛かったようだ。
「ふわぁ。眠いな。ここで休むか」
「先生。まだこちらにいてくれるんですか」
「そうだな。まだ月は大丈夫だろう。昨日あたりが三日月だから。二、三日はこっちにいてもいいだろう」
「先生。じゃあ、メイの所に来てください」
「メイちゃんの家にか?」
「はい。先生をおもてなしします」
「そうだな。いこうか」
「ズルいぞ。ワシも入れてくれ」
「えええええ」
「いやそうな顔をするな。ズルいぞ。メイだけなんてな」
二人が喧嘩し始めると。
「まあまあ。メイちゃんの家に三人でいこう。久しぶりに会話しておこうか」
クロウが仲裁に入る。
「「はい!」」
クロウの苦労話には、弟子との関係もある。
あの泣く子も黙るマスターオブマスターと、あの伝説の賢者が、彼を巡って喧嘩をするくらいに、クロウは好かれていたのである。
彼の苦労話は数多くあれど、人との関係が一番苦労したと言われている。




