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#4 氣を取り戻す! (前編)

あの時助けてくれた少女は、名をセレナ・シャルリエと言うらしい。

一つ隣の村に住む普通の少女で、年齢も俺と同じだった。

にも関わらず、一瞬にしてゴブリンを葬ってしまった。


その強さの上に、自ら葬ったゴブリンに花を添えて拝むという慈悲深さも併せ持った子だった。


(そういえばあのとき以来会ってないな。元気にしているだろうか)


「おーい!ソウル!」


池をぼんやり眺めながら思いを馳せていると、後ろから聞き馴染みのある声がした。


「アンドレさんにアーバンさん。どうしてここに?」


こちらにやって来るこの2人は、それぞれさっきすれ違ったルーラさんとヴェラさんの旦那さんだ。


「さっきルーラから、今日もソウルが森に走って行ったって聞いてな。それで差し入れを持ってきたぜ!」


アンドレさんが俺の目の前に座り、手に持っていた小包を開ける。


そして包まれていた木箱を開けると、焼かれた肉が入っていた。


「これは、フサットンの肉ですか?」


フサットンとは、この森にいる男性でも狩れる豚のような動物のことである。


鈍足で狩るのが簡単な割に、肉がジューシーで美味しいので、フサ村の料理でよく使われる食材だ。


「うん、僕たちからの差し入れだよ」


「いいんですか?」


「おう!もちろん!なんたってソウルは俺たち男の希望の星なんだからな!」


アンドレさんは、ハッハッハと大きく笑う。

希望の星とは大袈裟な気がするが…。


「ありがとうございます!いただきます!」


肉が刺さっている串を手に取り、豪快に噛みちぎる。


「うんめえぇ!!」


柔らかジューシーで、最高に美味しい。

運動後の疲れた身体に染みる。

池の水の美味しさランキングが3位になった瞬間だった。


「それは良かった!ソウルにはいっぱい食べて強くなって、魔法学園に合格してもらわんといけんからな!」



魔法学園、正式名称は“王立マギア魔法学園”


魔法を専門として扱い才ある若者を育てる、王都随一の学園である。

そこには、優秀な魔法使いの卵たちが大勢いると聞く。


「合格は大前提です。俺はそこでトップを目指します」


その魔法学園には、ランキング制が採用されているらしい。様々な要素によって個人ポイントが加算され、学年内で順位を競い合うシステムだ。


卒業時、上位の者は色々と高待遇を受けられるらしいが、そんなものは正直どうでもいい。



“そこで一位になる”



それが今の俺の目指すところである。


1位を目指せば必ず強者たちと戦えるチャンスが来るからな。


それにやはり負けるのは癪だ。

この男が圧倒的不利の世界で、学校とはいえどトップを目指す。こんなに気持ち高まることはない。


「すごいねソウルは。僕たち男は魔法が使えないのに……。自信があって、本当にすごいよ…」


アーバンさんの言葉には俺への賞賛と、自身への卑下が混ざっていた。


この世界の男女の力量差は、地球よりも格段に大きい。だから男性の中で劣等感を感じてる人は多いと聞く。


「そうだな…。本当にすげーやつだ」


快活なアンドレさんですら、多少はその色があるようだ。




パキッ


「!!2人とも隠れて!」


近くから枝を踏む音がし、咄嗟に木の陰に隠れる。


顔を少し出し覗き見ると、約20メートル先にこのエリアにいるはずのないゴブリンがいた。


「ひいっっ!!」


「な、なんでここに……!ここ、男子禁制区域じゃないぞ……!」


ここは男子禁制区域から5キロも離れている場所だ。

魔物はほとんど知能を持たず縄張り意識が強いため、生活圏を広げることはほとんどない。


そんな魔物が、男子禁制区域外にいるなんて……




……いや、今はあり得るとかあり得ないとかどうでもいい。





──4年前の雪辱を果たすチャンスだ


4年経って、自覚できるほどに精神、肉体共に成長している。


向こうはまだこちらに気づいていない。不意打ちは面白くないから、こちらから音を立てて近づいてやるか。


あのときを思い出す高揚感。


今すぐにやり合いたい。




──だが


「に、逃げるぞソウル…!」


「は、早く…!」




(人命最優先!)


人は他人無くして成り立たたない。生活のほとんどは誰かの恩恵で成り立っている。さっきもらった肉も、この剣もこの服も。だがら俺は人に感謝する。しかも俺に優しくしてくれる人なら尚更だ。


2人の命が最優先だ。ここで感情任せに戦いを挑むわけにはいかない。敵が1匹だとは限らない状況で、2人の下を離れるわけにはいかない。


「はい。しかし今、あいつはこっちに向かって歩いてきています。このタイミングで走り出すのは危険です」


森の出口まで約4キロ。


今の状況でゴブリンから逃げるのは、男性の身体機能ではきつい。


気づかれずに慎重に森を出るのがベスト。



ゴブリンとの距離、約10メートル。


その地点でゴブリンは、男子禁制区域の方へ方向転換した。


「今です…!ゆっくり足音を立てずに逃げましょう…!」



──3人が歩き出したその時


「キイィィィ!!」


ゴブリンが3人に向かって走り出した。


「あいつ!気づいてて泳がせていやがったのか!」


目にくっつきそうなほど口角をあげ、卑しい顔をしながら接近してくる。


「走れ!」


ソウルの合図で、アンドレとアーバンは走り出す。


しかしソウルの予想通り到底逃げられそうもない。

こうなったら一か八か。


「2人とも岩陰に隠れて!あいつは俺が倒します!」


ソウルは足を止めゴブリンに向き直り、剣を構える。

ソウルが負ければ、2人の命も無い。全身全霊で目の前のこいつを倒す。


「ダメだソウル!お前はこんなところで死んでいいやつじゃない!」


「そうだよ!一緒に逃げるよ!!」


必死に説得する2人に、ソウルは振り返らずに剣先を向ける。


「俺は魔法学園で1位になる男だ。こんなところでくたばるタマじゃねえ!」


2人は改めてソウルの力強さを知る。

20歳以上年下だが、そんなの関係ない。2人はソウルに命を預けても全く後悔がないと、心の底からそう思った。


「家に帰ったら、フサットン肉のフルコースが待ってるからな!みんなで一緒にパーティーするぞ!」


「はい!」


そう答えたソウルの目には、燃えたぎる炎が宿っていた。

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