#2 第二の人生を送れるらしい (序章:後編)
……ここは、どこだろう。目の前が真っ暗だ。……あれ?確か俺、死んだはずじゃ…。なんで意識があるんだ?
『対象の魂を召喚いたしました』
「ご苦労様」
誰かの声が聞こえる。っていうか魂を召喚って何だ?
色々と混乱していると、少しずつ頭がスッキリしてくるのが分かる。
そして目を開くと……
「おはようございます長谷川宗右衛門さん」
にっこりと微笑みかけてくる女性がいた。今までに見たことないほど派手な衣装を見に纏っている。それに、頭の上に光り輝く輪っかが浮いていた。
謎の女性、真っ白な空間。何一つ目の前のことが理解できない。
「……どこだここは」
「ここは生と死の狭間です。あなたにもう一度生きるチャンスを与えようと思い、お呼びいたしました」
「…わるい、言っていることがさっぱりなんだが………」
この女性、どこか頭でも打ったのだろうか。
…いやしかし、表情から嘘を言っているようには見えない。
それに状況が状況だ。すぐに信じるのは無理な話だが、突拍子がなさすぎることはない。
「簡単に言えば転生です。貴方にもう一度人生を与えると言っているのです」
「……仮にその話が本当だとしても必要ない。もう生きていてもつまらん」
女性の発言の真偽はどうであれ、もう生きることに興味はない。
「それは最強だった場合、でしょ?」
「………」
……言われてみれば確かにそうかもしれない。
かつて氣を習得する前は、いや習得した後も極めるまでは楽しかった。
最強になってからだ。俺が退屈し始めたのは。
「…はぁ。私は残念です。せっかく退屈しない世界を用意してあげようと思いましたのに…」
わざとらしく落ち込む女性。
しかし、退屈しない……ね…。
「漸く聞く気になりましたか?」
おれの表情を見て女性が言う。
確かに、その話が真ならとても魅力的だ。
「……その話、本当なんだな。俺が退屈しない世界でもう一度生きれるってのは」
「はい。女神は嘘はつきません」
…めがみ?めがみ、というのはあれか…。女の神様のことか…?
「あー……。いい病院紹介しようか?」
「地獄に突き落としますよ」
「冗談冗談。悪かった女神さん」
確かに頭の上に謎の光る輪っかがあるし…。
彼女が本当に女神と言うならば…。
「それで、どんな世界を用意してくれるんだ?」
「それは……
“女性しか魔法が使えない世界”です!」
「……魔法が使える世界、か…」
女性しか使えないどうこうよりも、まずそこが引っかかる。とはいえ、俺も若い頃は氣なんて信じてなかったから、そういう力が存在する世界もあってもおかしくはない。
「ちなみに、その世界でも貴方なら氣を習得できると思いますが、氣と魔法じゃ比べものになりませんよ?」
「……と言うと?」
「魔法の方が圧倒的に強力だということです」
…分かってる。この女神さん、ちゃんと分かってる。
そうだ。そうじゃなきゃ面白くねえよな。
「それに魔物なんかもいて、地球より戦闘が身近ですよ」
魔物と言われてもいまいち想像できないが、まあ鬼みたいなものだと思っておこう。
「…つまり人類の半分が俺よりも強くて、その上魔物ってのも蔓延っていると」
「そういうことです。弱者として戦い放題、成長し放題。まず退屈になることはないと思いますよ。どうです?転生する気になりましたか?」
戦闘が身近で、しかも男が弱い世界なんてそんなの断る理由がない。
「言うまでもねえ。できるんならとっととしてくれ」
「…口の利き方は少々気になりますが。分かりました。それでは早速」
そう言って女神さんは俺に近づき、額にキスをした。
「…何でわざわざ」
「こういう儀式なんですよ。ていうか、女神からのキスなんですからもっと喜んだらどうですか?」
「転生させてくれてありがとう。心から感謝する」
「……微妙に無視していないような言い方が腹立ちますね…」
女神さんはむすっとした表情を見せる。
…なんというか、初めは女神と聞いて神々しいイメージを持ったが、こうして見てみるとただの1人の若い女性だな…。
「本当に感謝しているんだ。ありがとな」
だからだろう。俺は女神さんの頭をついつい撫でてしまった。
「ちょっ!女神に向かって何してるんですか!?生意気です!」
「じじいに言う言葉じゃないだろ…」
そうこうしているうちに、体の意識が遠のくのを感じる。
そして段々と体が発光していく。本当に転生できそうで、ワクワクが止まらない。
「どこで誰の下に生を受けるかはランダムなので、悪しからず」
「生まれるだけでありがたいから問題ない。改めて、ありがとう女神さん」
最後に女神さんの笑顔が映った後、目の前が真っ暗になった。
「あなたなら…ると…じて…よ…。しじょう……の………に。がん…て…さい…」
最後、微かに女神さんの声が聞こえた。何を言ったかは分からなかったが、応援してくれたのは伝わった。
──さて、次目を開けたとき本当に新しい世界が待っているならば………
全力で戦いを楽しんでやろうじゃねえか!