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#14 セレナとお勉強

「この辺りなら問題ないだろう」


森の入り口に到着し、俺たちは足を止める。

森の中に入りすぎるのは今は危ないので、できるだけ浅瀬で行うことにした。


ひとまず休憩がてら、持参した水をセレナに渡しお互いに喉を潤す。


「ところで、なぜソウルくんは魔法について学びたいのですか?」


水を一口飲んだセレナが、そう尋ねてきた。

確かに魔法が使えない男が、魔法を学ぶ必要があるとは思えない。まあ魔道具師の父さんのような例外もいるが。


「セレナ。俺がゴブリンを倒せたのはどうしてだと思う?」


「それは……。いっぱいトレーニングを頑張られたからでしょうか…?」


質問を質問で返しても、セレナは嫌な顔ひとつせずそう答えてくれた。


「それはそうだ。だが、俺が思うにトレーニングをしてきた男性なんて、これまでもいただろう。それでも“男性では魔物は倒せない”とされてきた」


「…確かに……。そう考えると……もしかして…」


セレナは何か一つの答えにたどり着いたようだ。


「ソウルくんって…女の子…?」


「な訳あるか」


本気か冗談かわからないセレナに、軽くチョップを入れる。

しかしなるほど。発想としては面白いな。さすが若者、頭が柔軟だ…。


「実はな、俺は魔法に似た力を持っているんだ」


「えっ……」


セレナは驚きはしたが、疑うような様子はない。だからセレナになら話してもいいと思ったのだが。


「それは“氣”だ」


この世界に来て、人に氣について話すのは初めて。果たしてこの世界にも氣という概念があるのだろうか。


「氣……とはなんでしょうか?」


セレナはこてんと首を傾げる。

概念がないのか、セレナが知らないだけなのか。


「氣とは、丹田…へその下あたりから湧き出る生命エネルギーのことだ。俺はそれを駆使してゴブリンを倒したんだ」


「………」


情報処理が追いつかないようで、セレナの表情が固まる。


しかし数秒後…


「す、すごいです……」


そう呟いたセレナの瞳は、キラキラと輝きを見せた。

そして段々とエンジンがかかっていく。


「すごいです!すごいです!ソウルくん!」


ぐいっと身体を近づけ…いや、密着させ、これでもかと目の輝きが主張される。

眩しい……


「落ち着けセレナ…」


興奮気味のセレナの方に手を置き、距離をとる。


「あっ。ご、ごめんなさい」


えへへとはにかむセレナ。自分の行動に対する恥ずかしさよりも、俺に対する賛辞と喜びが勝ったのかセレナは純粋な笑顔を見せた。


添い寝のことを思い出しただけで赤面するような子が…。

どこまで心が綺麗なんだ…。


「それで、魔法について学びたいんですよね!なんでも聞いてくださいっ!」


フンッと力拳を握り締め、再び興奮を露わにする。

なぜ魔法について学びたいのかはもう聞かなくてもいいのだろうか……。


「それならまずは……。初めて出会ったあのとき、セレナは水弾(ウォーターボール)を使っておれを助けてくれたな。あの弾は魔力だけでも可能なのか?」


水魔法として弾を創らずに、魔力そのもので弾のように発射できるのかということ。


「はい。できますよ」


そう言ってセレナは手のひらに魔力の弾、おおよそ野球ボールくらいのものを造った。


「なるほど。その弾と水弾は同じ力なのか?例えば威力とか」


「威力で言えば同じですが、魔法で創った方が操作性が上がるんです。もちろん水魔法なら水、火魔法ならひの性質を併せ持ちますが」


コントロールが向上する。それは結構利点かもしれない。


確か文献には、魔法というイメージを魔力を使うことで具現化できると書いてあった。


魔力は、大気中にあるマナを魔力器に取込むことでつくられる。


つまり元々“外”のものであるマナから生成された魔力よりも、イメージが源である魔法の方がコントロールが向上する。


おれはそう推察した。


「なるほどな。……それなら次。その魔力の弾…魔弾とでも言っておこうか。それをあの木に向かって放ってくれ」


おれが指差した方向にある木は、今の俺には一太刀で斬れそうにない立派なものだった。

ちなみにセレナに魔弾を撃ってもらう目的は、氣との威力の差をみるため。


「……分かりました」


少し戸惑いながらも、木に向かって魔弾を発射させる。

すると魔弾は木の葉を舞い上がらせながら直進し、ついには木に食い込み半分以上抉った。


「……まじか」


俺はそれを見て心拍数が上がった。こんなにも魔力が強力なんて…。興奮がおさまらない。


「これでも私は弱い方ですが…」


その一言でさらに俺のボルテージが上がる。本当にこっちにきてから退屈がないな。

そんな興奮している俺の隣で、セレナは木に頭を下げていた。


なるほど少し躊躇ったのは、木を傷つけることに抵抗があったからか。それは悪いことをしたな。


「じゃあ俺も……そうだな、氣弾とでもいっておこうか。それを木に向かって放ってみる」


思考を切り替え、氣弾を作ることに集中する。

とはいっても俺は前世では、氣を身体に纏う以外やってこなかった。


しかし、氣も魔法と似たようにイメージが大切だ。それに魔力と違い、氣は自分の“内”から出てくるものだから、より意識を回しやすいだろう。


俺は手に氣を集中させ、球状をイメージする。セレナと同じ大きさじゃないと実験にならないから、野球ボールくらいの大きさをイメージして……。


「…意外と簡単にできたな」


少し拍子抜けだったが、あっさりできてしまった。とはいっても初めて氣弾を作ったので、その喜びは大きい。


「セレナ、これ見えるか?」


「は、はい見えます…。これが氣ですか…。なんか、魔力よりもホワホワしてる感じがします」


驚いた。前世では誰も氣を認識できなかったが、セレナは見えるといった。やはり魔力と性質が似てるからだろう。

(因みに、魔力も氣も普通に身体に纏っているときは本当に薄い膜なので、よっぽど注視しないと見えない)


しかしホワホワ、か…。

確かに魔力はもっと硬くサラサラしているイメージだし、そんな感じの表現になるのも頷ける。


「それじゃあ俺もやってみる」


そう言って俺もセレナと同じ木に向かって氣弾を放った。

しかし放って即気づく。スピードが魔弾より緩やかだ。


これは俺の技量なのか、はたまた単純に氣が魔力に劣るからなのか。


では威力はどうだ。


氣弾が木に着弾する。

すると、小さな破裂音と共に木の表皮が禿げほんの少し内部も削った……それで終わった。


「…これは、半端ない火力差だな…」


ニヤニヤが止まらない。こんなにも差があるなんて。

目分量だが同じ質量で比べた場合、魔力は氣のおよそ10倍か。


「となると、身体に纏ったときの身体機能向上率も約10倍と考えておくべきか…」


まあ練度などによっても差は出るだろうから、あくまで目安としておこう。


しかしそう考えると、改めてこの世界の男女の力の差は半端じゃない。

しかしよく氣も何もなしで生きてるな男たちよ。

少し男に同情していると、セレナの様子がどこかおかしいことに気づく。


「……どうしたセレナ?」


「い、いえ……。その…もしかして、昨日から氣を身体中に纏っていたりしますか…?」


「まあそうだな。魔力と違って氣はそれが普通だからな」


「そうですか……」


……ん?待てよ…。そういえば、セレナは俺が頭を撫でたときに“温かい”と言った。それはつまり魔力で氣を守れていなかったってことだ。


もしそれが逆も然りなら、本当にセレナの魔力が俺にとっての運命魔力なのか。それとも、魔力は元々攻撃的な性質を持っているから、俺の氣が本能的に魔力をガードしていたのか。


「セレナちょっと確認したいことがあるんだが、右手を出してくれないか?」


「は、はい……」


セレナは恐る恐る右手を差し出す。その手は微かに震えており、表情も微妙に硬い。


「どこか調子でも悪いのか?」


「い、いえ……大丈夫です…」


そうは言うが、やはり少し顔色も悪いように見える。もしかしたら、まだ魔力切れの後遺症のようなものが残っているのかもしれない。


そう思い、俺は素早く確認を済ますことにした。



もちろん、確認とはセレナの魔力が運命魔力かどうかということ。



氣を内側にしまい、セレナの手を握る。


「いっ……」


すると軽い痛みが、手のひらを襲った。しかし激痛というわけではなく、前世で体験したビリビリペンくらいだったので、そのまま握り続けることはできた。


「セレナとは運命魔力じゃなかったんだな」


つまり、氣が一方的に魔力をガードしていたということ。これは面白い結果になったな。



──そう。俺はこの時、1人検証結果に興奮していた。


だから気づかなかった。


セレナの様子が更におかしくなっていることに。


「っ───!!」


突如セレナは俺の手を振り払い、俺に背を向け森の奥へ走り出した。


「おいセレナ!急にどうした!って速っ!」


ぐんぐんとセレナの背中が小さくなっていく。やはり身体機能向上率にも大きな差がありそうだ。


ってそんなことを考えている場合ではない。体調が悪いわけではなさそうだが心配だ。


今すぐ追いかけ───


「うわわあああああぁぁ!!!!」


誰かの悲鳴に、踏み出した足が止まる。


「今度はなんだ!?」


聞こえたのはフサ村の方。しかもアンドレさんの声に似ていた。


村の中で何かが起きている。


村に戻るか。セレナを追いかけるか。


今セレナを追いかけても、絶対に追いつけない。

それに、先程の悲鳴は普通じゃない。


「まず村に戻るのが先決だ」


一瞬でそう判断し、俺は村に引き返した。

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