タイトル未定2024/12/03 07:57
私はテニス部だ。でも毎回先輩との試合で全力で打てない。なぜなら、私の方から強くスマッシュを打ってしまうと、向こう側のプールに飛び込んでしまうからだ。ボールがプールにはいってしまうと、先輩に怒られ取りに行かなければならない。そしてそれを先輩も知っていて、わざと私をそのコートにする。陰湿な嫌がらせだ。私は中学からやっていて何度も大会に出て優勝している。だからチームメイトからも顧問からも期待されていたからその分目をつけられたのだろう。「なんかお前、高校から調子悪くね?」とたまたま帰りが一緒になった幼馴染で、水泳部の理人に言われた。「うるさい」と私は小さく返す。「お前、そんなんだとなめられんぞ」と言われた。もうなめられてるのだけれど。そのフォローは、理人なりの心配だったのだろう。それでも私は素直になれず、「わかってるって」と冷たく突き放してしまった。そうして行き場のない不満は溜まりながら夏のインターハイのレギュラー戦が始まってしまった。向こうでは水泳部の掛け声が聞こえる。理人も今朝あわただしく更衣室に入っていったのを見た。私は先輩にいつものコートにいけと言われ断れなかった。この試合終わったら辞めよかなとも思いながら試合が始まった。私はいつものようにサーブを打つが、それも言ってしまえば全力ではない。やはり怖いのだ。そのせいでうまく回転がかからず弱いサーブになってしまう。それを返されどんどん先輩の点になる。それでも必死に食いついた。これでも練習の成果が出たのか少し点をとることはできた。そしてラスト3点差。お互いに疲労が溜まり集中力も切れてくる。私はここからの巻き返しが得意、なはずだったのだが最近プールの制限のせいでここで押し負けることが多くなっていた。はぁ、終わりかな。青すぎた空を見上げた瞬間、プールの音とともにいきなり理人の声が飛び込んできた。「バカ諦めんな!!俺が何度でも拾ってやるから!!」。私は驚いてしまったが、すぐさま先輩に向き直った。ボールを高くあげ、手を思いっきり振り下ろした。久しぶりの「全力」という感覚だった。ボールが先輩のコートへと飛び込んでいく。これが理人へ私からの「ありがとう」だった。結局1点差で負けた。でも後悔はなかった。帰りに理人に「なんでわかったの?」ときくと「なんか悔しそうだったからさ」と返ってきた。
多分一生あのプールの音と理人の声は忘れない。