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82 佐々木早紀(中編)

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〇先天スキル

【エアコンディショナー】 Rank1.00

効果:空気の流れを操作できる。

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「これが……わたしの先天スキル?」

「そうにゃん」

「なんか弱くない?」


 初めてダンジョンに招待された日。

 チュートリアルの草原でそんな会話をした。


「ランク一なら全然普通にゃん。使っていく内に強くなるから気にしなくていいにゃん」

「そういうものなんだ」

「むしろ早紀の先天スキルは常に発動し続けられるから成長させやすいにゃん」

「そっか」

「さあ、そんなことより最初の後天スキルを選ぶにゃん。早紀には攻撃性のある<魔刃>か<魔弾>がオススメにゃん」


 つつがなくチュートリアルを終え、わたしはプレイヤーになった。

 まだ右も左も分からなかった頃。いずれプレイヤーの力が必要になる時が来るんじゃないかって毎日必死にダンジョンに潜ってスキルを伸ばしていた。


 やがてランク二になり、炎系のモンスターが多く棲むダンジョンを攻略しているとスキルページを初入手した。

 使い方は自ずと理解でき、早速発動。


「<バーニングパブル>!」


 拳くらいの大きさの炎が飛んで行き地面を少し焦がした。それだけだった。


「なんか威力低くない? あんなに詠唱時間があったのに」

「ランク一の魔術だししょうがないにゃん。高威力の遠距離攻撃がしたいなら<魔弾>を勧めるにゃん」

「えっ、<魔弾>の方が強いの?」


 思わず聞き返す。


「基礎スペックに限ればそうにゃん。スキルアーカイブにあるスキルは傑作と言っていい出来栄えにゃん。威力も燃費も即応性も高水準で、必要なスキルポイントも抑えられてるにゃん。魔術はその辺りが粗削りだから」

「先に言ってよぉ……」

「本当に使えないスキルなら止めてたにゃん。でも火なら大抵の生物が警戒するし、一部のモンスターには極めて効果的だったりもするにゃん。早紀も特性の活かし方を考えてみるにゃん」


 言われるがまま用途を模索すること数日。冬休みの理科の課題に取り組んでいると閃いた。

 わざわざ攻撃に使う必要はないって。


「出来た!」


 目の前には引火した枯れ草。

 三発の<バーニングパブル>によってそこそこ強く燃えているそこに手を翳し、【エアコンディショナー】を発動。

 熱され上昇する空気の流れを掌握して手元に集める。


 そしてその空気を火に覆い被せば……やっぱりだ。

 酸素の供給が絶たれたことであっさりと鎮火してしまった。


 実験の成功に気をよくしたわたしは意気揚々と低酸素空気を量産し、モンスターの巣へと向かった。

 出力が低い代わりなのか、わたしの先天スキルは効果範囲が広い。十体ほど居たモンスター達全てを低酸素空気に収めるのも容易だ。

 効果はすぐに現れた。


「わ、ワぁ……」


 パタパタと倒れその場で藻掻き始めたモンスター達に、わたしは思わず憐憫を抱いてしまった。

 ランク一や二の免疫値では酸素欠乏への耐性も一般人に毛が生えた程度。彼らはどこから攻撃されたかも気付けないまま死んで行く。

 その光景は惨くて、そして──


「──ちょっと死神っぽくない!?」

「知らないにゃんそんなこと」


 何の前触れもなく、有無を言わさず生命を奪い去る。それこそが『戒昏のアルカディアサイン』の死神だった。


「もっとちゃんと準備すれば酸素濃度をもっと薄く……ううん、むしろ一酸化炭素を使った方が……」


 そうしてわたしは死神のロールプレイをするようになった。

 装備を整えカッコいいスキル名も考えてダンジョンを攻略しまくった。


 死神の物とそっくりな面頬を付けると、普段のつまらないわたしから変われた気がして高揚した。

 死神のような口調で、死神のような振る舞いをするのも自然と出来た。

 ……かつて、話の出来る悪魔と戦った時も、その高揚があったから容赦なく息の根を止められた。


 でも現実のわたしを知る石楠花さんと出会ってしまったのは誤算だった。

 正直なところ……今でもとても気まずい。


 本当はその苦悩を誰かに吐き出したかったからだろう。

 鋼矢さんに、わたしのこれまで包み隠さず明かしたのは。


「佐々木さんもなかなか……苦労してんだな」

「そうなんだよー」


 空気を固形化させた文字通りの空気椅子に座り、同意する。

 鋼矢さんは苦笑しながらも問い返して来た。


「てかそれオレに言ってよかったのか?」

「まあね。鋼矢さんは吹聴したりしないって信じてるし」


 一番じゃないだけでこれも理由の一つだ。

 これまでの交流で彼の竹を割ったような性格は分かっている。


「その服とか仮面とかよく出来てるよな。自分で作ったっつってたけどコスプレイヤーだったりすんのか?」

「ううん、むしろそうだったらダンジョンで()ろうとは思わなかったと思うよ。うち、母親がちょっと厳しい……っていうか過保護でさ」

「過保護?」

「そうなの。中学生にもなって防犯ブザーを持ち歩けとか、出掛ける時は一定時間ごとにどこに居るか連絡しろとかさ。GPSアプリは入れてるのにだよ?」

「心配してくれてんならいいご両親じゃんか」

「そんなことないよ、兄さんのことがあったからって敏感すぎる」


 ぴくり、と彼は少し反応した。

 それから怪訝そうに訊ねて来る。


「佐々木さんには……お兄さんが居るのか?」

「居た、だね。小さい頃、事故で死んじゃったんだ」

「そいつは……」

「あ、いいんだよ。わたしはほとんど覚えてないし。でもそのせいでかなー、母親は家族一緒に居ることに拘ってて」


 昔、父さんから聞いたけど、兄さんが生きてた頃は別に父さんの転勤の度に付いて行ったりはしていなかったらしい。

 そう言われると何だか文句も言い辛くなるなぁ、と幼心に思ったものだ。


「て、なんか語りすぎちゃったね。ごめん。そろそろ攻略に戻ろっか」

「……いや、そっちの話だけ聞き出したんじゃフェアじゃねぇだろ。オレも少しくらい自分のことを話すよ」

「へぇ、気になるね」


 未だに現実での姿どころか、具体的にどの辺りに住んでいるのかも知らないのだ。

 ショッピングモールとかゲーセンで遭遇したんだしあの辺であるんだろうけどね。


「そんな面白ぇもんでもねぇけどな。……そうだな、オレのお袋はさ──」


 少しだけ考える素振りを見せた後、感情の揺らぎを感じさせない平坦な口調で鋼矢さんは続けた。


「とんでもねぇろくでなしだったよ」



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