79 調査結果
──ドドドドドドドッ!
「やあ石楠花君に佐々木君、久しぶりだね。それとそちらは初めましてかな? ぼくは推川智聡。探偵をやっているよ」
「オレは鋼矢だ。面倒な頼みだったのに引き受けてくれてありがとな」
──ドドドドドドドドドドドッ!
東京タワー以上の高さを誇る大瀑布を中心としたランク二ダンジョンにて。
鋼矢さんと推川さんが握手を交わした。
「驚いたな、本当に作り物なのかい? 本物と区別がつかないや」
「そいつぁ頑張った甲斐があったぜ」
「これをトリックに使われたら探偵としてはお手上げだね」
──ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!
肩を竦めた推川さんは早速本題を切り出す。
「では調査結果を報告しよう。結論から言って」
──ドドド、
「──煩いな、【コキュートスの邪眼】」
パチン。指を鳴らす。
滝がすぐ傍にあるのにその音ははっきりと響いた。当然だ、水音が掻き消えたのだから。
「これで話しやすくなったな」
わたしは腕を組み崖に背中を預けながら答えた。
「……何をしたのか訊いても?」
「音を殺した。それだけのことだ」
「ひゅー、やるぅ」
石楠花さんが褒めてくれた。
このダンジョンは狭くてどこに行っても滝の音がうるさかった。
別ダンジョンに行くのも面倒だったし、わたし達プレイヤーの聴力なら轟音の中でも聞き取れるからそのまま話そうとしたけど、やっぱりあんなにうるさいと気が散る。
スキルのタネが割れる懸念もあったけど、それで縮こまってたら死神っぽいムーブはできない。
「助かったよ、歌撫が居れば任せられたんだけど今はちょっと手が離せないからね」
あ、わたし以外にも同じこと出来る人いるんだ……。
ちなみにこの場に居るのは七人。わたし、石楠花さん、鋼矢さんと、それから推川さん達四人だ。
推川さんが連れているのは全員男の人で、イベントで一緒に戦ったおじさん(たしか石楠花さんの知り合い)、風の弾丸使いの人……それからイベントには居なかった高校生くらいの人。この人はさっき自己紹介した時に関西弁だったのが印象に残ってる。
「えー、こほん。それじゃ改めまして、これが調査結果だよ」
差し出されたのは大きな無地の茶封筒。
鋼矢さんが封を開けると中には書類の束が入っていた。
「さすがにまだ充分な情報ではないけど、取りあえず袖下議員が真っ黒なのは明らかなはずさ」
「どれどれ……」
鋼矢さんの持つ書類を石楠花さんと覗き込む。
そこには先天スキルで調べたと思しき『嘘の発言』をまとめたものから、収賄の現場を捉えた写真、スキャンダルを揉み消すために出した指示の内容、反社会勢力との癒着、不正な情報供与や裏金疑惑などの情報が記されていた。
「す、凄……」
石楠花さんの言葉はこれだけの情報を短期間で調べ上げた推川さんに向けられているのか、それとも少し叩いただけでこれだけの埃が舞い上がる袖下大臣に向けられているのか。
「これだけあれば警察なりマスコミなりに持ち込めば失脚させられんじゃねぇか?」
「それは避けた方がいいね。これまでもかなりのスキャンダルが出てるけど平然と政治家を続けてるし。一時的に罷免させるところまでは行けるかもしれないが、追い詰めすぎるとより面倒なことになりかねない」
推川さんは新しい書類を取り出した。
「これらは今確認できている、袖下大臣と繋がりのある非合法組織と、そのメンバーだよ。この中から制御しやすい人間を選んでステータス持ちにしてるみたいだ。今は袖下の指示で大人しくしてるけどその枷が無くなったらどうなるか。袖下を無力化する前に関係者を全員洗い出しておく必要がある」
なるほど。
歌撫さんという人が今日は居ないと言ってたけど、もしかするとそれは他の組織を調査しているからかもしれない。
「てかさー、ステータスを与える手段は分かってるの?」
「もちろんだとも。そちらも……むしろそちらの方が大きな問題なんだよね。こっちの世界にダンジョンが出現しているんだから」
「えぇ!?」
彼女同様、わたしも瞠目する。
「ダンジョンに入るとステータスが取得できるらしい。そしてそのダンジョンが先月、各国に一つずつ出現している」
「なんてこった!! そりゃぁ一大事じゃねぇか!!!!」
余程驚いたみたいで、鋼矢さんもちょっとオーバーなくらい叫んでいる。
でも推川さんが連れて来た三人はノーリアクションだし、あっち側ではもう共有されてたみたいだ。
「ま、ぼくらに出来ることは一先ずなさそうだけどね。ニャビに止められているし、対処には国が動いているから任せておこう」
「合点が行った。衛さんがステータスを持っていたのはそういうカラクリか」
「彼についてもちょっと調べたけど陸上自衛官らしいよ」
「へー、そうだったのか」
「それよりさー」
石楠花さんが声を上げる。
「今はその大臣をどうするか決めよーよ。先月ダンジョンが出来たばっかってことはまだランク二とかでしょ? 戦えば敵じゃないけど……息の根を止める訳にはいかないでしょ?」
「そうだね。時に君達、<封印>という後天スキルを知っているかい? 対象のステータスを封印するっていう、能力制限機能を無理やり適用するようなスキルなんだけど」
「……? ううん、知らない」
「私もだ」
生死に関わることなので、ランクが上がる度に取得可能スキルは隅々まで見ているけど、<封印>なんて見たことがない。
まさかランク五で取得可能になるもの……?
「じゃあ今、取得可能スキルを確認してみてくれないかな?」
「構わないが…………なに?」
そこには、あった。<封印>が。
やけに少ないスキルポイントで取得できる。
「嘘でしょ!? だってアタシ、何回も確認したのに……」
「そうだろうね。ぼくも気付いたのはこの間、ランク四に上がってスキル一覧を確認していた時だよ」
「ちなみにワシはランク三やけど、<封印>は取れるゆうことになっとる。もしかするとランク一とか二でも取れるんかもしれへんな」
そんな、わたし達全員が見落とすなんてことがあるだろうか。
「このことから導き出される真実は一つ」
勿体つけるような間を挟み、人差し指を立てて彼女は言った。
「この世界は……ステータスは、未完成だってことさ」
「な、何だってーっ!?!?!?」
鋼矢さんの驚く声がダンジョン内に響いたのだった。




