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73 ゲーセン

「お、佐々木さんか? ダンジョン外で会うのは久しぶりだな」

「ぅ」


 初夏にも関わらずうんざりする暑さのとある日曜のこと。

 わたしは遠征に来たゲームセンターで鋼矢さんと遭遇した。


 素の反応が喉元まで出かかってたけどすんでのところで飲み込む。

 接近にまるで気付けなかった。<索敵>は習慣レベルで使い続けているのに。

 分体だからかダンジョン外だと彼の気配は極端に薄まるのだ。


 動揺を堪えて普段通りの調子で声を出す。


「どこに耳があるか分からない。外でその名を軽々しく口にすべきではないな」

「おっとすまん、うっかりしてた」


 申し訳なさそうに頭を下げた鋼矢さんは全く異なる話題を出した。


「佐々木さんはなんでここに来たんだ? 住んでるとこはもうちょい遠くって言ってたろ?」

「価値ある物を得るには相応の場へ足を運ぶ必要がある、ということだ」

「???」


 首を傾げる彼には応えず手元のレバーを動かす。

 突然話しかけられたからつい手を止めてしまったけど、わたしはクレーンゲームの途中だった。


 アームの位置を微調整し、いざ降下。

 狙い通りに賞品が押され、縦長な箱が落ちて来る。


「おっ、やるなぁ」

「この程度造作もない」


 何せもう四回はお金を入れていたからね。たまたま四回目のあと一息で取れそうって時に話しかけられただけだ。


 だからさっきの発言を翻訳すると、近くのゲーセンには欲しいフィギュアの在庫がなかったのでここに来た、ってことになる。

 わたしはリュックを肩から降ろし、パッケージに今季アニメのヒロインの描かれたその箱を仕舞いこむ。


「それを入手するのが目的だったのか?」

「そうだ」


 趣味を認めることに一抹の恥じらいはあったけど、ここで日和るとそっちの方が恥ずかしそうだったので力強く押し切った。

 へぇー、とまじまじとクレーンゲームの方を見つめる鋼矢さんに、ふと思ったことを訊いてみる。


「貴方はなぜここに? あまりサブカルを好むようには見えないが」

「そいつぁ心外だな。オレも色々見てるんだぜ? ほら、アレとか」


 鋼矢さんが指差したのは、少し離れたクレーンゲームの景品の特撮ヒーローだった。

 結構昔の作品で、たしか今年で十周年とかなんとか。


 意外に古い作品も見てるんだな、と思った。

 わたしは兄がちょうど世代だったからある程度分かるけれど、そうじゃなかったらもっと曖昧な知識しかなかったかもしれない。


「いや待て。それはここに来た理由にはなっていないんじゃないか? フィギュアも取っていないのだろう」

「ま、そうだな。来た理由、っつぅとただの気晴らしだ。ちょいと行き詰っててよ」


 宿題のことかな?

 手伝えることなら力になってあげたいけど、それなら先に言っているかも。

 自分から手伝うとかは言わない方がよさそうだ。


 だから代わりに、わたしはこんな提案をしていた。


「ここで会ったのも何かの縁だ。別れる前に一勝負してみないか?」


 レースゲームの筐体を指して言う。

 隣り合う筐体同士で同じレースに参加できるタイプのゲームで、今はちょうど両方空いている。


「いいね、乗ったぜその勝負」


 即決した鋼矢さんと席に着き、ゲームをスタートさせる。

 コースの半分が過ぎた頃にはNPC達を大きく引き離しわたしと鋼矢さんの二強状態。

 押しつ押されつのデッドヒートだったけど、最後には引いたアイテムの差から鋼矢さんが一歩抜け出した。


「……ふ、やるじゃないか」

「佐々木さんもな、いい勝負だったぜ。……いつかダンジョンでも今日ぐらい本気のアンタと戦ってみてぇよ」

「……え?」


 どうしてそんなことを思ったのか。

 それを問い質したかったけど、わたしは会話を打ち切らなければならなかった。


 何故ならば、<索敵>に反応があったからだ。


「これは……ランク一か? 一般人と大差ない程に微弱であるな」

「あぁ、でもプレイヤーには違いなさそうだしちょっくら声かけて来るわ」


 周囲に聞こえないよう声を潜め、鋼矢さんがそう言った。直後、わたし達のスマホがブルリと強く震える。

 取り出してみればそこには、


『あれはプレイヤーじゃないにゃん』


 という文面が浮かんでいた。



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