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70 少年、鋼矢

「へぇ、アンタもプレイヤー? 妙な気配してるね」


 声を掛けて来たわたし達と同年代くらいの少年に石楠花さんがひそめた声で応じる。ランクアップで聴力が強化されていなければ聞き逃していただろう。

 ここはフードコート。前後の席は空いてるけど、万一にも他人に訊かれないようにっていう配慮だ。


「まあちょっと事情があってな。簡単に言うとこの体は【ユニ……先天スキルで作った物なんだ」

「なるほどな。たしかに貴様の気配は<魔弾>や魔術のそれと酷似している」


 普通の【魔力】よりも何と言うか……密度がある(?)感じだけどこれは先天スキルを介しているからかな。

 わたしがそう納得している横で彼は机を指でつつく。コツコツと硬質な音がした。


「見た目の質感は人体そっくりにしてっけど材質は鉱石だ。それを遠隔で操って喋ったり見聞きしたりしてるんだな。ロケットパンチも撃てるし超合金ロボみてぇなもんだぜ、カッケェだろ」

(ダサい……)

「えー、なんか子供っぽくない?」


 わたし達の反応に少年は肩を落とす。

 しかし、見れば見る程よく出来た人形(ひとがた)だ。


 服──真四角なスライムっぽいキャラが描かれたTシャツも含めて鉱物で出来てるらしいけど、ゆらゆらと揺れる様はまるで偽物とは思えない。

 水銀のような流体金属を用いているらしいけど無駄に凄い技術だ。


「まっ、いーや。それより本題はー? アタシらと勝負でもしたいの?」

「ち、血の気が多いな……オレ達が争っても仕方ねえだろ。アンタらに話しかけたのはフレンド登録のためだな。オレも他のプレイヤーとダンジョン探索とかしてみたくてさ」

「そんなことなら早く言ってよね」


 石楠花さんはささっとスマホを取り出してフレンド登録した。

 少年もスマホを操作していたけど、金属の指でもスマホの画面って動かせるんだろうか? 何か特殊な合金を使ってるのかな。


「嫌なら全然いいんだが、そっちの君もお願いできるか?」

「……まあいいだろう」


 死神らしく断ろうかって一瞬思ったけどわたしだけ断る勇気はなかった。

 それに大した理由もなく断るのは相手に悪いし……。



 ───ブーッ! ─ブーッ! ブーッ!



 と、そこで番号札が鳴った。料理を取りに行かないと。


「んじゃ、休みを邪魔して悪ぃしオレぁここらで帰るぜ。今度都合のいい時にでも探索に誘ってくれたら助かる」

「その時はコテンパンにしてあげるから……って、そういやアンタ名前は? アタシは石楠花茲乃。こっちは──」

「佐々木だ」


 フルネームを知られるのは嫌だったので被せ気味に苗字だけ名乗る。

 本当なら苗字も偽名にすべきだったんだろうけどそこまでは咄嗟に頭が回らなかった。


 ……まあ、ニャビが選んだプレイヤーなんだし大丈夫でしょう。


「オレは不破(ふえ)……いや、ただの鋼矢(こうや)だ。気軽に鋼矢って呼んでくれ」


 只野(ただの)鋼矢(こうや)さんはそう言うとフードコートを去っていくのだった。




 数日後。

 わたしと石楠花さんと、それから鋼矢さんは沼地のランク三ダンジョンに居た。


「よぉ、今日は誘ってくれてありがとうな」


 沼から突き出た岩に立ち鋼矢さんが言った。

 フードコートで会った時と同じTシャツ姿だ。


「別に誘ったのはいーけどさ……服、そのまんまで平気なの?」

「それは大丈夫だ、本体はダンジョン外に居っから。言ったろ、この体は作り物だって」

「あー、そう言えば。じゃあ本体は来ないワケ?」

「そうだ。悪ぃな、オレだけ安全圏に居るみたいで」

「んー、そんなの気にしないでよ。命を賭けずに済むならその方が良いでしょ。アタシは全力で戦えるならなんでもいーし」

「…………」


 無言で首肯しておく。

 肯定したのはもちろん『命を賭けずに済むならその方が良い』の部分だ。


(それにしても、操作物だけをダンジョンに送ることも出来るんだ)


 ダンジョンクエストは、自分が身に付けている物の他にも、スキルで操作している物体があればそれもダンジョンに持ち込める。

 なので操作している物体(分体)でスマホを弄れる鋼矢さんなら分体だけをダンジョンに送れる、っていうのは目から鱗だ。


 ただ、これで彼はわたし達をノーリスクで裏切れることになった。

 わざわざ糾弾なんてしないけど、警戒はしておいた方がよさそう。


 一応、ダンジョンクエストのアプリがあるってことは運営の承認を受けてるはずだけど運営もまた信用ならない。

 明日から急にデスゲームを始められても「やっぱりね」としか思わないくらい秘密が多い。

 それにこういう組織は裏があると相場が決まっているしね。


 ──と、そんなことより。

 わたしは首を少しだけ動かして四方を囲う沼地を見遣り、重々しく口を開く。


「気付いているかお前達。囲まれているぞ」

「とーぜん分かってるよ」

「ああ」


 第三巻の死神のセリフを引用したわたしに二人が応えた。

 わたしと石楠花さんが立っている、泥沼に浮かんだ巨大な蓮っぽい葉。それを囲うようにして沼の中から幾本もの攻撃が飛来した。


「<魔盾>」

「【マグネットスニペット】──同極」

「防げ、〔大地〕」


 左半分の攻撃をわたしの【魔力】の盾が、右半分を石楠花さんの斥力が弾く。

 沼から突き出されたソレは、半透明な<魔盾>の向こうでグニャリと(たわ)んでいる。青みがかった紫色のソレは、舌だった。


「ゲコ」


 鳴き声が聞こえた。声の方向に居たのは泥に紛れるような焦げ茶の皮膚を持つ巨大蛙。

 最初の鳴き声に呼応するようにして、「げご」「ゲゲコ」「ゲッコ」「ゲコ、ゲコココ」「ゲゴゲッゴ」と次々に沼から茶色蛙が浮かび上がって来る。

 蛙達はまるで地面に立つみたいに沼の上に居た。


「全部で九体か、アタシを歓迎するには人手不足だね」

「魔も……モンスターなのに人手で合ってんのか?」


 茶々を入れながらも鋼矢さんは【魔力】(?)を練っていた。

 そしておもむろに沼へと手を伸ばす。


「まずはオレからだな。固まり貫け」

「「「ゲコっ!?」」」


 茶色蛙の半数を泥が貫いた。

 硬度なんてまるで無い泥が鋭利な槍みたいにガチガチになっている。

 背後から串刺しにされた茶色蛙達はやがてドロップアイテムに変わるだろう。


「これがオレの能力だな。土と鉄とか……〔大地〕に属するモノを自在に操れる」


 ランクはもちろん四相当だぜ、と言うと同時に槍が形を失い蛙達が沼に落ちた。

 それを居た他の蛙達は怯えるように身動ぎし、一歩下がる。


 けどコイツらもモンスターだ。今に攻撃本能が理性を勝る。

 だからもう手は打ってある。


「地の底へと還るがいい、【コキュートスの邪眼】」

「「「げ、げこ……」」」


 残る四体の内三体が泥の上で引っ繰り返る。

 少しの間、苦しげにジタバタと藻掻いていたけどすぐにそれも止んだ。


「我が【コキュートスの邪眼】は冥府の権能。生きとし生ける万物に死を(もたら)す」

「」


 死にゆく蛙達から視線を外し、残る最後の一体へ。

 少し離れたところにいたそいつは覚悟を決めたのか、沼に大きな波紋を残して跳躍。


 山なりの軌道でわたしに迫り、


「【マグネットスニペット】──同極」


 石楠花さんの先天スキルでぺちゃんこにされてしまった。


「これがアタシの力。反発と引き寄せを発生させるスキルで、近いほど反発力が、遠いほど誘引力が強くなるの」


 そうして全員が己の先天スキルについて紹介を終え、わたし達は本格的にダンジョン攻略を開始したのだった。



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