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69 佐々木早紀(前編)

 何とはなしにスクロールしたスマホにコスプレをした売り子の画像が流れて来る。先日の同人誌即売会のものだ。

 ぼんやりとした頭で、ふと思う。


 彼ら彼女らは周囲に自身の趣味を打ち明けているのだろうか。もしも隠していてそれがバレたらどう振る舞うのだろうか。

 わたしはそんな風に写真の中の人と自分を重ねた。


「う゛うぅぅ~~~~~~~~~~~!!」


 枕に顔を埋めて悶える。

 そろそろ約束の時間だ。契約は決して(たが)えない。それが最凶の始末屋、死神だ。


 ……わたしの愛するラノベ『戒昏のアルカディアサイン』に登場するキャラクター、死神の信念だ。


「……そもそも、ニャビがあんなことしなければ……」

「その件については申し訳なかったと思ってるにゃん。アクシデントがあったとは言えまさか全員を同じ場所に転移させてしまうとは思わなかったにゃん。運営を代表してお詫び申し上げるにゃん」

「む゛ぅ~……」


 謝罪はもう何度もされてるし、わたしだってニャビを責めたって仕方がないのは分かっている。

 これ以上愚痴ったって時間の無駄だ。


 何が悪いのかと言えば、わたしのメンタルの弱さだろう。

 次点で運だ。


 あの日、わたしはあの無人島で運命的な再会を果たした。

 いや正確にはイベントダンジョンに居た時から一緒だったんだけど、お互いに相手がそうだと気付いてなかった。


『もしかして……佐々木!? ウッソ!? チョー久しぶり!』


 左右で色の違う瞳を輝かせたその少女が小学生時代の同級生だと、遅れて思い出した。

 何度も転校しているからクラスメイトの顔なんて一々覚えてはいないのだ。


『アハ、昔はよく競争したよねぇ』


 それでも辛うじて石楠花(しゃくなげ)という苗字だけでも思い出せたのは、わたしに積極的に声を掛けて来る珍しい人物だったから。

 どちらかと言うと絡んで来るとか突っかかって来る、みたいな表現の方が正しい気もするけど今は置いておこう。


 重要なのは彼女と最後に交わした会話。


『ね、ここに居るってことは佐々木もランク四でしょ? 今度一緒に攻略しよーよ! 約束ね!』

『う、うん』


 軽率に相槌を打ったわたしを殴りたい。

 人に話しかけると何か返さないとって焦ってテキトーな返事をする悪癖が恨めしい。


 その後は真面目に無人島からの脱出計画を話し合う流れになったし、そもそも一度了承したことを取り下げる勇気がわたしになかったから訂正することも出来ず。

 わたしは彼女とダンジョン攻略をすることになってしまった。


 そしてそれは何事もなく終わった。

 あのカッコイイ肩書の悪魔みたいなイレギュラーの一つもなく、競うように敵を倒していく内に気付けば攻略できてしまっていた。


 問題はその後。

 ダンジョン探索中の雑談でわたしが石楠花さんと同じ地方に再び引っ越して来たことを話したがために、彼女はリアルで一緒に遊ぼうと言って来た。

 そしてわたしは、迂闊にもそれに頷いてしまった……!!


「本物の死神なら、こんなことしなかったのにぃ……」


 死神は孤高の始末屋、自身の情報は味方にも伏せている秘密主義者。

 住所を聞かれたって毅然と断っただろう。


 でもわたしのエミュ精度だと態度までは真似できない。聞かれたことにはついつい答えてしまう。

 これじゃただの口調がぶっきらぼうなだけの人だ。


「う゛ぅぁ……現実で、普通の恰好してエミュするなんて恥ずかし過ぎるよぉ……」

「嫌ならいつも通りに話せばいいにゃん」

「そうしたら『えwこいつダンジョン内だとめっちゃキャラ作っててバリウケるww』とか思われるでしょ!?」

「言われないと思うにゃ……ていうかそれが嫌なら初めからモノマネなんてしなければよかったんじゃないかにゃん、早紀(さき)??」


 ニャビがわたしの名前を呼んだ。

 わたしは恨めし気な視線を返す。


「無人島であたしが死神だってバレちゃってるんだからしぅうがないでしょ」

「『初め』の意味はそういうのじゃなくて、プレイヤーになった日のことにゃん」

「しょうがないでしょ、好きなんだから……」


 そろそろ時間がマズくなってきたので重い体を引きずってベッドから降りる。

 リビングの前を通る際、お母さんが声を掛けて来る。


「忘れ物はない?」

「うん……」

「いい、門限は守るのよ。それと何かあったらすぐ連絡してちょうだい。二時間ごとの連絡も忘れちゃダメよ」

「うん、分かった……」


 それからも三つ四つ言葉を投げかけられ、それが終わってようやく外に出る。

 ……お母さんは少し、過保護なんじゃないかと思う時がある。

 でも、そうなる理由も分かるし私は何も言えない。


 最寄駅に向かい電車に揺られること三十分。

 商業施設の密集した地域にやって来た。


 待ち合わせ場所に行き、疎らに居る人達を一人一人確認して行けば……居た。


「おっはよー佐々木!」


 初夏にピッタリの薄紅色のブラウス。

 歩みに合わせてチェック柄のフレアスカートが可憐に揺れた。


「待たせたな、石楠花」


 簡素なTシャツとジャージパンツで来たわたしは恥ずかしくなって来たけど、そんなことはおくびにも出さず挨拶を返す。

 そんな彼女の瞳は、今日は赤と青のオッドアイじゃない。


 あの手の変化は先天スキルが強くなった余波だから、能力抑制機能で見た目を元に戻したりもできるのだ。

 ちなみに私も今日は無難に黒目で来た。


「じゃあ行こっか」

「ああ」


 先導するように歩き出した石楠花さんに続いて、わたしも街へ繰り出す……そこからは普通の時間を過ごした。

 遊んでショッピングして遊んで……気付けば午後になっていたからショッピングモールのフードコートで休憩する。


 注文も終え、渡された番号札が鳴るのを待っていた、その時だった。


「アンタら、プレイヤーだな」

「「っ」」


 わたし達と同じくらいの年頃に見える少年が姿を現したのは。




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