67 今後
それから不破勝君とはいろいろ話をした。
異世界で〔神〕になるまでの経緯を聞いたり、逆にどうして人間がこの空間に居たのかを話したり。
やがてダンジョンボス──ボスの役割は赤巨人から悪魔オリスに引き継がれていた──を喪ったダンジョンが崩壊するのに合わせて僕は地球へ転移する。
転移先は加賀美さんを飛ばした拠点の境内だ。
切り替わった視界に最初に飛び込んで来たのは、トライデントの穂先。
どうやら加賀美さんは<ドメイン>で空間の揺らぎを感知したみたいだ。
「ごめん加賀美さん、待たせたね」
「謝罪はいい。状況は? あの雷の正体は分かったのか?」
「まあ、分かったっちゃ分かったかな」
三叉槍が下ろされ、空間を満たす<ドメイン>によって変異していた周囲が元に戻る。
無言で先を促す加賀美さんに不破勝君から聞いた話を伝える。
「──とまあ、そういうことらしいんだ」
「その話は……信用して良いのか?」
「半々だね。信じがたいけど筋は通ってる。それに不破勝鋼矢っていう少年が数年前に事故で亡くなってるのも確認したよ。……まあでも嘘を吐くなら簡単にはバレないようにするよね」
事前に地球の情報を収集していて適当な死人の名を騙ってるだけかもしれない。
実は裏で虚ろの王と繋がっているって線はまずないだろうけど──もしそうなら小細工しなくても二人一緒に攻めて来るだけで地球は終わるからね──漁夫の利を狙ってる可能性は充分あり得る。
〔録〕で裏どり出来たら良かったんだけど、生憎それには本体と接触しなきゃいけない。
「そうか。……それで、共同戦線は張るのか? 今は不破勝君が一人で虚ろの王を抑えているんだろう? 協力するなら彼が力尽きる前にした方がいいはずだ」
「体力切れはまずないらしいよ。虚ろの王は〔星界〕を吞み込んで肥大化してるから無尽蔵の力を振るえるけど、過ぎた力は使いこなせないものさ。大き過ぎる力が重荷になっているから鈍重だし、攻撃も大味だから捌くだけなら問題ないってさ」
立ち話もなんだと本殿に上がり襖を開ける。
そこへ社殿の奥からアースが姿を現した。
情報は既に〔眷属〕全員に共有してある。
どうやら外での会話も聞こえてたみたいで、彼女は口を開いた。
「事も無げに言っておるが物量とはそれだけで脅威じゃぞ。儂のパシュパタストラであっても破壊し尽くせず押し負けたのじゃからのう。其奴はかなりの手練れじゃな」
「それ程強いなら三葛君が加勢すれば虚ろの王も倒せるんじゃないか?」
「ううん、不破勝君の見立てだと僕が加わっても火力不足みたいだよ。なにかもっと抜本的に戦局を変えられるようなピースが必要だって言ってた」
単純に〔司統概念〕をぶつけるだけじゃない、もっと発展した攻撃が必要なのだとか。
地球に端末を送ったのも地球の〔神〕と会話して新技のヒントを得るためでもあったみたいだしね。
なお、その途中で人間の気配を感じてイベントダンジョンに立ち寄ったそうだ。
イベントダンジョンはランク五。他の破片と比べても目立つし彼が近くを通りかかったのも確率的には自然なことだったと言える。
まあ残念ながら新技のヒントは提供できなかったし、僕としてもまだ〔神〕の力を高めたいから決戦はもうしばらく先になるだろう。
……不破勝君を信頼していいのかもまだ見極められていないしね。
「その不破勝君だけど、今はイベントダンジョンを離れて地球に向かってるよ。地球の様子が気になるみたいだからさ」
「順当な反応だな。しかし面倒なことが重なるな、これから例の国際会議が控えているというのに」
「まあそれは緊張するってだけだからね」
世界中にランダムにダンジョンが発生するより先に、各国の人目に付かない土地にランク一ダンジョンを誘導する。
そのことを各国政府に伝えるのにちょうどいい機会が今月の国際会議だった。
手頃なランク一ダンジョンの出現タイミングを調整し終え、後は期日を待つだけだったんだけどとんだ急務が入ってしまった。
「じゃあ〔眷属〕の皆、政府にダンジョンを公開した後の管理は事前の予定通りに。不破勝君の動向は僕が本体で行う。けど場合によっては手伝ってもらうかもだからそのつもりで」
了解の意を伝える声がアースの持った携帯端末から何重にも聞こえた。
◆ ◆ ◆
「ちょっとっ、どういうこと!?」
イベントダンジョンに突然現れた悪魔オリスと戦おうとした矢先、雷が落ちた。
かと思えばアタシ達は現実世界に転移させられていた。
服装もコンバットスーツから部屋着に戻されている。
ニャビが答える。
「緊急メンテナンスを実施しているにゃん。復旧の見通しはまだ立ってないにゃん」
「それもだけどここどこ!? なんでこんなとこに飛ばされたの!?」
そう、アタシ達が居たのは四方を海に囲まれた無人島。
ゴツゴツとした岩が辛うじて十畳くらいの面積を海上に見せていた。無人島って言ったけど、もしかすると岩礁なのかもしれない。
「ニャビも集中モードに移行するにゃん。しばらく応答できないにゃん」
「ちょっとぉ!? 説明は!?」
ブツリとホログラムが消え、ダンジョンクエストがタスクキルされた。
こんな無理やりぶった切るとかあり得ないんだけど!?
「ほう……石楠花さん、GPSによるとどうやら太平洋上のようですよ。陸地までは数百キロメートルはあるでしょうか」
道着みたいな白い服を着た尾津のおじさんがスマホを見せてくれた。
「おじさんはこんな時でも冷静なんだね……」
「焦っていては大切なことを見落としかねませんから」
状況が激動すぎてテンションが付いていけてないんだけど、でも戸惑ってばっかもいられない。
この無人島にはあのダンジョンに居た皆が飛ばされている。
ニャビはアテにならないし、アタシ達だけで日本に戻る方法を探らないと。
てか早くしないとアタシが居ないことがママにバレちゃうし!
「皆のスキルの中で移動に便利そうなのは……」
「おや、皆さんを頼って宜しいのですか?」
「別に、そんな意地張ってても仕方ないし……」
なんだか芝根おねーさんがニマニマとしたムカつく表情をしてたので、気まずくなって視線を逸らし……ふと気づく。
「あれ……?」
島の隅っこでひっそりと気配を潜める少女──金と灰色のオッドアイを持つ、戦闘中は結局なにもしていなかったあの死神っぽい人が、どこか怯えるような様子でしゃがみ込んでいた。
けどアタシが気になったのは表情よりもその顔立ち。
顔の下半分を覆っていた面頬が消えたことで露わになったその顔は──、
「もしかして……佐々木ちゃん?」
──アタシの昔の競争相手のものだった。




