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49 バトルロイヤル3

「ッ……」


 一目見た瞬間、実力差を悟りました。


 【魔力】や気配と言ったダンジョン由来の異能ではなく。半可ながらに培った武術の素養が。

 消魂(けたたま)しい警鐘を鳴らしています。


「撤退するっ、【ダスクキル】!」


 幾度も同じ戦場を駆け抜けた間柄、ユウさんもわたくしと同時に動き出していました。

 先天スキルにより彼我の中間地点に夕闇を展開し、わたくしの背に抱き着きます。

 すかさず発進。


「【チャージランページ】!」

「逃がさねぇぜ」


 巨躯の男性も追って来ますが、夕闇を跳び越えるために少々タイムロスをしました。

 攻撃性能は皆無の夕闇ですが、意味深に使えば相手に用心を強いることが出来ます。


 関西弁の彼が退場したことで黄金化も解けておりますし、ユウさんがしがみついていることを差し引いても走力はわたくし達が上。

 何度も路地を曲がり、時には屋根に上るなどして距離を離します。


 最後に広めの道路に出て、一気に距離を離すとしましょう。


「な、何とか振り切れ──」

「少し話が出来ないかしら?」

「「っ」」


 二人そろって肩を跳ねさせます。

 巨躯の男が<索敵>範囲から消える寸前にその声は聞こえてきました。


 <隠密>を使っていたのでしょう、声の主の気配にはまるで気付けませんでした。

 その少女は歩道橋の柵に腰掛けていて、道路を横断するわたくし達を見下ろしています。

 張り上げている訳でもないのによく通る声で、思わず足を止めてしまいました。


「少し交渉したいのだけれど、良いかしら?」

「生憎とわたくし達は急いでおりまして」

「彼なら大丈夫よ。私の仲間が説得に向かったから」


 ちょうどその時でした、新たに現れた気配が追手の巨漢に接触し、お互いの動きが止まります。

 わたくし達のように話をしているかのように窺えます、一見は。


 ストンとわたくしの背から降りたユウさんは、警戒心を剥き出しに少女を睨みます。


「……チヨ、さっさと倒そう。これはバトルロイヤル。この女があの巨漢とグルじゃないって保証はない」

「そうね。それを疑われると私からは何も言えないわ」

「いえユウさん、その可能性は低いと思いますわよ。手を組んでいるのならわざわざ戦力を分散する必要はありませんもの」


 同一グループであるならば、最初の襲撃の時に包囲していれば良かったのです。

 今、こうして各個撃破されるリスクを冒す必要はありません。


「それに、関西弁の少年も貴女のお仲間ですわよね? 彼、まだ一名以上は仲間が残っているような口振りでしたし」

「そうよ。まあこれだけ生存者が減っていれば必然的に絞り込めるわよね」

「であれば彼を倒したあの巨漢とは協力関係にはないのでしょう」

「……だとしても、私達を倒すために手を組むかもしれない」


 ひたすらに不信感を露わにするユウさんを見つめ、少女は口の片端を吊り上げます。


「随分と焦っているのね。もしかして優勝賞品が欲しいのかしら?」

「っ」

「はて。最高の結果のために最善を尽くすのは自然なことではありませんの?」

「あなたは腹芸が得意みたいだけれどそっちの彼女は分かりやすいわね」

「あらあら」

「…………」


 少女はギロリと自身を睨むユウさんに向けて言い放ちました。


「断言するけれどあなた達だけでは優勝は不可能よ」


 ただでさえ不機嫌そうだったユウさんがさらに表情を歪めます。


「……何の根拠があって……」

「ランク四……私がこのイベントで確認したランク四プレイヤーは全部で三人居たわ。その内の一人は私達の仲間。眼竜龍治君と言うのだけど、彼は飛び抜けて強かった。一人で私達のグループを全滅させられる程にね」


 けれど、と声のトーンが一段落ちます。


「龍治君は既に敗退しているわ。相手は他のランク四。ほら、聞こえるでしょう? 今も続く崩落音。あれを起こしている奴にやられたの」


 ──ォォオオオン!


 巨漢から逃げ回っている内に想定以上に近づいてしまったらしく、その音はかなりはっきりと聞き取ることが出来ました。


「敗因は相性。眼竜君の先天スキルは攻撃性能が高い反面、防御には不向きなの。対して相手は攻防一体でありながら範囲攻撃にも長けていたわ。<護身結界>が破られたら負け、っていうルールでは敗北もやむなしだったわね」


 そもそも眼竜君は対人向きの性格でもなかったもの、と少女は溢します。


「わたくし達では勝てないとする論拠は理解致しました。しかしどうしてそのことを教えてくださったのですか?」

「同盟を結ぶためよ。一緒にあの傍迷惑なランク四を倒さない?」

「質問ばかりで申し訳ありませんが、それは何故でしょう? 貴女方の目的はバトルロイヤルの監督だったのでは?」

「そうよ。でもそれはもうほとんど終わってるの。……と、ちょうど良いわね。さっきランク四は三人居ると話したけれど、その最後の一人が今、アイツに敗れたわ」

「「「にゃにゃにゃん! 残り人数が七人を下回ったから各プレイヤーの現在地を表示するにゃん!」」」


 この場に居る全員の端末から同時に通知がなされました。

 彼女は何かしらの手段で遠くの戦況を確認していたようです。わたくし達を待ち伏せたのも同様の手段でしょうか。


「七人未満……ということは」

「そういうことよ、もう他のプレイヤーは残っていないの」


 わたくしとユウさんと目の前の少女で三人。巨漢とその説得に向かった者で二人。そして勝者であるランク四のプレイヤーを含めればちょうど六人です。


「監督すべき相手が貴方達しか残っていないのだからもう関係ないわ。それで、このまま順当にいけば優勝するのは桜口(さくらくち)さんだけど、好き勝手やっておいてそれは癪でしょう? だから阻止したいの」

「……桜口(さくらくち)? それは勝ち残ったランク四の名前? どうして知っている?」

「そうね、いずれにせよこれは説明しなくちゃならないことね。桜口(さくらくち)さん……フルネームは桜口(さくらくち)兄太(けいた)というのだけど、一応は私達の仲間だったのよ。今は暴走していて手が付けられないけれどね」

「暴走、ですか?」

「ええ、とてもショッキングな出来事があったの。それで我を失っている……とまでは行かないけれど、憂さ晴らしにやたらめったら暴れているわ」


 傍迷惑、と言っていた意味が少し飲み込めました。

 まあこれはゲームですし──勝ち負けに命が掛かっていないという意味です──各々が好きにプレイしたので良いとわたくしは思いますが。


「どうなさいます? 話に矛盾はございませんし、わたくしは信用していいと思うのですが。そも、電波塔を崩せるような相手にわたくし達二人では分が悪いですし」

「……分かった。私も同盟に賛成する」


 けど、とユウさんは言葉を続けます。


「なぜ暴走しているのか、理由が知りたい。これが聞けないと同盟は組めない」

「どうしても、かしら?」

「どうしても」

「言っておくけれど、理由を知ったからと言って戦闘で活かせたりはしないわよ?」

「それでも。手を組むなら不透明な部分は出来る限りゼロにしたい」

「はぁ……分かったわ。本人の許可なしに明かすのは忍びないのだけれど……」


 遠峰さんは渋りに渋りましたが、やがて絞り出すように衝撃の事実を口にしました。


「──落ちたのよ、志望校に」



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